宝塚バウホールにて、月組公演「アリスの恋人」を観劇いたしました。



作・演出は小柳菜穂子。
デビューしてしばらくは、あまり具体的な恋愛を描かない人だなあという印象でしたが、「二人の貴公子」「シャングリラ」あたりから急激に恋愛……それも、いわゆる「少女の恋」的なものに焦点をあてた作品づくりをするようになってきましたね。
今回の作品は、ファンタジーからインスピレーションを得た現代もので、なかなか面白い構造をもった物語でした。

構造的な話をするとすごくネタばれになってしまうので今は自重しますが、とりあえず、画像から連想するような子供向けの話ではまっっったくないです(^ ^)。
衣装やセットが華やかだし、可愛い動物キャラ(ウサギ、チェシャ猫、ヤマネ)がいたりするので子供が見ても楽しめるとは思いますが、物語のテーマも展開もかなり複雑で、きちんと理解するのは難しいかもしれないな、と感じました。

……ま、そうはいっても、もちろん文芸作品ではないわけで、漫画とかライトノベルっぽいと言ってしまえばそれまでですけどね(^ ^)。
あくまでも、ルイス・キャロルの「アリス」シリーズに出てくるキャラクターを使った、現代人の「夢」の物語、でした。



この作品を観て連想したのは、ホーガンの「内なる宇宙」とか、佐々木淳子の「赤い壁」や「ダークグリーン」など、いろんなSF系の作品によく出てくる「夢世界」設定でした。
そして、一番似てる!!と思ったのは、坂木司の「引き籠り探偵」シリーズ。これ、どっかで舞台化しないかなーとずーっと思っていたんですが、こんなところに主役がいたよ! ……小柳さん、意外に私と本の趣味が似てる気がするんですが、本棚を見せてくれないかなー(^ ^)。



うーむ、いろいろ書くとネタばれしそうなので、先にキャスト別に簡単に一言。
※いちおう気をつけるつもりですが、結果的にネタばれになってしまっているかもしれません。未見の方はご注意くださいませ。


■ルイス・キャロル(明日海りお)
引き籠りの少年(年齢不詳)
二幕で語られる彼の設定を聞いていると、中学生かな?という気もするんですが、、、まあ、ミドルティーンかハイティーンなりたてか、そのあたりって感じですよね、きっと。

「現実世界」はプロローグとエピローグの2場面しかありませんが、だぶだぶのコートにマフラーを巻いたみりおくんは、中学生にも余裕で見える可愛らしさでした(^ ^)。ただ、仕草は大人のままなので、はっきり少年という感じでもなかったかな。
それはそれで格好良くて素敵なんですけど、上演時間のほとんどを占める「ファンタスマゴリア(夢世界)」での彼は「大人」なので、そのギャップを見せるためには、衣装だけじゃなく仕草や動きで年齢を表現してほしかったなー、と思います。外見的に少年の彼が、内面(精神世界)で大人であること自体が、テーマに深くかかわってくるので。

しっかし、それにしてもカッコ良かった!
以前から書いてますけど、私はみりおくんってすごく男っぽい芝居をする人だと思うんですよね。男っぽいというか、『愛する』側の芝居ができるひと。
自分の方から相手に対して想いをかける役が似合うと思うのです。

そして今回は、そんな個性にさらにひとひねり入って、ツンデレという素晴らしいキャラクターに仕上がってましたけど。一つ間違えれば、ただのクソ小生意気なガキなんですけどねえ……。それを、「耽美」という調味料を使わずにああいう風に料理して、「ツンデレ」という一皿を仕上げた小柳さんは、五つ星のコックさんだなと思いました。



■アリス(愛希れいか)
出版社に勤める、童話担当の編集者の卵。
アシスタントではなく、それなりに担当作家を持っていたみたいだから、入社3年目くらいなのかなあ?(出版社の内実には全く詳しくないので適当に書いてます)
仕事で失敗して、怒られて、カレシに愚痴ったら「うるさい」と振られて……みたいな、主観的な不幸に嵌っているタイミングで悪酔いしたあげく、インナーワールドの境界が弱まってルイス・キャロルの運命に巻き込まれ、ファンタスマゴリアに落ちてしまう。
ルイス・キャロルとは逆に、彼女は外見こそ立派な大人だけれども、内面は潔癖で莫迦正直な少女のままだった。だから、ファンタスマゴリアでの彼女は「少女」になる。幼くはない、大人の一歩手前で立ち止ったままの、ひどく一途でひたむきな、「少女」。

ちゃぴの魅力は、存在自体がファンタジックなところだと思います。
ひらひらした衣装が似合うだけじゃなくて、存在としてファンタジーがあるんです。スカートさばきとか、台詞の声とか、化粧とか……娘役としてまだまだ磨かなくてはならない点はたくさんあるんですけれども、でも、彼女が歩くだけでファンタジーが生まれてくるような気がします。
みりおくんがリアルに「姫を愛する王子」なら、ちゃぴは「王子さまを助けに来る少女」なんだと思う。なんていうのか、ちゃぴを観ていると胸がキューっと痛くなるんですよね。自分の手が届くすべてを「守ってあげたい」と、「守ってあげられる」と信じている、少女。そう、まさに、宮崎アニメのヒロインタイプ(^ ^)。壮ちゃんと組んで「カリオストロの城」とか観てみたい!それか、ラピュタとか。ナウシカもいいなあ(←真剣に考えてるらしい)

いや、もう、ホントに。
理屈は言いません。ちゃぴが可愛くて可愛くて、もう駄目でした。こういうのは本当に理屈じゃない。ただただ、可愛かった!(*^ ^*)。



■ナイトメア(星条海斗)
ファンタスマゴリアの住人……でもないんですよねこの人は。
「白の女王(花瀬みずか)」と対立する存在ですが、いろいろ書くとネタばれになるのでちょっと置いときます。あ、一回しか観ない方は、プロローグのみりおくんとのやりとりをよーく観ておいた方がいいですよ(忠告)(私はあまり観てなくて後悔しました…)。

紫の長髪、蒼白い化粧。表情の作り方や動きに、「ホフマン物語」の悪魔の経験が生きてるなあと思いました。そういえば、この物語は作品全体の枠組みが「ホフマン物語」に似ているところがありますね。みりおくんのホフマン役は当たり役だったから、そういうところからもインスパイアされてる部分もあるのかな、と思ったりしました。
しかし、「悪魔」のままにはしなかったのが小柳さんの手柄ですね。良い役でした。こんなに良い役で、しかも暴走していない「正しいマギー」を久しぶりに観たような気がします。うん、あらゆる意味で、今まで観たマギーの中で一番好きかもしれません。
二幕の、激情を抑えて淡々と演じるところとか、緩急があってすごく良かったです。回を重ねると暴走しやすい人なので、なんとか青年館まで抑えてほしいな、と思います。ちからのある人なので、これをきっかけに「芝居」の面白さに気づいてくれたらなあ……。



■赤の女王(愛風ゆめ)
我侭で無垢な、幼き女王。「その者の首を刎ねよ!」が口癖の、無敵の女王様。
いや、もう、可愛いのなんの!

プログラムの写真は普通に可愛い「女の子」に見えるんですが、舞台の髪型や化粧と何が違うんだろう……?別人みたいに迫力が出て、「少女」とは違う「子供」の危なかっかしい怖さがちゃんと見えた気がして、感心しました。子供特有の、底知れない怖さ。
佐々木淳子の「おばあちゃんの人形」を連想したのは私だけかな……。



■レイブン(萌花ゆりあ)
ナイトメアを「マスター」と呼ぶ生き物。
「ホフマン物語」の影法師(流輝一斗、麗百愛)のようなイメージの役でしたが、ダンサーとしての本領を発揮したまいまいは本当にキレイでした。蒼白い化粧も美しく、存在感があってとても良かったです。



■白の女王(花瀬みずか)、ルーク(光月るう)、ポーン(琴音和葉)
「夢の管理人」と名乗る白の女王と、白の女王がナイトメアを退治するために(?)遣わす部下二人。

るうちゃんは、ちょっと古いけど「Young Bloods!」でひまりんと組んでたときの役みたいな感じ。狂言回しではないんだけど、ある役割を与えられて物語の中に放り込まれた系のキャラクターでした。優しくてかっこよくて、でもちょっとドジ。こういう役はピカ一ですね!
ちびあず(琴音)、きゃぴきゃぴした小さな女の子っぽいキャラ。何かを言うたびに「○○○、でーすっ!」と言うキャラなんですけど、ちょっとウザい感じが良い息抜きになって、とても可愛いです。さすがに達者だなあ……。
あーちゃんは、「薔薇の国の王子」の役どころと似たような役でした。美しいし存在感もあって悪くはないんですけど、正直に言えば、彼女の存在自体の嘘くささが物語全体の弱点になっているので、脚本的にももうひとひねり欲しかったし、あーちゃんの芝居も、もう少し威厳を出すとか、何か出来たんじゃないかなーと思いました。


だいぶ、長くなってきたので、他のメンバーは後日まとめさせていただきますね。



最後に一つだけ。



「夢世界」のテーマである「醒めたら消えてしまう夢」というイマジネーションと、「生きる」こと、「創る」ことをうまく絡ませた二幕の展開が、とても好きです。

小柳さんは「リアルワールド」と「インナーワールド」を交互に切り替えて表現するのが得意だという印象があったのですが、今回は「リアル」と「インナー」の境界を曖昧にすることで一つの筋書きでまとめていましたね。そのせいで若干説明台詞が多く(←ルイス・キャロルの生い立ちとか)なっていましたが、るうちゃんの台詞回しが巧いのですっと入ってきたと思います。
普通の作品なら「回想シーン」みたいなもので表現しそうな場面なのに、台詞だけに任せたのはすごいな、と。


ただ、ナイトメアの気持ちを整理するのに、荘子の「胡蝶の夢」を出してきたのはちょっと疑問に思いました。せっかくアリスなんだから、赤の王様の話をうまく使えばいいのになあ……と。実際、ナイトメアの思考の全体は、「胡蝶の夢」より「赤の王様」のエピソードの方が似と思うんですよね。

アリスの、『この世界』の夢をみている赤の王。
トウィードルディーとトウィードルダムが、アリスに問いかける。

「王さまが目醒めたら、きみはどうなっちゃうと思う?」
「いまのままここにいるんだわ、もちろん」
「ちがうね!」
「きみはどこにもいなくなっちゃうんだよ!」
「王さまが目を覚ましたら、きみは、ロウソクが消えるみたいに『パッ』と消えちゃうんだ」

『ロウソクが消えるみたいに』というモチーフは別のところで繰り返し出てきますが、ナイトメアがイメージするのは、あくまでも「胡蝶の夢」なのが不思議でした。何故なんだろう。ナイトメアは、おそらく眠らない(眠っても夢をみない)存在であるはずなのに。

まあ、そんな細かいところが気になりつつ、非常に説得力のある、よく出来た脚本だったと思います(^ ^)。小柳さん、ノッてますね!!
来年も良い仕事をしてくださいますように♪



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