日本青年館にて、月組公演「HAMLET!」を観劇してまいりました。



脚本・演出は藤井大介。
音楽は、青木朝子&手島恭子の女性コンビ。

ほぼ全編を歌で語る、最初から最後まで突っ走るような、疾走感のある「ハムレット」。
めまぐるしい展開、うるさいほどの生演奏、コロスを上手く使った心象風景ダンスの多用。

「To be, or not to be?」という有名な台詞を使った主題歌が耳に残って、
……素直に感嘆しました(^ ^)

本当に面白かった!


2009年の一年間に4本のショー(うち二本は再演)を創りあげ、その底力を見せ付けた藤井大介の、2010年最初の作品が、このロック・オペラ「ハムレット」。
これを観て、なんていうんだろう……彼は一段階上に昇ったんだな、という気がしました。

私は実は、「Alas」以来の藤井ショーのファンなんですが。それでもさすがに、原作無しの完全オリジナルなお芝居で、マトモに最後まで話が終わった作品が一つもない、というのは問題だと思うんですよね。全作品観ているわけではありませんが、トンデモな作品は本当にトンデモなので。
でも、彼は、原作があれば強いんです。
「から騒ぎ」も良かったし、「イーハトーヴ・夢」は、私の中では長いこと「心中・恋の大和路」の次くらいの名作にカウントされていました。
そして今、「ハムレット」がその列に並んだ……かもしれない!


しかも。
「イーハトーヴ・夢」が、非常に役者を選ぶ作品(宮沢賢治=大人の男とジョヴァンニ=子役の二役を演じるので、まず声の使い分けができないと無理)なのに対して、この「HAMLET!」は、あの激しいロック調の歌さえ歌いこなせれば、誰がやっても格好良く仕上がりそうな役。若手スターのファンなら、誰だって自分の贔屓にやってもらいたいと思う役であり、作品なんじゃないかと思います。

むしろ、難しいのはオフィーリア。あのファンタジックで明朗な透明感は、誰でもが持っている魅力ではないので。今の若手娘役陣だとあまり思いつかないなあ。台詞がなんとかなった月野姫花ちゃん、あるいは芝居でなんとかできそうな天咲千華ちゃん、、、くらい?
どんだけ人材豊富なんだよ花娘。





ストーリーは、予想していたより原作に忠実。
いや、細かい所は随分違ってます。キャストを見ただけでも、フォーティンブラスが丸ごとカットされていたり(ノルウェーとのエピソード自体が無い)、ローゼンクランツが女性でハムレットとワケアリの仲だったり。大量にあったモノローグも随分削られて、元の半分くらいになっているような気がする。
でも、、、年末にみた「笑いすぎたハムレット」並みの改変を想像していた(^ ^; 猫には、拍子抜けするくらい忠実なように見えました(^ ^)。



この公演の成功の要因の一つに、ロック・オペラだから、というのがあると思います。
シェイクスピアは古典なので、そのまま上演する場合、よほど台詞術に長けた役者を揃えなくては現代の観客を引っ張っていくことが出来ません。あれだけ膨大な量の言葉、壮大な比喩をもちいた、口を挟む隙もないような言葉たちの群れは、実生活ではまずお目にかからないものですから。
歌舞伎よりも、ずっと古い時代のものなんだもの。タルい、眠い、美辞麗句すぎて笑っちゃう、ワケがわかんない……そんな印象があっても仕方ないと思います。


でも、藤井さんはそれでヨシとはしなかった。
古典を古典のまま上演するのではなく、ロックオペラとして再構築した。スピード感を大事にして、タルい台詞は全部すっ飛ばし、あるいは歌にして、流れの邪魔にならないよう片付けておく。その、絶妙なバランス感覚。
この取捨選択のセンスが、藤井さんはさすがだと思いました。

複雑でわかりにくいからといって、細かいエピソードを全部取っ払ってしまったら、話が全然わからなくなる。あるいは、伏線のひとつもない、シンプルすぎてなんの面白みもない作品になってしまう。どれを残してどれをカットするか、あるいは、ただカットするんじゃなくて歌の歌詞として残すか、その絶妙な判断の、ピンポイントの確かさ。

既存の、別の人間が書きたい視点でまとめたた「原作」という存在。その中から自分が語りたいエピソードをつかみ出し、それを中心にまとめ直す。それも、力技ではなくセンスよくまとめることができる人は非常に限られるからこそ、小池さんは巨匠になり、藤井さんもその道を辿っている……んじゃないかなあ。
本当は齋藤さんも同じ道を歩いているはずなんだけど、彼は時々萌えに狂って踏み外すのがな……。





ただ。
この人の、宝塚作品のクリエーターとしての一番致命的な欠点は、ファンタジーしか創れないことだ、とも思いました。
具体的な話をするならば、リアル感のある恋愛が描けないんですよね、彼は。

「イーハトーブ・夢」にしても、この「ハムレット」にしても、恋愛を描いてはいません。
『ハムレットとオフィーリア』という、ロミオとジュリエットの次くらいに有名なカップルを主役にしていながら、恋愛を描くことはしない。
彼らはお互い、最初から微妙にすれ違っているんです。ハムレットはオフィーリアを可愛いと思っているし、オフィーリアはハムレットに憧れているけれども、お互い恋に恋しているだけ
、って感じで。

それが、藤井さんの個性なのか、まさおの個性なのか、、、、たぶん両方揃ったことによる相乗効果なんだろうけど(^ ^;。






衣装は河底美由紀。実は今まで、あまり河底さんの衣装で感心したことが無いのですが、今回のオフィーリアの衣装は、前半のも後半のもとても可愛くて良く似合っていて、しかも、蘭ちゃんの芝居をしっかりサポートしてくれる、良い衣装でした。ありがとう♪
ハムレットは赤、クローディアスは青、ポローニアス一家(レアティーズ・オフィーリア)は緑という色配分が非常に明瞭で舞台面が綺麗だったのも良かったと思います。「ハムレットのご学友」のくせに最初から青の衣装で登場するローゼンクランツとギルデンスターンとか、とっても判りやすくて良かったです。
でも、ハムレットの衣装はイマイチだったなあ(T T)。まさおもちょっと華奢すぎるかもしれないけど、スタイル自体は良い人なので、もっと似合う衣装がいくらでもあると思うのに。

で。とりあえず、その髪型と化粧を決めたのは誰なんですか。(←本人だったり?)どうしたって男性には見えないんですけど…いいのかなあ?





作品全体の演出コンセプトは、『エリザベート』でした。
プロローグの演出がパクリ寸前なくらいよく似ているので、最後までその印象が抜けず。
あと、音楽も、音が渦を巻くように不協和音が響いて、パッと止まる瞬間の響きが同じだったり、そこかしこ似ている部分があって。話としては全然関係ないんですけど、「Non-Stop」や「から騒ぎ」の妖精たちが、進化したら亡霊になっちゃった、みたいな、なにか不思議なイマジネーションがありましたね。

そして、『エリザベート』の新人公演を鮮明に思い出しました。
宇月くんのルキーニ好きだったんだよ(涙)。


そして。
お芝居のラストシーンを観て、今更ながら、あのプロローグになんとなく納得しました。

デンマークの王位を継ぐノルウェー王子フォーティンブラスが出てこないので、ホレーシオは永遠にハムレットのことを語り継がなくてはならなくなったんですよね!
たぶん、煉獄の底までも。

……原作本では、ハムレットはとりあえず、「フォーティンブラスに説明してくれ」って頼んでましたよね……?



……もとい。
藤井さん、『エリザベート』やりたいんなら、やれば良いのになー(*^ ^*)。
結構良いと思いますよ♪(←藤井ファン)。

小池さんにはしばらく新作に専念していただいて、初演から10年以上も過ぎた『エリザベート』は、他の演出家が順番に演出してみたら面白いんじゃないかと思っていたりするんですよね。
たぶん、藤井さんがやったら、森川久美の漫画に近い、ファンタジックなトート像になるんじゃないかと予想して、めちゃくちゃ観たくなっています(^ ^;ゞ。
……少年トート、か。誰がいいのかなあ……。




一人一人のキャストについては、また後日書かせていただきます。
まあ、あれこれと徒然ことを書いていますが、とにかく良い公演でした。藤井さん、本当にありがとう(*^ ^*)。


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コメント

nophoto
hanihani
2010年2月24日15:49

23日の夜の部を観ました。

この作品自体がとても面白くて興味深いものだと感じました。
最初はどこのエリザベートかって感じでしたよね

>>デンマークの王位を継ぐノルウェー王子フォーティンブラスが出てこないので、ホレーシオは永遠にハムレットのことを語り継がなくてはならなくなったんですよね!
たぶん、煉獄の底までも。

そうか~!宇月くんは誰に語り継ごうとしてるのか謎だったんだけど納得、納得。
藤井先生のエリザベートはアリ!だと思いました。絶対やりたいんだよ~
小池先生、ちょっと譲ってあげてよ

で、個々に関して忘れないうちに感想書いてください。
私も色々と思うことがありましたので、なるべく早く書いてね♪(笑)

みつきねこ
2010年2月25日3:48

はにはにさま
コメント本当にありがとうございます!!(^ ^)

> 最初はどこのエリザベートかって感じでしたよね
でしたねぇ(^ ^;

> 藤井先生のエリザベートはアリ!だと思いました。絶対やりたいんだよ~
> 小池先生、ちょっと譲ってあげてよ
ね、そう思いますよね?
私の、この公演を観て一番強く思った感想はソレでしたよ(汗)

すみません、今夜は書き切れなかったので、明日かならずー。