東京芸術劇場中ホールにて、TSミュージカル「Garantido~生きた証~」を観劇いたしました。
(2月の落穂を拾わせていただきます)



謝珠栄さんが企画・演出・振付を手がける「TSミュージカルファンデーション」。
私は「黒い瞳」の謝さんの振付が大好きで(^ ^)、「天翔ける風に」初演以降の作品は、予定が合う限り観るようにしていました。でも、公演期間があまり長くないので結構抜けている作品があって、、、この作品の前身となった「砂の戦士たち」も、観たい観たいと思っているうちに公演が終わってしまってとても残念だったのを覚えています。

まぁ、解説などを読むと、「砂の戦士たち」と「Garantido!」の関係はあまり深くないみたいなので、あまり気にせず楽しんでまいりました♪




「現代」の日本で、ある劇団が公演の稽古に入っている。
この公演は、その劇団の“前主宰”=「先生」の追悼公演であり、“新しいリーダー”=「演出家」である吉村(吉野圭吾)のデビュー作品でもあるらしい。

新作の舞台は第二次世界大戦中~戦後のブラジル。
そして、テーマは『仲間』。彼の地に生きることを選んだ日系移民たち(&二世たち)の、苦悩と苦闘のものがたり。

アマゾンの開拓を夢見てブラジルに移住した日本人たちは、1942年の日本ーブラジル国交断絶により、『敵地』の真ん中に放置、いいえ、“放棄”されることになりました。
アメリカにいた日本人二世・三世たちの苦労話はイロイロ伝わってきていますが、改めて考えてみれば、日本政府の肝いりで移民(国策移民)したブラジル移民たちの苦労も、なみなみならぬものだったはずですよね。
勤勉で真面目な日本人は、現地人たちともうまくやっていたはずなのに。ある日突然てのひらを返したように態度が変わる。
焼打ち、略奪、そして収容所。殺されはしなかったにしても、土地は荒らされ、財産は奪われ、、、、夢を抱いて広い太平洋を渡り、気候も違う食べ物も違う病気も違う……さまざまな苦労の末にやっと食っていけるようになったところで、突然巻き込まれた「戦争」。


勝手に戦争を始めておいて、迎えには来なかった、日本政府。
それでも、「ジャポネス・ガランチード(信頼できる日本人)」というアイデンティティを守ろうとした移民たち。



彼らの苦闘と、頭(前主宰)を喪った劇団のアイデンティティを守ろうとする吉村の苦闘を縒り合わせて、「仲間とは?」というテーマを投げかけた一幕。
戦後のブラジルで、自分たちの育てた作物の販売権を取り戻し、『開拓民』として生きていこう!とがんばる若者たちを、『仲間意識』はつくるものじゃない、と気づいていく劇団員たちの目覚めと対比して描く二幕。

二重構造を持つ作品の中で語られるのは、自分たちのアイデンティティを護るために支払われるものと、「仲間でいる」ために払われる犠牲の対価………みたいなものなのかな、と思いました。
非常に勝手な解釈ですみません(^ ^;ゞ






宝塚ファン的には、「夢をかなえるために」船を作るぞ!という展開が、「パリの空よりも高く」の原作である「花咲く港」を思い出させてくれて、ちょっとウケてしまいました(*^ ^*)。
ここできっと嵐が来て、マストが倒れそうになるのよ、でも吉野くんが一人で支えるんだわきっと!!……いや、もしかしたら、支えるのは樹里ちゃんかも……などと、どんどん想像が膨らんだ数分間でした。

……実際には、嵐ではなく、悪意を持つ『ヒト』の存在によって船は傷を負うのですが。



この『悪意を持つヒト』の登場が若干唐突(伏線が無いの)で説得力に欠けたことと、
ラストの展開が…というか、ラストのオチが今ひとつすっきりしないものであったことが残念ではありましたが、総じて非常に面白い物語だと思いました。
生まれたところがイコール故郷なのではなく、自分で選んだ故郷への忠誠心、というテーマの切実さは、非常に謝さんらしいところだと思うんですよね。
故郷=無条件に自分を受け入れてくれるところ、というふうに捉えるならば、『ホンモノの仲間』は故郷となりうるわけです。
だから、自分自身も選ばなくちゃいけない。今の時代、帰属しうるモノはたくさんあるわけです。その中の、どれを自分の「故郷」とするのか?そして、自分はその「故郷」にとっての「故郷」になれているのか、と。

謝さんらしいテーマだな、と思いながらも、あれこれ思い悩む自分がいました。

「ジャポネス・ガランチード!」
そんな魂の叫びに、心洗われながらも。




吉野圭吾
吉村(某劇団の新しいリーダー)/関川カツオ(移民)
基本的に彼の視点で全ての物語が動くので、とても大変だったと思います。
でも、すごく良かったです!さすがだなあと感心しました★TSにも又出て欲しい♪



坂元健児
紀元(某劇団の客演者で、今回の新作の脚本家。吉村の友人)/山田アキラ(日系二世)
「仲間」のあり方を探して苦しむ吉村を一歩離れて見守りながら、自分自身を探している彼が、とても切なくて良かったです。
最後に答えを見つけた紀元と、アキラのモノローグがリンクしていくのがすごく良かったです。
……ラストは、脚本的にちょっとイマイチ…という感じでしたが、坂元くん自身はすごく良かったです。あの、絶妙に『一歩離れた』感って、彼の特技のような気がします。他に、ああいう存在感で舞台に居られる人って思いつかないような気がする…。



畠中洋
畠野上(某劇団の劇団員)/ゲンゾウ(移民)
役としてもいろいろ語りたい役ですが、とにかく畠中さんは格好良くて素敵でした!(きっぱり)
他に言うべきことはございません。(……えっ?)




樹里咲穂
千里(元は某劇団に所属していた女優。新作に客演予定)/ヒデミ(日系二世)
クールであまり感情を表に出さないけれども、誰よりも真剣に作品に取り組んでいた千里。最近メジャーデビューして別の事務所に移籍した元劇団員という設定がぴったりはまっていたと思います
先生の追悼という気持ちだけでなく、劇団が変わっていくのをきちんと見届けたいんだろうな、と、そんなことを思いました。

ヒデミは、たしか幼い頃に両親を亡くし、移民団の若者たちに育てられた…という設定だったと思います。戦争中は収容所に入っていたけれども、戦争が終わってそこを出て、でも女の子一人で生きて行けるはずもなく、娼婦まがいのことをして生き延びて、移民団のいるアカラまで歩いて戻ってきたところで舞台に登場、みたいな感じ。
「そんなこと(←身を売るような真似)をしてまで、なぜココへ戻ってきたのか?」と問われたヒデミは、「だってここには、パパとママのお墓があるから」と答えます。
「無縁仏になんてしたくない」と。

そんな彼女を憐れんだ移民団の若者たちは、彼女を関川(吉野)と結婚させます。
……えっ?と思いましたが(^ ^;ゞ。まあ、多分、設定を考えると、ヒデミはまだ子供みたいな年頃なんだと思うんですよね。せいぜい16,7?樹里ちゃんと吉野さんが演じているからちょうどお似合いの二人に見えちゃいますけど、実際には相当に年の離れたカップルだったんだろうな、と。
二人のラブラブ場面はあまり無いんですが、建設中の船の側でちょっと言葉を交わす場面が、私はとても好きでした。

紅一点だった樹里ちゃんですが、ショートカットだし衣装もシンプルでパンツが多かったので、あんまり紅一点感はなかったなあ~(^ ^; 下手に色気があると辛い役なので、樹里ちゃんでちょうど良かったんだと思います。謝作品の並み居るダンサー陣に一歩もひけをとらず踊りまくる姿の格好良さといったら(はぁと)、さすが!!という感じでした♪



西村直人
西尾(劇団員)/タダオ
いやあん、かっこいい♪♪
ベテランの劇団員で、「どうしてアイツ(吉村)がリーダーなんだよ。納得いかねぇ」ってぶちぶち言ってる姿も可愛かったし、移民団の中でふらふらしている姿も素敵でした。
ああいう役、似合うなあ……。っていうか、謝さんの信頼篤いよなあ……。



岸祐二
根岸(劇団員)/山田ノボル(アキラの兄)
この人が、どちらの物語でもキーマンとなるのですが、芝居も歌もさすがの巧さでした。



伊礼彼方
伊藤(劇団員)/イチロウ(日本人の父とブラジル人の母の間に生まれたハーフ)
彼が一番、劇中劇の現実に近いひとなんですよね。チリ移民のお父上と、チリ女性の母上。この人がいてこその、この作品だったような気がします。
100%の日本人ではないからこそ、誰よりも『日本』への憧憬が強かったイチロウ。彼の気持ちを憐れむのは簡単なことですが、最初から『与えられた故郷』を持たなかった彼が、『日本こそ我が故郷』と定めたからこそ、裏切りに加担してしまう……その想いがひどく切なかったです。
ひょうひょうと演じているようで、結構苦しんだんじゃないかなあ、なんて勝手な想像をしてしまいました(^ ^;ゞ



他の出演者は、良知真次、川本昭彦、平野亙、島田邦人、上口耕平。謝さんが選ぶにふさわしい実力派ぞろいで、面白かったです♪





で。
本題とはあまり関係ないような気もするのですが、、、
吉村が継ごうとする「劇団」の前主宰、亡くなられた「あずませんせい」は、元東京キッドブラザーズの東(ひがし)由多加氏をモデルにしているのでしょうか…?私は実は東氏の作品を直接観たことはないのですが、謝さんのなみなみならぬ思い入れを感じて、映像でもいいからちょっと観てみたい、と思いました。





……今プログラムを見ていて、初めて気づいた事実がひとつ。
エレクトーン演奏=林アキラだったのか!!
ええええっ?アンコールでミュージシャンたち挨拶に出てきてたよね?何故気がつかなかったの、私っっ!?



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