東京グローブ座にて、ミュージカル「アプローズ」を観てまいりました。
※ちなみに、有吉京子さんの漫画とは全く関係ありません(^ ^)




「アプローズ」は、1970年にトニー賞を獲った名作ミュージカル。
映画「イヴの総て」を元にしていますが、映画版のタイトルロールであるイヴではなく、その先輩の大女優マーゴが主役。日本初年は1972年、劇団四季。その後何度か再演されましたが、1983年の公演で主役マーゴを演じたのが、当時○歳の前田美波里。



今回の公演は、劇団四季とは直接関係はないようですが、26年ぶりにマーゴを演じる前田美波里を主演に迎え、その相手役としてビルを演じたこともある浜畑賢吉を演出に迎えての公演でした。

マーゴの恋人・ビル(演出家)は、バリトン歌手で普段はオペラを主戦場にしている「二期会のプリンス(←プログラムにそう書いてあったんだもん!)」、宮本益光。
マーゴの友人・ドウェインには、俳優の佐野瑞樹。
ヒット脚本家のバズとその妻に、オペラ&ミュージカルの越智則英と、元四季の駒塚由衣。
プロデューサーのハワードに、俳優の倉石功。

主題曲「アプローズ」を歌う役者の卵に、宝塚OGの紫城るい。
そして、影の主役・イヴ役は、宝塚OGの貴城けい。




40年も前に作られた作品とは思えない、内容の濃い名作でした。
芝居としてもとても良く出来ていて、映画を観てみたくなりました。


役者も皆素晴らしかった~!!
特に、ビルの宮本さんとイヴのかしげ(貴城)ちゃんは、もう他のキャストが考えられないくらい嵌り役で、素晴らしい!!女優として走り始めたばかりのかしげちゃんは勿論ですが、宮本さんは、ぜひぜひまたミュージカルに出てほしい!と思いました。




名だたるミュージカル俳優の誰よりも素晴らしい歌声で、歌による芝居がきっちりと出来て、
歌じゃなくて台詞の芝居もそこそこやれて、しかも、オペラ歌手にしては細身でスタイル良くてカッコいい(*^ ^*)。なんて完璧なんだ!!

ぜひ、ハイバリトンの中年男性で包容力のある美声を必要とする役……
市村正親さんがザザを引退した後のジョルジュとか?(*^ ^*)、「レベッカ」とか…?
……ぜひとも、コンサートでもいいので聴いてみたいですっっっ!!








ちょっと宮本さんで頭がぶっ飛んでしまいましたが。

かしちゃんも、本当に良かったです。一幕での野暮ったさと、二幕での変身ぶりの素晴らしさ。
メークやかつらだけでなく、姿勢から喋る声、ちょっとした仕草まで、一分の隙も無い変身ぶりが本当に見事でした。
…少なくとも、私が観た中ではかしちゃんのベストアクトですね、今回のイヴ役は。
今後も、ご活躍をお祈りしています!





(紫城)るいちゃんは、可愛かった!
「アプローズ」という歌は、音域は広いし、音程は微妙だし、フレーズがぶつ切れになりがちで、歌いにくい難しい歌なのですが、よくがんばっていたと思います。……ま、まだまだ上を目指してほしい感じではありましたが。
でも。ジョー・アレン亭にたむろする「役者の卵」たちのリーダーとして、パッと目を惹く華やかなオーラと、駆け出しではない貫禄があったのが凄く役に合っていて、芝居の役としてはとても良かったと思います。歌で心情を表現する技術がずいぶん身について、わずか二年でこんなに変わるのか、と思いました。




そして。
「アプローズ」という、この作品のテーマ曲を歌うのが、スターたちではなくアンサンブルであるということが、映画をミュージカル化するときのキモだったんだろうな、と思いました。

「拍手があたしを燃やすの」
「とり憑かれたの魔法の音 アプローズ(拍手)に」

場末の酒場ジョー・アレン亭にたむろする“ジプシー”(コーラス)たちが、歌い、踊る。

「あの音の虜だわ、アプローズ!」






意地悪な新聞記者に
「どうしても金が必要になったら、どっちを売る?ダンスシューズか、自分の母親か」
と問われて、即答する青年。

「おふくろ」

……迷いも無く。




彼らは選ぶのだ。
世界のすべてよりも、アプローズを。





だけど、
スポットライトの中にいるスターは、どうする?


我侭で気紛れで躁鬱で、実は気が小さくて不安神経症気味な大スター・マーゴが、最後に択ぶものは、何か。


イヴが求めたものは、なんだったのか。







……そう。

ひとりの観客として、素晴らしい作品に酔い、物語を愉しみながらも、
幕切れのマーゴの選択に、微かな淋しさをおぼえたことも、事実ではあります。



それは、この名作ミュージカルが「舞台作品」だからこそ、
舞台の上でスポットライトを求めて蠢いている「彼ら」の叫びを直に聞いてしまう作品構成だからこそ感じずにはいられない後味の苦さであり、

その苦さを呑みこんで、はじめてわかる“大人の味”なのだと思いました。





少なくとも。
もしもこの作品に、もっと若い頃に出会っていたならば、私は、あのラストに凄く理不尽な思いをしたかもしれません。

でも、今はもう、マーゴの選択を祝福することができる。

彼女のラストソングを、一抹の寂しさを感じつつ受け入れることができる。



そうすることで初めて、この物語が「イヴの総て」ではなく、「アプローズ」の物語に、なるのです。




ひたむきにアプローズを、“光”を求めることができる【若さ】と、

アプローズの重みを支えきれなくなって、柔らかな優しい“闇”を求め始める、【老い】。



そんな、

“時間”という名の魔法使いの残酷な所業に想いを馳せながら、彼らの夢に酔う3時間を。


ぜひぜひ、のぞいてみませんか?☆