発売から2カ月ちかく経ってしまいましたが……

私が愛してやまない作家・小野不由美さんの大人気シリーズが新潮文庫から出ていますので、ぜひご紹介したいと思います(^ ^)。



このシリーズ、初版は講談社ホワイトハート文庫から出ていて、、、要するに「ライトノベル」に分類されていたため、意外と知られていなかったと思うんですよね。
しかも、ライトノベルって毎年すごい数の新刊が出るから、最新巻がでてから7年とかになると、さすがに本屋に並ばなくなってしまうし(T T)。

今回の刊行は、ちゃんと続編を書いてくれる予定での再刷(出版社違うけど!)のようなので、安心して読んでいただける(10年とか待たされたりしない)と信じています! ……ですよね!?>>小野さん




もとい。

このシリーズが新潮社から出ることを知った時の日記はこちら。
http://80646.diarynote.jp/?day=20120404

こっちでも書いてますが(っていうか何度か書いてる気がする)、小野さんの描く「世界」って、すごくリアルなんですよね。
完全な別世界を構築し、そこに住まう人々を具体的にイメージできる創造力と、それを他人(読者)の脳みそでも的確に映像としてイメージさせられるだけの表現力を併せ持った作家であるのみならず、ものすごく哲学的なテーマを、ものすごくリアルな状況や事態、あるいは感情に落としこんで提示できる発想力があるから。


「十二国記」の第一話である「月の影、影の海」は、現代(といっても20世紀ですけどね!)日本を舞台にスタートします。
あまり主体性のない、優等生だけど気弱で平凡な女子高校生・陽子が、ある日夢の中から顕れた妖怪たちに襲われて、異世界に連れ去られるのが物語の発端。

何もかも見慣れぬものばかりの異国で、殺されそうになる陽子。妖怪に襲われた隙に逃げ出して、そのまま見知らぬ国を彷徨う……平和な祖国に帰ることだけを心の支えに。「平和な祖国」にも、自分の居場所がなかったことなど、忘れたふりをして。


上下巻にわかれたこの物語の中で、上巻はひたすら陽子の悲惨な道行きが語られます。
何度も襲われ、騙され、殺されかけて、次第に猜疑心ばかりが表に出るようになるまでの様子が、克明に、酷薄なまでに描かれていて、、、気分が落ちている時に読んだら、よけい落ち込んでしまうかもしれません。小野さんの筆はリアルすぎて、感情的に巻き込まれてしまうんですよね。悲惨な時はとことん悲惨に、後ろ向きな気持ちはとことん後ろ向きに。
でも、下巻で救い主に出会ってから、自分の往くべき道を見出すまでの陽子の葛藤は、ひどく真摯で、そして貴重なものです。この葛藤を追体験できることは、ちょっと大袈裟ですけど、人生を豊かにする(^ ^)と思う。「どっちも選べないなら、やるべきことをやるほうを選ぶといい、後悔しないですむように」という言葉にどんな風に納得するのか、とか。

陽子の感情は、決して小説のヒーロー(ヒロイン)らしい前向きで正義に偏ったものではなく、ごく平凡でリアルで、結構後ろ向きな、実感としてとらえやすいものであることが、この物語のポイントなのだと思います。理解できる……すくなくとも、納得はできる。彼女の最後の選択も。そして、そういう風に心を動かしていけば、人の信頼を得られるかもしれない、と思うことができる。ただ本を読んでいるだけなのに、自分自身の感情がそう動いていくのが面白くて、何度も読み返したものです。



今回の出版は、出版社も違うし、単なる再刷ではなくリライトもしているとのことですが、ざっと眺めた限りでは若干の用語を直したくらい……かな?という印象でした。いや、すみません、好きなところだけ飛ばし飛ばしで読んだだけなので、部分によっては大きく直しているのかもしれませんが(汗)(汗)

なにはともあれ、小野さんの満足できる形で再刊行できているなら、ファンとして何よりの喜びです。お願いだから、続編ちゃんと出してくださいね!(切望)……10年、長かったわ……。

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