赤坂ACTシアターにて、ミュージカル「サンセット大通り」を観劇いたしました。


私がこの作品を最初に知ったのは、CDの「The Very Best of Andrew Lloyd=Webber」……だと思います。
このCDに収録されていたタイトル曲「Sunset Blvd.」をはじめとする3曲(他2曲は「With One Look」「As If We Neber Say Good-bye」)が本当に大好きで、即行でロンドンオリジナルキャストのCDも買ったくらい、私の中で「Jekyl&Hyde」なみの大ブームになった作品でした。
その昔、仕事がらみでカリフォルニアに行ったときも、サンセット大通りをふらふら歩くだけで幸せで(^ ^)。タイトル曲を口ずさみながら、「ああ~、私は今サンセット大通りにいるんだ!!」と叫びたい気持ちでいっぱいでした。

でも、残念ながら私がNYに行ったときは上演していなくて、舞台を観ることはできず(涙)。
原作の映画は、むかーし夜中にTVで流れたときに視たのですが、舞台は結局、今回のホリプロ公演が初見となりました。



上演が決まる前は、ノーマもジョーもベティも希望のキャストがあったのですが……(この日記にも何度か書いたかも)、
まあ、いまさらそんなことを言っても仕方がないので、まずは観劇しての感想を。





オープニングシーンは、ハリウッドのサンセット大通りにある邸宅の大捜索。
銃声があった、という通報で駆け付けた警官たちが、プールに浮かぶ若い青年の死体を発見する。

オリジナル演出でのこの場面は、セットの豪華さで有名でした。一部のミュージカルファンの間では、「Sunset Blvd.」が日本で上演されないのは、あのセット(屋上のプールがセリ上がると、豪華絢爛な邸宅があらわれる……というものらしい)が可能な劇場が無いからだ、と、まことしやかに語られていたくらいです。

でも、上演が決まった劇場は、そもそもセリのない赤坂ACT。いったいどうするんだろう?と思っていたら、なんと!虚仮おどしの演出はいっさいなかった!


演出は、自転車キンクリートの鈴木裕美。
「愛と青春の宝塚」「宝塚BOYS」「ザ・ミュージック・マン」……こうして並べてみると、セットや動きはシンプルに徹して、「役者」を、あるいは「役者の芝居」を見せる演出をする人だったなー、という印象があります。

「サンセット大通り」という、そもそも異様な世界観を扱った非日常の物語を綴るのに、なぜ彼女だったんだろう……?と思っていたのですが。

役の人物の心情を大切にした、シンプルな演出の力によって、物語としては映画よりもずっと共感できたような気がします。
たとえ、日本のどこかで年に一回くらいは起こっていそうな、ありきたりな“年の差カップルの恋愛のもつれ”というメロドラマが、あの名曲の数々によるドラマティックな盛り上がりについていけなかったとしても。


音楽と芝居を重視し、セットや衣装を簡素化することによって物語の共感性(=身近さ)を強める。それは一つの戦略だと思います。その代償として、元々持っていたはずの異常性・非日常性・別世界感を喪ったとしても、間口の狭いカルト作品を普遍性のある共感性の高い作品に仕上げて観客のすそ野を広げた、という言い方は出来ると思う。

そして、そういう世界観を成立させるために、安蘭けいという役者をノーマ役に抜擢したのは、誰かの炯眼だったのだと思いました。彼女の、芯の弱さを外殻の鎧で覆うことで護っているかのような独特の個性は、心弱い繊細なノーマに、想像以上に似合っていたのではないかと思います。



サイレント映画の大女優ノーマ・デズモンド。
映画のグロリア・スワンソンは、まあ、今にして思えば61歳にしては若かったかも、と思いますが、それでも、普通ならこの人は恋愛対象外だよね、という印象でした。
でも、トウコさんが演じるノーマは、普通に恋愛の対象としてアリだなあ、と思ったんですよね。もちろん、実年齢がノーマを演じるには若いというのもあるけど、もともとトウコさんって、あまり「別世界感」がない役者だと思うんです。地に足がついた……というのともちょっと違うんですが。なんというか、、、最後まで鎧を完全には外さない感じ、とでもいうのでしょうか(←伝わらない)

音域面はだいぶ苦戦していましたが、歌の表現力そのものはさすがでしたし、まだまだ若く美しく、現役復帰を望んでも、若い青年と本気の恋に陥ちても、それなりに納得できる程度のエキセントリックさと、魅力的なスターっぷり。
観る側に先入観(というか希望の配役)さえなければ、十分に満足できるノーマだったんじゃないかな、と思います。

原作のテーマであったはずの、「異様な世界」を覗き見る愉しさのようなものを、求めさえしなければ。


ところで。
誰もが名前(顔も)を知っている往年の大女優、というと、日本でいえば吉永小百合さんみたいなイメージで想像しておけば良いのでしょうか。……ちょっと違うのかなあ?





ノーマの邸にあるプールから、若い男の死体が見つかる。
彼の正体は、シナリオライターのジョー・ギリス(田代万里生)。彼は起き上がり、自分自身の死につながる道を語り始める……。

数ヶ月前。仕事がなくて貧窮のどん底にあった彼は、取り立て屋に追われているうちにサンセット大通りでエンストしてしまう。
焦ったジョーは、眼の前に顕れた、さびれた大邸宅のガレージに車を隠した。
そんな彼の耳に、命令口調の女性の声が届く。
「遅かったじゃないの!今すぐ入りなさい!」

おそるおそる扉をくぐった彼の眼に映ったのは、古臭いけれども豪華絢爛な内装と、猿の死体。
可愛がっていたペットの棺桶を持ってきた葬儀屋と勘違いされたことを知って、自分が命を賭ける羽目になった$300を猿のために使う女がいることに心底驚く。

職業を訊かれて「映画のシナリオライター」と答えた彼に、ノーマは自分で書いた「サロメ」のシナリオを共同執筆しないかと持ちかける。金銭感覚のない往年のスターから週$300という約束を取り付けたジョーは、女王の邸に留まることを肯い、彼女の夢に付き合うことになる……。


私が田代くんを最初に観たのは「マルグリット」初演。その後はちょっと間があいて、一年前の「スリル・ミー」、年始の「ボニー&クライド」くらいでしょうか、私が観ているのは(他にもあるかも?)。
見るからに生真面目な優等生としか思えない彼なのに、どうしてこういうワルっぽい役ばっかりくるのかなあ?と不思議に思っていたのですが、鈴木さん演出のジョーは、ちゃらんぽらんでいい加減な、根っからの“ワル”ではなく、偽悪主義の元優等生だったのが新鮮でした。
そっか、ジョーってこういう役なんだ……!!と思ったんですよね。ワルぶっても根は真面目な優等生だから、年上の女に惹かれるとなれば本気で惚れてしまう、という展開が、とても興味深かったです。1幕ラスト、仲間内でのクリスマスパーティーから急いで帰ってきて、手首を切ったノーマを抱きしめる場面の真摯な愛情。この作品で、そんなこと(本気の恋)がありうるのか!?という驚きと、ああ、トウコさんと田代くんならこういう展開もありなんだなあ、という納得。脚本と演出と役者って、面白い関係だなあと思いました。

単純な恋物語にならなかったのは、田代くんのジョーが、自分が恋に落ちていることを認めていなかったから。
内面は真面目な優等生、外面は突っ張ったワル……その「ワル」の部分が、そんな恋を認めない。それは嘘だと。ただ金のために老女に囲われている「もう一人の自分」を嫌悪する。その奥に恋があることには目をつぶって。
田代くんの演技力というよりは、たまたま……いや、そういうジョーを描くための彼の起用だったのかも、という気がしました。





そんなジョーの心の迷いに巻き込まれる若い女流ライター・ベティは、彩吹真央。
お芝居も歌もとても良かったけど、残念ながらノーマとの対比が弱すぎて、恋のライバルとしては成立しなかったな、と思いました。
率直にいって、トウコさんのノーマとゆみこさんのベティーでは、キャラが似すぎているんですよね(T T)。年齢的にも、声質も、役者としての持ち味も。勿論、宝塚の男役スターとしては全く違う個性だったと思いますが、外部に出たら「宝塚の元男役スター」というくくりに入ってしまうわけで、どうしたって似て見えるんですよね……。
ゆみこさんのベティーは、単独ではすごく良かったと思うので、とても残念な気がしました。





ノーマの執事・マックスは、鈴木綜馬さん。
いやもう、期待値はMAXにあげていたんですが、そんな予想さえ軽々と越えた見事さでした。
似合いすぎ、素敵すぎ、巧過ぎ、、、とにかく素敵すぎました!!声が素敵で存在感があって。彼の存在が、彼という存在の異常性が、今回演出的にあまり表に出せない「別世界」感を与える唯一の根拠になっていたと思います。いやー、2幕後半で自分の正体を明かす場面とか、ラストシーンの持って生き方とか、、、責任重大な役ですが、本当に素晴らしかったです!!




物語としてはほぼこの4人で9割が進行する作品ですが、いちおう役として名前が出ている3人について少しだけ。

デミル監督の浜畑賢吉さん。
「サロメ」の脚本を完成させたノーマが、意気揚々と撮影スタジオにデミル監督を訪ねていく。
あやうく若い門番に止められそうになったりしながらも、なんとかスタジオについた彼女に、若いスタッフが声をかける。「……もしかして、ノーマ・デズモンドさん!?」

名曲「As If We Never Say Good-bye」が流れる中で、撮影が進められていく「サムソンとデリラ」。
ノーマの喜びと葛藤、「やっぱりここが私の居場所なんだわ!」という、傍迷惑な確信。
そのすべてを理解して受け容れながら、彼女を傷つけないようにそっと真綿に包んでマックスに渡すデミル監督の優しさと、「伝説の人みたいですね!」と能天気にいうスタッフに、「私も伝説かね」と静かに問いかける、冷やかな声。
浜畑さんって本当に素敵………(しみじみ)



ジョーの脚本を却下し、ノーマの車を撮影で使わせてほしいと邸に電話をしてくるプロデューサー・シェルドレイクの戸井勝海。
こういうピンポイントで存在感を出す役が出来るようになってきたなあ、と感慨深いです。
嫌味な感じがすごく良かった。なんだかんだ言っても、やっぱり巧いんだなこの人は。



ジョーの友人でベティの婚約者・アーティの矢崎広。
これも出番は少ないけど、印象的でした。2幕でもう一回出てくると思ったのに、出てこなかったからがっかりしたよ……。でも、1幕のパーティーでのベティーとのやり取りとか、最後まで観てあらためて考えると結構細かい芝居をしていたんだなーと思います。
あああ、もう一回観たかったなあ……どーして宙組と丸かぶりするんだよ~!よりによって、この作品が(泣)。



アンサンブルにもそれなりに台詞もソロもあって、良かったと思います。出番は多くないけど。
宝塚OGも何人か出演されていて、みんなそれぞれに存在感があって、嬉しかったです。
あと、個人的に宮奈穂子ちゃんが可愛くて好きなので、久しぶりに観れて嬉しかったです(^ ^)。



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