明智小五郎独り舞台/オサさんのショー
2007年4月10日 宝塚(花) コメント (5)花組東宝劇場公演を観て参りました。
私はこの公演、大劇場で幕があいてすぐに一回観たのですが。
(ちなみに日記はこちら
http://diarynote.jp/d/80646/20070214.html)
あの時点では、公演名
「黒蜥蜴/荻田さんのショー」
と認識していましたし、まぁそんなに間違ってなかったかな、という感想でした。
しかし。
あれから2ヶ月。
東宝劇場公演はまさに
「オサ(春野寿美礼)さんの、オサさんによる、オサさんだけのショー」としかいいようのないものに変貌していたのでした…。
月組でつい先日まで東宝劇場で上演していた「パリの空よりも高く」。
そして今花組で絶賛上演中の「明智小五郎の事件簿〜黒蜥蜴」。
この二つの芝居作品は、同じような生い立ちがあるんですね。
完成された「名作」と呼べる原作があって、それを植田/木村のシンジ師弟がそれぞれに舞台や設定を変えて潤色し、原作とは全く違う物語として再構成してみた(しようとした)…
そういう生い立ち。
そして同じ問題を抱えています。
潤色段階での、基本設定の整理不足、という問題を。
「パリの空よりも高く」は、細かいことを言えばキリがないくらい、いろんなハテナがあったわけですが。
一番大きいのは、やはり「太平洋戦争直前」という特殊な時代の「甑島」という閉ざされた孤島(地理的にも、情報的にも)だからこそ成立した人間関係を、開かれた大都会・世界の華パリに持ち込んで展開しようとしたこと。
しかも、国家事業クラスの大工事を題材にしてペテンを打たせたこと。
「明智小五郎の事件簿」は…そもそも、シリーズの基本設定が「大正ロマネスク」で「ブルジョアの物語」だったわけですよ。
それを、財閥解体後の戦後に持って行って「戦争反対」を叫ぶ。
…何をしたかったんだかさっぱりわからないワケです。
どうしたって、もともとの作品世界が「そっち」なので、戦後の混乱期という「時代の空気」が欠片もない。そんな作品に、脚本あるいは演出的に「時代の空気」を出そうという努力も見られない(説明台詞として「みんな戦争が悪いのよ」と繰り返すのみ)。
どちらも、原作はごくまっとうに起承転結があり、「時代の空気」があって、テーマとキャラとストーリーに齟齬がない。
まぁ細かいことを言えばキリがないんですけど、大きな穴は無いと言っていいでしょう。
しかし、シンジ師弟が潤色した大劇場作品は、師弟それぞれの理由で根本設定を変更し、時代も舞台も全く違う時空の彼方へ吹っ飛ばして、でも細かい設定に気を配ってはいないから「そもそも」に大穴があいたままになっている。
別にね、いいんですよ。
どんな大穴があいていたって、役者が魅力的なら。
それが、タカラヅカですから。
ただ、ね。
「そもそも」に大穴があいた作品を上演するにあたって、役者はどこまでやっていいのかという問題を、投げかけてくれたような気がするのです…。
月組、瀬奈&彩乃&出雲&霧矢&大空の5人は。
5人で一致団結して、他の組子ともども、公演を盛り上げるためにやれることは全部やっていた、と思います。
まぁ、作品としても「パリ空」は決して愚作じゃなかった。
植田さんにしては佳作と言いたいくらい(←え”)、役者次第でフォローできる程度の出来だったとは思います。
しかし。
花組は。
春野さん独りでソコまでやっちゃうの?
やっちゃっていいの?誰もついてきてないよ…?
花組の体制にも勿論問題はあると思います。
現体制は、あまりにもオサさん中心主義すぎですから。
二番手は“総受けの貴公子”の正当なる後継者・まとぶん。
そういうキャラだからもうどうしようもない。総Sのオサさんに、頭を垂れて跪くことしかできないんですから。
しかも、総受けなのにプライドが高い。自分を捨てられない男。そこが、元祖“総受けの貴公子”(←そう呼んでいたの私だけですか…?)ぶんちゃんとの違い(絵麻緒さんはプライドも捨てられる男を演じさせたら最高だった)。
なのに、黒蜥蜴の前ではその仮面がはがれてしまいそうで、取り縋ってしまいそうになって焦ったあげく、目の前の、一癖二癖ありそうだけど、とりあえず黒蜥蜴本人よりは少しは与しやすそうな容子さん(野々すみ花ちゃん)にプロポーズされて、「是」と応えてしまうところがいかにもMらしい(笑)。
3番手は、明智さんの鈍感な思い人・浪越くん。
ああもう、壮さん最高です。「鈍感だけがとりえの『いい人』」って、一つの組に二人も三人もいたら作品の創りようがなくなっちゃって困るけど、今のところ花組には壮さん一人しかいないから、すごく良いと思います。
立ってるだけで「鈍感だけどいい人」オーラを撒き散らす壮さん。今の時代には、そしてオサさんの隣には得難い人ですよねっ♪
その下の、みわっち、まっつ以下は、もうなにをかいわんや、って感じなので。
ある意味、キャストの数が少ない木村作品に「今」あたっておいてよかったね、と思いましたよ。
今の花組、タレントはいっぱいいるけど、あまりにも「オサさん中心」が根付きすぎていて…
…というか、オサさんがあまりにも『どっか』へ行ってしまって帰ってこないので、残った者は地に足つけてゆっくり行こうよ、という協定をしているような気がするとゆーのか(滝汗)。
オサさんの明智小五郎。
脚本の設定も大穴も小穴もなにもかもぜ〜んぶ吹っ飛ばして、高笑いしている明智小五郎。
すばらしかったんです、本当に。
トップはココまでやれるんだ、と。
トップはココまでやっていいんだ、と。
トップはココまでやらなくちゃいけないんだ、と。
トップはココまでイっちゃわなくてはならないのか、と。
身をもって「トップスター」の重責を示してくれたオサさん。
言葉ではなくて。
仕草でもなくて。
ただ、自分自身の『トップスター』という存在に賭けて、公演を成功させて見せるぞ!という意気込みと、気合い。
たったそれだけの武器で、2千人超の客が入るあの広大な大劇場を埋めてしまった稀有な人。
私の知っているオサさんは、どこへイってしまわれたのでしょう…?
私の知っているオサさんは、「歌」という武器を細い腕に握り締めて闘っていました。
あれも孤独な闘いだったけれども、オサさんは独りで奮闘努力していたけれども、でも。
オサさん自身が望んでの「独り」だとは思っていませんでした。
だけど。
アレは、オサさんの意思なんですね。
オサさんは望んで独りになっている。
孤独な明智小五郎。
周りの人間たちとは視点が違う、それだけではなくて。
周りの小人たちとは視界も目線も何もかも違うのだけれども、
それだけではなくて。
望んで違う世界に身をおこうとしているんですね…。
木村さんとオサさんの相性は、あまり良くないんだなーと大劇場公演のときは思いましたが。
もしかしたら、もの凄く合っているのかもしれませんね。
東宝劇場のど真ん中で、高らかに嘲うオサさんを観て、そう思ってしまったのでした…。
話はだいぶ変わりますが。
「明智小五郎の事件簿」では、明智さんと相棒の壮さんがほぼ出ずっぱり。そして、まとぶんは黒蜥蜴の手下で明智さんとの絡みは皆無。
まぁ、二番手は主役の相棒に置くより敵役においた方が、作品の視点が固定されなくて面白くしやすいので、どうしてもこういう配置になるんでしょうね…。
(パリ空も、二番手の霧矢さんはペテン師チームでなくエッフェルさんでしたもんね)
.
私はこの公演、大劇場で幕があいてすぐに一回観たのですが。
(ちなみに日記はこちら
http://diarynote.jp/d/80646/20070214.html)
あの時点では、公演名
「黒蜥蜴/荻田さんのショー」
と認識していましたし、まぁそんなに間違ってなかったかな、という感想でした。
しかし。
あれから2ヶ月。
東宝劇場公演はまさに
「オサ(春野寿美礼)さんの、オサさんによる、オサさんだけのショー」としかいいようのないものに変貌していたのでした…。
月組でつい先日まで東宝劇場で上演していた「パリの空よりも高く」。
そして今花組で絶賛上演中の「明智小五郎の事件簿〜黒蜥蜴」。
この二つの芝居作品は、同じような生い立ちがあるんですね。
完成された「名作」と呼べる原作があって、それを植田/木村のシンジ師弟がそれぞれに舞台や設定を変えて潤色し、原作とは全く違う物語として再構成してみた(しようとした)…
そういう生い立ち。
そして同じ問題を抱えています。
潤色段階での、基本設定の整理不足、という問題を。
「パリの空よりも高く」は、細かいことを言えばキリがないくらい、いろんなハテナがあったわけですが。
一番大きいのは、やはり「太平洋戦争直前」という特殊な時代の「甑島」という閉ざされた孤島(地理的にも、情報的にも)だからこそ成立した人間関係を、開かれた大都会・世界の華パリに持ち込んで展開しようとしたこと。
しかも、国家事業クラスの大工事を題材にしてペテンを打たせたこと。
「明智小五郎の事件簿」は…そもそも、シリーズの基本設定が「大正ロマネスク」で「ブルジョアの物語」だったわけですよ。
それを、財閥解体後の戦後に持って行って「戦争反対」を叫ぶ。
…何をしたかったんだかさっぱりわからないワケです。
どうしたって、もともとの作品世界が「そっち」なので、戦後の混乱期という「時代の空気」が欠片もない。そんな作品に、脚本あるいは演出的に「時代の空気」を出そうという努力も見られない(説明台詞として「みんな戦争が悪いのよ」と繰り返すのみ)。
どちらも、原作はごくまっとうに起承転結があり、「時代の空気」があって、テーマとキャラとストーリーに齟齬がない。
まぁ細かいことを言えばキリがないんですけど、大きな穴は無いと言っていいでしょう。
しかし、シンジ師弟が潤色した大劇場作品は、師弟それぞれの理由で根本設定を変更し、時代も舞台も全く違う時空の彼方へ吹っ飛ばして、でも細かい設定に気を配ってはいないから「そもそも」に大穴があいたままになっている。
別にね、いいんですよ。
どんな大穴があいていたって、役者が魅力的なら。
それが、タカラヅカですから。
ただ、ね。
「そもそも」に大穴があいた作品を上演するにあたって、役者はどこまでやっていいのかという問題を、投げかけてくれたような気がするのです…。
月組、瀬奈&彩乃&出雲&霧矢&大空の5人は。
5人で一致団結して、他の組子ともども、公演を盛り上げるためにやれることは全部やっていた、と思います。
まぁ、作品としても「パリ空」は決して愚作じゃなかった。
植田さんにしては佳作と言いたいくらい(←え”)、役者次第でフォローできる程度の出来だったとは思います。
しかし。
花組は。
春野さん独りでソコまでやっちゃうの?
やっちゃっていいの?誰もついてきてないよ…?
花組の体制にも勿論問題はあると思います。
現体制は、あまりにもオサさん中心主義すぎですから。
二番手は“総受けの貴公子”の正当なる後継者・まとぶん。
そういうキャラだからもうどうしようもない。総Sのオサさんに、頭を垂れて跪くことしかできないんですから。
しかも、総受けなのにプライドが高い。自分を捨てられない男。そこが、元祖“総受けの貴公子”(←そう呼んでいたの私だけですか…?)ぶんちゃんとの違い(絵麻緒さんはプライドも捨てられる男を演じさせたら最高だった)。
なのに、黒蜥蜴の前ではその仮面がはがれてしまいそうで、取り縋ってしまいそうになって焦ったあげく、目の前の、一癖二癖ありそうだけど、とりあえず黒蜥蜴本人よりは少しは与しやすそうな容子さん(野々すみ花ちゃん)にプロポーズされて、「是」と応えてしまうところがいかにもMらしい(笑)。
3番手は、明智さんの鈍感な思い人・浪越くん。
ああもう、壮さん最高です。「鈍感だけがとりえの『いい人』」って、一つの組に二人も三人もいたら作品の創りようがなくなっちゃって困るけど、今のところ花組には壮さん一人しかいないから、すごく良いと思います。
立ってるだけで「鈍感だけどいい人」オーラを撒き散らす壮さん。今の時代には、そしてオサさんの隣には得難い人ですよねっ♪
その下の、みわっち、まっつ以下は、もうなにをかいわんや、って感じなので。
ある意味、キャストの数が少ない木村作品に「今」あたっておいてよかったね、と思いましたよ。
今の花組、タレントはいっぱいいるけど、あまりにも「オサさん中心」が根付きすぎていて…
…というか、オサさんがあまりにも『どっか』へ行ってしまって帰ってこないので、残った者は地に足つけてゆっくり行こうよ、という協定をしているような気がするとゆーのか(滝汗)。
オサさんの明智小五郎。
脚本の設定も大穴も小穴もなにもかもぜ〜んぶ吹っ飛ばして、高笑いしている明智小五郎。
すばらしかったんです、本当に。
トップはココまでやれるんだ、と。
トップはココまでやっていいんだ、と。
トップはココまでやらなくちゃいけないんだ、と。
トップはココまでイっちゃわなくてはならないのか、と。
身をもって「トップスター」の重責を示してくれたオサさん。
言葉ではなくて。
仕草でもなくて。
ただ、自分自身の『トップスター』という存在に賭けて、公演を成功させて見せるぞ!という意気込みと、気合い。
たったそれだけの武器で、2千人超の客が入るあの広大な大劇場を埋めてしまった稀有な人。
私の知っているオサさんは、どこへイってしまわれたのでしょう…?
私の知っているオサさんは、「歌」という武器を細い腕に握り締めて闘っていました。
あれも孤独な闘いだったけれども、オサさんは独りで奮闘努力していたけれども、でも。
オサさん自身が望んでの「独り」だとは思っていませんでした。
だけど。
アレは、オサさんの意思なんですね。
オサさんは望んで独りになっている。
孤独な明智小五郎。
周りの人間たちとは視点が違う、それだけではなくて。
周りの小人たちとは視界も目線も何もかも違うのだけれども、
それだけではなくて。
望んで違う世界に身をおこうとしているんですね…。
木村さんとオサさんの相性は、あまり良くないんだなーと大劇場公演のときは思いましたが。
もしかしたら、もの凄く合っているのかもしれませんね。
東宝劇場のど真ん中で、高らかに嘲うオサさんを観て、そう思ってしまったのでした…。
話はだいぶ変わりますが。
「明智小五郎の事件簿」では、明智さんと相棒の壮さんがほぼ出ずっぱり。そして、まとぶんは黒蜥蜴の手下で明智さんとの絡みは皆無。
まぁ、二番手は主役の相棒に置くより敵役においた方が、作品の視点が固定されなくて面白くしやすいので、どうしてもこういう配置になるんでしょうね…。
(パリ空も、二番手の霧矢さんはペテン師チームでなくエッフェルさんでしたもんね)
.