東京芸術劇場中ホールにて、ミュージカル「蜘蛛女のキス」を観劇して参りました。


二年前に上演された、荻田浩一演出版の再演です。
その時の日記はこちら。
http://80646.diarynote.jp/m/200711070033480000/




前回とのメインキャストの変更点は……

モリーナ      石井一孝
ヴァレンティン   浦井健治
オーロラ(蜘蛛女) 金志賢 ← 朝海ひかる

モリーナの母    初風諄
所長        今井朋彦 ← 藤本隆宏
マルタ       朝澄けい  
ガブリエル     縄田晋

そして、役名はありませんが、ダンサーの辻本和彦さんが加わって、ダンスでの表現が非常に高度になっていました。





なんだか、作品については前回の日記と、そこから更にリンクしている日記(公演が発表された頃のもの)にだいたい書いたので、今日は、変更点を中心に述べさせていただきます。
よろしければ、昔の日記を合わせてお読みいただければ幸いです。

三年前の、発表時の日記に、大浦さんのオーロラを観てみたいと書いている自分……あらためて、哀しい(T T)




あ。でも。
変更点を語らせていただくまえに、残念ながら変更されていなかった点、について。
前回公演でも気になった、舞台と映像の使い方、なのですが。


荻田さんの、特に宝塚を卒業してからの作品を観ていて特徴的だな、と思うことは、舞台をとにかく小さく使うこと、です。
彼の演出思想の根幹に『閉塞感』というイマジネーションがあるんだろうな、とは思うのですが、それにしても極端なくらいに、彼は舞台の手前に大きなセットを置いて、間口を狭めたがるんですよね。

そして、狭めた間口の閉じた部分に、象徴的なものを置く。
それは、セットそのものであることもあるし、人を配置することもありますが、、、
意外と多いのが、映像を映写するという手法。


その演出手法自体が悪いとは言いません。
それで成功する事例もあります。映画とのコラボのようだった「カサブランカ」のように。

でも。

……「蜘蛛女のキス」には、余計な演出だと思うんですよね。

モリーナが語るのは、映画の物語。で、彼女が映画を語ると、映写機の回る『カラカラ』という音が鳴り、照明が、ザラついて薄汚れた映写機っぽい質感に変わり……
その役に扮したオーロラが舞台に登場する。

そこまでやっておいて、さらに間口を閉じたところに映像を映す、というのは、やりすぎだと思うんですよ。石井さんの語り口から映像を想像する楽しみが、ない。
しかも、その映像そのものがイケてない……(T T)



まあ、どうも映像の使い方にセンスがないな~と思っていた小池さんが「カサブランカ」でものすごく見事なコラボレーションを見せたので、荻田さんもいずれ自分のイマジネーションの中に映像を取り込めるのかもしれませんが。
……今のところ、映像の使い方については失敗続きなのがちょっと気になる……。





ま、そんなことはおいといて。

まず、なんと言ってもキャスト変更で大きいのは、主役3人の一角である処のオーロラ(蜘蛛女)。
歌は本当に素晴らしかったです(はぁと)。今回のキャストでCDを出してほしいです。ええ。


私は四季ファンとは名乗れなくなってから長く、「CATS」も「ライオンキング」も、金さんが出てきてからは観たことがないんですよね。お名前は勿論知っていますし、歌が素晴らしいという噂も聞いておりましたが、実際に聴いたのは初めてで……
第一声から、「おお~~~!!!」という感じでした(^ ^;ゞ

やっぱり、ジョン・カンダーの甘美な音楽は、甘美に歌い上げてくれる人で聴くと違いますね(*^ ^*)コムさんも予想よりずっと良かったんですけど、、、、根本的なレベルが違うのは仕方の無いことなので。


ただ。
オーロラ役がコムさんから金さんに代わったことで、荻田さんの演出から伝わってくるものも若干変わったことは事実で、それが彼の狙いだったのかどうなのかはわからないなあ……という気はしました。

コムさんのオーロラは、全く実在感のない人形的な象徴。その「血の通ってない」感じがすごく魅力的な蜘蛛女でした。でも、金さんはソコまで非現実的な存在ではなくて、むしろ宝塚時代の荻田さんのショーにおけるシビさん(矢代鴻)の存在感に近かったと思います。

そうか、荻田さんにとって、シビさん=蜘蛛女だったのか!(真顔)と思いましたので。


……シビさんの蜘蛛女、かなり聴いてみたいです。(←踊らなくていいから!)




コムさんとシビさん。
全くタイプは違うけれども、どちらも荻田さんにとってのミューズだったことは間違いないお二人。
シビさん本人ではないけれども、良く似たタイプでさらに現実感が高く、しかもダンサーとしても一定レベルをクリアしている金さんという役者との出会いは、荻田さんにとってラッキーだったのか、どうなのか。これからの舞台づくりに興味は尽きません。




そういえば。

コムさんから金さんに代わって、ダンス場面はどうするのかな?と思っていたのですが、すみませんすみません、金さんも十分にスタイル良いし踊れるんですね。どうもグリザベラとラフィキで評価された人という印象があって、金井小夜子さんと同列に考えていたのですが(^ ^;ゞ。
……あのド迫力のダンサー脚にはちょっと感動しましたわ(^ ^)。

ただ、金さんは、声では十分にファンタジックなんだけど、踊ると結構リアルに存在感があるんですよね。だから、歌っているシーンと踊っているシーン、場面ごとに蜘蛛女という存在の実在感にムラがあって、ちょっと違和感を感じてしまいました。
う~ん、なまじ踊れるからダンスもやらせてしまったけれども、今回はダンサーとして辻本さんが参加してもいるので、彼に身体表現は任せて蜘蛛女はただそこに居るだけ、という演出もありだったと思うんだけどな……。





もうお一人の変更キャスト、今井朋彦さん。
前回の藤本さんがマッチョで尊大な所長さんだったのに対して、非常に怖ろしい、真綿で首を絞めあげていくようなタイプの責め方をする人だな、と思いました。
石井さんのモリーナは割とシンプルに優しいので、こういうのに引っかかったらひとたまりもないな、という感じ。独特の存在感があって、面白い役者ですよね。
歌も良かったし、これからもミュージカルにぜひ出ていただきたいです♪……本業でお忙しいこととは思いますが(汗)。





そして。
浦井ヴァレンティンと石井モリーナ。


石井さん、ぶっ飛んでました。ええ。
本当に素晴らしかった。モリーナがタイトルロール(蜘蛛女)みたい に見えて、すごく新鮮。



対する浦井ヴァレンティンは、前回の、肩に力が入った感じ…というか、ちょっと突っ張った不良少年みたいなところが抜けて、下っ端のチンピラなりにプライドのある大人になっていた印象。
そして、モリーナへの愛は、初演の方が明確だったかな。今回はちょっと、計算の方が強く見えました。「なんでもするさ俺のためなら」と歌いながら、唇の端で嗤うあたりが。

でも、それでも「二度と自分を…」のくだりに愛があるのは、彼の魅力だと思うのです。と、まんまと泣いた猫は語る。(←単なる浦井ファンだから、それ)


前回に比べると、生意気な青さが影をひそめた分、あちこちがとんがって、あたりがキツくなった印象もありました。それが、より懐大きく、包容力を増した石井モリーナとの組み合わせの妙で、物語が大きく膨らんだように見えたのが面白いところだな、と。
ただ、マルタとの関係が少し変わったように見えたのがも面白いところだな、とおもいます。




で、カヨコちゃんのマルタ。
私は彼女の声というか存在感が好きすぎて、彼女が喋ったり歌ったりすると、もう、それだけで何でもいいやというか(^ ^;ゞそんな気持ちになるのですが。

マルタって役は難しい役で、ハロルド・プリンス演出版では、モリーナからの電話に出たときも、ほとんど動揺もみせずに「そんな男知らないわ。なんの話?」と言いきる女で。そもそもヴァレンティンが彼女を恋人だと思っていたこと自体が妄想だったのか?(←その場合、所長はガガセネタをつかまされていたことになる) それとも、ホンモノの組織の中心メンバーに近い女だから、恋人とはいえ下っ端の男の生死に心乱れたりしないという感じなのかな?と思いながら観ていたのですが。

荻田さんの演出では、マルタはすごく悩むんですよね。モリーナからの電話に対してすごく動揺を見せる。もしかしたら、彼女はモリーナが監視されているであろうことを予想してあんな態度に出たのではないか、と、そんな想像をする余地があるくらい、絶妙のお芝居でした。

舞台の前半の、アムネスティ・インターナショナルの一員として視察にきたという芝居(声のみ)では、すごく真剣に「ここには彼がいるはずです!」と詰め寄るような芝居をしていましたよね。あれは、マルタが彼を探しにきたという設定なのか、別人格のなのか……どっちだろう?と思ったり。難しい存在ですが、彼女の不安定さや掴みどころのなさがあってこそのモリーナであり、“蜘蛛女”なのですから、あれはあれで良いんだろうな、と思います(はぁと)。





……歌も踊りも、もちろん芝居も、どれも素晴らしくて。
やっぱり私は、この作品が好きだなあ……と思ったのでした。




う~ん。
非現実的な血の通わない人形タイプで、スタイルが人間離れしていて、肺活量があって中音域~低音域が柔らかい、音程の確かな美声の歌手?

……いないか、そんな人……(T T)


歌さえ歌えればみなこちゃん(愛原実花)で観てみたい役ではあるのですが、荻田さん的には、だったらコムさんで良いんだろうな、たぶん……。



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コメント

さくら貝
2010年2月14日0:13

舞台で映像を使うのって難しいですよね。映像を背景として割り切ったのが「カサブランカ」の成功の一因かな、と私は思ってます。
全然別のジャンルですが、私が見た舞台では、映像使用の成功例は野村萬斎の「敦」、失敗例は野田秀樹の「野田版愛陀姫」などがありました。

話は変わりますが、私、今、名古屋です(笑)
帰ったらレポさせていただきますねー

みつきねこ
2010年2月14日0:25

さくら貝さま

>舞台で映像を使うのって難しいですよね。

そうなんですよね。その中では、祐飛さんは「Hollywood Lover」「銀ちゃんの恋」と映像を小道具に使って成功した作品に当たっているので、割と相性はいいのかな、と思いますが。
セット代わりにすると大概失敗するので、小道具あるいは背景として割り切るのが成功の鍵かもしれません。
萬斎の「敦」は観ていませんが、「野田版愛陀姫」はたしかにイマイチでしたよね(苦笑)。

> 話は変わりますが、私、今、名古屋です(笑)
> 帰ったらレポさせていただきますねー

わーーーーい♪楽しみにしています♪♪

さくら貝
2010年2月15日20:16

みつきねこ様も「愛陀姫」ご覧になったのですね。いや、もうあれは…(涙)
萬斎師は、映像や舞台機構の使い方がなかなか独創的で、
「映像と共演」する舞台を作れる方です。(私の贔屓目もありますが)
新作舞台をご覧になる機会がありましたらぜひ♪

週末、しっかりみーちゃん漬けになって帰ってきました。私のプロフィールの
「外部リンク」からブログにリンクしてありますので、よかったらご覧ください。
にこにこ、キラキラのお二人がとっても可愛かったです。

みつきねこ
2010年2月16日2:19

さくら貝さま、コメントありがとうございます♪
トークショーのレポート、拝見させていただきましたー!!ありがとうございます♪
みーちゃんやっぱり素敵だなあ(*^ ^*)。
続きも楽しみにしておりますので、よろしくですーm(_ _)m。

> 「愛陀姫」ご覧になったのですね。いや、もうあれは…(涙)
(^ ^;ゞ

> 萬斎師は、映像や舞台機構の使い方がなかなか独創的で、
> 「映像と共演」する舞台を作れる方です。(私の贔屓目もありますが)
> 新作舞台をご覧になる機会がありましたらぜひ♪

ハイ!萬斎さんの舞台は好きなので、行けるときはなるべく行くようにしてはいるのですが…
いかんせん、ここ数年行けてないんですよね。がんばります!