双曲線上の邂逅【2】
2012年8月14日 宝塚(星) コメント (2)雪組バウ&青年館公演「双曲線上のカルテ」。
主演陣については昨日書かせていただきましたので、あとは印象に残った方々を。
■末期がん患者チェーザレ役の朝風れい、その妻ボーナ役の千風カレン
もう、このお二人はこの作品の主役というか、物語のテーマを支える芯となるのエピソードの主人公なのですが、、、もう、本当に素晴らしかったです!
死の恐怖に怯えるチェーザレさんの芝居が非常に繊細だからこそ、彼を見守るプロフェッショナルの苦悩が鮮明になる。ボーナの弱さがまた絶妙で、「情報開示」の難しさを説明抜きで納得させるものがありました。
癌という病気に対してできることのヴァリエーションも増えた現在では告知するのが当たり前のようになっていますが、確かにこの原作小説が書かれた時代は本人への告知はしないのが当たり前だったようですね。(今回の舞台となっている1980年代のイタリアはどうだったのでしょうか?)
正直、最初にこのお二人が登場したときは、また石田さんのビョーキが出たか…とうんざりしそうになったのですが(汗)。でも、場面が進むにつれて、主人公である「死を見据えた」男の生きざまを描く上で、絶対に必要なエピソードなんだなあ、と思いました。現代医療の抱える課題の焦点となる二人(末期患者とその家族)がリアルに死に怯えながら毎日を生きていたから、彼らのためにしてあげられることをモニカに伝えるフェルナンドの詞の一つ一つに重みが感じられて、彼の恐怖も実感を伴って伝わってきたんですよね。
フェルナンドにも、モニカに抱きしめてほしい一瞬があったんだろうな、とか。
だからこそ、彼がモニカに云う「よくやった、モニカ」という一言の重みが、すごく切なかったです。
「僕は怖い」と歌うロミオではありませんが、「生きる」ことは常に「死の恐怖との戦い」であり、その領分においては、肉体に対する「医療行為」はまったく無力なんですよね。
告知されれば「知りたくなかった」と思い、告知されなければ「嘘を吐かれた」「信じていたのに裏切られた」と思う弱さが「人間」の本質であるのならば、末期患者とその患者に対してしてあげられることは何なのか。「替わってあげる」ことのできない現実を前にして、医療従事者が背負うべき責任とは何なのか。
本当は、「人間」はなべて「現実」と向き合い、戦う力を持っていなければならないし、そういう勇気を持ってるはず……だと思いたいのですが。。。などと、そんなことを考えさせてくれたのは、朝風さん千風さんの芝居がとてもリアルで現実感があったからだと思うのです。ラストシーンでフェルナンドを迎えにきたチェーザレの笑顔と共に。
■フェルナンド(早霧)の恩師、クレメンテの奏乃はると
渋い中にも温かみのある人物像が明確で、素晴らしかったです。
出番は決して多くないんですが、フェルナンドがどういう人物なのかという説明がほとんど無い脚本の中で、彼を評価し、理解し、そして彼の生きざまを肯定しているクレメンテの存在はとても重要なのですが、その仕事をきっちりと重みをもってやり遂げていたと思います。
フェルナンドという男の価値をあげていたのはクレメンテなのだと、そう感じました。
ランベルトではありませんが、フェルナンド、あんまり教授に心配かけるなよ……と思いつつ。
そういえば、フェルナンドがナポリへ流れてきた理由について、クレメンテが「それは……ナポリを見て死ね、と言いますから」という台詞がありますが。この痛々しい台詞は、類似のものが原作にあるんでしょうか。
……石田さん、まさかと思うけど、この台詞を使うためだけに舞台をイタリアにしたんじゃあるまいな?
■院長(夏美)の愛人アニータの夢華あみ、その息子アントーニオの彩凪翔
研3にして初めて持ち味に合った役に巡り合った夢華さんが、とても魅力的でした。うん、こういう役は似合うよね!落ち着きのある大人の女。理性が勝るタイプだから可愛げはないけど、包容力のある優しい女は出来るんだなあ。うん、この方向でぜひお願いします(^ ^)。
彩凪くんは、お芝居幕開きのテロリスト、1幕中盤の死神と目立つところでアルバイトした末に、本役での登場は2幕から。夢華さんの息子だと言われて納得の若々しさは良いんだけど、、、残念ながら、社会人にも、(大湖)せしるのお兄さんにも見えなかった……(T T)いや、良いんですけどねそんなことは。若々しく誠実な美青年で、かなりツボでした。
彼はこの後どんな道を歩むんでしょうね。なんとなく、芝居の中から将来像が見えてこなかったのは残念かも。
■入院患者のウーゴ&ベルナルドの透真かずき&久城あす
いわゆる「若手スターのオイシイ役」だったと思いますが、それをちゃんとおいしくいただいていたのが印象的でした。久城くんも透真さんも実力のある人たちだから、彼らの場面はレベルが高くてとても良かったと思います。がんばれ!
■アイドルのニーナ役の天舞音さら、そのマネージャー役の詩風翠
2幕冒頭のチャリティコンサートに参加するホンモノのアイドルで、コンサート終了後、暴漢に襲われて入院……ということになっているけど実は、というキャラ。
衣装のせいか、スカイふぇありーずで活躍していた頃より少しぷくぷくしたように見えましたが、確かにアイドルっぽい可愛さがあるので嵌り役だと思いました。
入院に至るエピソードはとってつけたようであまりピンときませんでしたが、芝居も歌も良かったです。
詩風さんは、1幕でも妊婦役のアルバイトで笑いを取っていましたが、このマネージャー役でも相当にどっかんどっかん笑いがきていて、さすがだなあと思いました。間が良いんですよね。巧いなあ……。
■モニカと一緒に赴任してきたナース・サンドラの桃花ひな、
可愛かった!!先日卒業したばかりの白華れみちゃんとか、花組の梅咲衣舞ちゃんとかによく似た美貌だと思うんですが、こんなに目立つ位置で使われるのは珍しいですよね(感涙)。可愛いだけじゃなくて、お芝居も達者なんだなあ。あんりちゃんとの並びも似合ってたし、すごく良かったです。本公演でも何か役がつくといいなあ(*^ ^*)。
■天使役の舞園るり&妃華ゆきの
ラスト前(プログラムでいう「32場 無影燈B」の場面)に出すことが決まっていたのならば、1幕の終わり近くなんていう中途半端なタイミングで出さないで、もっと最初の頃からちらほら出しておけばよかったのに……と思いました。
まあ、1幕の前半はナースたちの出番も多いから、るりちゃんも妃華さんも忙しいんですけどね(^ ^;ゞ
ご本人たちには何の罪もないし、役割としてもわからないでもないし、とにかく可愛かったのでまあいいか、とも思うことにしております。
歌って踊れるるりちゃんには、もう少し何か見せ場があったらもっと良かったのになあ……と小さな声で呟きつつ。
なんだかいろいろ書いてしまいましたが、いろいろ考えさせられる、良い作品だったと思います。
チギちゃんの硬質な美しさと芝居、あんりちゃんの可憐な明るさ、ともみんの暑苦しい包容力とせしるのシャープさ。主演陣だけでなく、チェーザレさん夫婦をはじめとする助演陣も見事に宛書きされていて、石田さんが雪組に書くのが久しぶりだという気が全然しませんでした。
石田さんの書く芝居って、やっぱり好きだなあ、と思いつつ。
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主演陣については昨日書かせていただきましたので、あとは印象に残った方々を。
■末期がん患者チェーザレ役の朝風れい、その妻ボーナ役の千風カレン
もう、このお二人はこの作品の主役というか、物語のテーマを支える芯となるのエピソードの主人公なのですが、、、もう、本当に素晴らしかったです!
死の恐怖に怯えるチェーザレさんの芝居が非常に繊細だからこそ、彼を見守るプロフェッショナルの苦悩が鮮明になる。ボーナの弱さがまた絶妙で、「情報開示」の難しさを説明抜きで納得させるものがありました。
癌という病気に対してできることのヴァリエーションも増えた現在では告知するのが当たり前のようになっていますが、確かにこの原作小説が書かれた時代は本人への告知はしないのが当たり前だったようですね。(今回の舞台となっている1980年代のイタリアはどうだったのでしょうか?)
正直、最初にこのお二人が登場したときは、また石田さんのビョーキが出たか…とうんざりしそうになったのですが(汗)。でも、場面が進むにつれて、主人公である「死を見据えた」男の生きざまを描く上で、絶対に必要なエピソードなんだなあ、と思いました。現代医療の抱える課題の焦点となる二人(末期患者とその家族)がリアルに死に怯えながら毎日を生きていたから、彼らのためにしてあげられることをモニカに伝えるフェルナンドの詞の一つ一つに重みが感じられて、彼の恐怖も実感を伴って伝わってきたんですよね。
フェルナンドにも、モニカに抱きしめてほしい一瞬があったんだろうな、とか。
だからこそ、彼がモニカに云う「よくやった、モニカ」という一言の重みが、すごく切なかったです。
「僕は怖い」と歌うロミオではありませんが、「生きる」ことは常に「死の恐怖との戦い」であり、その領分においては、肉体に対する「医療行為」はまったく無力なんですよね。
告知されれば「知りたくなかった」と思い、告知されなければ「嘘を吐かれた」「信じていたのに裏切られた」と思う弱さが「人間」の本質であるのならば、末期患者とその患者に対してしてあげられることは何なのか。「替わってあげる」ことのできない現実を前にして、医療従事者が背負うべき責任とは何なのか。
本当は、「人間」はなべて「現実」と向き合い、戦う力を持っていなければならないし、そういう勇気を持ってるはず……だと思いたいのですが。。。などと、そんなことを考えさせてくれたのは、朝風さん千風さんの芝居がとてもリアルで現実感があったからだと思うのです。ラストシーンでフェルナンドを迎えにきたチェーザレの笑顔と共に。
■フェルナンド(早霧)の恩師、クレメンテの奏乃はると
渋い中にも温かみのある人物像が明確で、素晴らしかったです。
出番は決して多くないんですが、フェルナンドがどういう人物なのかという説明がほとんど無い脚本の中で、彼を評価し、理解し、そして彼の生きざまを肯定しているクレメンテの存在はとても重要なのですが、その仕事をきっちりと重みをもってやり遂げていたと思います。
フェルナンドという男の価値をあげていたのはクレメンテなのだと、そう感じました。
ランベルトではありませんが、フェルナンド、あんまり教授に心配かけるなよ……と思いつつ。
そういえば、フェルナンドがナポリへ流れてきた理由について、クレメンテが「それは……ナポリを見て死ね、と言いますから」という台詞がありますが。この痛々しい台詞は、類似のものが原作にあるんでしょうか。
……石田さん、まさかと思うけど、この台詞を使うためだけに舞台をイタリアにしたんじゃあるまいな?
■院長(夏美)の愛人アニータの夢華あみ、その息子アントーニオの彩凪翔
研3にして初めて持ち味に合った役に巡り合った夢華さんが、とても魅力的でした。うん、こういう役は似合うよね!落ち着きのある大人の女。理性が勝るタイプだから可愛げはないけど、包容力のある優しい女は出来るんだなあ。うん、この方向でぜひお願いします(^ ^)。
彩凪くんは、お芝居幕開きのテロリスト、1幕中盤の死神と目立つところでアルバイトした末に、本役での登場は2幕から。夢華さんの息子だと言われて納得の若々しさは良いんだけど、、、残念ながら、社会人にも、(大湖)せしるのお兄さんにも見えなかった……(T T)いや、良いんですけどねそんなことは。若々しく誠実な美青年で、かなりツボでした。
彼はこの後どんな道を歩むんでしょうね。なんとなく、芝居の中から将来像が見えてこなかったのは残念かも。
■入院患者のウーゴ&ベルナルドの透真かずき&久城あす
いわゆる「若手スターのオイシイ役」だったと思いますが、それをちゃんとおいしくいただいていたのが印象的でした。久城くんも透真さんも実力のある人たちだから、彼らの場面はレベルが高くてとても良かったと思います。がんばれ!
■アイドルのニーナ役の天舞音さら、そのマネージャー役の詩風翠
2幕冒頭のチャリティコンサートに参加するホンモノのアイドルで、コンサート終了後、暴漢に襲われて入院……ということになっているけど実は、というキャラ。
衣装のせいか、スカイふぇありーずで活躍していた頃より少しぷくぷくしたように見えましたが、確かにアイドルっぽい可愛さがあるので嵌り役だと思いました。
入院に至るエピソードはとってつけたようであまりピンときませんでしたが、芝居も歌も良かったです。
詩風さんは、1幕でも妊婦役のアルバイトで笑いを取っていましたが、このマネージャー役でも相当にどっかんどっかん笑いがきていて、さすがだなあと思いました。間が良いんですよね。巧いなあ……。
■モニカと一緒に赴任してきたナース・サンドラの桃花ひな、
可愛かった!!先日卒業したばかりの白華れみちゃんとか、花組の梅咲衣舞ちゃんとかによく似た美貌だと思うんですが、こんなに目立つ位置で使われるのは珍しいですよね(感涙)。可愛いだけじゃなくて、お芝居も達者なんだなあ。あんりちゃんとの並びも似合ってたし、すごく良かったです。本公演でも何か役がつくといいなあ(*^ ^*)。
■天使役の舞園るり&妃華ゆきの
ラスト前(プログラムでいう「32場 無影燈B」の場面)に出すことが決まっていたのならば、1幕の終わり近くなんていう中途半端なタイミングで出さないで、もっと最初の頃からちらほら出しておけばよかったのに……と思いました。
まあ、1幕の前半はナースたちの出番も多いから、るりちゃんも妃華さんも忙しいんですけどね(^ ^;ゞ
ご本人たちには何の罪もないし、役割としてもわからないでもないし、とにかく可愛かったのでまあいいか、とも思うことにしております。
歌って踊れるるりちゃんには、もう少し何か見せ場があったらもっと良かったのになあ……と小さな声で呟きつつ。
なんだかいろいろ書いてしまいましたが、いろいろ考えさせられる、良い作品だったと思います。
チギちゃんの硬質な美しさと芝居、あんりちゃんの可憐な明るさ、ともみんの暑苦しい包容力とせしるのシャープさ。主演陣だけでなく、チェーザレさん夫婦をはじめとする助演陣も見事に宛書きされていて、石田さんが雪組に書くのが久しぶりだという気が全然しませんでした。
石田さんの書く芝居って、やっぱり好きだなあ、と思いつつ。
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コメント
コメントありがとうございます!
>石田先生はともするといやらしい場面が入るのが苦手で毛嫌いしていましたが
そういえば、ナース服も普通だったし、下品な場面がなくてよかったですね(^^)。原作があるから控えたのかもしれませんが、やればできるんだから、これからはオリジナルもそうあってほしいものです。
>ニワさんが味わいあって良かった。
良かったですよねー(はぁと)
>翔ちゃんは中途半端でしたね。
役として描かれ方が中途半端かな、という気がしましたね。アルバイトの方が印象に残る感じで。せっかく良い役なのに、ちょっと勿体無い気がしました。別れの場面とか、良かったんですけどね。