サンシャイン劇場にて、キャラメル・ボックス2009サマーツアー「風を継ぐ者」を観劇してまいりました。
一つの時代を走り抜けた集団「新撰組」の、下っ端たちの物語。
新撰組が京に落ち着いてしばらく後、池田屋事件よりちょっと(?)前。
壬生狼たちの詰め所では、入隊試験が行われている。受験者は立川迅助(佐東広之)と小金井兵庫(大内厚雄)の二人。剣の試験で相手をするのは沖田総司(畑中智行)、立会は土方歳三(三浦剛)と、勘定方の三鷹銀太夫(阿部丈二)。
剣の腕は素人同然だが、一生懸命でひたむきな迅助と、腕前は一級品だがヤル気がなくて集中力を欠いた小金井。土方は両名とも合格として沖田の隊につけて鍛えるよう命じ、浅黄の羽織を用意させる。
合格した迅助が向かった先は、叔父・桃山鳩斎(西川浩幸)の診療所。身内であるはずの彼らとの会話の中で、京の人々がどれだけ新撰組を憎んでいたかを端的に説明し、さらに迅助の“優しくて気の弱い”キャラクターを浮かび上がらせる手腕はさすがだな、と思いました。
彼(迅助)は足がとっても速い、という設定なんですが、この“足”は、あくまでも“逃げ足”なんですね。闘うためではなく、闘いを回避するための、足。けれども彼は、気の弱い自己を改革しようと新撰組という世界を選び、その中で、人を守ろうとするなら、逃げることはできない(正面から闘うしかないこともある)ということを、日々の訓練や活動の中で学んでいく。
物語は、基本的には歴史に沿って進んでいくかに見えるのですが、途中から長州秋吉家の仇討ち話というエピソードが入り込み、物語全体が私怨に堕していってしまうのですが。
……幕末って、そういう時代だったんだろうな、という説得力があって、私にはとても面白い構成でした。
そもそも、幕末の争いっていうのは本当に私怨に毛が生えたくらいのものなんですよね。
高邁な理想を語っていたのはほんの一握り。実際には、たくさんの人々がただひたすらに右往左往して、あちらで一押し、こちらで一休み、そっちで一喧嘩しているうちに時代が変わってしまった!というのが実情なんじゃないかと思うんです。
そこに必要なのは、理屈を超えた熱気。
勤皇の志士たちが『新しい時代』を渇望したのと同じ熱量で、新撰組の隊士たちもまた、『新しい時代』を求めていたのです。彼ら郷士や農民の子が、武士として認めてもらえる下克上の時代、を。
だからこそ、既に身分有る武士であった浪人たちとの戦いは熾烈を極めた。薩長の志士たちは、志士である前に武士であり、武士でありながら今の世の中を壊そうとする悪人だったわけです。
素朴で真面目な、農民出身の隊士たちにとっては。
もちろん、志士たちには志士たちの理想があり、立場がある。
だからこそ、彼らはお互いの正義を賭けて闘った。死力を尽くして。
……どちらが勝利したのかは、歴史の教えるところですが。
物語は後半、蛤御門の変に巻き込まれて怪我をした長州の女性・秋吉美弥を中心に動き、ただただ誠実に、仲間たちを守るために走り続ける迅助と、そんな彼らをただ凝っと見つめている小金井を描きだしていくのですが。
……彼らと行動を共にする沖田総司と、そして、彼を診察する女医者(鳩斎の娘)・つぐみ(實川貴美子)との交流が、とても良かったです(*^ ^*)。
つぐみは、「星影の人」の早苗にあたる役ですが、非常に聡明で落ち着いた女性として描かれていて、沖田の心が自分のところに留まれないことをよく理解している女性でした。
近藤や土方や、新撰組の隊士たちのモノでしかない、沖田の心。
沖田個人のものでもなく、ましてや、つぐみにあげられるものでは、ない。
そんなことはよく判っていて、だからこそ、生きていてほしいと願う女心が切ないです。
具体的な言葉は何一つ交わさぬままに、ただ、離れていく二人が。
そして、そんな二人を多分完全には理解できずにいるのであろう迅助が、可愛いです(^ ^)。
畑中さんの総司が、“小兵で愛嬌のある顔”という総司のイメージにぴったりで、とてもハマっていました(*^ ^*)。無駄に美形じゃないのが嬉しい♪小柄な身体をいっぱいに伸ばしての殺陣、特にジャンプして上から振りかぶっての上段斬りは、あまり実戦には向かないような気がしつつも、あまりにも格好良くて見惚れてしまいました(汗)。
作品としての主人公は迅助、
物語の中心に居るのは沖田、
そして、彼らと共に生き、走り、そして、彼らを語る小金井。
小金井は、当事者として思い出を語り、並んで走った友の思い出を語る。
幕府に、時代に裏切られた新撰組のメンバーとして、明治初期はさぞ苦労をしただろうに、なんとか身一つで新聞社に潜り込んだ彼は、ホンモノの『視る人』だったんでしょうね。
走る人でも、闘う人でもなくて。
彼が視つづけた、『走る人』『闘う人』の真実を、ちゃんと受け止められる観客でありたい、と思いました。そういう意味では、ラストを観た上で、もう一度最初から見直してみたい気がします。
キャラメルボックスの作品は、いつだって正直です。シンプルでストレートで、役者の真実が見えてくる物語。そんな作品世界を描き出す、誠実なひとたち。
これだけ動く人数も活動内容も大掛かりなものになっていながら、いつまでも家族的な集団であり続けようとする特異な劇団は、来年25周年を迎えるのだそうです。
上川隆也がついに独立する、ということを、嬉しそうにプログラムで報告しているプロデューサーの加藤氏が、いかにもキャラメルらしいなあ、と思う。この“ファミリー”を離れて、新しい一歩を歩き出した上川さんの、さらなるご活躍を祈ります。
作・演出は成井豊+真柴あずき。
なんちゃって新撰組マニアな猫には、とても面白い作品でした♪
あーあ、8月2日の、渡辺多恵子さんとのトークショーにも行きたかったなあ~~~(涙)。どんな話が出るのでしょうか~~?
架空の人物(迅助)を主人公にした物語ですが、キャラメルボックスは、この作品を世に出した後、「裏切り御免!」という、同じく迅助を主人公にしたアナザーストーリーを発表しているんですね。こちらは坂本竜馬が出てくるみたいですが。
うーん、面白そうだなあ。再演されたら観に行きたいぞ☆
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一つの時代を走り抜けた集団「新撰組」の、下っ端たちの物語。
新撰組が京に落ち着いてしばらく後、池田屋事件よりちょっと(?)前。
壬生狼たちの詰め所では、入隊試験が行われている。受験者は立川迅助(佐東広之)と小金井兵庫(大内厚雄)の二人。剣の試験で相手をするのは沖田総司(畑中智行)、立会は土方歳三(三浦剛)と、勘定方の三鷹銀太夫(阿部丈二)。
剣の腕は素人同然だが、一生懸命でひたむきな迅助と、腕前は一級品だがヤル気がなくて集中力を欠いた小金井。土方は両名とも合格として沖田の隊につけて鍛えるよう命じ、浅黄の羽織を用意させる。
合格した迅助が向かった先は、叔父・桃山鳩斎(西川浩幸)の診療所。身内であるはずの彼らとの会話の中で、京の人々がどれだけ新撰組を憎んでいたかを端的に説明し、さらに迅助の“優しくて気の弱い”キャラクターを浮かび上がらせる手腕はさすがだな、と思いました。
彼(迅助)は足がとっても速い、という設定なんですが、この“足”は、あくまでも“逃げ足”なんですね。闘うためではなく、闘いを回避するための、足。けれども彼は、気の弱い自己を改革しようと新撰組という世界を選び、その中で、人を守ろうとするなら、逃げることはできない(正面から闘うしかないこともある)ということを、日々の訓練や活動の中で学んでいく。
物語は、基本的には歴史に沿って進んでいくかに見えるのですが、途中から長州秋吉家の仇討ち話というエピソードが入り込み、物語全体が私怨に堕していってしまうのですが。
……幕末って、そういう時代だったんだろうな、という説得力があって、私にはとても面白い構成でした。
そもそも、幕末の争いっていうのは本当に私怨に毛が生えたくらいのものなんですよね。
高邁な理想を語っていたのはほんの一握り。実際には、たくさんの人々がただひたすらに右往左往して、あちらで一押し、こちらで一休み、そっちで一喧嘩しているうちに時代が変わってしまった!というのが実情なんじゃないかと思うんです。
そこに必要なのは、理屈を超えた熱気。
勤皇の志士たちが『新しい時代』を渇望したのと同じ熱量で、新撰組の隊士たちもまた、『新しい時代』を求めていたのです。彼ら郷士や農民の子が、武士として認めてもらえる下克上の時代、を。
だからこそ、既に身分有る武士であった浪人たちとの戦いは熾烈を極めた。薩長の志士たちは、志士である前に武士であり、武士でありながら今の世の中を壊そうとする悪人だったわけです。
素朴で真面目な、農民出身の隊士たちにとっては。
もちろん、志士たちには志士たちの理想があり、立場がある。
だからこそ、彼らはお互いの正義を賭けて闘った。死力を尽くして。
……どちらが勝利したのかは、歴史の教えるところですが。
物語は後半、蛤御門の変に巻き込まれて怪我をした長州の女性・秋吉美弥を中心に動き、ただただ誠実に、仲間たちを守るために走り続ける迅助と、そんな彼らをただ凝っと見つめている小金井を描きだしていくのですが。
……彼らと行動を共にする沖田総司と、そして、彼を診察する女医者(鳩斎の娘)・つぐみ(實川貴美子)との交流が、とても良かったです(*^ ^*)。
つぐみは、「星影の人」の早苗にあたる役ですが、非常に聡明で落ち着いた女性として描かれていて、沖田の心が自分のところに留まれないことをよく理解している女性でした。
近藤や土方や、新撰組の隊士たちのモノでしかない、沖田の心。
沖田個人のものでもなく、ましてや、つぐみにあげられるものでは、ない。
そんなことはよく判っていて、だからこそ、生きていてほしいと願う女心が切ないです。
具体的な言葉は何一つ交わさぬままに、ただ、離れていく二人が。
そして、そんな二人を多分完全には理解できずにいるのであろう迅助が、可愛いです(^ ^)。
畑中さんの総司が、“小兵で愛嬌のある顔”という総司のイメージにぴったりで、とてもハマっていました(*^ ^*)。無駄に美形じゃないのが嬉しい♪小柄な身体をいっぱいに伸ばしての殺陣、特にジャンプして上から振りかぶっての上段斬りは、あまり実戦には向かないような気がしつつも、あまりにも格好良くて見惚れてしまいました(汗)。
作品としての主人公は迅助、
物語の中心に居るのは沖田、
そして、彼らと共に生き、走り、そして、彼らを語る小金井。
小金井は、当事者として思い出を語り、並んで走った友の思い出を語る。
幕府に、時代に裏切られた新撰組のメンバーとして、明治初期はさぞ苦労をしただろうに、なんとか身一つで新聞社に潜り込んだ彼は、ホンモノの『視る人』だったんでしょうね。
走る人でも、闘う人でもなくて。
彼が視つづけた、『走る人』『闘う人』の真実を、ちゃんと受け止められる観客でありたい、と思いました。そういう意味では、ラストを観た上で、もう一度最初から見直してみたい気がします。
キャラメルボックスの作品は、いつだって正直です。シンプルでストレートで、役者の真実が見えてくる物語。そんな作品世界を描き出す、誠実なひとたち。
これだけ動く人数も活動内容も大掛かりなものになっていながら、いつまでも家族的な集団であり続けようとする特異な劇団は、来年25周年を迎えるのだそうです。
上川隆也がついに独立する、ということを、嬉しそうにプログラムで報告しているプロデューサーの加藤氏が、いかにもキャラメルらしいなあ、と思う。この“ファミリー”を離れて、新しい一歩を歩き出した上川さんの、さらなるご活躍を祈ります。
作・演出は成井豊+真柴あずき。
なんちゃって新撰組マニアな猫には、とても面白い作品でした♪
あーあ、8月2日の、渡辺多恵子さんとのトークショーにも行きたかったなあ~~~(涙)。どんな話が出るのでしょうか~~?
架空の人物(迅助)を主人公にした物語ですが、キャラメルボックスは、この作品を世に出した後、「裏切り御免!」という、同じく迅助を主人公にしたアナザーストーリーを発表しているんですね。こちらは坂本竜馬が出てくるみたいですが。
うーん、面白そうだなあ。再演されたら観に行きたいぞ☆
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