トラファルガーの奇跡【4】
2010年8月12日 宝塚(宙)東宝劇場の端境期(=宙組と雪組の間)にいろいろ観ておこうと、毎日のようにいろんな劇場で当日券めぐりをしています(^ ^)。
いまのうちにクリアしなくっちゃ、みたいな強迫観念があるんですよね。一ヶ月公演になって、変ったなあ…と思うのは、こういうときでしょうか。以前なら、贔屓組が東宝公演中でもそれなりに合間にほかの舞台を観たりしていたのに。
また詳しいことはあらためて書くつもりですが、今のところ印象に深いのはクリエの「宝塚BOYS」と、紀伊国屋サザンシアターの「黙阿弥オペラ」。
どちらもお勧めです♪♪
というわけで、雪組さんが始まる前に、「トラファルガー」のカタをつけたいと思います(^ ^;
■第13場 トラファルガー(つづき)
今回の作品で、ちょっと残念だったなあ、と思うのは、ネルソンがあまりに偉大すぎて、トラファルガー海戦の「奇跡」性が薄れてしまったことでした。(宙組っ子があまりに素直すぎるせい?)
イギリス軍の軍兵たちが、あまりにも自分たちの勝利を「当然のこと」ととらえているので、フランス軍の圧倒的優位に対して、捨て身の中央突破で活路を開いたイギリスの勝利がどれほどの『奇跡』であったのかが見えにくくなってしまったような気がします。
「敵は我々を上回る30を超える大艦隊」
「我々はそれを下回る27隻」
斎藤さんも、台詞ではちゃんと説明しているんですよね。むしろ、しつこいくらいに(「我々を上回る」と「それを下回る」はどちらかだけで良いと思う…)。
だけど、なんとなく実感としての『恐怖』が感じられない。
「怯むな!我々は必ず勝つ!」
とハーディーが喝をいれる前から、みんなの表情が明るすぎるんじゃないかと。
結果的には彼らは勝利するんだから間違いじゃないんですけど、それは200年間語り継がれるほどの奇跡的な勝利であったわけですよ。
なのに、観ているとなんだかネルソンが勝つのは当然だ的な気分に観客がなってしまうのが問題かな、と。
うーん、でも実際のところ、イギリス海軍の兵士たちには「ネルソン提督がいるんだから絶対に勝つ!」という信念があったんだろうから、ああならざるをえないのかなあ……
もう少し、盆が回ってくる段階では兵士たちに悲壮感があってもいいのかな、と思ったんですよね。それが、ハーディーの一喝なり、ネルソンの長口舌なりをうけて明るくなり、勝利への確信になる。その頂点に「出撃だ!!」が来る。そういう展開だと、さらに盛り上がったんじゃないかなと思います。
……いやあの、今でも十分盛り上がってるんですけどね(^ ^)。
ただ。
出撃前の不安が皆の共通認識としてあれば、トム・アレン(凪七瑠海)の帰還の意義も大きくなるのにな、と。
ハーディーの一喝に対して、ネルソンのもとに戻ってきたトム・アレンが間の手をいれる。
「そうだ!我々は必ず勝つ!」
ネルソンの前から姿を消していたトム・アレン、コペンハーゲンの戦いにはいなかったトム・アレンが、ここでわざわざ再登場してくる意味が、あまりみえない。
悲壮感あふれる出撃前のイギリス軍にひょっこり帰ってきて、
『お前、なんでわざわざこんなときに帰ってきたんだ』
『死にたいのか?』
みたいな会話があるわけでもない。
普通に受け入れられて、歓迎されているだけで、逆に
『提督が出世したら帰ってきやがった』
みたいな感じに(悪意を持ってみれば)見えないこともない。
なんていうか、いかにも若手スターに役をつけるために無理やり創りました的な印象が残ってしまうんですよね……(←いや、実際そうなのかもしれませんが)
トム・アレンって、斎藤さんの中ではいったいどんな存在だったんでしょうか?
本来であれば、「エル・アルコン-鷹-」のティリアンに対するニコラス、デルフィニア王妃グリンダに対するシェラ、そしてヤン・ウェンリーに対するユリアン的なイメージで発想したキャラクターがトム・アレンだったんじゃないかな、と思うんですが。
でも、結果的にそのどれにもならず、意味不明な役のまま終わってしまったのはどうしてなのかな、と。
浅黒い肌。「身寄りのない俺」は、あきらかにアングロ・サクソンではない異文化の申し子。
ネルソンが彼をどういう経緯で拾ったのかについては何も語られませんが、それはまあ、この際どうでもよくて。ただ、エスニックな雰囲気を出そうとしたのか、ニコラスやシェラ、ユリアンたちにあった「主に対する絶対的なリスペクト」とか「頭の回転の良さ」があまり感じられず、ああいう「マスコット」キャラの王道から外れてしまっているんですよね。主のマスコットとして兵士たちには結構可愛がられているあたりは王道どおりなのに、なんか違和感があるんです。
王道どおりならキャラ設定もある程度王道を踏襲してほしいし、それを外すならちゃんと説得力のある場面を作ってあげてほしい。役の(役者の)格としてあれ以上の出番を作るわけにはいかないのであれば、「王道のワンパターン」に沿ったキャラにした方が良かったのでは?と思ったりしたのでした。
……閑話休題。
「出撃だ!」
というネルソンの声とともに、「Victory」のコーラスが始まる。
ここの祐飛さんの声は、明るくて力強いヒーロー声。祐飛さんのこういう声って滅多に聴けないので、とても幸せ♪(今回の公演は、ショーも含めて珍しいくらい明るい声を多用していましたが)
盆が回って、歌い継ぐハーディーの声とのバランスもいい。祐飛さんとともちん、予想以上に合うなあ(はぁと)
下級生もみんながんばっているし、なんだかすごくいとおしい。
回り盆にのった階段のセットを、台詞もなく何度も昇ったり降ったりするナポレオン。豪華な衣装で結構舞台上を歩き回っているので、大変だろうなあ……なんてことを思ってました。
しかし眼が効く人ですね。戦場を俯瞰する獅子の瞳。段上に上がっただけで、何か偉そうな空気が漂うのはさすがです。
上手のセットに駆け上がって「ネルソン!」と叫び、一発で打ち抜くオーレリー(蓮水ゆうや)。
ここの、平場のストップモーションとネルソンの「ああっ」という苦しみ方が、日を追うにつれて派手になっていったのは気のせいでしょうか(汗)。
ネルソンの下手側でフランス兵と斬り結んでいたはずのハーディーが、一瞬のうちに敵をうちたおし、懐から銃を抜く。
「仇はうったよ!」と歓喜した瞬間に、撃たれておちるオーレリー。(ちなみに、ここであがる煙は、排水管が破裂して水が噴き出している表現なんだそうです。……わかんねーよ)
撃たれたネルソンは、大きく頭を振って帽子を落とし(←東宝から。すごく良い変更だった!斎藤さんGJ)、倒れこむ。
駆け寄ろうとするハーディーを「俺にかまうな!」と留め、「撃って、撃って、撃ちまくれ!!」と叱咤する。
……旗艦でさえ小銃で狙撃できる程度にしか敵艦と離れていないような混戦状況の中、当時の大砲の射程距離や精度で撃つのは勇気がいると思うんだが……ぶつぶつ……。
もとい。
大砲をぶちかまして敵艦を沈める(←だったら最初から) Victory号。
とりあえず白兵戦は終わったのでヒラの兵士たちは暇になり、ジョサイアが義父を助け起こそうと手を伸ばす。
その手を拒否して、持ち場へ戻るよう指示するネルソン。そういえば、コペンハーゲンで義父の手を拒んだのはジョサイアの方だったな、なんてことを思いました。
ネルソンに拒否されたジョサイアは、それでも諦めきれずにネルソンが取り落とした帽子を拾い、傍に膝をつく。
そうこうしているうちに勝負はつき、ナポレオンは捨て台詞を残して銀橋から花道へ去る。
ハーディーが持ち場を離れてネルソンの許へ飛んでいく。
……斎藤さん、ともちんと祐飛さんのベルばらごっこ、などという滅多に見られないものを見せていただき、ありがとうございましたm(_ _)m。
ともちんの長い脚と腕に身を預けた祐飛さん、という萌え写真は、どこへ行っても在庫が少なくて(苦笑)、まー、誰しも考えることは同じだなあ、と思いましたわ。
「I have done my......duty」
そう最後に一言残して、息絶えるネルソン。
「ホレイシオーーーーっ!!」
ついさっきまでは「提督!」と呼びかけていたのに、黄泉へ旅立つ魂に向かう、最後の呼びかけは名前なんですね(T T)。
そういえば、たしかハーディーがネルソンを名前で呼ぶのは、ここと、ナポリの騒乱の場面でエマを探しに行くネルソンの背中に呼びかけるときだけなんですね。……必死なときだけ、ってこと?
回りの兵士たちの嘆きようも一人ひとり個性的で面白かったです。
声もなく膝をつくたまちゃん(天羽珠紀)、
長い髪を振り乱して「提督、提督、ていとくううううううーっっっ!!」と豪勢に嘆くアルバート(鳳翔大)、
「提督っ………!!」と、一言に万感の思いを込めたジュリアン(七海ひろき)、
胸に抱いていた帽子を、ギュッと握りしめて俯くジョサイア。若い役者にとって、感情が激したときの手の芝居ってのは難しいものですが、この「帽子を持たせる」っていうのは秀逸なアイディアでしたね。
オーレリー役のちーちゃんが、先日のトークで「最後にハケるとき、イギリス軍と一緒なので居たたまれない」ってな話をしていましたが、たしかにアレは居たたまれないかも……。
■第14場A ロンドン ~手紙~
幕が降りると、幕前にホレイシアと侍女たち。10年たっても変わらない(衣装も同じな)美少女たちが可愛いです。
「天使の微笑み…」
と歌うエマ。柔らかな「母」の貌。
そこに、ハミルトンがジゼラ(藤咲えり)を連れて登場。エマにホレイシオからの手紙を渡して、背を向ける。
賭けは君たちの勝ちだ、「彼は真の勝利者だ」と告げるハミルトンに、ただ涙を堪えてるエマ。
そしてさらに、客人が現れる。ネルソンの妻と、父と、そして、息子と。
この場面のファニーは、最後の一週間くらいはかなり日替りでしたが(←ネルソンとエマが日替りだったので当たり前かも)、私は、なんといっても千秋楽のアリスちゃんの表情にやられました。
いい芝居だった……。
そして、最後に残る母娘を視て、敬礼して去っていくジョサイア。
個人的には、最後に寂しげに微笑んだ新公のジョサイアにすごく泣かされましたが、愛月くんもよくがんばっていたと思います(^ ^)。
「あなたのパパはね、とても素敵な殿方だったのよ……」
すみ花ちゃんの柔らかな声が語るネルソン像は、とても素敵でした。でも、「とても踊りが上手だったんだから!」は、笑うところ?(←こら)
■第14場B ネルソン ~その愛と奇跡~
「祈るのよ、ホレイシア」
その声とともに、流れ出す旋律。この作品全体を通して流れるテーマ曲ともいうべき、エルガーの名曲「威風堂々」。七瀬りりこ嬢の美声が劇場を満たしてくれます。
オープニングと同じ「波」たちのダンス。下手前方で「波」と戯れるホレイシア。「RED HOT SEA」の「かもめ」の場面ほどの完成度ではありませんが、寄せては返す波を表現したダンスとして、なかなかおもしろかったです。
舞台奥のセンターで、セリに寄りかかるような形で倒れていたネルソンが、ゆっくりと起き上がる。
舞台前面は波打際、奥にいくと深海……というイメージなのかな、あの場面は。まあ、理屈を考えるような場面ではないのですが。
その腕に抱くことの無かった娘を抱き、祝福を与え、そして、その母を最期に抱きしめる。
すべての鬱屈に決着をつけ、「愛する者を護る」という使命を果たしたネルソンの、その清しい笑顔。
愛する者たちの幸せと、平和な世界を、海の底で今も願っているのであろう、英雄。
祐飛さんと、英雄。
妻を裏切った不実な夫でありながら、そんなスキャンダルにびくともしない「英雄」でありつづけた人。
強い意志と、信念と、そして、理想。
「カサブランカ」みたいに脚本として完成された作品も面白いけど、こういう隙のある作品も、役者の工夫が随所に感じられて興味深いです。
もう少しこう…と思うところも多かったけど、斎藤さんの視た夢を共に追うことができて、とても楽しい公演でした。
さあ、次は銀ちゃんだ!!これはまた、脚本として完成度が高いうえに役者が遊ぶ隙のある、面白い作品。今までにない大所帯をどうさばくのか、石田さんのお手並みを楽しみにしています(^ ^)。
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いまのうちにクリアしなくっちゃ、みたいな強迫観念があるんですよね。一ヶ月公演になって、変ったなあ…と思うのは、こういうときでしょうか。以前なら、贔屓組が東宝公演中でもそれなりに合間にほかの舞台を観たりしていたのに。
また詳しいことはあらためて書くつもりですが、今のところ印象に深いのはクリエの「宝塚BOYS」と、紀伊国屋サザンシアターの「黙阿弥オペラ」。
どちらもお勧めです♪♪
というわけで、雪組さんが始まる前に、「トラファルガー」のカタをつけたいと思います(^ ^;
■第13場 トラファルガー(つづき)
今回の作品で、ちょっと残念だったなあ、と思うのは、ネルソンがあまりに偉大すぎて、トラファルガー海戦の「奇跡」性が薄れてしまったことでした。(宙組っ子があまりに素直すぎるせい?)
イギリス軍の軍兵たちが、あまりにも自分たちの勝利を「当然のこと」ととらえているので、フランス軍の圧倒的優位に対して、捨て身の中央突破で活路を開いたイギリスの勝利がどれほどの『奇跡』であったのかが見えにくくなってしまったような気がします。
「敵は我々を上回る30を超える大艦隊」
「我々はそれを下回る27隻」
斎藤さんも、台詞ではちゃんと説明しているんですよね。むしろ、しつこいくらいに(「我々を上回る」と「それを下回る」はどちらかだけで良いと思う…)。
だけど、なんとなく実感としての『恐怖』が感じられない。
「怯むな!我々は必ず勝つ!」
とハーディーが喝をいれる前から、みんなの表情が明るすぎるんじゃないかと。
結果的には彼らは勝利するんだから間違いじゃないんですけど、それは200年間語り継がれるほどの奇跡的な勝利であったわけですよ。
なのに、観ているとなんだかネルソンが勝つのは当然だ的な気分に観客がなってしまうのが問題かな、と。
うーん、でも実際のところ、イギリス海軍の兵士たちには「ネルソン提督がいるんだから絶対に勝つ!」という信念があったんだろうから、ああならざるをえないのかなあ……
もう少し、盆が回ってくる段階では兵士たちに悲壮感があってもいいのかな、と思ったんですよね。それが、ハーディーの一喝なり、ネルソンの長口舌なりをうけて明るくなり、勝利への確信になる。その頂点に「出撃だ!!」が来る。そういう展開だと、さらに盛り上がったんじゃないかなと思います。
……いやあの、今でも十分盛り上がってるんですけどね(^ ^)。
ただ。
出撃前の不安が皆の共通認識としてあれば、トム・アレン(凪七瑠海)の帰還の意義も大きくなるのにな、と。
ハーディーの一喝に対して、ネルソンのもとに戻ってきたトム・アレンが間の手をいれる。
「そうだ!我々は必ず勝つ!」
ネルソンの前から姿を消していたトム・アレン、コペンハーゲンの戦いにはいなかったトム・アレンが、ここでわざわざ再登場してくる意味が、あまりみえない。
悲壮感あふれる出撃前のイギリス軍にひょっこり帰ってきて、
『お前、なんでわざわざこんなときに帰ってきたんだ』
『死にたいのか?』
みたいな会話があるわけでもない。
普通に受け入れられて、歓迎されているだけで、逆に
『提督が出世したら帰ってきやがった』
みたいな感じに(悪意を持ってみれば)見えないこともない。
なんていうか、いかにも若手スターに役をつけるために無理やり創りました的な印象が残ってしまうんですよね……(←いや、実際そうなのかもしれませんが)
トム・アレンって、斎藤さんの中ではいったいどんな存在だったんでしょうか?
本来であれば、「エル・アルコン-鷹-」のティリアンに対するニコラス、デルフィニア王妃グリンダに対するシェラ、そしてヤン・ウェンリーに対するユリアン的なイメージで発想したキャラクターがトム・アレンだったんじゃないかな、と思うんですが。
でも、結果的にそのどれにもならず、意味不明な役のまま終わってしまったのはどうしてなのかな、と。
浅黒い肌。「身寄りのない俺」は、あきらかにアングロ・サクソンではない異文化の申し子。
ネルソンが彼をどういう経緯で拾ったのかについては何も語られませんが、それはまあ、この際どうでもよくて。ただ、エスニックな雰囲気を出そうとしたのか、ニコラスやシェラ、ユリアンたちにあった「主に対する絶対的なリスペクト」とか「頭の回転の良さ」があまり感じられず、ああいう「マスコット」キャラの王道から外れてしまっているんですよね。主のマスコットとして兵士たちには結構可愛がられているあたりは王道どおりなのに、なんか違和感があるんです。
王道どおりならキャラ設定もある程度王道を踏襲してほしいし、それを外すならちゃんと説得力のある場面を作ってあげてほしい。役の(役者の)格としてあれ以上の出番を作るわけにはいかないのであれば、「王道のワンパターン」に沿ったキャラにした方が良かったのでは?と思ったりしたのでした。
……閑話休題。
「出撃だ!」
というネルソンの声とともに、「Victory」のコーラスが始まる。
ここの祐飛さんの声は、明るくて力強いヒーロー声。祐飛さんのこういう声って滅多に聴けないので、とても幸せ♪(今回の公演は、ショーも含めて珍しいくらい明るい声を多用していましたが)
盆が回って、歌い継ぐハーディーの声とのバランスもいい。祐飛さんとともちん、予想以上に合うなあ(はぁと)
下級生もみんながんばっているし、なんだかすごくいとおしい。
回り盆にのった階段のセットを、台詞もなく何度も昇ったり降ったりするナポレオン。豪華な衣装で結構舞台上を歩き回っているので、大変だろうなあ……なんてことを思ってました。
しかし眼が効く人ですね。戦場を俯瞰する獅子の瞳。段上に上がっただけで、何か偉そうな空気が漂うのはさすがです。
上手のセットに駆け上がって「ネルソン!」と叫び、一発で打ち抜くオーレリー(蓮水ゆうや)。
ここの、平場のストップモーションとネルソンの「ああっ」という苦しみ方が、日を追うにつれて派手になっていったのは気のせいでしょうか(汗)。
ネルソンの下手側でフランス兵と斬り結んでいたはずのハーディーが、一瞬のうちに敵をうちたおし、懐から銃を抜く。
「仇はうったよ!」と歓喜した瞬間に、撃たれておちるオーレリー。(ちなみに、ここであがる煙は、排水管が破裂して水が噴き出している表現なんだそうです。……わかんねーよ)
撃たれたネルソンは、大きく頭を振って帽子を落とし(←東宝から。すごく良い変更だった!斎藤さんGJ)、倒れこむ。
駆け寄ろうとするハーディーを「俺にかまうな!」と留め、「撃って、撃って、撃ちまくれ!!」と叱咤する。
……旗艦でさえ小銃で狙撃できる程度にしか敵艦と離れていないような混戦状況の中、当時の大砲の射程距離や精度で撃つのは勇気がいると思うんだが……ぶつぶつ……。
もとい。
大砲をぶちかまして敵艦を沈める
とりあえず白兵戦は終わったのでヒラの兵士たちは暇になり、ジョサイアが義父を助け起こそうと手を伸ばす。
その手を拒否して、持ち場へ戻るよう指示するネルソン。そういえば、コペンハーゲンで義父の手を拒んだのはジョサイアの方だったな、なんてことを思いました。
ネルソンに拒否されたジョサイアは、それでも諦めきれずにネルソンが取り落とした帽子を拾い、傍に膝をつく。
そうこうしているうちに勝負はつき、ナポレオンは捨て台詞を残して銀橋から花道へ去る。
ハーディーが持ち場を離れてネルソンの許へ飛んでいく。
……斎藤さん、ともちんと祐飛さんのベルばらごっこ、などという滅多に見られないものを見せていただき、ありがとうございましたm(_ _)m。
ともちんの長い脚と腕に身を預けた祐飛さん、という萌え写真は、どこへ行っても在庫が少なくて(苦笑)、まー、誰しも考えることは同じだなあ、と思いましたわ。
「I have done my......duty」
そう最後に一言残して、息絶えるネルソン。
「ホレイシオーーーーっ!!」
ついさっきまでは「提督!」と呼びかけていたのに、黄泉へ旅立つ魂に向かう、最後の呼びかけは名前なんですね(T T)。
そういえば、たしかハーディーがネルソンを名前で呼ぶのは、ここと、ナポリの騒乱の場面でエマを探しに行くネルソンの背中に呼びかけるときだけなんですね。……必死なときだけ、ってこと?
回りの兵士たちの嘆きようも一人ひとり個性的で面白かったです。
声もなく膝をつくたまちゃん(天羽珠紀)、
長い髪を振り乱して「提督、提督、ていとくううううううーっっっ!!」と豪勢に嘆くアルバート(鳳翔大)、
「提督っ………!!」と、一言に万感の思いを込めたジュリアン(七海ひろき)、
胸に抱いていた帽子を、ギュッと握りしめて俯くジョサイア。若い役者にとって、感情が激したときの手の芝居ってのは難しいものですが、この「帽子を持たせる」っていうのは秀逸なアイディアでしたね。
オーレリー役のちーちゃんが、先日のトークで「最後にハケるとき、イギリス軍と一緒なので居たたまれない」ってな話をしていましたが、たしかにアレは居たたまれないかも……。
■第14場A ロンドン ~手紙~
幕が降りると、幕前にホレイシアと侍女たち。10年たっても変わらない(衣装も同じな)美少女たちが可愛いです。
「天使の微笑み…」
と歌うエマ。柔らかな「母」の貌。
そこに、ハミルトンがジゼラ(藤咲えり)を連れて登場。エマにホレイシオからの手紙を渡して、背を向ける。
賭けは君たちの勝ちだ、「彼は真の勝利者だ」と告げるハミルトンに、ただ涙を堪えてるエマ。
そしてさらに、客人が現れる。ネルソンの妻と、父と、そして、息子と。
この場面のファニーは、最後の一週間くらいはかなり日替りでしたが(←ネルソンとエマが日替りだったので当たり前かも)、私は、なんといっても千秋楽のアリスちゃんの表情にやられました。
いい芝居だった……。
そして、最後に残る母娘を視て、敬礼して去っていくジョサイア。
個人的には、最後に寂しげに微笑んだ新公のジョサイアにすごく泣かされましたが、愛月くんもよくがんばっていたと思います(^ ^)。
「あなたのパパはね、とても素敵な殿方だったのよ……」
すみ花ちゃんの柔らかな声が語るネルソン像は、とても素敵でした。でも、「とても踊りが上手だったんだから!」は、笑うところ?(←こら)
■第14場B ネルソン ~その愛と奇跡~
「祈るのよ、ホレイシア」
その声とともに、流れ出す旋律。この作品全体を通して流れるテーマ曲ともいうべき、エルガーの名曲「威風堂々」。七瀬りりこ嬢の美声が劇場を満たしてくれます。
オープニングと同じ「波」たちのダンス。下手前方で「波」と戯れるホレイシア。「RED HOT SEA」の「かもめ」の場面ほどの完成度ではありませんが、寄せては返す波を表現したダンスとして、なかなかおもしろかったです。
舞台奥のセンターで、セリに寄りかかるような形で倒れていたネルソンが、ゆっくりと起き上がる。
舞台前面は波打際、奥にいくと深海……というイメージなのかな、あの場面は。まあ、理屈を考えるような場面ではないのですが。
その腕に抱くことの無かった娘を抱き、祝福を与え、そして、その母を最期に抱きしめる。
すべての鬱屈に決着をつけ、「愛する者を護る」という使命を果たしたネルソンの、その清しい笑顔。
愛する者たちの幸せと、平和な世界を、海の底で今も願っているのであろう、英雄。
祐飛さんと、英雄。
妻を裏切った不実な夫でありながら、そんなスキャンダルにびくともしない「英雄」でありつづけた人。
強い意志と、信念と、そして、理想。
「カサブランカ」みたいに脚本として完成された作品も面白いけど、こういう隙のある作品も、役者の工夫が随所に感じられて興味深いです。
もう少しこう…と思うところも多かったけど、斎藤さんの視た夢を共に追うことができて、とても楽しい公演でした。
さあ、次は銀ちゃんだ!!これはまた、脚本として完成度が高いうえに役者が遊ぶ隙のある、面白い作品。今までにない大所帯をどうさばくのか、石田さんのお手並みを楽しみにしています(^ ^)。
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