草月ホールにて、「上田遥ダンスリサイタル14」を観劇いたしました。


和音美桜さんのブログで出演を知って観に行っただけなので、何の公演だか全くわかっていなかったのですが(^ ^;ゞ、要するに、振付家の上田遥さん(安寿ミラさんの公演とかでよくお名前は拝見してました)によるパフォーマンスでした。
1部は若いダンサーたちによるショー、2部がバレエ&歌でつづる「現代版 リア王」で、この「リア王」にたっちんが出演。

劇場に行って、プログラムを見てはじめてたっちんが一幕に出ないことを知り、「たっちんだってジェンヌとしては普通に踊れるんだから、少しくらい出してあげればいいのにー」とか思ったのですが………
始まって2分で納得しました。
ええ、ダンサーのレベル、高っ!!
結論から言うと、たっちんが出ていた二部よりも、一部の方が面白かったです(^ ^)。



■一部:Beat Generation3

オープニングは7人のダンサー。みんな黒づくめだけどお揃いではない黒のシャツとパンツで、シンプルに。
全体のイメージは、かなりなモダンバレエ系。

ちょっと人が入れ替わって、下手奥のタップスペース(共鳴箱替わりの段差がついている)にSAROさんが登場。ゆったりと鳴らすタップの音にあわせて、ダンサーたちが踊りだす。タイトルは「マジシャンと5体の人形」となっていて、SAROがマジシャン、5人の女性ダンサーが人形という設定だったんですね。
とくに人形振りみたいなものはないんですが、タップの音が高まると激しくなって、鎮まるとダンスも留まる、その動きがとても面白かったです。

私の目を惹いたダンサーは、小顔で美人でスタイル抜群の若林美和さん(東京シティ・バレエ団)と、スレンダーでカッコよくてセクシーな作間草さん。特に作間さんは、たとえば劇団四季に入ったら「ソング&ダンス」のヴァリエーションズ(坂田加奈子版)を踊ってほしい感じでした。入団しないと思うけどね(^ ^)。シャープでハンサムで、とても女性には見えないラインも綺麗で、すごく好きかも♪




人形たちがハケると、タップのSAROさんとドラムのタツルさんによるパフォーマンス。二人の掛け合いがすごく面白かった!ああいうのは初めて観たなあ。
タップはダンスであると同時に音楽である、というのがすごく新鮮。玉野和紀さんのショーでも、たまに音楽を止めてタップだけで魅せることがあるけど、こんなに割り切ってタップを音楽扱いしたのは観たことがないです。うん。面白かった!!


二人の掛け合いが一段落すると、下手から詰襟の学生服の青年(少年かな?受験生ってどっちだ?)(キャストは大貫勇輔さん)が登場。
生真面目な感じで歩いてくるけど、タップとドラムの音に触発されていきなり踊りだす、という、まあ良くある場面というか(^ ^)。でも、よくあるとは言えないのが大貫さんのダンス力。ものすごいジャンプ力で、草月ホールの小さな舞台をところ狭しと飛び回ってました(^ ^)。学生服の下に着ていた蛍光グリーンの衣装ともども、まー、面白かったです。
ただ、踊りはじめたら上着はちゃんと脱いだほうがいいと思うなあ。ちょっと踊りにくそうに見えました。


受験生がハケると、今度は上手からランドセルを背負った少女(枡谷まい子)が登場。SAROと絡んで踊りまくります。……いや、枡谷さん、キュートで可愛くて、小学生も全然OKなんですけど……ただ、問題は、脚がものすごいダンサー脚なんですよね(T T)。その脚でホットパンツはやめてほしかった!(溜息)


女性ダンサー4人のかっこいいダンスを挟んで、「老人の青春」。
ダンスショーでこういうタイトルがつくと、つい反射的に「ミスタ・ボージャングル」を連想するのですが、、、音楽は全く関係なかったです。
賑やかな若者たちのダンスが終わると、上手から「老人」(群青)が登場。ゆっくりと小芝居しながら舞台の真中まで来て、そこで衣装を脱ぎ棄てて踊りだす、という内容は、ほぼ予想どおりでしたけど(^ ^)。
群青さんのダンスは…ジャンルでいうと何になるんだ?(プログラムに出演者のプロフィールを書いてほしいなー)ああいうダンス(ブレイクダンス?)ってあまり観たことがないので、面白かったです。


次の場面は、満員電車……かな?
箆津弘順さんがメインで、電車の中で本を読んでいるサラリーマン。なんだけど、隣に座った傍若無人な若者(SARO)が、本を覗き込んできたり、寄りかかって寝ちゃったりするのにキレて踊りだす、みたいな、面白い場面でした。箆津さんのダンスも凄かったけど、この場面はSAROさんのとぼけた間が最高!だったかな。

続けて、「白昼夢」ってことで、……箆津さんが電車の中でみた夢、みたいなかんじでカルメン(若林美和)が登場。「ハバネラ」に合わせて踊る若林さんがとても綺麗。後ろ姿が超色っぽいです。レオタードの脚の付け根にひらひらとレースのついた衣装(よく見るけど、何か名前とかあるのかしら)からすんなり伸びた脚がすごくきれいで、クラシカルに美しいダンスでした(*^ ^*)。まあでも、若林さんの本来のイメージは、カルメンほど生身の女っぽさではないような気がしましたけどね(^ ^)。


次は「丸の内ビジネスマン」というタイトルで、白いシャツにネクタイの男性二人(穴吹惇、後藤和雄)が対で踊るナンバー。お二人ともすごく巧いんだけど、残念ながら全然揃ってなくて(汗)、、、振付の本来の意図はどうだったんだろう?とか思いながら観てしまいました。


次が「トマケ」。本当に「トマケ」だったの!!(←星組「BOLERO」参照)
音楽が流れてきた瞬間に耳を疑いましたわ。ともみん(夢乃聖夏)の「トマケトマケトマケ!!」の幻が目の前を走って行った(^ ^;ゞ。いやー、あの曲って原曲ありだったんだ^!本当にああいう曲があるのか!で、本当にああいう歌詞なんですね(滝汗)。いやはや、びっくり(@ @)。

ダンサーは上田はる美と清水フミヒト。派手な柄の服に長いリボンを振りまわしながらのダンスで、曲の雰囲気にもあっていたし、良かったと思います。でもあのギラギラな衣装での「トマケトマケ!」を観た身には、若干物足りないかも(涙目)


次が「セレブな二人」というタイトルで、白いパンツスーツ(?)の平多利江&シースルーの黒っぽいシャツに白いパンツの後藤和雄。華やかな魅せるダンスでしたね。小柄な平多さんが踊りだすと大きく見えるわ♪


で、暗転すると客席から作間草&大貫勇輔の二人が登場。タイトルは「東京カラス」。
いかにもモダンっぽいダンスシーンでしたが、二人ともめっちゃ格好よくて、見惚れました。全幕とおしてこの場面が一番好きかも。ホールドしての早い振りが多くて、ハイレベルなアイスダンスみたい、っていうのかな。ところどころに派手なリフトが入って、それも含めてすごく良かったです。


この後は、群青さんとSAROさんの「タップの会話」を経て、フィナーレは全員。オープニングと同じ黒の衣装で、女性陣の背中がとっても綺麗♪


どの場面も面白かったけど、やっぱり「東京カラス」と、あとは最初の「マジシャンと5体の人形」が素敵でした♪
あああ、みっぽー(美鳳あや)が卒業したら、年に一回で良いからこういうのに出てくれないだろうか。OGの麗百愛ちゃんとかも。
としちゃん(宇月颯)も、まだ当分卒業しないはずだから(するなよ)無理だけど、、、いずれはこういうパフォーマンスも魅せてほしい!っていうか、年明けの園加のバウにこのレベルを求めるのは間違っているのだろうか……。




■二部:現代版リア王


幕があがると、段ボールに囲まれたセットの中で、河川敷の浮浪者たち(宮川安利、佐渡稔、坂本あきら)が歌っている。

 ♪食うものないけど ほら 夢がある
 ♪金はないけど   ほら 友がいる

奇妙に明るい段ボールハウスの長屋に、一人の老人が紛れ込んでくる……

舞台奥にピアノがあって、そこで宮川彬良さんがピアノを弾いていました。
音楽はそれだけ、かな。BGMも、全部宮川さんが弾いていたと思います。


たっちんが登場して、語り始めます。老人の過去らしきものを。

小さな町工場に生まれた少年は、父親の本棚でみた「スーパーエンジン」のアイディアを実現し、それを飛行機に積んで世界中を飛び回る夢を持っていました。
隣家の双子の姉妹は、そんな彼の夢を共有し、彼の描いた設計図に沿ってラジコン飛行機を作り、夢を語り合います。
たっちんの穏やかなナレーションの後ろで、子役の三人が踊るのですが、いやー、みんな巧いなあ(@ @)。三人とも中学生くらいなのでしょうか?脚もきれいにあがるし、バランスもいいし、、、なによりスタイルが良い(^ ^)。いまどきの子供は、本当にスタイルが良いんですねぇ。

やがて三人は工業大学に入学します。
役者が入れ替わり、青年(上田遥)と双子の姉(橘るみ・東京シティ・バレエ団)と妹(たっちん)の三人で踊りだす。
……いや、あの、、、そりゃーたしかにたっちんはジェンヌとして非常にスタイルが良い方ではなかったけどさ。でも橘さん、小柄で華奢にもほどがあるよ(汗)。娘役としても小柄なほうだったたっちんよりもさらに一回り小さく、横や厚みは、たぶん半分くらい(←失礼)。なのに、『双子』の設定で、良く似たオーバーオールを着て、上田さんを中心に左右で対称で踊られた日には……
いったいなんの罰ゲームですか、と(^ ^;ゞ

バラけて違う振りで踊り始めると、たっちんもたっちんなりにきれいなんだどなーっ。

赤い布に包んだお弁当を渡そうとして逡巡する橘さんのダンスが、すごくきれいで良かったです♪しかし、あのお弁当箱、小夏が銀ちゃんに渡そうと思って持ってきた弁当箱にすごーーーく似ているのは気のせいか?

当然のように青年は姉と恋を語り、たっちんが差し出したお弁当には見向きもせずに、姉の弁当を受け取って、二人ではけていく。
寂しそうに肩をすくめるたっちんがとても可愛い。ああ、やっぱり芝居の人だなあ(←言い訳)。


姉と結婚し、壮年になった男(高谷大一)は、エンジンの試作品を完成させ、会社を大きくしていきます。
愛する妻との間には三人の娘が生まれ、妻の妹も協力してくれて、仲の良い家族は幸せを満喫していました。
しかし。
夫が部下や取引先たちとさまざまな交渉をしている間に、過労で体調を崩した妻は亡くなってしまう……。

舞台の上手側と下手側で場をわけて、上手側で仕事中の夫、下手側で具合を悪くしながらも娘たちを可愛がる妻、中央の奥に語り部のたっちん、という構造がとても印象的でした。妻の病に全く気付かずに、仕事に没頭する夫。
母親を喪った悲しみに沈む三人の娘たち。帰ってこない父親。
思い余って会社に父親を呼びにいく、幼い末娘がとても可愛い(*^ ^*)。

衝撃の中、「妻との共通の夢を実現するために、会社を大きくする」という歪んだ野望を抱く。
もっと大きく、もっと、もっと。
そんな想いに駆り立てられた彼は、娘たちを部下と結婚させて社内の体制を整え、本社ビルもどんどん大きくなっていく。
そして、最後に遺された末娘に縋りつく父親と、彼をそっと抱き締める娘の細い腕が、とても印象的でした。


長い時間が過ぎて、彼は老年期(西田尭)になる。
娘と結婚させた部下二人と、娘たち三人が彼にかしづく。
やっと、本来の「リア王」のストーリーが始まります。


今までに、「リア王」という舞台作品はパロディも含めていろんなバージョンを観ていますが、そういえば彼の過去を考えたことは無かったな、と思いました。
そうか、「王」だからといって王家に生まれたとは限らない。立志伝中の人物である可能性は、確かにありますよね。
一代で得た富も地位も、後継者選びの失敗ですべてを喪ってしまった男。代々伝えられてきた貴重なすべてを、器量がないばかりに次代に伝えられなかった男。
シェイクスピアが悲劇として描いたのは、どちらだったのでしょうか……?


二人の姉娘とその夫たちとのカルテットのダンスが、振付としても面白かったような気がします。
段ボールに窓をつけた小道具が、積み上げられて本社ビルになるあたりとか、それを一つずつ崩して自分のものにしようと画策するあたりとか。
台詞がないので細かいやり取りは想像するしかないんですが、小道具使いが巧くてスムーズに話が伝わったと思います。
……まあ、リア王の基本的な話を知らないと、難しいかもしれませんが。

王は自分の王国を三人の娘とその婿に分け与えようとする。
長女と二女は喜んで受け取るけれども、妻にそっくりな末娘(橘るみ)は、敢然とこれを拒否して、父親に追い出されてしまう。

そして、末娘を追いだした男がふと振り返ると、すでにすべての財産は二人の婿に奪われた後だった……。


地位も、名誉も、財産も、ビルも、三人の娘たちも。
すべてを喪い、さまよったすえに、彼は故郷近い河川敷に辿り着く。
そして、少年時代と同じように、飛行機のエンジンを造り始める。

冒頭に出てきた浮浪者たちがここで再度登場し、「♪食うものないけど、ほら夢がある」と歌いながら「じいさん」の心配をします。
合間に男を追いだした姉娘たちの様子を挟みながら、飛行機は完成に近づく……
そしてついに、テストフライト。段ボールで作った飛行機に乗って、飛び立つ彼ら。

翌朝、三人はふと呟く。

「お前、昨日どんな夢をみた?」
「…お前と同じさ」
「お前は?お前はどんな夢を観たんだ?」
「あたしもあんたと同じよ」
「じゃあ俺たち、三人とも同じ夢を視たんだな!」
「そうよ。飛行機に乗って、空を飛ぶ夢よ…」

気持ち良かったなあ、良い夢をみたな、と、眩しげに。



たっちんは、河川敷までついてきて老人の世話をしているらしい。
末娘とは連絡を取っている設定なのかな?(説明がないのでそのあたりはよくわからない)
最後にたっちんは、老人が乗る車いすを押しながら呟く。
「私はずっと、彼を愛していました。……彼と、彼の家族と、そして、彼の夢を」

老人が最後に視た夢は、白い服を着た末娘の幻。妻に良く似た末娘の、優しい頬笑み。
末娘の幻に微笑みかけて、穏やかに空を見上げる男。子供のころから夢だった空。飛び立っていく飛行機の幻。



たっちんは、芝居というより語り部的な役どころなので、彼女の芝居のファンとしては若干物足りない感じでしたが、穏やかな語り口調と独特の存在感、そして、やわらかく心に沁みる歌が素晴らしくて、十分満足できました。
やっぱりたっちんは可愛いなあ♪

妻と末娘、メインの二人を踊った橘さんのバレエはさすが。というか、ホントに小柄で華奢で軽やかで、透明感があって若々しい、素敵なダンサーでした♪
彼女の子供時代を踊った松島詩織さんも、すんなりとした綺麗なダンスでした。


二人の姉娘、尾本安代さん・吉田まりさんは、さすがの貫録。身体のラインも保ってらして、すごいなあ。
浮浪者の三人はさすがでした(^ ^)。こんなところで佐渡さんにお会いできるとは思わなかった!やっぱ巧いわー♪舞台が締まりますよね。うん。ああいう人がいると、途端にシェイクスピアっぽくなるのが面白い。



いろいろ面白かったんですが、なんというか、あらためて「リア王」という作品の面白さに気付かせてただいたような気がします。
これ、宝塚で、轟さん主演でやったら面白いんじゃないだろうか。青年時代とか回想しながらやるの。こーディリアと妃を同一人物にすればそれがヒロインにできるし。……となると、二番手は道化かな?(^ ^)。