宙組東宝劇場公演「トラファルガー」続き。


■第4場 パリ(1799年11月9日)
本舞台の幕があがると、そこはパリ議会の会場。
議長バラス(鳳樹いち)がセンターの議長席に立ち、その周りを議員たちが囲む。

上手側が反バラス派、下手側がバラス派というくくりになっていたのかな。バラス派に鳳翔大くん、あっきー(澄輝さやと)、実羚絢くんあたりが下手側、カイちゃん(七海ひろき)、えなちゃん(月映樹茉)、ふーま(風馬翔)あたりが上手側にいたのは覚えています。……他のメンバーはどっちにいたっけなーーー(^ ^;
バラスと議員たちの掛け合いの歌がとても好きです。「革命から10年」で始まるこのナンバーは、この時代の混沌とした政治情勢を実に的確に処理していると思う。
バラスが権力を握った時期を、ロベスピエールが失脚した1794年だと定義するならば、約5年間。当時のめまぐるしい政治情勢の変化の中で、彼はフランスの政治の中心に立ち続け、愛人ジョゼフィーヌを与えたナポレオンと、テルミドール以来の協力者である秘密警察のフーシェ(光海舞人)を懐に、権力を思いのままにしていました。

そんな彼の追い落としをはかるベテラン政治家、シェイエス(天玲美音)。
「今こそ化けの皮を剥いでやる♪」と、難しい半音階の歌を歌いきってニヤリと黒く笑い、「その汚職政治とも今日でおさらばだ~!!」と、うっとりと呟く彼のアブナさ、たまりません。その真っ黒いオーラに比べたら、いちくんのバラスなんて真っ白で天使のようだと思ってしまった(^ ^;ゞ



ファンファーレが鳴り響き、上手花道にナポレオン・ボナパルトが登場。
彼の姿を認めたときのバラス以下、特にバラス派の議員たちの表情が結構見ものです。ここは忙しくてあまり一人一人をじっくり見ていられないのですが、それでも大くんとか、結構大げさに嫌そうな顔をしていて面白いです。反バラス派のメンバーがあまり嬉しそうじゃないのもツボ。この時点では彼らは「反バラス」なんであって「ナポレオン派」ではないんですよね……。

「バラスと議員たちを捕えろ!」
味方だったはずのフーシェの声と、乱入してくる軍人たち。衝撃を受けるバラスと議員たち。バラス派の議員たちは全員逮捕されて室外へ連れ出され、反バラス派のメンバーも、強引なやりくちに反感を隠さない。
それでも、ナポレオンの弟リュシアン(春風弥里)が提案した「バラスに変わる新しい第一執政」の選挙は、フーシェの恫喝を背景に順調に進む。第二執政であるシェイエスの推薦を受けたナポレオンを、残った議員たちは全員で承認するしか、ない。

一人ひとりの役作りの考え方を尋ねて歩きたいくらい、この場面で挙手するまでの彼らの逡巡と戸惑いは、個性的で面白いです。比較的早い段階でさっさと手を挙げる者、きょろきょろと両脇の動きをみてこっそりと手を挙げる者、下を向いて考え込んで、周りの様子は窺わずに適当なタイミングで挙げる者、などなど。
大くんカイちゃん意外はほとんどが下級生なのに、皆ちゃんと色々考えて芝居をしているんだなあ、というのが見えて、嬉しかったです。
ただ、決まったらすぐに、残った議員全員でのコーラス(「おーナポレオン、革命の獅子よ!」)を笑顔で歌わなくてはいけないので、ギリギリまで迷っている人はいかにも蝙蝠に見えてしまったりとか、いろいろ難しいんだなあと思いましたけどね(^ ^)。



ナポレオンとリュシアンを残して議員たちが退場。
「すぐにリーダーを求めるフランス国民」
と、彼らを馬鹿にしたように嘲笑うナポレオン。彼は、この後のミラノ歌劇場での場面でも説明されるとおり、もともとはイタリア人なので、フランスやフランス人に対してポジティヴな感情ばかりではないんですよね。
それを、リュシアンがさりげなく抑えるように言葉をかけるのに感心しました。斎藤さん、やるなあ。
妹たち(大海亜呼、愛花ちさき)とジョゼフィーヌ(五峰亜季)も登場し、一通り嫌みの応酬をしてから、ナポレオンを中心とした「獅子の時代」の大コーラスへ。
ジョゼフィーヌの五峰さん、大劇場では無理してる感が満載で違和感があったのですが、大劇場の後半から一気に良くなってきましたね。『年下の夫を舐めきって、留守中は遊び歩き、帰ってきたら小姑に苛められる哀れな妻を装う』女、という二面性が見えてきたと思います。今回ジョゼフィーヌの出番はすべてナポレオンと一緒で、ナポレオンに見せる貌しか観客にも見せないんですが、その裏に違う貌があることをうっすらと感じさせるキャラクターの強さが斎藤さんの意図だったのか(@ @)、と、その人選に納得しました。
何をしても、『善良でわかりやすい娘』には見えないのがまゆみさんの美点ですからね。さすがだわ、いろんな意味で。



「獅子の時代」が終わって、弟妹たちがはけると、入れ替わりに忍び込んできたオーレリー・バイロン(蓮水ゆうや)と、彼を取り押さえた警官(星吹彩翔)が登場。
ツーロン戦で死んだ兄の仇を討つためにナポレオンに仕え、来るイギリス戦で役に立ちたいと主張するオーレリー。
……この役は明らかに、青池保子さんの漫画「トラファルガー」のマスケティアからインスパイアされたものだと思うのですが、、、、観れば観るほど、原作どおりの設定(誰かに使ってもらわなくてはいけない「装填された銃」として生きてきた男)の方がいいと思うんだけどなあ……。斎藤くんがどうしても仇討ち要素をいれたいのは感情としては判るんですが、他の部分は相当に厳密な歴史劇として作りこんでいるだけに、こういう飛び道具を一つ放り込んだだけでこんなにリアリティがなくなるのか、と驚いてしまうのです。……不意打ちでも裏切りでもなんでもない、作法にのっとった国と国との戦争で死んだからといって、敵国の総司令官を仇と狙い、自国の総裁に自分を雇えと売り込みに行く。………なまじ、他の部分がリアルに描かれているだけに、訳がわからない気分になるんだってばー(涙)。



■第5場A ノーフォーク
ってなところで、暗転して舞台はノーフォークのネルソン邸へ。

ノーフォーク、と言われて私が最初に思い浮かべたのは、アーサー・ランサム著「ツバメ号」シリーズの中のオオバンクラブ連中が活躍する巻でした(^ ^)。ちょっと時代が違うんですけど、ネルソンの少年時代ってティットマウス号を操るトム少年みたいな感じだったのかも?なんて想像したりすると楽しいです。ジョンよりトム、と思うんだけど、どうでしょう。……なんて、ランサムサガをご存じない大多数の方には判らない話ですみません。

ジョサイア(愛月ひかる)が母ファニー(花影アリス)への手紙を朗読して、それにアリスちゃんの声がかぶっていく演出は、よくある演出の割に音響のフェードイン/アウトのタイミングが難しく、初日あいた直後はなかなか巧く行かなかったりもしましたが、だいぶ落ち着いてきましたね。音響さんの腕なのか、役者二人の技なのか、そのあたりがよくわかりませんが(^ ^)。

ナポリから帰国してはいるものの、ノーフォークの邸には一向に帰ってこない夫を苛々と待つファニー。
「ホレイシオがまた手柄を立てたと?」と喜ぶ義父エドマンド(風莉じん)に
「ええ、ナポリで男爵の称号をいただいたそうよ」と歌うように告げるファニー。
息子の手柄を素直に喜ぶ父親がとても可愛くて、それに対するファニーの怒りが強い、うまい場面ですよね。
そして、今までずっと舞台の上では隠して見せないようにしていたクールな強さを全開にしているアリスちゃんが美しくて、こんなに良い役者になれる人だったのに、どうして今まで隠していたんだろうかと惜しむ気持ちでいっぱいです。
そして、同期でネルソン家の侍女の綾音らいらちゃんが、控え目な存在感でファニーに従っているのも良かったです。ショーの毒々しい女役も良いけど、こういうのも案外似合うんですね。


この場面、フッド提督(寿つかさ)がネルソン邸を訪ねてくるんですが、この訪問の目的は何だったんでしょうね?ホレイシオがノーフォークに帰っていないことを知って驚いて(焦って?)いるところを見ると、ホレイシオから頼まれて様子を見にきた、とかではないし、単純にホレイシオを迎えに来たのかなあ。でも、この時点ではまだホレイシオには後ろめたいことはないから、別にみを隠しているつもりは無いと思うんだけど……ぶつぶつ。
単純に「あんな気の強い妻が待っている家には、私も帰りたくないのう……」と、ホレイシオへの共感の言葉を言わせたかっただけなんじゃないだろうか。でも斎藤さん、宝塚の観客は、9割以上が女性なんだからねっ!!その述懐には残念ながら納得できないわ……(T T)。



■第5場B ロンドン ~決意~
フッド提督だけを残してノーフォークのネルソン邸が幕の裏にしまわれると、そのままロンドンの海軍省の一室へ。
ヘンリー王子(十輝いりす)やジャービス提督(珠洲春希)も登場し、ネルソンの意見に真っ向から反対する。
盟友ナポリの危機。足元(国民)に火がついてしまったナポリを、放置してはおけない。そう主張するネルソン。しかし、国家中枢は出動を許可しない。
「ナポリへの援軍は、出さない!」そう宣言して出ていくヘンリー王子は、つい見惚れてしまうほど格好良いです。

イギリスは小国。資源もなく国土も狭く、技術と貿易に頼った経済状態です。
そんなイギリスに、他国を真っ向から支援するだけの体力はないんですよね。ナポレオンがいつエジプトから帰還するかわからない今、ヘンリーたちの立場では、艦隊の温存を選択するしかない。
でも、ネルソンは自分が勝てることを知っている。艦隊を損なうことなく、国王や王妃、そしてイギリス大使を救出するための算段がちゃんとある。
だから、彼は言う。
「これは国務ではない」
と。


「行きましょう!ナポリへ」
と明るく笑うハーディーが、とても好きです。大好きです(告白)。ここでネルソンを救うために、この役はあるんだと思っています。
アルバート(鳳翔大)とジュリアン(七海ひろき)を呼んで、兵士たちの招集を命ずるハーディー。


こうして、ネルソン軍は、イギリス国旗を降ろして、ナポリ動乱の真っただ中に飛び込んでいく。
ちなみに、ナポリの最初の革命は1799年1月。ナポリでのパーティーの4ヶ月後、第4場のクーデターより半年以上前の事件です。この事件そのものは半年程度でいったん終息し、フェルディナンドたちも国に帰るんですよね。だってナポレオンがエジプトへ行ったっきりなんだもん(^ ^)。

フェルディナンドが本格的にナポリを追われるのは、トラファルガーの海戦も終わった後の1806年。結局、トラファルガーの海戦はイギリス本土へのフランス軍の上陸を防ぎ、国家防衛の役割は果たしたけれども、ナポレオンの体面に傷をつけるところまではいかなかったんですね。補給基地はぶっつぶしたけど、エジプト征服は止められなかったナイルの海戦と同じような結果ということか……(しみじみ)。




話は違いますが。

祐飛さん、ともちん、大くん、カイちゃん………
イギリス海軍には容姿のオーディションがあるとしか思えんな(^ ^;ゞ



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