花組のみなさま、千秋楽おめでとうございます!
もちろん千秋楽なんて観られませんでしたが、
桜乃彩音ちゃん、愛純もえりちゃん、花織千桜さん、
三人とも、ご卒業おめでとうございます!皆さまのこれからが、幸せでありますように(祈)。




さて。
日本青年館にて、星組公演「リラの壁の囚人たち」を観劇してまいりました。
小原さんの作品を観るのはまったくの初めてで、どんなものかと思いながら行ったのですが。
……いやーーー、いい作品だなあ(感動)。

まず、宝塚でワンシチュエーションものっていう発想にびっくりしました。どうしても舞台面の華やかさを求められがちな宝塚において、この構成は非常な冒険だったと思うのですが、このくらい隙のない脚本があれば可能なんだな、と思いました。
小原さんといえばこの作品からはじまった「レジスタンス三部作」が有名で、大劇場作品にはどんなものがあるのか、当時を知らない猫は全く知らないのですが……柴田さんの往年の作品を観たときも思うことですが、言葉の持つ力というものを、今の作家陣にもう一度思い出してもらいたい、あるいは、知ってもらいたいな、と、そんなことを思いました。

ワンシチュエーションで、しかも複数の筋が絡み合うタイプの展開ではなく、徹頭徹尾エドワードを中心に据えた一本筋。それでも、エド、ポーラ、マリー、ジョルジュ、ギュンター、ジャン、ピエールとルネ、モラン氏、ルビック医師、ラルダ、モレッティ夫妻、リヒター……役として独立した通し役だけでもこれだけいて、あとパラディの女の子たちもそれぞれに個性を出して演じていて、下級生まですごくやりがいがあって、勉強にもなるだろうなあ、と思いました。



「リラ」というのは、ライラックのフランス語よみ。紫色の薫り高い花が咲く、モクセイ科の植物。
モクセイ科といっても、キンモクセイやギンモクセイみたいなこんもりとした木姿とはちょっと違うみたいですね。最初、「リラの壁」というタイトルを聞いたとき、反射的にアイビーみたいなつる植物を思い浮かべたんですが、、、あれ?ライラックの木姿ってどんなんだっけ?と調べたけど、よくわからなかった。
セットには、下手の方にすっきりした姿の木があって、ファサードの天井からは藤の花みたいに紫色の花が下がっていたので、割と背が高くて姿のすっきりした、小型のケヤキかナラみたいな木なのでしょうか?



袋小路、というか、複数の家の裏庭がつながったような、小さな空間。
大きなリラの木があって、つる草の這った古びた煉瓦塀に囲まれた、小さな空間。

パリの建物は割と大きな集合住宅が多く、表通りにアプローチ無しで直接玄関をあけているものがほとんど。その裏にはぽっかりと空間が開けていて、同じ通りに面している建物の裏庭と共通になっている……私が以前パリに行ったときに泊ったホテルも、そんな構造でした。ホテルと隣の建物との間に、細い、猫しか通らないような通路があって、ホテルの管理人たちはそこを通って裏口から出入りしていたんですよね。そちらに行くと、実際洗濯ものが干してあったり、犬が放し飼いになっていたり。隣の建物との間にも塀もなにもなく、その一角全体の共通のバックヤードになっていました。
50年前のパリがどんなだったかわかりませんが、たぶん、今回の舞台になっているのも、そういうところなんですよね…?
大通りに面している側にはパラディがあり、そこから角を曲がったところにモランさんやモレッティ夫妻が住んでいる家があり、そこからもう一つ角を曲がったところにもまた別の建物がある。この建物の客席側に裏通りから直接裏庭に入れる通路があって、その入り口を守るようにリラの木が生えている……

この空間設定ひとつで、絶対面白い物語になる!と思えるんですよね。設定そのものの持つ魅力、というか、そんな感じ。




物語の舞台は、1944年。エドの傷が治ってすぐのポーラとの会話の中で、「BBC放送で昨夜ヴェルレーヌの詩が……」というあたりが、ノルマンディ上陸作戦(1944年6月6日)の直前のはず(有名な暗号通信なので)。
エド・ピエール・ルネが最初に逃げ込んでくるのは、リラの花が咲く春……たぶん4月頃なのでしょうから、それからポーラとの会話までに2カ月程度。
さらに、物語の最後、ギュンターがマリーを連れて戻ってくるのが、ナチスのパリ撤退の直前。この頃にはすでに連合国軍が近付くとの報が流れてピエールとルネは脱出しているし、パリの街中にはバリケードが築かれ、ゼネストが始まっている……という状況なので、1944年8月半ば以降のことなんでしょうね。

ナチス政権下で、夜間外出禁止令が出ている。
これよりだいぶ前だけど、「カサブランカ」でもそんな話が出ていたなー。あのときは、フランス軍のルノー大尉とよろしくやっていたリックのカフェは、夜間外出禁止令もちょっとお目こぼし、みたいな感じでしたが、ナチス軍ご用達のキャバレー「パラディ」も、お目こぼししてもらっているみたいですね。
「ジュ・シャント」も似たような時代を扱っていて、時代的には「カサブランカ」⇒「ジュ・シャント(二幕)」⇒「リラの壁の囚人たち」。
どの作品にも、ドイツ兵が出入りする「店」(「カサブランカ」ではリックのカフェ、「ジュ・シャント」ではアリスちゃんの舞台、「リラ」では「パラディ」)が出てきて、フランス人(亡命者)たちはそれを遠巻きに見ている……という構図があるのが面白いなあ、と思います。実際にもああいう感覚だったんでしょうね、きっと。「侵略者」に対する目線というのは。

進駐軍に対する日本人たちの目線も、いろいろ複雑だったんでしょうけれども。そういえば、宝塚ではあまりありませんね、その時代の日本の物語って。第二次世界大戦中あるいは戦後のヨーロッパを舞台にした話は結構多いのに。「黎明の風」くらいかな。




そんな時代背景の中で、イギリスの情報部員としてはたらくエドワード・ランス。
彼は、この物語のなかでは「情報部員」らしい仕事はいっさいしません。ヴェルレーヌの詩にも無反応だし、他にも色々。本当に情報部員なのかお前!?と思ってしまう。
ただ、「遠からず連合軍が上陸し、ナチスはパリを追い出される」と明言できる程度には戦局が見えているんですよね。ただのタラシじゃなくて(^ ^)。

私は、テルくんのことは役者として結構好きなんですが、彼女の一番の魅力は、あのにじみ出るような優しさだと思うんですよね。
じっと相手のことを見て、にこっと笑う。太陽のような眩しさのない、ひっそりとした月のような頬笑み。不幸な女をひっかける最大の武器を生まれながらに与えられて、その威力もわからずに振り回しているみたいなところが凄く好きなんです。
幸福な、生命力にあふれた女は、テルくんにはひっかからない。
「凍てついた明日」でも、アニスは「幸せになる」という意思があるから、彼から逃れるんですよね。でも、ボニーは「どこかへ行きたい」と思っているだけで、「幸せに生きる」ことに意味を見いだせない。だから、テルくんと一緒に行ってしまう。

ポーラもマリーも、幸せだとは言えない。
ジョルジュとの歪んだ関係に疲れ果てたポーラ。ろくに男を知りもしないで、身請け同然にナチスの将校に買われる自分に納得できないマリー。
そこに幸せがないことはわかっていても、どこかへ連れて行ってくれる男、あるいは一緒に逃げてくれる男を求めてしまう。エトランゼとして、「帰る地」を持つエドは、ちょうどそういう男だった、ということだと思う。
そういえば、クライドは「帰る地」を持たない男だったな、とふと思い出してみたり。


テルくんが演じる「エド」のキャラクターは、クライドに少し似ている部分もあるだけに、若干の違和感をぬぐえませんでした。
閉じ込められたら、おとなしく閉じこもっているタイプに見えるんですよねー。イラついて壁を叩いて歌いだすようなキャラだったことに驚きました(@ @)。
閉ざされた空間で、満足しておとなしくしていられる人に見えるんだけどな。まあ、人懐っこく裏庭の住人たちに話しかけるのは違和感ないんですけど、基本的には飼い猫っぽいので。

ただ、根本的なところでそういう違和感はありつつも、「情報将校」にはちゃんと見えるところがビジュアルの勝利だな、と。
絶対、身分を隠して女を口説いて情報を集めるタイプなのよ!と力説したい。(誰か聞いてください)情報将校として働いている姿はすごく想像できる。
ただ、あんまり自分の意思で「イギリスのために」「汎ヨーロッパの平和と安寧のために」なんていう大上段にかまえた思想を持っていそうに見えないだけで。
……マリア・テレジアの旦那とか、ああいう役は滅茶苦茶嵌るんだけどなー。キャラクターの抽斗の中に「黒」い部分が無さすぎる上に、熱いモノも全くないので、『白いヒーロー』をやらせると優しいだけになってしまうんだな、と納得してみたりしました。後ろ向きでアツくなれない、血圧の低そうなところが魅力の人だと思うのですが、『ヒーロー』を演じるには課題が多い人なんだな、と思いました。

ま、エドって本質的には『ヒーロー』として演じなくてもいい役だとは思うんですけど、今回は演出が中村さんなので、エドがわかりやすく『ヒーロー』でいてくれれば、もっと盛り上がれたかな、と思いました。



話はだいぶ飛ぶんですけど、エドのあまりの煮え切らなさに、私は途中まで、てっきりエドにはロンドンに妻かあるいは許嫁が待っているんだと思い込んでました(^ ^;ゞ
マリーのことを、頭から恋愛対象から抜いて話している姿とか、独り身ではありえんだろう!
ポーラに一目惚れしてマリーなんて目に入ってない、って感じでもないのに、「あなたは可愛い」とかサラっというのってありえないでしょー?女を口説く気持ち全く無しでそんなことが言えるのは、中年以上の枯れた紳士だけですよ。
相手を女だと思ってないんだもん。「女の子」だとしか。ひどいよなー。


ちなみに。ビジュアルキングの筈のテルくんですが、猫が一番悶えたのは、冒頭とラストの髭姿でした(*^ ^*)イヤぁん、似合いすぎるっっっ!!あの帽子の角度も最高よ♪♪





他のメンバーもそれぞれに良かったんですが、長くなってきたので、また明日にでも続きを書きたいと思います。



あ、でも、一言だけ。
ピエールの天寿光希さんが、最高に格好良かったです!!

普段はあんなに色白なのに、少し濃いめに地色をつくって、精悍な感じ。いつも笑顔が可愛いなあと思っていたのに、突然あんなに格好よくなるのは反則ですよ(^ ^;ゞ
しかも、声がめっちゃ低くて太い!!あんな声も出たのか……とびっくりしました。テルくんがちょっと甘えた感じの柔らかい声だし、ルネの麻央くんがまた女の子丸出しの可愛い声なので、一人だけ「男」な感じでした(*^ ^*)。
小柄なのが心の底から残念だけど、スタイルのバランスは悪くないと思うので(贔屓目?)、衣装の着こなしなど工夫しながらがんばってほしいです。

……せっかくの低音が魅力のピエールさんですが、さすがにあの声では歌えないのでしょうか?突然階段の上で歌いだしたときには、何事が起きたのかと思いました。太陽みたいな明るい笑顔に、少し高めの甘い声、という、いつもの見慣れたみっきぃさんでしたが、、、おーい、ピエールさんはどこに行った?って感じも若干(汗)。

いや、それもステキなんですけど!(←駄目かも)


なんか、若干墓穴を掘ったような気がするので、このへんで。


コメント

nophoto
dasy
2010年6月1日16:51

こんにちは、ご無沙汰いたしております

>不幸な女をひっかける最大の武器を生まれながらに与えられて、その威力もわからずに振り回している< って・・・ 笑ってしまいましたよ、納得♪

情報将校として働いている ことについての語りにお付き合いしたいです
ぜひ呼んでください ^^;(え?) 

ミッキーくんですけど、
千秋楽の出で、去り際にさりげなく投げた投げキッスが、むちゃくちゃかっこよかったデス(はぁと)

みつきねこ
2010年6月2日1:12

dasyさま♪
読んでくださってありがとうございます★

>情報将校として働いている ことについての語りにお付き合いしたいです

ホントに?ホントにきいてくれます?(^ ^)

>ミッキーくんですけど、
>千秋楽の出で、去り際にさりげなく投げた投げキッスが、むちゃくちゃかっこよかったデス(はぁと)

そんな罠が(^ ^;ゞ
千秋楽の出か……行けば良かったなあ。今、最高潮にみっきぃさんモードに入っています。ロミオ&ジュリエットでは何をするんだろう~~~(←梅田には行けないので博多に行く予定)