マリポーサを君に捧ぐ【2】
2008年11月8日 宝塚(雪)宝塚雪組東宝劇場公演「ソロモンの指輪/マリポーサの花」。
ちょっと更新が滞っておりましたが、本格的に雪組公演にはまっております(^ ^;
「ソロモンの指輪」も本当に本当~に!大好きなのですが、先日「正塚晴彦 二本立て」を観て以来、「マリポーサの花」を観るたびにいろいろ考えてしまって。……で、アレコレ書いているうちに、ネタばれになってしまった部分がありますのでご了解くださいませ(汗)。
大劇場公演を観た後の感想で、私は「ニコラスは、この後数年を経て、ネロみたいな男になるんだろうと思った」みたいなことを書いたのですが。
実際に二本立てで観てみると、逆かも、という気がしてきました。
もちろん、ニコラスとネロは生きている国も、思想の背景もまったく違います。
ニコラスはアルゼンチンの学生運動出身。大学でエヴァと一緒に法律を学び、武力闘争に身を投じて安田講堂に立て籠もり過激派グループ「バリエンテ」を組織したが戦いに敗れ、何人かは国外へ脱出、本人は投獄。しかし数年後に独裁政権は倒れ、新政府の特赦で解放されるが、功労者として迎えられることもなく、身一つで娑婆へ出たところ。
ネロはキューバの軍人あがりですから、そもそも思想の根幹が違う。学生の理想論じゃなく、目的を遂行するためのプランを策定してきた人。サルディバルの配下でクーデターに参画、成功するも政府には入らずにそれなりの褒章をもらって退役。目晦ましを兼ねた“大統領御用達”クラブを経営しつつ、密輸で儲けて学校や病院を作る夢を追う。
そんな、生きている道筋がまったく重なることのない、二人の男。
ネロがあの後、山中に篭ってゲリラ活動をするカストロチャモロ軍に参加するのか、メキシコに逃げてそのまま
チャモロの成功を待つのか、それは明言されていないのでわかりませんが。
ただ、定期的にマリポーサの花を届けるには、山中のキャンプに篭ったら無理だよなあ、とか思いつつ(笑・今みたいにインターネットで手配するわけにもいかないでしょうから!)、まぁそんなことは本当にどうでもいいんですけど。
ただ。
あのまま外国に逃げて数年を過ごし、チャモロの成功を待って帰国したのだとしたら。
チャモロにはほとんど名乗りもしていない彼が、「上陸作戦の功労者」として認められた可能性も低い。リナレスが居ればともかく、彼がいなければ、ネロを知るものは誰もいないんですから。
だとしたら。ネロもまたニコラスのように、ただ生きるために仕事を探し、とりあえずの居場所を確保したら、次にやることは、セリアに会いにいくことかもしれない。
メキシコで生き抜くことに精一杯で、花を贈る余裕をなくして数年が過ぎていたならば、まずは陰からこっそり様子を見てみよう、と思うのも自然な心理だと思うし。
そうして、彼女がそのまま(変わってしまったのではなく)大人になって、新しい恋人と一緒にいる姿を見たら。
……ただ微笑んで、背中を向けることができるだろう。
「もっと素晴らしいところで君を愛したい」と叫んだ彼が、
“君と二人で、平穏に幸せに暮らせる祖国を勝ち得るために”闘いに戻っていった彼が、
平穏に幸せに暮らそうとしている元恋人を見て、何かを言うはずはないのだから。
「ブエノスアイレスの風」の初演を観たとき、ニコラスは最初から平穏に倦んでいるのだと思っていました。
ベトナム兵が、平和な祖国に戻って少しづつ壊れていったように、ニコラスも平穏の中で平凡に生きることが難しい男なのだろう、と。
それでも、平凡に生きていくしかないことを知っている彼が、平凡に生きようと模索して選んだのが、あの店だったんだろう、と。
「するべきことがない」時間を初めて得た彼、が。
もしかしたらそれは、初演ニコラスのリカさんの個性だったのかもしれません。
もしかしたらそれは、当時の正塚さんの演出がそうだったのかもしれない。
でも。
再々演を観たとき。
…本当に冷静な事実を言うなら、たぶん私は、最初の30分くらいは礼音くんの芝居を真っ直ぐに見てはいなかったと思います。
その1時間前までどっぷり浸っていた「マリポーサの花」の世界、ネロの思想から頭が離れなくて、そのままの頭で観ていたので。
でも。
解放されたニコラスが、ひどく幸せそうに街を歩いていたような気がしたのです。
過去は苦しい。
辛い。
仲間を守れなかった過去、仲間と共に逝けなかった過去は、時折フラッシュバックして彼を苦しめる。
仲間と一緒に「新しい世界」を生きることができなかった罪が。
でも、「今」のブエノスアイレスは、祖国は、こんなにも明るく、賑やかだから。
ネロならば、そこで笑うだろう。
「ここが、祖国」だから。
ネロも、ニコラスも、そしてリナレスも、根底にあるのは祖国への愛。
彼らには生きるべき国があり、その国をよりよくしたいという願いがあった。
リカルドも、ちょっとジコチューで我侭で子供だけれども、根底にあるのは「自分が生きる世界をもっと良いものにしたい」という思いだから、そんなにかけ離れているわけではない。
自分が生きる世界=祖国、なのだから。
そんな中で、エスコバルだけが、「祖国喪失者」だった……。
彼にとっては、ネロが「たったひとつの祖国」であったのかもしれない、と、
新旧二本立ての「正塚晴彦」を観ながら、そんなことを考えていました。
「俺は生きて何を」と唄う彼の過去に、いったい何があったのか。
これこそ外伝を創ってもらいたいものだ、と、心の底から思いながら……
話がいきなりファンモードに切り替わるのですが。
らぎちゃんのコントレラスさん、なんだかすごく良くなったような気がするのは贔屓目ってやつでしょうか?
「参りましたねぇどうも…」の言い方というか、間がすごく好きなんです。マヤさんの台詞を受けて、ちょっと溜息をついて(この溜息がちょっと色っぽい)呆れたような声で「参りましたねぇどうも…」って。相手を見下して、“どうせうちに売るしかないくせに”と舐めきっている傲慢さが、すごく良いです。
コロスのダンスも、周りがダンサーばかりの中でよくがんばっているなあ、と(*^ ^*)。もともと肩幅があって手足が長くて腰が細い、スーツ着てるだけで合格点貰えちゃう人なんですが、ちゃんとダンスも及第点取れているように見えるのは……
贔屓目?やっぱり私の目は曇ってる……?それとも単に、無理なく踊れる靴を履いているだけ?(←いつもより微妙に小柄に見えるんですが。気のせい?)
ちなみに、私が一番好きなのは、戦場の兵士だったりします。帽子の下からのぞくあごから首へのラインが好き。身体も、かなり厚みをいれてますよね?バランスよく、たくましい男に見えるのがとても嬉しいです。GIじゃなくてキューバ政府軍の兵士なのに金髪に白い肌なのはちょっと違和感ですが、ひろみ(彩那音)ちゃんと並んで踊ってるのがすごくツボ。
チャモロ軍のにわにわ(奏乃はると)とあまり絡まないのが、とても残念です。
お店(そういえば、あの店なんていう名前なんでしょうか?)のショーシーンの白い衣装のダンスも、この作品で唯一の笑顔の場面というのもあって結構好きです。その後もずーっと衝立の向こうであっちの女の子、こっちのお客さんとふらふら動いているのが、二階席だと意外と見えるのが凄く面白い。ネロさんたちの緊迫した会話もそっちのけでオペラグラスで追ってしまいます(笑)。大統領が撃たれた騒ぎの後も、下手の衝立脇で喋っている女の子たちを呼びにきて、上手まで衝立の向こう側を横切っていくまでをじーーーーっと観てしまう(笑)。ファンってけなげだなあと思う今日この頃です(*^ ^*)。
泣いても笑っても、あとたったの一週間。
タカラヅカの男役としての柊巴も、
タカラヅカの娘役としての山科愛も、
この一週間が過ぎてしまえば、二度と出会えない花。
一ヶ月に一度、いいえ、一年に一度でもいいから、届けてくれる人がいればいいのに、と思いながら。
でも、二度と出会えないからこそ、あんなにも美しく、きらきらとした透明な輝きを背負ってそこに居てくれるのだ、と、
それもわかっているから。
「一分一秒無駄にしない」で、キタロウにもしっかり協力していただきつつ、
思い出をたくさんたくさん、作ってくださいね。
最後まで、応援しています。
.
ちょっと更新が滞っておりましたが、本格的に雪組公演にはまっております(^ ^;
「ソロモンの指輪」も本当に本当~に!大好きなのですが、先日「正塚晴彦 二本立て」を観て以来、「マリポーサの花」を観るたびにいろいろ考えてしまって。……で、アレコレ書いているうちに、ネタばれになってしまった部分がありますのでご了解くださいませ(汗)。
大劇場公演を観た後の感想で、私は「ニコラスは、この後数年を経て、ネロみたいな男になるんだろうと思った」みたいなことを書いたのですが。
実際に二本立てで観てみると、逆かも、という気がしてきました。
もちろん、ニコラスとネロは生きている国も、思想の背景もまったく違います。
ニコラスはアルゼンチンの学生運動出身。大学でエヴァと一緒に法律を学び、武力闘争に身を投じて
ネロはキューバの軍人あがりですから、そもそも思想の根幹が違う。学生の理想論じゃなく、目的を遂行するためのプランを策定してきた人。サルディバルの配下でクーデターに参画、成功するも政府には入らずにそれなりの褒章をもらって退役。目晦ましを兼ねた“大統領御用達”クラブを経営しつつ、密輸で儲けて学校や病院を作る夢を追う。
そんな、生きている道筋がまったく重なることのない、二人の男。
ネロがあの後、山中に篭ってゲリラ活動をする
チャモロの成功を待つのか、それは明言されていないのでわかりませんが。
ただ、定期的にマリポーサの花を届けるには、山中のキャンプに篭ったら無理だよなあ、とか思いつつ(笑・今みたいにインターネットで手配するわけにもいかないでしょうから!)、まぁそんなことは本当にどうでもいいんですけど。
ただ。
あのまま外国に逃げて数年を過ごし、チャモロの成功を待って帰国したのだとしたら。
チャモロにはほとんど名乗りもしていない彼が、「上陸作戦の功労者」として認められた可能性も低い。リナレスが居ればともかく、彼がいなければ、ネロを知るものは誰もいないんですから。
だとしたら。ネロもまたニコラスのように、ただ生きるために仕事を探し、とりあえずの居場所を確保したら、次にやることは、セリアに会いにいくことかもしれない。
メキシコで生き抜くことに精一杯で、花を贈る余裕をなくして数年が過ぎていたならば、まずは陰からこっそり様子を見てみよう、と思うのも自然な心理だと思うし。
そうして、彼女がそのまま(変わってしまったのではなく)大人になって、新しい恋人と一緒にいる姿を見たら。
……ただ微笑んで、背中を向けることができるだろう。
「もっと素晴らしいところで君を愛したい」と叫んだ彼が、
“君と二人で、平穏に幸せに暮らせる祖国を勝ち得るために”闘いに戻っていった彼が、
平穏に幸せに暮らそうとしている元恋人を見て、何かを言うはずはないのだから。
「ブエノスアイレスの風」の初演を観たとき、ニコラスは最初から平穏に倦んでいるのだと思っていました。
ベトナム兵が、平和な祖国に戻って少しづつ壊れていったように、ニコラスも平穏の中で平凡に生きることが難しい男なのだろう、と。
それでも、平凡に生きていくしかないことを知っている彼が、平凡に生きようと模索して選んだのが、あの店だったんだろう、と。
「するべきことがない」時間を初めて得た彼、が。
もしかしたらそれは、初演ニコラスのリカさんの個性だったのかもしれません。
もしかしたらそれは、当時の正塚さんの演出がそうだったのかもしれない。
でも。
再々演を観たとき。
…本当に冷静な事実を言うなら、たぶん私は、最初の30分くらいは礼音くんの芝居を真っ直ぐに見てはいなかったと思います。
その1時間前までどっぷり浸っていた「マリポーサの花」の世界、ネロの思想から頭が離れなくて、そのままの頭で観ていたので。
でも。
解放されたニコラスが、ひどく幸せそうに街を歩いていたような気がしたのです。
過去は苦しい。
辛い。
仲間を守れなかった過去、仲間と共に逝けなかった過去は、時折フラッシュバックして彼を苦しめる。
仲間と一緒に「新しい世界」を生きることができなかった罪が。
でも、「今」のブエノスアイレスは、祖国は、こんなにも明るく、賑やかだから。
ネロならば、そこで笑うだろう。
「ここが、祖国」だから。
ネロも、ニコラスも、そしてリナレスも、根底にあるのは祖国への愛。
彼らには生きるべき国があり、その国をよりよくしたいという願いがあった。
リカルドも、ちょっとジコチューで我侭で子供だけれども、根底にあるのは「自分が生きる世界をもっと良いものにしたい」という思いだから、そんなにかけ離れているわけではない。
自分が生きる世界=祖国、なのだから。
そんな中で、エスコバルだけが、「祖国喪失者」だった……。
彼にとっては、ネロが「たったひとつの祖国」であったのかもしれない、と、
新旧二本立ての「正塚晴彦」を観ながら、そんなことを考えていました。
「俺は生きて何を」と唄う彼の過去に、いったい何があったのか。
これこそ外伝を創ってもらいたいものだ、と、心の底から思いながら……
話がいきなりファンモードに切り替わるのですが。
らぎちゃんのコントレラスさん、なんだかすごく良くなったような気がするのは贔屓目ってやつでしょうか?
「参りましたねぇどうも…」の言い方というか、間がすごく好きなんです。マヤさんの台詞を受けて、ちょっと溜息をついて(この溜息がちょっと色っぽい)呆れたような声で「参りましたねぇどうも…」って。相手を見下して、“どうせうちに売るしかないくせに”と舐めきっている傲慢さが、すごく良いです。
コロスのダンスも、周りがダンサーばかりの中でよくがんばっているなあ、と(*^ ^*)。もともと肩幅があって手足が長くて腰が細い、スーツ着てるだけで合格点貰えちゃう人なんですが、ちゃんとダンスも及第点取れているように見えるのは……
贔屓目?やっぱり私の目は曇ってる……?それとも単に、無理なく踊れる靴を履いているだけ?(←いつもより微妙に小柄に見えるんですが。気のせい?)
ちなみに、私が一番好きなのは、戦場の兵士だったりします。帽子の下からのぞくあごから首へのラインが好き。身体も、かなり厚みをいれてますよね?バランスよく、たくましい男に見えるのがとても嬉しいです。GIじゃなくてキューバ政府軍の兵士なのに金髪に白い肌なのはちょっと違和感ですが、ひろみ(彩那音)ちゃんと並んで踊ってるのがすごくツボ。
チャモロ軍のにわにわ(奏乃はると)とあまり絡まないのが、とても残念です。
お店(そういえば、あの店なんていう名前なんでしょうか?)のショーシーンの白い衣装のダンスも、この作品で唯一の笑顔の場面というのもあって結構好きです。その後もずーっと衝立の向こうであっちの女の子、こっちのお客さんとふらふら動いているのが、二階席だと意外と見えるのが凄く面白い。ネロさんたちの緊迫した会話もそっちのけでオペラグラスで追ってしまいます(笑)。大統領が撃たれた騒ぎの後も、下手の衝立脇で喋っている女の子たちを呼びにきて、上手まで衝立の向こう側を横切っていくまでをじーーーーっと観てしまう(笑)。ファンってけなげだなあと思う今日この頃です(*^ ^*)。
泣いても笑っても、あとたったの一週間。
タカラヅカの男役としての柊巴も、
タカラヅカの娘役としての山科愛も、
この一週間が過ぎてしまえば、二度と出会えない花。
一ヶ月に一度、いいえ、一年に一度でもいいから、届けてくれる人がいればいいのに、と思いながら。
でも、二度と出会えないからこそ、あんなにも美しく、きらきらとした透明な輝きを背負ってそこに居てくれるのだ、と、
それもわかっているから。
「一分一秒無駄にしない」で、キタロウにもしっかり協力していただきつつ、
思い出をたくさんたくさん、作ってくださいね。
最後まで、応援しています。
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