帝国劇場にて、「レ・ミゼラブル」を観劇いたしました。


初めての“25周年版”。
1994年の帝劇で「レ・ミゼラブル」に嵌り、1997年から始まった“10周年版”に通いまくった猫ですが。ここの日記にも何度か書かせていただいたとおり、2003年以降の“短縮版”にはどうしても納得できず、ここ数年は公演ごとに一回観るか観ないか、という状況でした。


なので。ここは声を大にして、喜ばしいご報告を!

ナンバーが、ほとんど2001年以前に戻っていました!!

仮出獄のバルジャンに冷たくあたる宿屋と農場、ファンティーヌを責めるバマタボアのナンバー、「心は愛に溢れて」、、、一幕はほどんど元に戻っていたと思います(はぁと)。
2幕も、バリケードの最初のアンサンブルの歌い継ぎが戻ってました!!
残念ながら、ジャベールを捕える場面のコンブフェールの見せ場(←わかる人が何人いるんだろう?)と「共に呑もう」のリプライズはカットされたまま(T T)、「心は愛に溢れて」リプライズも、コゼットのソロなしで最初からバルジャンが入る短縮版の構成のままで……一番戻ってほしかった3場面のうち、2つは戻らなかったわけですが(涙)、でも、バリケードの歌い継ぎが戻っただけでも嬉しいです!!(感涙)。

上演時間は、25分の休憩をいれて3時間10分。10周年版以前は3時間25分だか30分だかかかっていて、アメリカ(かどこか?)の俳優協会だかオーケストラだかの規定に触れたために短縮版を創ったと言われていたので、25周年版もその制限内におさめなくてはならなかったはずなんですよね。
短縮版のために削ったナンバーを戻した分はどこで稼いだかというと、ナンバーとナンバーの間の間奏をこまかく削ってました。

で、これを可能にしたのが、盆を使わないセット転換だというのが、今回の演出の最大のツボだったのだと思います。



元々、1985年当時は衝撃的であったろう盆回りを多用した演出は、長大な物語を3時間半に押し込んだ脚本が要求したスピーディーな場面転換のために必要だったわけですが。
でも、逆に、盆が回ってくるのを待つ時間、というのは、意外に長いものだったんだな、と、今回の演出を観て、初めて気がついたのでした。
25年間の照明や舞台転換技術の進歩によって、盆より早い舞台転換が可能になったということなのでしょう、きっと。



ナンバーを削るのではなく、ナンバーとナンバーの間を削って、舞台や人の動きの工夫で間が詰まったことを感じさせない。
素晴らしい手腕だったと思います。

……もう少しだけがんばって、「共に呑もう」リプライズと、「心は愛に溢れて」リプライズのフルコーラスを実現してくれたら。。。。と贅沢なことを祈りつつ。



音楽的には、編成も以前とはだいぶ変わったせいか、全体的に落ち着いた印象でした。短縮版は音色も軽すぎていまいちだったのですが、こちらも技術の進歩があったのでしょうか。
場面転換の音楽が摘まれただけでなく、編曲もかなり変わっていましたが、特別に違和感を感じるようなことはなかったような気がします。ただ、ここしばらく、東宝レミゼで金管楽器がかますことはあまり無かったのですが。。。何度かすっぽ抜けていたので、やっぱり編曲が変わって練習不足なんですかね(- -;ゞ



演出としては、盆を封じた替わりにセットが動いたり人が動いたりするようになっただけ(?)で、場面のコンセプトが変わったところはあまりなかったと思います。一幕ラストの「ワンデイモア」はどうなるのかな?と、(ある意味)ワクワクしていたら、バルジャンやテナルディエ夫妻の立ち位置が変わったくらいで、アンジョルラスの登場の仕方も、最後に行列した背後に赤旗が翻るところも、、、そういうキーになる演出がどれも変わってなくて、逆に驚きました(^ ^)。



変化として一番大きかったのは、バリケードの向こう側を見せなくなったこと、です。
レミゼにとって、盆は、回すなら回しっぱなし、回さないなら全く使わない、そのどっちかなんですかね(^ ^;ゞ。

ガブローシュが弾を取りにいくところは、ガブローシュが飛び降りた後は「ちび犬」の歌だけが聴こえてきて、バリケードの中でやきもきしているメンバーをずっと観ている感じ。
最後にガブローシュがバリケードに戻ってきたところで撃たれてしまい、アンジョルラスに抱きとめられるのが切なかったです(T T)。

バリケードが陥ちた後も、バルジャンがマリウスを連れて地下道に逃げた後、すぐにバリケード自体が学生たちを載せたまま二つに分かれてハケてしまい、死体を検分するジャベールたちが残る、という感じでした。
でも、どうしてもアンジョルラスの見せ場は残したかったらしく(^ ^;ゞ、死体を運ぶ荷車に赤旗を敷いて、その上に例のポーズのアンジョルラスが積まれているという荒技で処理されていました(@ @)(←私もアンジョルラスファンだったので、気持ちは判るよ!!)


……要するに。
“25周年版”として、全く今までとは違うバージョンを創ろうとしたというよりは、「初演版(または10周年版)のファンが、盆のない劇場のために新たに演出した」っぽい印象の公演でした(^ ^)。
盆を使わなくてもいいところは以前の演出を踏襲し、盆を使わなくてはならないところは何らかの形でフォローする。そのアイディアがどれも秀逸で、なかなかセンスよくまとまっていたと思います。



あとは。。。冒頭の囚人が、ガレー船の漕ぎ手っぽい演出になっていたのと、工場の場面が女工たちメインになってたのが演出の変更点としては大きかった、かな。
映画と舞台と、どちらが先に動いていたのかわかりませんが、どちらかといえば映画が新演出を踏襲した感じなのでしょうか?

バリケードでふさがれた道のイメージや地下道など、背景として映し出される画像の雰囲気も映画のイメージに近いものがあって、映画を視て興味をもった観客にとっても、違和感なく入れる演出になっているんじゃないかな、と思いました。



変更点で印象深かったのは、「カルーセル」から「空のテーブル、空の椅子」への流れでしょうか。
「カルーセル」で女たちが弔いの蝋燭を持って登場し、歌いながら舞台上に置いて立ち去ると、舞台の奥からマリウスが登場し、蝋燭に囲まれて歌いだす(当然テーブルも椅子もないけど……)。
歌いだして少しすると、両袖から学生たちが登場して、、、マリウスを見守りながら少しづつ動いて蝋燭の前に並び、歌に合わせて、全員が床に置いてある蝋燭を拾い上げてふっ、と消す……(T T)すごく幻想的で、綺麗な、、、美しい場面でした。



そして。
演出の違いではないのですが、舞台の「レ・ミゼラブル」ファンにとっては重要なことが一つ。
出演者が、子役いれて36人でした!
今まで、「レ・ミゼラブル」の出演者は、大人30人+子役3人の合計33人だったんです(←特別公演除く)。それが、司教様(とレーグル)、工場長(とコンブフェール)、バマタボア(とグランテール)が別キャストになって、36人だったの!

これによって何が可能になったかというと、パリの街の一番最初、「誰が導くか?」に学生が大勢で出てきた!(←今までは、学生も全員乞食やヒモなどの役で出ていたので、学生はマリウスとアンジョルラス二人だけでした)


ちなみに、プリンシパルも役での出番以外はアンサンブルに交じっていろんな役をやっているのはそのままで、マリウスも囚人から農夫、宿屋の客、教会のやじうま、警官、裁判官という香盤は変わってませんでした。男性が3人増えたせいもあって、立ち位置とかはだいぶ変わっていたし、アンサンブルの香盤はだいぶ変わっていましたが、、、
あ、ファンティーヌは、バリケードでは少年じゃなくて普通の女性として参加してました(^ ^)。探す方は要注意。



歌詞は、あちこち変わっていたので全部は覚えきれませんでしたが……一番派手に変わったのは、ガブローシュの「ちび犬」ですかね。全然違うことを言っているので、最初聴きとれなくて焦りました(^ ^;ゞ

あと、印象的だったのは、アンジョルラスの「クールフェラック、見張りだ。朝まで来るまい」の後が、「誰も寝るな」から「助けは来る」に変っていたことでしょうか。これは結構、アンジョルラスのキャラクターに関わる歌詞変更だな、と思いました。
それぞれの役のキャラについては、役者による違いも大きいので、一回観ただけで書くのは怖いのですが……、アンジョルラスとコゼットは、今までのイメージとだいぶ違うキャラになっていたような気がしました。

アンジョルラスについては、私自身が、大好きだった岡幸二郎アンジョルラスの呪縛からやっと解放されただけのことかもしれませんが(汗)、歌詞のそこかしこで「市民は来る」と“信じようとしている”ような印象の残るアンジョルラスで、今まで観てきたような、確信に満ちた指導者、“若者たちの声”が聴こえているカリスマ、というイメージとは少し違うような気がしました。
グランテールとの関係性もかなり違っていて、そのあたりも含めて、映画版のイメージに近くなっていたような気がします。


コゼットは、今回がデビューとなる若井久美子さんだったのですが、早見優ちゃんのコゼット(←古い話ですみません)を思い出させる、覇気があって元気な、前向きで積極的なコゼットで、とても可愛かったです(^ ^)。他の二人を観ていないので、演出の違いなのか役者の違いなのかはっきりしませんが、服装のイメージも今までの清楚な紺のワンピに白レース、みたいなのではなくなってたし、2幕は髪も綺麗に結いあげて大人っぽくて……映画のアマンダ・サイフリッドも、とっても前向きでキュートなコゼットだったので、そちらの方に寄っていくのかな?という気がしました。
そして。コゼットのキャラがその方向になるのなら、「心は愛に溢れて」のリプライズは、やっぱりフルコーラス(コゼットのソロ→マリウスとデュエット→バルジャンと3人)に戻してほしいなあ……!!(祈)

ちなみに、早見優はソプラノが全然ダメだったけど、それ以外はすごく可愛くて包容力があって、大好きだったんですよね。。。まあ、コゼットでソプラノが出ないとか致命的なので仕方ないんですが。
あ、若井さんはソプラノへのチェンジも滑らかで、、、ハイCだけちょっと固かったのが残念ですが、十分及第点だったと思います(^ ^)可愛かった!




ここに書いている以外にも、変更点は山盛りありました。
とにかく、セットと人の出し入れが全然違うし、たとえばバルジャンが仮出獄証を破り捨てたところで、今までなら「1823年 モントルイユ・シュール・メール」と表示されたところにはシンプルに「Les Miserables」と書かれていたり、「10年後 パリ」という表記は無かったり、、、いらないっちゃいらないけど、今回初めてご覧になった方は、なくてもわかるのかな?と思ってしまうところも色々。
まあ、なければ無いで、なんとなくわかるんでしょうね、多分。うん。



あれだけの名作で、特に演出が秀逸だとして有名な作品の演出を大きくいじるのはとても勇気のいることだったと思いますが、「レ・ミゼラブル」という作品の世界観を大切にした変更で、とても良かったと思います。
オリジナルの、盆がぐるぐると回り続ける演出もとても好きなので、フルバージョンで出来るならたまには上演してほしような気がしますが、、、短縮版を観るくらいなら、今回の演出の方がずっと良い、と思いました(^ ^)。



演出だけで長くなってしまったので、キャストについては、後日あらためて。