ドラマシティと日本青年館にて、星組公演「日のあたる方へ ~私という名の他者~」を観劇いたしました。



作・演出は木村信司。原作というか、元本にあたるのは、スティーブンソンの有名な「ジキル博士とハイド氏」。私はこの原作は読んだことがないのですがワイルドホーンのミュージカル「Jekyl & Hyde」は、ブロードウェイで幕が開いてすぐに友人から勧められてCD嵌り、日本での上演が決まる前にブロードウェイまで観に行ったくらいのファンです。
今回、「Jekyl & Hyde」とはまったくの別物だと頭ではわかっていても、ワイルドホーンのミュージカルが好きすぎて、しかも石丸ジキルに濱田ルーシー、笹本エマというMy Best Castを観てしまったいま、木村さんの創る「ジキルとハイド」かぁ……という気持ちがあったのが正直なところだったのですが。

面白かった!

私は、この日記でも何度か書いているとおり、木村さんとはあまり感性が合わないというか、相性がよくないのですが、この物語の着想はとても興味深いものでしたし、キャストの良さを生かした明るいラストに癒されました(^ ^)。

ただ、こういう、観る側の反応が予測しにくい難しい題材を扱うにあたって、木村さんの、良くいえばパワフルで、悪く言えばデリカシーがないところは、魅力と嫌悪感の両輪になるんですね。その両輪は、両方あってこその木村作品で、どちらかだけでは作品として完成できない。今回の作品も、細かいことをいえば不愉快な点はいくつかありました。
ただ、最終的には主演コンビの真っ直ぐで伸びやかな魅力に救われたので、座付き作家の仕事としてはそれで良かったのだろう、と思っています(^ ^)。

「Next To Normal」、そして、まだこちらには書いていませんが「ヴォイツェク」から続けて観たので、そこかしこの詰めの甘さが気になったことも事実ではありますが。まあ、あまりそこを追求しても仕方がないので、、、「精神医学」に関わるあれこれはスル―することにして臨みたいと思います(決意)。



真風くん演じるジキルは、バウ初主演だった「ランスロット」と同様、思ったところに真っ直ぐつき進む、猪突猛進タイプの英雄的な青年、ちなみに年齢は27歳半。素直で優しくて、愛され要素たんまりで生真面目で、、、ヘタレでこそないけど、なんだか今までの真風くんのイメージまんまで、とても素敵でした。
そんな彼の、幼少期のトラウマから形成された別人格「イデー」。イデーとジキルが交互に顕れる場面はこの作品の演出的な白眉ですが、、、照明と芝居で表現する「別人格」は、なかなかリアルで、良かったです。

ちなみに、薬を飲んで過去に戻る途中で、博士論文を仕上げた時を再現する場面の芝居(台詞)からすると、木村さんのイメージするジキルの本質は、自信過剰で尊大な天才タイプということになるのですが、、、他の場面では全然そんな感じじゃないので(友人たちにも愛されているし)、なんであんな台詞を書いたのかなーと不思議だったりはしてます。ランスロットとキャラを変えたかったのなら、他の部分が中途半端だし、あっちの方がよっぽど二重人格っぽいんだけどなあ(- -;ゞ



風ちゃん演じるマリアは、ジキルの患者にして、初恋の人。ちなみに、ジキルより年上で、29歳、なんだよね……。
声も芝居も伸びやかで、存在自体がまっすぐで明るい、本当にひまわりのような娘役さんだなあ、とあらためて感じました。「南太平洋」では、24年も先輩の轟さんにどーん!とぶつかっていましたが、今回は、4年上のはるこちゃん(音波)のお姉さんで、3年上の真風くんより2歳上の役で、、、まあ、年上に見えたかどうかはともかく(汗)、ちゃんと包容力もあったし、、、うん、とっても良かったと思います。

彼女の周りだけ陽が当たっているかのようなイマジネーションは、もちろん照明の助けもありましたけれども、彼女自身の明るさもすごく生きていたと思います。
あとね、5歳のマリアが可愛くて可愛くて、もう、、、ね!(*^ ^*)。



天寿さん演じるブルーノは、ジキルの友人で経済学者。
テレビによく出ているコメンテーターということで、人脈も幅広く、過去の事件に関わる情報を集めたり、コンピューター技士を呼んだり、、、と、木村さん的になくてはならない便利屋的な存在でしたが(- -)、天寿さん自身は、「日のあたる道を歩いてきたエリート」を嫌みなく演じていて、場を明るくする仕事もきちんとやり遂げて、とても良かったと思います。ジキルのあの「薬」を飲んでも大丈夫そうな人物像、に説得力を持たせていたのはさすがだな、と、これは若干の贔屓目もあるかもですが。

……ただ、芝居としてはあまりしどころのない役だったので……、天寿さんのお芝居を観たいファン心理としては、ファビオを観てみてみたかったなあ、と思ったりはしました。天寿さんの語る「ファビオの物語」をきいてみたかった……ええ!単純に一樹さんと天寿さんのガチ芝居を観てみたかっただけですよわかってますよ!!

ブルーノさん的に、一番好きな場面は、ラストの引っ込みでのはるこちゃんとの芝居です。いや、単純に天寿さんとはるこちゃんに絡みがあったのが嬉しくて仕方ないだけですが(←懲りない ^ ^)。



十碧くん演じるジョアンは、ジキルの友人にして同じ精神病理の同僚。ジキルは博士だけど、ジョアンはどうなのかな?そのあたりはハッキリ説明されてはいなかったな、と、、、「立場は違っても親友」という位置は、同じ部署にいたらはっきりとした順位付けがされてしまうだけに難しい関係になりがちですが、木村さんはそういうこと考えないんでしょうね。私が考えすぎなだけ?

いずれにしても、ジョアンはジキルの親友で、ジキルのためなら何でもする、正義感に溢れた熱血漢という脚本上のキャラクターは、よく現出できていたと思います。ただ、もう少し……同じ専攻なだけに、ジキルのやっていることの危険性も、患者への深すぎる思い入れが判断を狂わせていることも解ってしまう、、、というところは持っていてほしい気がしました。
親友だからジキルのやりたいことはやり遂げさせたい、でも、おそらくこれから彼がしようとすることは間違いだ……専攻の違うブルーノにはわからないことが、ジョアンには判る。なのに、ジョアンはその警告に目を瞑って、ブルーノと共に行ってしまう……その、去り際の気持ちの残し方がもう少し自然にできるようになれば、良い役になるのになあ……と。
青年館に来てだいぶ良くなっていたので、もう一息かな!?千秋楽までにはモノにできることを祈りつつ。




今回の作品、いろいろ突っ込みどころはありつつも、私としては木村作品にしては相当に高評価ではあるのですが、、、下級生にあまり役がなかったので、組ファンの皆さまには残念なところがあったかもしれません。
今回の座組の中では比較的上級生の輝咲くん瀬希くんに遣り甲斐のある役があったのは良かったけど、それ以外はちょっと寂しい……まして娘役は、出番も芝居のやりようも相当に限定的で、優香りこちゃんとか、それだけ!?って思ったし。
木村作品だから、みんなアンサンブルとして舞台に出ている時間は長かったし、台詞も、割台詞が何回かあったので、おそらくは全員が何回か喋っていると思うのですが、、、拓斗くんとかがしっかり役を貰って取り組む姿も、観てみたかった……。



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