月組バウホール公演「月雲の皇子」、千秋楽おめでとうございます!
わずか10日間の短い公演でしたが、若いメンバーの熱気に溢れ、成長も著しい、素晴らしい公演でした。

上田久美子さん、バウホールデビュー作の大成功、おめでとうございます!気が早いかもですが、次作も期待しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします(^ ^)。



千秋楽もすぎましたので、ネタばれ解禁……と思いつつ、まだあまり頭がまとまっていなくて、何から書けばいいのか解らなかったりするので、まずは、作品とは直接関係ない話を。

初見で思ったのは「あかねさす紫の花」と「太王四神記」を足したような物語だな、ということでした。
王となるべき穏やかで優しい皇子と、その次の順位にある知略に富んだ勇猛な皇子が、互いに互いを思いあい、共に「お前が王になるなら私はその補佐として役に立とう」と思っている、という設定は「太王四神記」と同じで、その二人が揃って愛した娘が巫女であるというのも同じ。そして、3人の関係は少し違いますが、「あかね…」は、兄弟二人が愛する幼馴染みの巫女、という設定と、衣装や1幕ラストの3人の舞の場面が良く似ていて、とても懐かしく思い出しました。
衣装といえば、2幕の中心となる土蜘蛛軍は「太王四神記」だったなあ。。。

そして、これは余談ですが、「太王四神記」の主人公タムドクは、いわゆる高句麗の「好太王」のことであり、彼の在位は4世紀の後半から5世紀初頭。安康(穴穂)~雄略(大長谷)の在位は5世紀中葉~後半と言われており、好太王碑に残る「倭軍」を率いたのは、二人の父允恭天皇か、あるいはその兄であった履中・反正の時代であろう、というのが有力なようです。
タムドクと木梨・穴穂がほぼ同時代の人物(1世代違いますが)であるのは面白いなあ、と思いました。この時代、高句麗には中興の祖であるタムドクが登場して朝鮮半島南部の百済・新羅を圧迫し、多数の渡来人が倭国を訪れるきっかけとなったんですよね。そして、彼らがやってきて数十年が過ぎ、有能な者は大和朝廷でそれなりの地位についた頃に、木梨・穴穂の物語は始まる。その時間関係が、面白いな、と。



穴穂が驚いた“黒船”は、新羅の舟。その舟に山と積まれた鋼の武器。
日本にもそれなりの製鉄技術はあったものの、やはり大陸の方が技術は進んでいたはず。宋に朝貢して印綬を貰い受けてはいても、実際に中華の大国と地理的に近く、鉱物資源も豊富な朝鮮半島は、身近な敵ではあったのでしょうね。
同じものをみても、木梨は“技術”のもたらす生産力の向上と国の繁栄を信じ、穴穂は“敵”の存在に気づいて国の将来を憂う。木梨が蜘蛛族の間に立ち入ってしようとしたことは、彼らに技術を与えてヤマトの民と一体化させることであり、いろいろな行き違いから多くの人を巻き込んだ大きな闘いを始めてしまうけれども、そもそもの目的は「平和」であったのだ、と。。。その行き違いの切なさとともに、それが「国産み」なのだ、と。そこにある「国」を護るのではなく、「ヤマト」という国を創ろうとするときの、それが苦しみなのだ、と、、、そういうふうに上田さんは言いたかったのかな、と思いました。

……ま、兄弟げんかは家でやれよ、とも思うんですけどね!!(真顔)



うしろだて、といえば。
……博徳役のまゆぽん(輝月)が1幕で歌う「銅鏡」からの説明のくんだりは、大長谷皇子(後の倭王武に比定される雄略天皇)にとって、非常に重要な情報なんですよね。後ろで寝てる場合じゃないよ!と、観るたびに思ってました(^ ^)。
全体的に重苦しい、深刻な場面の続く作品の中で、あの場面は、あとにつながる説明として非常に重要な場面でありながらもテンポよく楽しく、まゆぽんの研5とは思えぬ落ち着きと貫録、皇子たち(星那、煌海、朝美)の学年相応(←あーさとまゆぽんが同期、あとの二人は上級生)の軽やかさが印象的な場面でした。

皇子たちの運命の渦には踏み込まないながら、その外側で、誰よりもしたたかに生き抜いていく博徳。
一幕も二幕も、〆の台詞は彼が言うんですよね。特に、2幕ラストの「この国を、“いい国”にしましょうなあ……」という慨嘆は、とても胸に痛く響きました。皇子たちの運命に対しては傍観者としての立ち位置を守りながら、『ヤマトの国産み』に対しては当事者であった彼の、愛弟子へ向けた精一杯の餞。その愛情と厳しさを飄々とした語り口に籠めつつ、兄の希みを叶えて全てを喪った弟皇子に道を示す、そのさりげない包容力。
この作品におけるまゆぽんの存在の巨きさは、はかりしれなかったと思います。これから彼女がどんな道を歩むのかわかりませんが、すなおに真っ直ぐに、歩いていってほしいな、と思っています。



コメント

nophoto
カナリヤ
2013年5月14日12:08

ねこさん、こんにちは。
ねこさんならではの私なんぞには到底不可能な歴史に基づく書き込みに感心しきり。お勉強させて頂きました。(^_^;)
さて、振り返ってみると、あの小さなホールに満ち溢れた若いエネルギーが、若さが眩しかったなぁと。そして、あの舞台を形作る全てが大きな情感のうねりとなり、バウホールを覆っていたと思いますね。
私たち観客はそのうねりに巻き込まれ共にもまれて、気づくと静かな海の波打ち際だったような。潮騒だけが聞こえる静寂。残る余韻が寄せては消える波のよう。あぁ、とっても詩的になってしまった・・・(^_^;)
本当に良い舞台でした。
そして、出演者もそれぞれが持てる力を発揮し、更なる可能性も感じさせて、月組っ子たちは頼もしい限りでした。
これからも彼女たちに活躍の場が与えられますように。そして上田先生も更に感動の舞台を作っていってくださいますように。
再演、東上を望むお手紙を劇団に送ってしまいました。(^_^;)

みつきねこ
2013年5月15日1:54

カナリヤさま、コメントありがとうございます!

> あの小さなホールに満ち溢れた若いエネルギーが、若さが眩しかったなぁと。

バウホールって広いなあ、と思いましたよね。あの小さなホールの中に、「世界」があった。
運命に翻弄されながら、それでも自分の信じた道を行く若者たちの後ろ姿が。

> 気づくと静かな海の波打ち際だったような。潮騒だけが聞こえる静寂。

木梨と衣通が小舟をこぎ出した海ですね。

> 再演、東上を望むお手紙を劇団に送ってしまいました。(^_^;)

大事なことです!私も書かなくちゃ!(^ ^)