星組バウホール公演「ランスロット」。


■第4場 魔女の森~ル・フェイの血統~

ル・フェイ(妖精)の血統であるモルゴース(花愛瑞穂)が、その娘モルガン(夢妃杏瑠)に自分たちの怒りと恨みを語る。

ブリテンの先王ユーサーは、モルゴースと約束をした。魔力を与える代わりに、その娘を王宮にむかえよう、と。
そうして生まれたモルガン。
しかしユーサーは約束を護らず、モルゴースと娘は森に棄て置かれた。
「人間界」に対する憧憬と恨み。人ならざる者たちは常に素直で真っ直ぐで、愛も恨みも率直。モルゴースの恨みは約束が守られなかった恨み。その恨みは容を得て、闇の騎士マリアガンス(碧海)となる……。


碧海りまさんのプログラムの写真は、グウィネヴィアの父王レオデグランスなのですが、作品を観たあとで印象に残ったのはこのマリアガンスの方でした。
短い髪、頬に残る刻印。ホムンクルスらしい無機質な芝居と、ちょっと違和感のあるカクカクした動きがとても印象に残っています。

モルゴースが操るホムンクルス(この言葉も、「鋼の錬金術師」以後、ふつうに使われるようになりましたねー)は、最後の最後に漣レイラさんを見つけてちょっと満足。マントの陰からすこしだけ髪が見えたの。他の方もちょっとだけ髪が見えるので、ファンの方ならわかるんだろうなあ。
そして、場面の最初から舞台奥に2体いるんですが、あれは誰なんでしょう。初見のときはすっかりオブジェだと思い込んでいたので、動き出したときはすごく吃驚しました。結構な時間だと思うのに、ぜんぜん動いてなかった!すごーい!でも誰だかわからない……。

マリアガンスが生まれる前のモルゴースの歌の歌詞が面白くて好きです。
「つみかさねた(積み重ねた)恨み、つみをかさねた(罪を重ねた)報い」「災厄をもってこたえよう/最悪の時を与えよう」とか、「守るべき契約、守らぬは軽薄」とか。
生田さんって、こういう言葉遊びっぽいものも好きなのでしょうか。


場面の最後、マリアガンスに「王妃をさらってくるように」と命じて高笑いするモルゴースを窘める湖の魔女。どうやら、ヴィヴィアンの方が上級生で(事実だな)(←違う)、モルゴースに魔力を与えたのも湖の魔女であるらしい(←なんでそんなことしたんですか)
「人でありながら魔族の加護のあるランスロットは、人の王と手を結び、この世界に秩序をもたらすでしょう」
そう宣言するヴィヴィアン。自信たっぷりに、上から目線で。さらに
「ランスロットは、強い」
と言いきってくれる美穂おねえさまが大好きです。生田さんが、この厳しいスケジュールでも美穂さんに出演要請をした理由がよくわかる。美穂さんって、本当に女神の役が似合う役者ですよね~!

モルゴースとモルガンは、赤を基調にした服と髪。彼女は「森の魔女」なので、最初のうちはどうして緑じゃないんだろう?と思っていたのですが、、、炎のような怒りと恨みを抱くモルゴースは、やっぱり紅蓮の赤がふさわしいですね。
湖の魔女ヴィヴィアンに護られたランスロットが蒼、エクスカリバーに選ばれたアーサーが金と白。そんな世界に対して、異世界としての森の魔女モルゴースとその娘、そしてモルドレッドの、赤。
有村さんの衣装、今回は本当に素晴らしいです!



■第5場 キャメロット~五月祭~

華やかな五月祭。グウィネヴィアの輿入れが4月だから、半月くらい過ぎたところ、なのかな。
舞台中央にポールをたてて、一番上からリボンを曳いて皆で踊る……なんかこういうの他でも見たことがあるんですけど、ブリテン(イギリス)の風習なんでしょうか?

騎士たちも、ホムンクルスメンバー(瀬稀・芹香・漣・ひろ香・瀬央・紫藤)以外は国人としてダンスに参加しています。さりげなく皆カップルで幸せそうなんだけど、いかんせん星組さんは娘役さんが全然わからないのが残念。
ボールス(汐月しゅう)だけは警備兵としての参加(←ただ一人の警備兵)、なのですが、幕開きすぐはちょっとだけ恋人セリア(妃白)といちゃいちゃしてました(^ ^)。警備に戻るためにすぐ離れるんですが、ちょうど恋人ノーマ(愛水)の肩を抱いて通りがかったガウェイン(麻央)にからかわれて、ムッとしているのも素敵です。いいなー、しゅうくん、本当に二枚目だよなー(*^ ^*)。台詞の声も好きなので、もうちょっと喋ってほしいのに、どちらかというと「無口な兄」なのが残念……。

喧騒の中に紛れこもうとする王妃グウィネヴィアと、護衛の騎士ランスロット。
「いいなー、ランスロットさま」
ノーマの呟きに、ちょっとムッとするガウェイン。
そんな二人をからかうボールス。いやー、ちょっとしたやり取りなんですけど、さりげなくて良いですよね♪


「王妃!」

幼馴染の姫に、そう呼びかける騎士。

「そのかしこまった話し方、なんとかならないかしら……昔みたいに!」

昔と今は違うのに、そんな可愛らしい我侭で騎士を困らせる姫。
その姿は、アーサーが恋をした『明るくて可愛らしいお嬢さん』そのもので。
そんな二人を遠くから眺める、王妃の夫。
このまま何事もなければ、アーサーとグウィネヴィアがもっと親密になれるチャンスがあったかもしれないのに……と思ってしまいます。
その方が、ランスロットも幸せだったはずなのに……。

「来たばかりの頃は寂しげだったが、ランスロットのおかげで楽しそうだな」

恋の前に不器用な王者を、ちょっと心配そうに見上げる魔法使い。

「どうした?」
「空が曇ってまいりました。雨になるかと」
「なに、めぐみの雨となろう!」

どんなことでも前向きに、ポジティヴにとらえて、前を向いて進む。
それが王者の歩くべき道だから。
そんなアーサーだからこそエクスカリバーが選び、そんな王だからこそ騎士たちも従う。
けれども、そんな王にはわからないものがある。ひとを恨む気持ち、妬み心……そういった後ろ向きな想いは、彼が視る世界にはないものだから。

だから。彼が魔法使いの不吉な予言を笑い飛ばした時にこそ、明るい五月の空は曇り、楽しげな祭りの音楽の中に妖しい布教和音が混ざりこむ。

黒いマントに身を包んだモルガン。
甲冑のマリアガンスと、ホムンクルスたち。
妖しげで美しいモルガンの声が切り裂く、平穏で明るい五月祭。その対比が非常に鮮やかで、演出として非常に見事だったと思います。

ランスロットと鬼ごっこの末に、一瞬はぐれた隙にさらわれる王妃グウィネヴィア。
グウィネヴィアの名を呼びながら、祭りの喧騒の中心に走りこむランスロット。
人々の拒否。否定。無視。……ひそやかな悪意。

「何があった!?」

走りこんでくる王。そこに倒れこんでくるボールス。正体の知れぬ妖しい騎士と戦い、怪我をした騎士。

「王妃さまが……!」

苦しそうに呻くボールスを見下ろして、ランスロットが出陣を宣言する。

「どこまでも追いかけて、必ず王妃さまを取り戻す!そして、お前の仇もうってやる!」と。

……えーっと、グウィネヴィアが輿入れして半月。ってことは、ランスロットとボールスが出会ってからも半月ですよね……?男同士ってお手軽だわー(←違)
こういうやり取りがあって、2幕でボールスがランスロットにつく理由を作っているんですよね。
まあ、ここで「俺も行く!」と言うガウェインもなかなか良い子なんだけどなあ。どうして変ってしまうのでしょうか……。



■第6場A 魔女のチェス盤

聖杯の守護者ヨセフが語る。
この探索は、魔女のチェス盤だと。
先手は森の魔女モルゴース、後手は湖の魔女ヴィヴィアン。


花愛さんと美穂さんの歌合戦、本当に素晴らしかった!!(興奮)

舞台の両端で、チェス盤を手にたたみかけるように唄う魔女たち。
舞台を縦横に走り回り、ひたすら闘うランスロットと魔女の手駒たち。割と早い段階で置いていかれているガウェインがちょっとだけ気の毒な気がするくらい、迫力のある場面でした。


「勝負」の意味はよくわからなかったけど、要は、人ならざる者が運命の糸を弾いても、それはきっかけにすぎず、意志を持つ人の子の動きをすべて規定することにはならない、ということなんですよね、きっと。
それがこの作品を貫くテーマだから。
ヴィヴィアンもモルゴースも、それぞれに手駒を操って自分の望む方向に物語を進めようとするけれども、最終的な局面でランスロットがマリアガンスを倒さないことには、魔女たちの戦いも終わらない。結局のところ、血を流すのは意志を持つであって、魔女たち自身は、直接世界に関与することはできない、と。



■第6場B 対峙・対決・救出

大樹に守られた魔女の棲家。
マリアガンスを斬り棄てたランスロットの前に立ちふさがるモルガン。

「殺せ!」

母の宿願は叶わなかった。私は母の願いを叶えられなかった……母はもう私を必要としないだろう。
幼いころから母の宿願に縛られてきた彼女には、そこから解放されて自由となっても、何をしたらいいのかわからない。もはや運命の輪は閉じた。そう思った方が、気持ちは楽になる。
なのに。

「ここで斬られることがお前の運命だというのなら、私がそれに逆らってやろう」

そう告げて、剣を納める騎士。
「母に必要とされない自分」というイメージを抱けない娘にとっては、むしろ残酷な宣告でさえあるだろうに。
でも、彼女は運命と闘うために立ち上がる。捨て台詞を残し、母の道具ではない自分を探して。


十字を切って、母に祈るランスロット。
やっと追いつくガウェイン。

怯えきった王妃を救いだし、ガウェインを先に戻らせるランスロット。
たった一夜、二人きりに戻った夜。

「死ぬかもしれないと思ったときに、私が求めたのはあなただったの……!」

当たり前のように傍にいてくれた騎士にしがみつき、離さないでとねだる少女。
騎士として、溢れそうになる気持ちを必死で繋ぎとめようとするランスロット。

「わたし、あなたを愛している!!」

グウィネヴィアの心の叫びに触発されて、ランスロットの胸中を昔の二人が走り抜ける。
『あーあ、』という溜息に似た気持ちが、ついに心の縁を超えて溢れだす。

長いことずっと、輿入れが決まる前からずっと、気持ちを抑えて生きてきたのに。
恋しい少女の一番傍にいられることに満足して、彼女の隣に立つ権利がないことを諦めてきたのに。

ランスロットの無骨な手が、グウィネヴィアの細い肩を引き寄せる。

もう仕方がない。想いは溢れてしまった。愛は零れてしまった。
もう戻れない。戻らない。こぼれたミルクは戻らない。溢れた愛は戻せない。どんな顔をして王に逢えばいいのか、そんなことも考えられない。ただ、今腕の中にあるこの細い身体を抱きしめて。


……生田さんが恋愛をテーマに作品つくるつもりがないんだなーというのは、こういう場面を観てしみじみと思うことです。
この二人が恋をするのは必然であり運命であって、どうしようもないことだ、という大前提があるんですよね、彼の中に。だから、今まで抑えてきたものが溢れてしまう場面に、実際にはなっていない。
真風くんがヘタレすぎたり、わかばちゃんがお人形すぎたりするのも原因の一つなのですが、そもそも、そのヘタレ感とか人形っぽさというのは生田さんが主演コンビに求めた芸質だと思うしね。

見た目だけならこんなに恋を語るにふさわしい二人もいないってくらい、美男美女でお似合いなのに、なんか恋愛してる感がないのが、、、残念というか、生田さんらしいというか。
いや、私は好きですけどね、こういう作風は(^ ^)。



■第7場 Starry Sky

静かに始まるラヴソング。これもRevoさん作曲なのでしょうか?良い曲でした。

♪手を離せば消えてしまう白い幻
♪喪いたくない 誰にも渡せない

子供時代のグウィネヴィア(綺咲)が、ランスロット(妃海)にオルフェとエウリディーチェの物語を語る。
冥界を出る直前に振り返ってしまい、一度は取り戻した妻を、再び喪うオルフェ。

「どうしてオルフェは振り返ってしまったの?」
「うーん、なんだったかしら」
「僕だったら振り返ったりしないのに!」
「それだったら、振り返らなかったオルフェの話を、二人で考えましょうよ!」
「うん、その方が、きっと素敵な話になるね!」

自分たちだけの物語を紡ごう、と誓った幼い日。
もう忘れてしまった遠い約束。

♪いつか描いた僕らの物語
♪取り戻すため 僕は駈け出す
♪光に満ちたあの地平の彼方へ

オープニングに歌ったテーマ曲「Stargazer」をリフレインして、星の海に沈む二人。
王妃と騎士にとって、二人きりの時間はごく短い。

「二人なら乗り越えていける。そして、いつかきっと……」

キャメロットでは、王が待っている。
どんな顔で王に逢うのか、いや、王がどんな顔で自分たちを迎えるのか、そんなことさえ考えられないままに、ふたりで。

「いつか、きっと?」


王妃の疑問形で場面を締める生田さんって、正直すぎるよなあ……と思ったりします。
いや、私は好きなんですよ、あの『恋愛感情なんざメインテーマに関係ない!』という割り切りようは(^ ^)。
実際、あの作風でちゃんと2幕二時間にまとめるには、そういう割り切りって絶対必要だと思うし。

いやー、ほんっとに面白いクリエイターですよね、生田さん。あなたが宝塚を選んでくれて、よかったです!!(真顔)



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