花組東宝劇場公演「復活/カノン」。


「復活」

なんとなく、ちゃんと書いていないような気がするので、(この千秋楽が明日に迫った今さらですが)あらためて書かせていただきます。

私はこのお芝居、とても好きなんですよね。
石田さんの脚本はいろいろとツッコミどころがあるのですが、そのうちのいくつかは原作でも同じ展開だそうですし(汗)、物語の展開自体はすごく納得できる。

最終的にシモンソンを選ぶカチューシャの心情というのは、先日のトークスペシャルでも鳳真由ちゃんが「なんで!?」と言っていたくらいで、すごくわかりにくいものだと思います。特に、ネフリュードフに肩入れする視線で観ていると、「どうして~~っ!!」と思うんですが、あの場面にいたるまでのカチューシャの態度……ファナーリンとの会話や、シベリア出発前のやりとりなどで、彼女の気持ちがすごくよく伝わってくるので、「もう仕方ないよね……」と思ってしまうんですよね。
カチューシャの気持ちが恋から愛に変わったことが鮮明に提示されたら、もう、納得するしかない。



石田さんが神だなあ、と思うのは、蘭トムさん演じるネフリュードフを「嘘のつけない男」と設定したところ。
そりゃそうだ!蘭トムさんは、嘘は吐けない役者なんだもの!!

実は、今回の花組公演が石田さん、ときいて、最初に思ったのは「蘭トムさん、役の上でも嘘を吐いてるの観たこと無いけど、石田作品大丈夫?」ってことだったんですよね。何度か書いていると思いますが、私は、石田作品の特徴は「嘘吐きな人間を描きたがるところ」だと思っているので。
いやはや、蘭トムさんだからああいう男になったのか、石田さんのイメージするネフリュードフがああいう男だから蘭トムさんの花組で上演することになったのか、、、どちらなんでしょうね。

でも、この作品を観て、「おお!」と思ったのは……
谷崎の「春琴抄」を原作にした舞台「殉情」に似てる!(@ @)ということでした。

主人公がヒロインのために全てを捨てて尽くすことに満足してしまうところも似ているし、ヒロインが主人公の献身に苦しんで、余計に辛く当たる展開も似てる。日本とロシア、地理的にも環境も遠く離れた土地で、わりと似たような時期に書かれた作品ですが、意外な共通点があるものなんだな、と思いました。……いや、ラストは「復活」と「殉情」、真逆ですけどね(^ ^)。

そっか、石田さんには、主人公が嘘つきという作品ばかりじゃなく、主人公は嘘が吐けなくて、ヒロインや二番手が嘘をつきまくる作品というジャンルがあるんですね。納得。
「殉情」には無駄な説明役がいましたが、今回「復活」は正面から説明役なしでこの難解な物語に取り組んでいて、とても良かったと思います。いつもそうしようよ!!>石田さん

ちなみに、全国ツアーで上演される「長い春の果てに」も、ヒロインが最初から最後まで嘘を吐いている話、、、なんですよね。
……蘭ちゃん、愛されてるなあ(^ ^)。



蘭寿さんのネフリュードフがカチューシャに金を渡すのは、「これっきり」の手切れ金……とは思ってなさそうですよね。彼は本気でカチューシャが可愛いと思っているし、次にこの別荘に立ち寄ったときには相手をしてもらいたいと思っている。というか、またすぐ来るつもりだった……みたいな感じ。
でも、士官学校を卒業して軍籍に入った彼は、なかなか休暇も取れず、次第に可愛いメイドのことを忘れていった……元々、結婚とかそういうのは考えていなかっただろうし。
そうして8年という時が流れて。彼は身分の釣り合う美しい女性を紹介され、婚約する。

彼がミッシィを愛していない、というのは、この物語を「愛の物語」にする上でキーになっていると思うのですが。
彼はミッシィを愛していないし、ミッシィも彼を愛していた訳ではない。ただ、ハンサムなイケメン士官を紹介されて有頂天になって、「憧れの人」と結婚できる喜びに溢れている……本公演はそんな感じでした。
新人公演のべーちゃん(桜咲彩花)は、もう少し本気でネフリュードフに恋をしている印象が強かったかな。それも、単なる憧れではなくて、ある程度ちゃんと彼を理解して、その弱さも知った上で愛している、、、という印象。

そう。
ちょっと話は飛ぶのですが、先日「ジキル&ハイド」の笹本エマを観て、べーちゃんのミッシィを思い出しました。
笹本エマなら、ジキルの中に潜むハイドの存在を知っても愛し続けただろうに……という無念感と共に、べーちゃんのミッシィは、ぜひモスクワに戻ってくるネフリュードフを迎えに行ってあげてほしい、と、改めて思ったのでした……。

閑話休題。

話を戻しますが、ネフリュードフがミッシィを愛していないのは、彼が不誠実だからじゃないんですよね。彼はいつでも真剣で、その真剣さは一度に一つの方向にしか向かいようがない。
最初の婚約披露の場面時点では、彼の興味はまだ「女」あるいは「伴侶」には向いていない。
いや、正直な言い方をすれば、彼の興味は最後まで「伴侶」には向かなかったな、と。

「弟は農民を救いたいんじゃないのよ。彼自身の魂を救いたいの」

さあやのやわらかな声が残酷に真実をえぐる。
善行を施して、それで満足することは子供でもできる。農民に土地を与えるだけでは駄目なんです。農法をちゃんと教え、さまざまな薬剤や装備を与えなくては、ロシアの大地で十分な作物を得ることは難しい。小作人というのは、要は労働者ですから、耕す以外のことはできない。まして、ロシアの農業はこの頃にはかなり大規模化していたはずですから、隣近所と協力してさまざまな作業をしなくては、いままでのような収穫は望めない。分け与えられた小さな土地をせこせこ耕しても、面積比で収穫量は減るばかり。ならば、誰がどうやって音頭をとって作業をするのか?そういったことも、最初は指導が必要でしょう。
施しではなく、どうすれば彼らが望む人生を送れるのか。それは難しい課題ですけれども、たぶんネフリュードフは、これからもそれを悩んで生きて行くのでしょう。

そして、
施しではなく、どうすればカチューシャを幸せにしてあげられるのか。

それにはまず、ネフリュードフが幸せにならなくてはならない………
それが、最後には彼にも理解できたんだろう、と思えるラストシーンが、とても好きです。



話を混ぜっかえすのは、シェンボック。
新人公演のときも書きましたが、私は、このシェンボックの設定というか、この役を壮ちゃんに振ったことが、この作品の成功の最大の要因だと思っています。
出てくるだけでぱぁっと光が射すような明るさと、因習に縛られない軽やかさ、なのに、貴族のお坊ちゃんとは違う、地に足のついたリアルな知識に裏打ちされた人生哲学。ネフリュードフにとっての「心の中の神」であり、背中を叩いてくれる「パワーの源」でもあるシェンボック。
彼の台詞に「嘘」は一言もないんですが、不思議と「嘘を吐いてもおかしくないぞ」と思わせるちゃらんぽらんさがとても好きです。花組に来てからの壮ちゃんは本当にヒット続きですが、このシェンボック役も、素晴らしいヒットだったと思います(^ ^)。



シモンソンのみわっち。
いやはや。この役がこんなに似合ってしまうみわっち。
素敵だ………(うっとり)。

今回のシモンソンで、一番好きな台詞は「ただのビラ撒き男ですよ」だったりします(^ ^)。
いや、もちろん、カチューシャを挟んでのネフリュードフとの会話も緊迫感があってすごく好きなんですけど、“台詞”という意味では。なんていうか、含みのある笑い方が素敵。
シモンソン、良い役ですよねえ、本当に!!ものすごく説得力があったし、ホントに素敵でした。

最後、銀橋を下手から花束をもって渡ってくるネフリュードフと、カチューシャの隣で頭に柊の冠をかぶったシモンソンが、銀橋と本舞台にわかれてハモる場面がすごく好きです。神父さま(扇)の低い声と、カチューシャのちょっと舌足らずな「はい、誓います」が歌の合間に入るところが好き。本当に大好き。
全然関係ないけど、あの場面の神父さまを観るたびに、「全ての元凶はお前だろうに……!!」と思ってしまいます(^ ^)(←最初の事件の主犯カルチンキンと神父の二役なので)



ファナーリンのみつる(華形)。
いやはや。これも前に書きましたが、「愛想尽かししたのか!?」は私の最初の泣きポイントなので。
ここで泣くとあとは大変。ここがスルーできれば、割と最後まで大丈夫。(それでも駄目な時もありますけどね!)

ファナーリンは、元々国撰弁護人だったはずですよね?カチューシャが弁護人を雇えるはずがないんだから。
それでも彼は、カチューシャに深く同情し、また、ネフリュードフにたいする共感もあって、全面的に協力する。
愛想尽かしの場面のラスト、ライトが落ちるまでの無言の芝居がすごく好きです。あと、恩赦の赦免状をセレーニンから受け取るときの、花道に登場してから赦免状を受け取るまで、そして、銀橋を渡りながら途中でしみじみと幸せそうに立ち止まり、セレーニンに慰められているところも含めて、とにかく好きです。本当に、今回のお芝居はファナーリンの一挙手一投足から目が離せません。
……ペテルブルグのパーティへの乱入の仕方が、回を重ねるごとに派手になってきているのはいいのかな…?と思いつつ。



セレーニン検事のまぁくん(朝夏)。
まぁくんって背が高いんだなー、と改めて思いました。
壮ちゃんより一回り大きいんだ!!とびっくり(@ @)。これなら、宙に来ても大丈夫かも(^ ^)。

大劇場ではちょっと微妙な感じで、セレーニンさん何を怒っているの?みたいな感じだったのですが、東宝にきてだいぶ印象が変りました。とくに後半、3月に入ってからは見違えるほど良くなったと思います。
なんといっても、蘭トムさんや壮ちゃんと同期に見えるようになった!のが大きいですね。大劇場の頃はそういう風格が全然なくて、「同期って……当時は苛められっ子で3人のパシリだったとか、そんな感じ?」とか失礼なことを考えていたんですが、もうそんな感じは全然ないです。
ちゃんと仲が良くて、いろいろ語りあった仲……というのがよくわかる。
まあ、あまり打ち解けないタイプだったのかな?という印象はまだ残っていますが、それはそれで、堅苦しい男だという設定は間違っていないと思うので良いんですよ。とにかく、ああいう役は遠慮をしたらおしまいだし、いいパワーバランスになってきたなと思います。

実際、今まであまり観たことなかったけど、上から目線なキャラクターって実はまぁくんによく似合うんだな、と。人材豊富な宙組に異動するうえで、抽斗は多いに越したことないと思うので、ぜひモノにしていただきたいと思います♪



ミハイロフのだいもん(望海)。
冒頭の「ともしび」を歌う柔らかな深い声とか、随所で見せるワーニコフ(悠真)への忠誠心など、非常に生真面目な軍人らしさがあって、とても良かったです。
ネフリュードフ邸のサロンで、上官とその友人の貴族たちの会話に割って入るところとかも、ちょっと遠慮がちに入るところが可愛くて、、、新人公演のミハイロフくんがすごく空気読めない感じで、むしろ会話の邪魔をしていたので、あらためて本役はさすがだなあと思いました。上官に可愛がられるのもわかるわー(^ ^)。



他にも魅力的なキャラクターはたくさんいるのですが、とりあえずメインはこんなところかな?
女役・娘役の大役も多い作品で、そっちも是非語りたいけど……止まらないから今日のところはここまでに。


大好きなこのお芝居も、あと一日。
心して見送りたいと思います。


明日は晴れますように。



【7月1日まで、あと106日】

コメント

nophoto
カナリヤ
2012年3月18日15:38

みつきねこさん、今日の花組さんはいかがでしたか?
先日一回だけですが観てきました。配役が適材適所でしたね。
まっすぐなトムさんに柔軟な壮さん、慈愛漂うみわっち、邪魔をしないけれどきっちりと自分を押し出しているみつる君など。蘭はなちゃんは熱演でした。ネフリュードフを思う心が切なくて、カチューシャの台詞で泣けてきました。みりおんちゃんは全然下手じゃないのに何故か私の中では印象に残らない人です。

みつきねこ
2012年3月19日1:31

カナリヤさま、コメントありがとうございます(^_^)。

「復活」は配役ぴったりでしたよね!!
蘭寿さんも蘭ちゃんも壮さんもみわっちもみつるくんも嵌り役で、良い作品でした(^O^)


今日はすごい盛り上がりでしたよ!
私はいろんな意味で泣きまくりでしたが(^_^;)

詳しくはまたゆっくり書きますね♪

これからもよろしくお願いいたします。

nophoto
hanihani
2012年3月19日16:09

私も今回のまーくんの成長になんか胸が熱くなりました。
素敵だよ、まーくん☆
ほんと大劇ではさすがに二人は同級生だけど、落第しまくって
何年も学校にいるまりんさんと、飛び級で入学したのはいいけど三人の
パシリでいつもジャム買いにいかされてるまーくん・・・みたいな雰囲気だったですよね。

宙組でしっかり頑張ってほしいです、で、蘭寿さんはまーくんのことを
下級生たちにご紹介お願いしますね(って、ここで頼んでもだけど)
いつも身体も雰囲気も薄くて、早くに抜擢されて歌もダンスもそこそここなしていて
しっかり2枚目なんだけどなんとなく階段を上ってないというか踊り場滞在中な時間が長く感じましたが、この公演で階段を一気に上って上のフロアにたどりついたイメージがしてます。
ダンスも手足もてあまし気味だったのが、すごいキレがよくて蘭寿さんとのデュエットも素敵でした。もしかして二人で踊った成果なのかな?

それと、真由ちゃんがしっかりしてきたと思います。

だいもんも今回は渋いところもあり、なによりあの声をいかして素敵だったし。
そして空気よみまくりでよい部下でしたね、私も本役さんのウマさを実感しました。新公はそれぞれ良かったですが、ミハイロフだけは「あらら、この人はちゃんと本役さんのチャーミングなところを掴んでないよ」と心配になりましたし。

あと、蘭ちゃんのこと、好きになりました。
もっと隠れたものがありそうだし、成長が楽しみになってます。

みつきねこ
2012年3月20日6:55

hanihaniさま
そうなんですよ!まぁくん、素敵になりましたよね!何をしても「悪いわけじゃないけど印象に残らない」、っていうのはスターとして致命的だと思っていたんですが、なんていうか、やっと乗り越えてくれたんだな、と。
嬉しいです。アルノーもめっちゃ楽しみにしてます。がんばってね!!(ここに書いても)

だいもんも素敵。今回は声の良さをすごく使ってもらってて、羨ましかったです。ブリス、期待してます!

真由ちゃんはキャラが確立されてきましたねー!天使でもあり悪魔でもあり、そして誰より人間らしい、というキャラクターが。この子はどこまで行くんだろう……?と、毎回楽しいです。

蘭ちゃん、良いでしょう?蘭寿さんの芝居は真っ直ぐなので、天然な蘭ちゃんのお芝居が合うのかも。エヴァは楽しみ半分不安半分ですが、同期の分までがんばってほしいなと思います(祈)