東京宝塚劇場にて、雪組公演「ドン・カルロス/シャイニングリズム!」を観劇いたしました。

あまり事前に情報を入れないようにして観劇したのですが、お芝居は予想していたよりずっと良作でしたし、ショーは曇りなく中村一徳節全開のショー(^ ^)で、どちらもなかなか面白かったです!!



まずは、お芝居の「ドン・カルロス」。
作・演出は木村信司。まあ、あの、私が木村作品と相性があまりよくないのは今まであれこれ書いているとおりですが。
でも、そういえば私、「君を愛してる」は割と好きだったんですよね。雪組+木村さんの組み合わせは好きなのかも?(フィラントのキムちゃん、大好きだったなぁ~!)

オペラとは吃驚仰天なほど話が違いますが、まあ、、、先入観なくみれば、こういう展開もアリかな、と。
カルロス王子とフェリペ二世の父子関係、王妃イサベルの寂しさと葛藤、すべてを見守る王妹フアナの威厳、、、興味深い題材を、いじりすぎず、かなりの程度で役者に任せて、素直に舞台にのせていたような気がします。(史実とも全然違いますが以下同文)



一番印象に残ったのは、今回で卒業する涼花リサちゃんが演じた、王妹フアナ。
フェリペ2世(未涼)の妹にしてポルトガル前王妃。夫の死後、王子を遺してスペインへ戻り、留守がちな兄の摂政を務めた女傑。そんな史実のイメージに近い、視野が広く感性鋭く謹厳実直な、姿も心も凛として美しい人
要所要所で発する彼女の「声」が、とても心に刺さりました。
昔から……伝説の「殉情」や「さすらいの果て」以来、ずっと大好きな女優が卒業してしまうのはとても寂しいのですが、最後に大輪の花を見事に咲かせてくれてありがとう(T T)という気持ちの方が強いかな。

広い領土を見回るために不在がちの兄フェリペの代理として、生まれてすぐに母を亡くした王子カルロスの母代りとして、若くして嫁いできた王妃イザベルの教育係として、、、王女として国に尽くし、王妹としての責任を果たそうとした貴婦人。
彼女が育てたカルロスやイザベルが、理解しがたいほど真っ直ぐで生真面目でお堅くて、国民の幸せを真剣に考える人間に育ったのは、フアナ自身がそういう人間だからなのだ……と。机上の空論ではない、説得力のある生真面目さがフアナの凛とした佇まいから漂ってくるから、彼女が育てた子供たちも自然とそう考えるようになったんだろうな、と……そういう納得の仕方があるんだな、と思いました。

最後の大役で、あえて歌わせなかったことも含めて、木村さんのリサちゃんに対する愛情は本物だな、と思いました。一人のファンとして、本当に感謝しています。



そしてもう一人、忘れられない人。フェリペ二世のまっつ。
凛として強く、誰よりも「正しい」フアナに対して、人を……息子を信じきれない卑屈で孤独な王者。
王は自分が「正しくない」ことを知っているんですよね。彼にとっては、フアナやカルロスの真っ直ぐさは眩しすぎて直視できないもの。……「他人」を信じて心を開ける妹や息子を羨ましいく思う気持ちに気づくことさえゆるされない「絶対君主」という立場。
抑圧された羨望の念が「国王」という立場ゆえに歪み、曲がって……その末に「疑心暗鬼」という鬼に食われてしまいそうになる。自分の心が産み育てた鬼、に。

カルロスの父である彼は、本来はものすごく愛情深い人だと思うんですよね。最初の王妃を喪った痛手から、何年も過ぎても完全に立ち直れないくらい、「思いこんだら一直線」な人なんだと(カルロスの一途さは遺伝に違いない!)
そんな彼が、息子と現王妃イザベルとの仲を疑う場面の演出がとても好きです。木村さんって、こういうケレン味のある演出が素晴らしい。そこは素直に称賛したいです。心から。

で。そんな疑いを持つということは、少なからず王妃に興味が……愛情を持っている、ということなんだけど。隔離されて育ち、人の感情(愛情)に疎いフェリペは、自分の気持ちに名前がつけられない。苛立ちがばかりが募って、どうしたらいいのかわからない。そんな兄を、妹が歯がゆく、でも口は出さずに遠くから見守っている……その図がとても好きでした。

何もできずにただ見守るしかない立場、ってのも辛いんですよね、きっと。
イサベルの教育係であるフアナがもう少し動いてあげていれば、話があんなによれなくて済んだのでは?とも思うんですが、、、フアナはスペインの摂政であると同時に、ポルトガル次期国王の母親でもある。しがらみは当然あるんですよね、おそらく。フェリペもそれは判っていて、妹に甘えつつ、プライドの高さが邪魔をしてそれを認められない。フアナは兄の立場を理解して、一歩下がって国を支えつつ不器用な二人を見守る。
そんな兄妹をみていると、王子カルロスは一直線すぎて、まだまだ子供なんだな、と思います。

……そんな裏設定(?)のどこまでが木村さんの意図なのかはよくわかりませんが。



王子カルロスは、私の中ではキムちゃんの当たり役認定なんですが、ファンの皆様にとってはどうなのでしょうか?

お芝居冒頭の銀橋で「すべてを与えられた人、そう育てられてきた…」という歌を歌っているのが、ひどく胸に沁みました。
印象的な歌だったのでプログラムに歌詞が書いてあるかなと思ったのですが、なくて残念。でも、「僕自身だけが空っぽな僕を知っている」みたいなところに続いてましたよね。
……この歌とか、お芝居のラストの解決策とか、、、もしかしてキムちゃん、この作品で卒業する予定だったの? 早すぎる卒業と思っていたけど、むしろ一作伸びたのではないか!?……と思ってしまったほど、「クラシコ・イタリアーノ」並みに卒業作品的な構造の作品だという気がしてしました。

いや、「フットルース」があるんだから、そんなことあり得ないと思うんですけどね。

とにかく、キムちゃんが本来持っている熱量がしっかりと生きた役で、アテガキとしては成功だったと思います。表面的な明るさや正義感(責任感)と、その裏にほのみえる孤独な少年時代。フィラントみたいな吹っ飛んだ役も好きだけど、2面性のあるこういう役も良いなあ、と思いました。

ただ、、、衣装は残念だった……(←ごめんなさい)。色は綺麗だったんだけど、形が……有村さんかー、もうちょっとどうにかならなかったのかなあ(; ;)。

スタッフ陣ではもう一人、印象的だったのが装置の大田創さん。
形自体はシンプルなスペイン風セットで木村さんらしいデフォルメのし方なんですが……、今回面白いなと思ったのは光の扱いです。
セット自体が光と影に染め分けられていて、照明と相俟って、スペインの強い陽射しを感じさせてくれました。

一つのセットで長い時間の経過を表現する場面がないからこそ使えた装置ですが、木村さんらしいハッタリのある舞台面を造るのに非常に効果的だったと思います。


大枠で書きたかったのはそのくらいかな。
宗教改革の扱いについては色々言いたいことがありますし、ましてネーデルランド問題については、、私が語りだすとウザいと思うので、、、ネタばれしてもいけないし、ここは「木村さんだから仕方ない!」という一言で終わらせたいと思います(^ ^)。



【7月1日まで、あと58日】

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