ランスロットの見た夢【4】
2011年9月25日 宝塚(星)星組「ノバ・ボサ・ノバ/めぐり会いは再び」、千秋楽おめでとうございます。
明日にはバウホール公演「おかしな二人」も千秋楽を迎えて、私の星組強化月間も終わりになりますね。わずか一ヶ月の間に3回も遠征した(←作品も違いますが)身としては、次の大劇場公演も楽しみでなりません(^ ^)。
というわけで、宙組強化月間が始まる前に(汗)「ランスロット」について書かせていただきたいと思います(^ ^)。
第8場A 恋人たち
王宮ではたらく女性たちの場面。
ボールス(汐月)の恋人・セリア(妃白)、ガウェイン(麻央)の恋人・ノーマ(愛水)をはじめとする6人の侍女たちと、侍女頭のアガサ(優香りこ)。
「無駄口たたかず静かにね!」と申し送りをするアガサと、それが終わるのを待ちかねて、お互いのコイバナに盛り上がる娘たち。
「王妃さまどうなさったのかしら…」と心配しながら、そのままランスロットと王妃の噂を語りあい、「陛下だってステキよ!」「二人に思われるなんて羨ましいー」と言いあう、無責任な小雀たち。
♪今の生活に不満はないけれど
♪夢を描いてみたくはなる
♪それが生きる楽しみ!
可愛らしくコメディタッチな場面としてきちんと仕上げつつ、必要な説明はしっかり伝えているあたり、娘役さんたちも生田さんもよくがんばったなあと思います(^ ^)。
優香さん、こういう役は嵌りますね。最初に認識したのが「コインブラ物語」の姫君だったのであまり良い印象を持っていなかった(ごめんなさい)のですが、歌も芝居もハイレベルで、ダンサーだけあって身のこなしが綺麗。大人っぽい、デキる女イメージの役がとてもよく似合います(いや、アガサが「デキる女」かというとちょっと微妙ですが)
他のメンバーもみんな可愛くて、、、星娘さんたち、これからがんばって覚えなくては。とりあえずライオネルの恋人は誰?可愛かったんだけど誰だかわからず……みんな名札つけてください!(涙)
第8場B グウィネヴィアの部屋
恋人(ランスロット)との短い逢瀬の後。
口づけを交わして出て行く恋人を見送って、ベッドの上に座り込むグウィネヴィア。
♪幼き日の戒めを忘れた日などなかった
♪その日が来ることは逃れられぬ運命
プロローグの歌をリフレインして、罪の重さに怯え、懺悔の言葉を紡ぐ。
「……主よ、どうか私たちをお許しください」
ドアの外では、王が懺悔の終わりを待っている。
捨てられた子供のような悲しげな瞳を、彼女が視ていたなら……と思わずにはいられません。
懺悔が終わったところで、そっとノックをしてドアをあける夫。
「気分はどうだい……?」
逡巡の末、何事もなかったかのように優しく問いかける王。
優しすぎて、その想いは王妃には届かない。
「無理して何か言ってくれとはいわない。無理強いはしない」
でも、
「……聞いてほしい」
♪王である前に人として生きたい
♪愛する人を護り、慰め、笑いあい、
こちらもプロローグのリフレイン。これだけの内容をあの時間に詰め込んだ、プロローグの密度の濃さをいまさらに思います。
♪いかなる障壁立ちふさがろうとも
♪まことの愛なら乗り越えられる
伝わってほしい、という彼の気持ちの高ぶりと共に上昇音階に転ずるあたりで、グウィネヴィアの表情が微かに変わるあたりがとても悲しい。
「王と王妃である前に、私は夫で、君は妻なんだ」
最初の週末に観た時は、言い聞かせるように語っていたはずなのに、千秋楽あたりではすっかりぶっ飛んで、激情を抑えつけて爆発寸前のようだったみっきぃさん。
「話せるときがきたら頼ってほしい。いつでもいい、」
細い肩を震わせる妻の背中に手を差し伸べて、
「……いつまでも待っている」
それでも、振り向こうとしない妻に触れることもできず。
沈黙に耐えられなくて、泣き笑いを浮かべたピエロは、円卓会議に行ってくる、と言い置いて部屋を出る。
反射的に振り向いて泣き崩れる、妻。
「……ごめんなさい」
アーサーがもっと嫌な男だったら、
グウィネヴィアが夫を憎むことができていたなら、その方が話はずっと簡単だったろうに。
♪私の身体に灼きついたグリフ
ランスロットによって刻みつけられた刻印を掻き抱いて、耳に残る父王レオデグランスの教えを聞く。
忘れたことのない、幼い日の戒めを。
♪左手を締めつける糸を断てず
♪右手の愛 こぼれおちてゆく
心の中にしまいこんだ幼い少女が、無邪気に問いかける。
「私はグウィネヴィア。あなたは、誰?」
「わたしは」
♪片手には重すぎる罪は
♪いずれ私の身体を引き裂くだろう
「……わたしは、王妃。」
不安げな声で、それでも彼女は、選ぶ。
グウィネヴィアとして、一人の少女として生きることを諦めた「王妃」は、仮面を被る。
父王の戒め通り、彼女の人生は彼女自身のものではないのだから。
肩を落として、幼いグウィネヴィアに手を引かれて舞台奥へ進む王妃。
彼女は、このときにやっと自分の道を選び取った。
もっと早く、その覚悟があったならば。マリアガンスに攫われる前に。
……今はもう、遅い。
第9場 キャメロット・王宮内
グウィネヴィアの決意とは無関係に、奇妙に明るい、乾いた音楽が流れる、円卓の広間。
「聖杯があらわれた」というマーリンの報告を聞く、円卓会議の面々。
♪聖杯は持つ者を選び
♪とこしえの平和と秩序をもたらすという
聖杯の守護者ヨセフが欲するのは、純潔な魂と高潔な精神。この騎士団のメンバーは、全員が条件を満たすはず。
「聖杯を授かるにふさわしい騎士は、必ずやこの円卓の中にいると私は信じる」
確信に満ちたアーサーの明るい声に、うなずく騎士たち。
けれども、不安を感じる騎士もいる。
「西方のカルボネック(?)には、異教の国々を通らねば辿り付けぬ」
と不安を述べるボールス(汐月しゅう)、
「異教の野蛮人の間をわけいってまでも手に入れる価値があるのか?」
と疑問を呈するライオネル(漣レイラ)。
「異教徒、異教徒と、キリスト教徒は臆病者ばかりか!」
浅黒い肌のパラミデュース(夏樹れい)が莫迦にすると、騎士たちはみな興奮して叫びだす。
「そもそも、どこを探せばいいのか!?」
「わからぬ」
マーリンの言葉にみなが戸惑う中で、ふいに照明が変わり、聖なるカレー鍋 聖杯が顕現する。
王も騎士たちもストップモーションになる中、ただ一人、聖杯の守護者ヨセフ(美稀)と相対するランスロット。
「聖杯は手に入れるものにあらず。聖杯が選ぶのだ。聖杯と至福の秘密を共有するにふさわしい人物を」
ランスロットの問いに答えようとはせず、消失する空間。
再び流れはじめた時間の中で、取り残されたランスロットは叫ぶ。
「私は行く!」
決議を取ろうとしていたメンバーが振り向く。
「危険、闘い、それが何だ。その先に得られる物の大きさに比べれば!私は一人でも行く!」
驚いて反応が遅れる騎士たち。そんな中で、すぐに賛同したのは二人(ボールスとパラミデュース)……だったかな?。
それまで何か雑然としていた空気が、一つにまとまる。
「何を臆することがある!我らは最強の、円卓の騎士団だ!」
♪遥か冒険の旅に出よう
♪Nobless Oblegeを胸に!
微笑みを浮かべたアーサー王が、「聖杯探索」にむけて心を一つにしたメンバーを祝福する。
ホッとしたように。
この先のことは考えない、と決めたかのように。
「ランスロット」
会議をまとめてくれた騎士に、王が礼を言う。
「運命とは己の力で切り開くもの。心得ております」
待っていても与えられない、欲しいものは探しに行かねば、と。
彼の気迫に気圧されたように、王が軽く目を見開く。
「……聖杯も大事だが、君たちの命も私には等しく、いや、それ以上に大切なものだ」
気をつけて行くように、と、酷く優しい声を零す王に、騎士がよびかける。
「陛下」
「……どうした?」
この会話のアーサーの声が、優しすぎてとても怖いです。
大きな声を出したら壊れてしまいそうな脆いものを、両腕いっぱいに抱え込んでいるかのような、そんな緊張感。
決して壊したくないものなのに、それを抱えていることに倦んでしまったかのような。
大きな声を出しただけで壊せるのなら、いっそ、という気持ちが抑えきれずに、ことさらに優しい声を出す。その優しさと怖さ。
そんな緊張感で何年も王座を埋めてきた王の、恐怖。
そんな怖さには全く気付かず、無邪気に問いかけるランスロット。
「理想の世界とは何なのでしょう?」
一瞬押し黙って、それでも王は、笑い声を聞かせる。
「私にとっては、ここが理想だ。王妃が平和に暮らし、そして……君がいる」
愛する騎士に、愚かな子供に、言い聞かせるように。
「皆が幸せに暮らせる世界……」
「そうだ。まさにこの、キャメロットだ」
目を伏せてその声を聴くランスロット。
切なげに彼を見つめるアーサー。
失礼します、と言って立ち去るランスロットを見送るアーサーは、ホントに泣きそうだったんですよね。
あれがすごく印象的でした。
壊れていく絆を、切れるそばから繕いながら、もう間に合わない!と泣きだす寸前のような。
愛する者を護るためにうったつもり手が正しいのかどうか、確信が得られなくて、不安で。
様子を視ていたマーリンが、影のように現れる。
「ランスロットを行かせるのは、危険です」
「何が言いたい」
マーリンに対しては、ちょっと甘えがあるんですよね。我侭な少年のような拗ねた声を出すアーサーが可愛いです。
「ランスロットが求めているものは、もはやキャメロットの安寧ではない!」
強く諌める魔法使いの言葉を、真っ向から受け止めるアーサー。
「グウィネヴィアは彼を愛している」
目を逸らすつもりはない、と、愛を知らない魔法使いに教えようとする。
「そして。彼女が愛しているからこそ、私も彼を愛しているんだ」
ランスロットを大義なく追い出せば、グウィネヴィアが悲しむ。
彼女を愛しているから、彼女が悲しむことはしたくない。
……それがどんなに、自分の心を乱すとしても。
自分の心が乱れることが、すなわち国の乱れになることを、知らぬわけもないのに。
「わかっている。わかっているんだ。だが、わかっていたとて何ができる?」
血を吐くように本心を曝け出して。
「そなたの予言がまことに神の描いた筋書きだとしても、」
他の者には見せられぬ、王の弱さ。
「……それに打ち勝つことの方が、まことに正しいことのように、私には思えるんだ!」
♪たとえ我が身を滅ぼす運命でも
♪真(まこと)の王なら打ち勝てるだろう
実際には流れないリフレインが聴こえるような気がしました。
自分がまことの王であるならば、打ち勝てるに違いない、という強い想い。
グウィネヴィアとランスロット、愛する二人を二人とも傍に置くことが叶うはずだ、と。
エクスカリバーが選んだ自分が、真の王であるならば。
裏を返せば。
この苦境を乗り越えられないならば、自分は「真の王」ではないということ。
だとしたら、「世界」という重荷を、投げ出してもいいはず。
背負いきれない荷物を捨てて、「人」として生きることを選んでもいはずだ、と。
そんな闇の希望に囚われて、ランスロットを手放そうとするアーサー。
彼らはきっと、聖杯を持ち帰るだろう……そんな夢を、誰よりも自分自身に言い聞かせて。
もう何も言いますまい。ただ、覚えていてほしい、と呟くマーリン。
自分は間違っているのかもしれない、という恐怖におびえながら、それでも虚勢を張って、自分を、そして騎士たちを信じようとするアーサー。
……王妃の決意を、騎士の絶望を、王はまだ知らない。
第10場 王宮のテラス
王妃に聖杯探索の旅に出ることを報告するランスロット。
「持つ者に平和と秩序と、あらゆる至福をもたらす聖杯を探しに行く」
「Stargazer」のメロディが流れる中、王妃の言葉さえ遮って、学校から帰った子供が今日の出来事を母親に報告するかのように、息せききって。
「聖杯を手に入れたら、僕は君を連れて行くよ」
ひさしぶりに聴かせる、明るい声。姫に対するのではなく、「恋人」に聴かせる、優しくて甘い声。
得た者に至福をもたらす聖杯。自分の至福はグウィネヴィア。だから、聖杯を得ればグウィネヴィアを得られるはず。王を悲しませることなく。……そんな妄想に興奮した彼に、王妃が冷たく告げる。
「私、もう、あなたには逢えないわ」
王が待っていると言ったから。
「いまでも貴方を愛してる。でも、私はキャメロットの王妃、アーサーの妻なの!」
「それは……!」
そんなこと、最初から判ってた。
輿入れが決まった時に、いや、もっと前から、最初から諦めて想いを起こしたのは、グウィネヴィアなのに。
「我侭だって判ってる」
今更だということも。
「でも、私を愛しているなら、、最期の我侭を許して」
このままでは私、あなたも、あの人も……この世界そのものを滅ぼしてしてしまう。
「しかたないの。運命なの……」
腕の間からすり抜けて行ったグウィネヴィアに、ランスロットが叫ぶ。
「待ってくれグウィネヴィア!僕は必ず聖杯を手に入れる!そして……!!」
『聖杯は手に入れるものにあらず』
ヨセフの言葉は、今の彼には、届かない。
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明日にはバウホール公演「おかしな二人」も千秋楽を迎えて、私の星組強化月間も終わりになりますね。わずか一ヶ月の間に3回も遠征した(←作品も違いますが)身としては、次の大劇場公演も楽しみでなりません(^ ^)。
というわけで、宙組強化月間が始まる前に(汗)「ランスロット」について書かせていただきたいと思います(^ ^)。
第8場A 恋人たち
王宮ではたらく女性たちの場面。
ボールス(汐月)の恋人・セリア(妃白)、ガウェイン(麻央)の恋人・ノーマ(愛水)をはじめとする6人の侍女たちと、侍女頭のアガサ(優香りこ)。
「無駄口たたかず静かにね!」と申し送りをするアガサと、それが終わるのを待ちかねて、お互いのコイバナに盛り上がる娘たち。
「王妃さまどうなさったのかしら…」と心配しながら、そのままランスロットと王妃の噂を語りあい、「陛下だってステキよ!」「二人に思われるなんて羨ましいー」と言いあう、無責任な小雀たち。
♪今の生活に不満はないけれど
♪夢を描いてみたくはなる
♪それが生きる楽しみ!
可愛らしくコメディタッチな場面としてきちんと仕上げつつ、必要な説明はしっかり伝えているあたり、娘役さんたちも生田さんもよくがんばったなあと思います(^ ^)。
優香さん、こういう役は嵌りますね。最初に認識したのが「コインブラ物語」の姫君だったのであまり良い印象を持っていなかった(ごめんなさい)のですが、歌も芝居もハイレベルで、ダンサーだけあって身のこなしが綺麗。大人っぽい、デキる女イメージの役がとてもよく似合います(いや、アガサが「デキる女」かというとちょっと微妙ですが)
他のメンバーもみんな可愛くて、、、星娘さんたち、これからがんばって覚えなくては。とりあえずライオネルの恋人は誰?可愛かったんだけど誰だかわからず……みんな名札つけてください!(涙)
第8場B グウィネヴィアの部屋
恋人(ランスロット)との短い逢瀬の後。
口づけを交わして出て行く恋人を見送って、ベッドの上に座り込むグウィネヴィア。
♪幼き日の戒めを忘れた日などなかった
♪その日が来ることは逃れられぬ運命
プロローグの歌をリフレインして、罪の重さに怯え、懺悔の言葉を紡ぐ。
「……主よ、どうか私たちをお許しください」
ドアの外では、王が懺悔の終わりを待っている。
捨てられた子供のような悲しげな瞳を、彼女が視ていたなら……と思わずにはいられません。
懺悔が終わったところで、そっとノックをしてドアをあける夫。
「気分はどうだい……?」
逡巡の末、何事もなかったかのように優しく問いかける王。
優しすぎて、その想いは王妃には届かない。
「無理して何か言ってくれとはいわない。無理強いはしない」
でも、
「……聞いてほしい」
♪王である前に人として生きたい
♪愛する人を護り、慰め、笑いあい、
こちらもプロローグのリフレイン。これだけの内容をあの時間に詰め込んだ、プロローグの密度の濃さをいまさらに思います。
♪いかなる障壁立ちふさがろうとも
♪まことの愛なら乗り越えられる
伝わってほしい、という彼の気持ちの高ぶりと共に上昇音階に転ずるあたりで、グウィネヴィアの表情が微かに変わるあたりがとても悲しい。
「王と王妃である前に、私は夫で、君は妻なんだ」
最初の週末に観た時は、言い聞かせるように語っていたはずなのに、千秋楽あたりではすっかりぶっ飛んで、激情を抑えつけて爆発寸前のようだったみっきぃさん。
「話せるときがきたら頼ってほしい。いつでもいい、」
細い肩を震わせる妻の背中に手を差し伸べて、
「……いつまでも待っている」
それでも、振り向こうとしない妻に触れることもできず。
沈黙に耐えられなくて、泣き笑いを浮かべたピエロは、円卓会議に行ってくる、と言い置いて部屋を出る。
反射的に振り向いて泣き崩れる、妻。
「……ごめんなさい」
アーサーがもっと嫌な男だったら、
グウィネヴィアが夫を憎むことができていたなら、その方が話はずっと簡単だったろうに。
♪私の身体に灼きついたグリフ
ランスロットによって刻みつけられた刻印を掻き抱いて、耳に残る父王レオデグランスの教えを聞く。
忘れたことのない、幼い日の戒めを。
♪左手を締めつける糸を断てず
♪右手の愛 こぼれおちてゆく
心の中にしまいこんだ幼い少女が、無邪気に問いかける。
「私はグウィネヴィア。あなたは、誰?」
「わたしは」
♪片手には重すぎる罪は
♪いずれ私の身体を引き裂くだろう
「……わたしは、王妃。」
不安げな声で、それでも彼女は、選ぶ。
グウィネヴィアとして、一人の少女として生きることを諦めた「王妃」は、仮面を被る。
父王の戒め通り、彼女の人生は彼女自身のものではないのだから。
肩を落として、幼いグウィネヴィアに手を引かれて舞台奥へ進む王妃。
彼女は、このときにやっと自分の道を選び取った。
もっと早く、その覚悟があったならば。マリアガンスに攫われる前に。
……今はもう、遅い。
第9場 キャメロット・王宮内
グウィネヴィアの決意とは無関係に、奇妙に明るい、乾いた音楽が流れる、円卓の広間。
「聖杯があらわれた」というマーリンの報告を聞く、円卓会議の面々。
♪聖杯は持つ者を選び
♪とこしえの平和と秩序をもたらすという
聖杯の守護者ヨセフが欲するのは、純潔な魂と高潔な精神。この騎士団のメンバーは、全員が条件を満たすはず。
「聖杯を授かるにふさわしい騎士は、必ずやこの円卓の中にいると私は信じる」
確信に満ちたアーサーの明るい声に、うなずく騎士たち。
けれども、不安を感じる騎士もいる。
「西方のカルボネック(?)には、異教の国々を通らねば辿り付けぬ」
と不安を述べるボールス(汐月しゅう)、
「異教の野蛮人の間をわけいってまでも手に入れる価値があるのか?」
と疑問を呈するライオネル(漣レイラ)。
「異教徒、異教徒と、キリスト教徒は臆病者ばかりか!」
浅黒い肌のパラミデュース(夏樹れい)が莫迦にすると、騎士たちはみな興奮して叫びだす。
「そもそも、どこを探せばいいのか!?」
「わからぬ」
マーリンの言葉にみなが戸惑う中で、ふいに照明が変わり、
王も騎士たちもストップモーションになる中、ただ一人、聖杯の守護者ヨセフ(美稀)と相対するランスロット。
「聖杯は手に入れるものにあらず。聖杯が選ぶのだ。聖杯と至福の秘密を共有するにふさわしい人物を」
ランスロットの問いに答えようとはせず、消失する空間。
再び流れはじめた時間の中で、取り残されたランスロットは叫ぶ。
「私は行く!」
決議を取ろうとしていたメンバーが振り向く。
「危険、闘い、それが何だ。その先に得られる物の大きさに比べれば!私は一人でも行く!」
驚いて反応が遅れる騎士たち。そんな中で、すぐに賛同したのは二人(ボールスとパラミデュース)……だったかな?。
それまで何か雑然としていた空気が、一つにまとまる。
「何を臆することがある!我らは最強の、円卓の騎士団だ!」
♪遥か冒険の旅に出よう
♪Nobless Oblegeを胸に!
微笑みを浮かべたアーサー王が、「聖杯探索」にむけて心を一つにしたメンバーを祝福する。
ホッとしたように。
この先のことは考えない、と決めたかのように。
「ランスロット」
会議をまとめてくれた騎士に、王が礼を言う。
「運命とは己の力で切り開くもの。心得ております」
待っていても与えられない、欲しいものは探しに行かねば、と。
彼の気迫に気圧されたように、王が軽く目を見開く。
「……聖杯も大事だが、君たちの命も私には等しく、いや、それ以上に大切なものだ」
気をつけて行くように、と、酷く優しい声を零す王に、騎士がよびかける。
「陛下」
「……どうした?」
この会話のアーサーの声が、優しすぎてとても怖いです。
大きな声を出したら壊れてしまいそうな脆いものを、両腕いっぱいに抱え込んでいるかのような、そんな緊張感。
決して壊したくないものなのに、それを抱えていることに倦んでしまったかのような。
大きな声を出しただけで壊せるのなら、いっそ、という気持ちが抑えきれずに、ことさらに優しい声を出す。その優しさと怖さ。
そんな緊張感で何年も王座を埋めてきた王の、恐怖。
そんな怖さには全く気付かず、無邪気に問いかけるランスロット。
「理想の世界とは何なのでしょう?」
一瞬押し黙って、それでも王は、笑い声を聞かせる。
「私にとっては、ここが理想だ。王妃が平和に暮らし、そして……君がいる」
愛する騎士に、愚かな子供に、言い聞かせるように。
「皆が幸せに暮らせる世界……」
「そうだ。まさにこの、キャメロットだ」
目を伏せてその声を聴くランスロット。
切なげに彼を見つめるアーサー。
失礼します、と言って立ち去るランスロットを見送るアーサーは、ホントに泣きそうだったんですよね。
あれがすごく印象的でした。
壊れていく絆を、切れるそばから繕いながら、もう間に合わない!と泣きだす寸前のような。
愛する者を護るためにうったつもり手が正しいのかどうか、確信が得られなくて、不安で。
様子を視ていたマーリンが、影のように現れる。
「ランスロットを行かせるのは、危険です」
「何が言いたい」
マーリンに対しては、ちょっと甘えがあるんですよね。我侭な少年のような拗ねた声を出すアーサーが可愛いです。
「ランスロットが求めているものは、もはやキャメロットの安寧ではない!」
強く諌める魔法使いの言葉を、真っ向から受け止めるアーサー。
「グウィネヴィアは彼を愛している」
目を逸らすつもりはない、と、愛を知らない魔法使いに教えようとする。
「そして。彼女が愛しているからこそ、私も彼を愛しているんだ」
ランスロットを大義なく追い出せば、グウィネヴィアが悲しむ。
彼女を愛しているから、彼女が悲しむことはしたくない。
……それがどんなに、自分の心を乱すとしても。
自分の心が乱れることが、すなわち国の乱れになることを、知らぬわけもないのに。
「わかっている。わかっているんだ。だが、わかっていたとて何ができる?」
血を吐くように本心を曝け出して。
「そなたの予言がまことに神の描いた筋書きだとしても、」
他の者には見せられぬ、王の弱さ。
「……それに打ち勝つことの方が、まことに正しいことのように、私には思えるんだ!」
♪たとえ我が身を滅ぼす運命でも
♪真(まこと)の王なら打ち勝てるだろう
実際には流れないリフレインが聴こえるような気がしました。
自分がまことの王であるならば、打ち勝てるに違いない、という強い想い。
グウィネヴィアとランスロット、愛する二人を二人とも傍に置くことが叶うはずだ、と。
エクスカリバーが選んだ自分が、真の王であるならば。
裏を返せば。
この苦境を乗り越えられないならば、自分は「真の王」ではないということ。
だとしたら、「世界」という重荷を、投げ出してもいいはず。
背負いきれない荷物を捨てて、「人」として生きることを選んでもいはずだ、と。
そんな闇の希望に囚われて、ランスロットを手放そうとするアーサー。
彼らはきっと、聖杯を持ち帰るだろう……そんな夢を、誰よりも自分自身に言い聞かせて。
もう何も言いますまい。ただ、覚えていてほしい、と呟くマーリン。
自分は間違っているのかもしれない、という恐怖におびえながら、それでも虚勢を張って、自分を、そして騎士たちを信じようとするアーサー。
……王妃の決意を、騎士の絶望を、王はまだ知らない。
第10場 王宮のテラス
王妃に聖杯探索の旅に出ることを報告するランスロット。
「持つ者に平和と秩序と、あらゆる至福をもたらす聖杯を探しに行く」
「Stargazer」のメロディが流れる中、王妃の言葉さえ遮って、学校から帰った子供が今日の出来事を母親に報告するかのように、息せききって。
「聖杯を手に入れたら、僕は君を連れて行くよ」
ひさしぶりに聴かせる、明るい声。姫に対するのではなく、「恋人」に聴かせる、優しくて甘い声。
得た者に至福をもたらす聖杯。自分の至福はグウィネヴィア。だから、聖杯を得ればグウィネヴィアを得られるはず。王を悲しませることなく。……そんな妄想に興奮した彼に、王妃が冷たく告げる。
「私、もう、あなたには逢えないわ」
王が待っていると言ったから。
「いまでも貴方を愛してる。でも、私はキャメロットの王妃、アーサーの妻なの!」
「それは……!」
そんなこと、最初から判ってた。
輿入れが決まった時に、いや、もっと前から、最初から諦めて想いを起こしたのは、グウィネヴィアなのに。
「我侭だって判ってる」
今更だということも。
「でも、私を愛しているなら、、最期の我侭を許して」
このままでは私、あなたも、あの人も……この世界そのものを滅ぼしてしてしまう。
「しかたないの。運命なの……」
腕の間からすり抜けて行ったグウィネヴィアに、ランスロットが叫ぶ。
「待ってくれグウィネヴィア!僕は必ず聖杯を手に入れる!そして……!!」
『聖杯は手に入れるものにあらず』
ヨセフの言葉は、今の彼には、届かない。
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