「カサブランカ」【6】
2010年1月10日 宝塚(宙)宝塚歌劇団宙組公演「カサブランカ」。
■第13場 ラ・ベル・オーロール ~1940年6月13日~
カンカン・ガールたちがポーズを極めてはけていくと、音楽が甘いメロディに変わって、店の雰囲気ががらっと変わる。
テーブルの客たちもだいぶ入れ替わっていて、舞台奥は下手端から雅桜歌&七瀬りりこちゃん、妃宮さくら&松風輝くん、天風いぶき&月映樹茉ちゃん、(階段)、天輝トニカさん一人、花露すみか&澄輝さやと。舞台手前は、風羽玲亜&安里舞生ちゃん、天玲美音&千沙れいなさん、珠洲春希&桜音れいちゃん。皆さん思い思いに談笑したり、踊ったり。
紅いイヴニングに着替えたイルザと、細いストライプのスーツに着替えたリックがセンターに登場。
♪月夜のラヴ・ソング 酔いしれて
アンニュイなサムの歌声。寄り添って踊る二人。しっとりとした空気。
『As Time Goes By』の流れる中、言葉を交わすリックとイルザ。
「嘆きの天使は、いったい宇宙のどこから現れたんだい?」
軽い調子で問いかけるリック。
「…私に恋人がいたか、聞きたい?」
「……」
「いました。一人だけ。……でも、もう死んでしまった…」
「すまない。過去は聞かないと約束したのに」
♪君について知りたいことは限りなくある
♪でも君が望まないなら 俺は訊かない
イルザに優しく微笑みかけるリック。眉間の皺ものびて、なんだか凄く幸せそう。
この作品の中で、ほとんど唯一と言っていい幸せな場面なので、甘く甘く……という感じですね(*^ ^*)。
♪君と生きる 今 この時だけが
♪愛の証を刻んでいく
♪失くした時は取り戻せない
♪だから後ろは振り返らない
二人で手をつないで銀橋に出る。
まっすぐにリックを見凝めるイルザの、頼り切った瞳が美しいです。「君の瞳に乾杯」と、何度でも言いたくなっちゃいます。
♪過去は訊かない 訊く意味がない
銀橋の真ん中で、抱き合って口づけを交わす二人。
しっとりと湿った、やわらかな空気。出会ってから僅か三ヶ月とは思えないような、深い信頼と甘え。イルザの頼り切った表情が甘やかで美しい。
本舞台には、さんざめく客たち。
下手手前で踊っているのは風羽玲亜&妃宮さくらちゃん、真ん中奥に雅桜歌&花露すみかちゃん、上手手前に珠洲春希&美風舞良さん……だったかな?ちょっと暗いので、全員はわからないのですが(汗)。たしか、下級生は天玲美音&七瀬りりこさん、天風いぶき&千紗れいなさん、澄輝さやと&桜音れいちゃんという組み合わせで踊っていたはず。
下手端のピアノでは、サムとマドレーヌ(大海亜呼)がこちらもしっぽりと話をしています。このお二人の空気もいい感じ。いい場面だなあ、と思うんですよね。
そんな穏やかな空気を切り裂く、鋭い声。
「皆さん、大変なことになりました!」
店内の階段に立って、支配人(光海舞人)が叫ぶ。
「フランス軍が撤退し、パリはドイツ軍の侵攻を待つばかりとなりました!!」
騒然とする店内。サムの手を引いて、舞台中央に向かって数歩駆け寄るマドレーヌ。彼女は店の中でも世話役らしく、すぐにサムの手を離して、怯えている女性たちを宥めはじめる。
カンカンガールから早替りした女性たちが左右から登場して、気がつくとものすごい人数が舞台上に。そんな中、ピアノの傍で呆然としていたサムが、慌てて戻ってくるリックたちに声をかける。
「リック、どうする?」
「とにかく、ホテルに帰りましょう!」
下手袖にはけていく三人。
本舞台では、紗幕が降りて、舞台前面でパリ市民たちのコーラスが始まる。
♪残るべきか 逃げ出すべきか
♪どこに行けばいいのか 行く先はあるのか?
怯え、惑う、市民たち。
♪パリにナチスがやってくる!
■第14場 パリの街角 ~1940年6月(悪夢)~
この場面は、最初から幻想だと思って観ていたのですが。
プログラムでは「パリの街角」となっているので、小池さんの当初の発想としては、ホテルに向かう途中、待っていたセザールに呼び止められたリックが、二人を先に行かせてセザールと対決するという場面だったのかな?と思いました。
まだこの段階ではドイツ軍は入ってきていないので、パリの街そのものはそこまで混乱してないはず。ホテルに着くなり寝込んでしまうほど疲れるような道中ではないだろうし、この緊迫した状況でうたた寝もないだろうし。その辺が、夢オチで片付けてしまうとどうにも理解しがたい、という気はします。
しかーし。
フランス人のレジスタンスならともかく、エチオピア兵とスペイン兵が「銃を我らに!」と叫ぶ、というのは、この時点では幻想でしかあり得ないので、やっぱり、場面としては悪夢の夢オチのつもりで造られているんですよね。
ううむ。この場面、場面自体は好きなんですが、理屈をつけようとすると迷路に入る場面ではあります。
しかも、この場面にエチオピア兵がいるのも不思議。
エチオピア戦争には、リックは直接関わってはいないですよね。武器を流しただけで、直接参戦はしていない。なのになぜ、エチオピア兵の叫ぶこの言葉が、そんなにリックに響くのか。
それとも、あのクーフィーヤ(頭布)にイカール(紐)を巻いたメンバーは、エチオピア兵じゃなくスペイン南部のイスラム兵だとでも言うんでしょうか……??(←いや、プログラムにはっきり「エチオピア兵」と書いてあるから!)
ま、そんな屁理屈は置いといて(毎回コレ書いているような気がする…)。
スペイン兵のすっしーさん(寿つかさ)とこっしー(珠洲春希)が死ぬほど格好良いです!
特に、すっしーさんは、この場面とフィナーレ以外はずーーーーーっと肉布団着用でロマンスグレイの髭に眼鏡なので、すべての色気をこの場面にぶつけている気がする。本当に目が吸い寄せられてしまって、なかなか祐飛さんを持ち上げている88期とか、キラキラ踊っているエチオピア兵の下級生とか、ゆっくり観ている余裕がありません(涙)。
「カサブランカ」本編は、カフェやバザールの芝居がほとんどで、激しいダンスシーンは最初の裁判所前広場とカンカンとココと、あとは地下水道の集会くらいしかないのですが、一幕はどれも桜木涼介さんの振付。彼の振付はシンプルでフォーメーション重視なので、宙組のきっちりしたダンスが映えるな、と思いました。
それにしても祐飛さん、リフトされまくり。ほとんど地に足がついてないよ……。
「時代に押し流された」感を出したツモリなのでしょうか(^ ^)。
まあ、振付家としては、どっかに浮かしておきたい素材かもしれませんが。
武器を求める兵士たち。
武器を得るすべを知っていながら、与えてくれないリックを責める。
「だが、皆観たはずだろう?悲惨な戦場を!」
リックが叫んでも、闘いに酔った彼らの耳には届かない。
♪だから早まるな
♪開けるな、パンドラの匣
舞台中央に残された階段の上に、ヴィクター・ラズロが登場する。
高みに立って手を拡げるラズロ。光を背負ったその姿に、炎に惹かれる蛾のように集まっていく兵士たち。
この場面、祐飛さんがナウオンで「洗脳」という言葉を使っていますが、たしかにそんな感じです。ラズロの弁舌は、兵士たちを歓喜させる何かに溢れていたんでしょうね、きっと。
それでも。その高揚よりも悲惨の回避を希むリックは、武器の詰まった匣を開けさせるまいと、『パンドラの匣』に見立てたセットの上に立つ。
そんな彼を、力づくで引き摺り下ろすセザール。兵士たちの間を、風に舞い散らされる木の葉のように翻弄されるリック。
歓喜して銃を受け取る兵士たち。
壇上から降りて、先頭に立って踊りだすラズロ。……だから、ラズロは平和主義だとさっきリックが(黙)
いや、もう。
ラズロさん、格好良い~~~っ!!(*^ ^*)です。ええ。
リックをどけて、やっと武器を手にする兵士たちの歓喜。
「セザール……!!」
仲間を呼ぶリックの切ない叫びは、もう彼には届かない。
ラズロを中心にした戦場のダンス。闘いの高揚。血に酔った兵士たち。
そんな彼らに襲い掛かる、ハーゲンクロイツの群れ。映像による、ナチスの大軍団。
……エチオピア戦争での“敵”はイタリアだし、スペイン内戦での“敵”はフランコ率いる反乱軍であって、どっちもナチスじゃないんだけどなあ……(; ;)
すみません、せっかくの名シーンにケチをつけたりしてm(_ _)m。いやぁ、この場面はやっぱり中途半端に「戦場の記憶」と「現在(1940年6月)の状況」をリンクさせるんじゃなくて、もっと具体的にどちらかに集中した方がよかったんじゃないか、と思うんですよね。
今の構成は、全く「戦場の記憶」じゃないので。「戦場の記憶」と題するならスペイン内戦の戦場の悲惨さ(セザールの負傷)に絞るべきだし、今の内容なら、出てくるメンバーを全員フランス人レジスタンスにして、ただの「幻想」というタイトルでいいと思うのです。
どちらにしても夢オチの不自然さは残るけど、まだそのほうがいいような。
リックのトラウマは二つあって、一つはパリ時代の最後の手酷い失恋、そしてもう一つが戦場の記憶。映画でも比較的丁寧に回想場面が入っていたイルザとの恋と別れはしっかり実在感があるのに、もう一つの重大なトラウマである戦場の記憶がすごく適当なのが、すごく残念です。
……小池さん、オリジナルの部分もがんばってください……(^ ^;ゞ
■第15場 イルザのホテル ~1940年6月13日~
映像のナチス軍に包囲され、ばたばたと斃れていく仲間たち。
その悲惨さから目を背けて、逃げようとして……うなされて、イルザの腕の中で目を醒ますリック。
一息つく暇もなく、窓の外にドイツ軍の街宣車があらわれる。
「パリ市民に告ぐ。我らはまもなく、パリに到着する……」
この街宣車の声はさっつんだと思うんですが、違いますでしょうか…?
なんだか最近、さっつんの声が好きすぎて、何を聞いてもさっつんの声に聴こえるんですが……(汗)
「パリを出よう」
ふと思いついたように、逃げることを提案するリック。
「三人で一緒に。マルセイユへ。そして、結婚しよう……イルザ」
こんな緊迫した場面とは思えないほど暢気に、そして幸せそうに提案してみせる。
嬉しそうに微笑むイルザ。
「でも私たち、春に出会ったばかりよ…」
春に夫を亡くしたばかりなのに、私ったら…という言葉は呑みこんで、何も知らない新しい恋人に微笑みかける。
自分と同じ目線でものを見て、同じ高さに居てくれる人。一緒に居て安心できて、温かい気持ちになれる。優しくて、明るくて、好奇心旺盛の子供みたいな人。
前の人とは全く違う、(彼よりは随分)若い、ひと。
「信じられない。私たち、世界が崩壊するかもしれないのに、恋に落ちるなんて」
この人になら、過去を話せるようになるかもしれない。
今はまだ駄目だけど、でも、いつかきっと。
とても素敵なひとだったのよ。……あなたには負けるかしらね、と、そう、微笑んで。
ファシズムが滅んで、世界が平和になったら、たぶん。
イルザの心の裡になど、全く気がついていないリック。
「ああ。だが、そのことを悔いてはいない…」
彼は彼で、自分が武器商人であったことを彼女に話そうと思っていたのではないでしょうか。
あるいは過去の恋物語も。
マルセイユに着いたら、きっと。
そんな、お互いに何も気づかないままに甘やかな幻想に浸っていた恋人たちを引き裂く、一通のメッセージ。
ボーイ(桜木みなと)が持ってきたカードを読んで、小さく悲鳴をあげるイルザ。
喪ったと思ったものが戻ってきた。……もう遅いのに。遅すぎるのに。
時は流れてしまったのに。さらさらと音を立てて、指の間をすり抜けてしまったのに。
有頂天のまま出て行こうとするリックを、咄嗟に、何を告げるあてもなく呼び止めるイルザ。
「こんな狂った時代にも、たった一つの真実がある。それは、私が本当にあなたを愛しているってことよ」
そう、それは真実。今、この瞬間だけは。
次の瞬間には裏切ることが判っていても、この一瞬に言わずにいられない、女心。
あなたを愛してる。それは真実。
でもそれは、あなたと一緒に行くことと同義じゃない……。
掴んでいた上着をソファに戻し、熱の篭った瞳でイルザを見凝めるリック。
「もう一つ、真実がある。…俺も本当に、君を愛している」
リックは本当に気づいていないのでしょうか。メッセージを受け取る前と後の、イルザの変化に。
……気づいていないのかもしれません。イルザは、この瞬間にはまだリックを愛しているから。
リックがホテルを出て行くまでは。
「キスして。この世で最後のキスみたいに」
リアルにしているとしか思えない、熱烈なキスに、ドキドキ。小池さんが祐飛さんのラヴシーンを絶賛する気持ち、わかるわ……。
リックを見送って、ディヴァンに崩れ落ちるイルザ。
溜めていたものがあふれ出すように、顔も覆わずに。
まだ若い(おそらくは20代半ば?)の彼女が、ただの少女として泣けるのは、今だけだから。
このホテルを出るときには、ヴィクター・ラズロの妻として出なくてはならない。それが判っていてもなお、子供のように泣き続ける彼女が、愛おしくてなりません。リックにも、あの泣き顔を見せてあげたくなります……(T T)。
■第16場 パリ南駅 ~1940年6月13日~
すっしーさん筆頭に、ほぼ組子全員が銀橋に勢ぞろい。基本的に香盤順?なのかな?みんな微妙に色や形の違うトレンチコートにソフト帽で、「パリにナチスが」と迫力で歌う。
それぞれ一人一人にドラマがあるのは判るんですが、丁寧に見るほど余裕がなくて残念(T T)。
とりあえず、歌劇誌に書いてあった「春風&蓮水の兄弟設定」はしっかりチェックしたいと思います♪
駅員さんたちは、びっくりするほどステレオタイプの制服。彼らの筆頭としてほとんど一人で喋っているモンチ(星吹彩翔)が可愛いです(壊)。彼の「申し訳ございません、もうこれ以上は…」という言い方が、切なくてとても好き(*^ ^*)。
人で溢れかえる駅の大時計の下で、イルザを探すリック。
少し遅れてサムが登場。
「すまない、アパートを出る直前に、イルザさんから手紙が届いたんだ」
「イルザから…?」
いぶかしげに手紙を開いたリックの、時が止まる。
その手から零れ落ちる手紙。
「……事情ができて、一緒に行けなくなりました……!?」
慌てて読んだサムが、蒼褪めたリックの顔を振り仰ぐ。
動けないリック。
「とにかく行こう。列車が出ちまう!」
その手を無理矢理引っ張って、人ごみを掻き分け、ホームへ潜り込むサム。
♪どうしようもない
♪逃げるしかない
引っ張られるままに、人形のように連れて行かれるリック。
最終列車に乗り切れず、駅から溢れる市民たち。
♪急げ!マルセイユへ
♪パリにナチスがやってくる……!!
■第17場 リックのカフェ ~1941年12月1日深夜~
列車に乗れなかった人々が、歌いながら舞台前面に戻って焦りを歌い上げる中、暗転。
回転木馬が逆方向に一回りして、“現在”に戻ってくる。
さっきの姿勢のまま、酔いつぶれているリック。
壊れたレコードのように繰り返し、その時間だけを生きていたい、と希いながら。
この硬いテーブルに突っ伏して、何も見ないで、繰り返し、繰り返し。
そんなリックを見守るサムの、優しい瞳に毎回癒されます(*^ ^*)
ありがとう、萬さん♪♪
.
■第13場 ラ・ベル・オーロール ~1940年6月13日~
カンカン・ガールたちがポーズを極めてはけていくと、音楽が甘いメロディに変わって、店の雰囲気ががらっと変わる。
テーブルの客たちもだいぶ入れ替わっていて、舞台奥は下手端から雅桜歌&七瀬りりこちゃん、妃宮さくら&松風輝くん、天風いぶき&月映樹茉ちゃん、(階段)、天輝トニカさん一人、花露すみか&澄輝さやと。舞台手前は、風羽玲亜&安里舞生ちゃん、天玲美音&千沙れいなさん、珠洲春希&桜音れいちゃん。皆さん思い思いに談笑したり、踊ったり。
紅いイヴニングに着替えたイルザと、細いストライプのスーツに着替えたリックがセンターに登場。
♪月夜のラヴ・ソング 酔いしれて
アンニュイなサムの歌声。寄り添って踊る二人。しっとりとした空気。
『As Time Goes By』の流れる中、言葉を交わすリックとイルザ。
「嘆きの天使は、いったい宇宙のどこから現れたんだい?」
軽い調子で問いかけるリック。
「…私に恋人がいたか、聞きたい?」
「……」
「いました。一人だけ。……でも、もう死んでしまった…」
「すまない。過去は聞かないと約束したのに」
♪君について知りたいことは限りなくある
♪でも君が望まないなら 俺は訊かない
イルザに優しく微笑みかけるリック。眉間の皺ものびて、なんだか凄く幸せそう。
この作品の中で、ほとんど唯一と言っていい幸せな場面なので、甘く甘く……という感じですね(*^ ^*)。
♪君と生きる 今 この時だけが
♪愛の証を刻んでいく
♪失くした時は取り戻せない
♪だから後ろは振り返らない
二人で手をつないで銀橋に出る。
まっすぐにリックを見凝めるイルザの、頼り切った瞳が美しいです。「君の瞳に乾杯」と、何度でも言いたくなっちゃいます。
♪過去は訊かない 訊く意味がない
銀橋の真ん中で、抱き合って口づけを交わす二人。
しっとりと湿った、やわらかな空気。出会ってから僅か三ヶ月とは思えないような、深い信頼と甘え。イルザの頼り切った表情が甘やかで美しい。
本舞台には、さんざめく客たち。
下手手前で踊っているのは風羽玲亜&妃宮さくらちゃん、真ん中奥に雅桜歌&花露すみかちゃん、上手手前に珠洲春希&美風舞良さん……だったかな?ちょっと暗いので、全員はわからないのですが(汗)。たしか、下級生は天玲美音&七瀬りりこさん、天風いぶき&千紗れいなさん、澄輝さやと&桜音れいちゃんという組み合わせで踊っていたはず。
下手端のピアノでは、サムとマドレーヌ(大海亜呼)がこちらもしっぽりと話をしています。このお二人の空気もいい感じ。いい場面だなあ、と思うんですよね。
そんな穏やかな空気を切り裂く、鋭い声。
「皆さん、大変なことになりました!」
店内の階段に立って、支配人(光海舞人)が叫ぶ。
「フランス軍が撤退し、パリはドイツ軍の侵攻を待つばかりとなりました!!」
騒然とする店内。サムの手を引いて、舞台中央に向かって数歩駆け寄るマドレーヌ。彼女は店の中でも世話役らしく、すぐにサムの手を離して、怯えている女性たちを宥めはじめる。
カンカンガールから早替りした女性たちが左右から登場して、気がつくとものすごい人数が舞台上に。そんな中、ピアノの傍で呆然としていたサムが、慌てて戻ってくるリックたちに声をかける。
「リック、どうする?」
「とにかく、ホテルに帰りましょう!」
下手袖にはけていく三人。
本舞台では、紗幕が降りて、舞台前面でパリ市民たちのコーラスが始まる。
♪残るべきか 逃げ出すべきか
♪どこに行けばいいのか 行く先はあるのか?
怯え、惑う、市民たち。
♪パリにナチスがやってくる!
■第14場 パリの街角 ~1940年6月(悪夢)~
この場面は、最初から幻想だと思って観ていたのですが。
プログラムでは「パリの街角」となっているので、小池さんの当初の発想としては、ホテルに向かう途中、待っていたセザールに呼び止められたリックが、二人を先に行かせてセザールと対決するという場面だったのかな?と思いました。
まだこの段階ではドイツ軍は入ってきていないので、パリの街そのものはそこまで混乱してないはず。ホテルに着くなり寝込んでしまうほど疲れるような道中ではないだろうし、この緊迫した状況でうたた寝もないだろうし。その辺が、夢オチで片付けてしまうとどうにも理解しがたい、という気はします。
【追記★この場面について、ご指摘をいただきました。リックが目覚めるホテルの場面でイルザがガウンに着替えているので、ラ・ベル・オーロールを出てからホテルで目覚めるまでに一晩が過ぎている可能性が高いだろう、と。……なるほど。となると、うたたねして悪夢を見ても不思議はないし、「サムが来てくれたわ」という台詞も、昨夜いったん別れて自分のホテルに戻っていたサムが、今後のことを相談しに(?)翌日あらためてホテルに来てくれた、ってことになるんですね……】【一歩踏み込んで、この日初めて二人は結ばれた、という可能性も無いことは無い、のかも?】
しかーし。
フランス人のレジスタンスならともかく、エチオピア兵とスペイン兵が「銃を我らに!」と叫ぶ、というのは、この時点では幻想でしかあり得ないので、やっぱり、場面としては悪夢の夢オチのつもりで造られているんですよね。
ううむ。この場面、場面自体は好きなんですが、理屈をつけようとすると迷路に入る場面ではあります。
しかも、この場面にエチオピア兵がいるのも不思議。
エチオピア戦争には、リックは直接関わってはいないですよね。武器を流しただけで、直接参戦はしていない。なのになぜ、エチオピア兵の叫ぶこの言葉が、そんなにリックに響くのか。
それとも、あのクーフィーヤ(頭布)にイカール(紐)を巻いたメンバーは、エチオピア兵じゃなくスペイン南部のイスラム兵だとでも言うんでしょうか……??(←いや、プログラムにはっきり「エチオピア兵」と書いてあるから!)
ま、そんな屁理屈は置いといて(毎回コレ書いているような気がする…)。
スペイン兵のすっしーさん(寿つかさ)とこっしー(珠洲春希)が死ぬほど格好良いです!
特に、すっしーさんは、この場面とフィナーレ以外はずーーーーーっと肉布団着用でロマンスグレイの髭に眼鏡なので、すべての色気をこの場面にぶつけている気がする。本当に目が吸い寄せられてしまって、なかなか祐飛さんを持ち上げている88期とか、キラキラ踊っているエチオピア兵の下級生とか、ゆっくり観ている余裕がありません(涙)。
「カサブランカ」本編は、カフェやバザールの芝居がほとんどで、激しいダンスシーンは最初の裁判所前広場とカンカンとココと、あとは地下水道の集会くらいしかないのですが、一幕はどれも桜木涼介さんの振付。彼の振付はシンプルでフォーメーション重視なので、宙組のきっちりしたダンスが映えるな、と思いました。
それにしても祐飛さん、リフトされまくり。ほとんど地に足がついてないよ……。
「時代に押し流された」感を出したツモリなのでしょうか(^ ^)。
まあ、振付家としては、どっかに浮かしておきたい素材かもしれませんが。
武器を求める兵士たち。
武器を得るすべを知っていながら、与えてくれないリックを責める。
「だが、皆観たはずだろう?悲惨な戦場を!」
リックが叫んでも、闘いに酔った彼らの耳には届かない。
♪だから早まるな
♪開けるな、パンドラの匣
舞台中央に残された階段の上に、ヴィクター・ラズロが登場する。
高みに立って手を拡げるラズロ。光を背負ったその姿に、炎に惹かれる蛾のように集まっていく兵士たち。
この場面、祐飛さんがナウオンで「洗脳」という言葉を使っていますが、たしかにそんな感じです。ラズロの弁舌は、兵士たちを歓喜させる何かに溢れていたんでしょうね、きっと。
それでも。その高揚よりも悲惨の回避を希むリックは、武器の詰まった匣を開けさせるまいと、『パンドラの匣』に見立てたセットの上に立つ。
そんな彼を、力づくで引き摺り下ろすセザール。兵士たちの間を、風に舞い散らされる木の葉のように翻弄されるリック。
歓喜して銃を受け取る兵士たち。
壇上から降りて、先頭に立って踊りだすラズロ。……だから、ラズロは平和主義だとさっきリックが(黙)
いや、もう。
ラズロさん、格好良い~~~っ!!(*^ ^*)です。ええ。
リックをどけて、やっと武器を手にする兵士たちの歓喜。
「セザール……!!」
仲間を呼ぶリックの切ない叫びは、もう彼には届かない。
ラズロを中心にした戦場のダンス。闘いの高揚。血に酔った兵士たち。
そんな彼らに襲い掛かる、ハーゲンクロイツの群れ。映像による、ナチスの大軍団。
……エチオピア戦争での“敵”はイタリアだし、スペイン内戦での“敵”はフランコ率いる反乱軍であって、どっちもナチスじゃないんだけどなあ……(; ;)
すみません、せっかくの名シーンにケチをつけたりしてm(_ _)m。いやぁ、この場面はやっぱり中途半端に「戦場の記憶」と「現在(1940年6月)の状況」をリンクさせるんじゃなくて、もっと具体的にどちらかに集中した方がよかったんじゃないか、と思うんですよね。
今の構成は、全く「戦場の記憶」じゃないので。「戦場の記憶」と題するならスペイン内戦の戦場の悲惨さ(セザールの負傷)に絞るべきだし、今の内容なら、出てくるメンバーを全員フランス人レジスタンスにして、ただの「幻想」というタイトルでいいと思うのです。
どちらにしても夢オチの不自然さは残るけど、まだそのほうがいいような。
リックのトラウマは二つあって、一つはパリ時代の最後の手酷い失恋、そしてもう一つが戦場の記憶。映画でも比較的丁寧に回想場面が入っていたイルザとの恋と別れはしっかり実在感があるのに、もう一つの重大なトラウマである戦場の記憶がすごく適当なのが、すごく残念です。
……小池さん、オリジナルの部分もがんばってください……(^ ^;ゞ
■第15場 イルザのホテル ~1940年6月13日~
映像のナチス軍に包囲され、ばたばたと斃れていく仲間たち。
その悲惨さから目を背けて、逃げようとして……うなされて、イルザの腕の中で目を醒ますリック。
一息つく暇もなく、窓の外にドイツ軍の街宣車があらわれる。
「パリ市民に告ぐ。我らはまもなく、パリに到着する……」
この街宣車の声はさっつんだと思うんですが、違いますでしょうか…?
なんだか最近、さっつんの声が好きすぎて、何を聞いてもさっつんの声に聴こえるんですが……(汗)
【追記★2月号の歌劇誌に回答が載っていました。この声は、風莉じんさんだそうです。そう思って聴くと、風莉さんの声に聞こえてくるのが不思議……。風莉さんにもさっつんにも、大変失礼いたしましたm(_ _)m 】【っつか、カゲ台詞もカゲソロも、ちゃんとプログラムに書いといてください!>劇団】
「パリを出よう」
ふと思いついたように、逃げることを提案するリック。
「三人で一緒に。マルセイユへ。そして、結婚しよう……イルザ」
こんな緊迫した場面とは思えないほど暢気に、そして幸せそうに提案してみせる。
嬉しそうに微笑むイルザ。
「でも私たち、春に出会ったばかりよ…」
春に夫を亡くしたばかりなのに、私ったら…という言葉は呑みこんで、何も知らない新しい恋人に微笑みかける。
自分と同じ目線でものを見て、同じ高さに居てくれる人。一緒に居て安心できて、温かい気持ちになれる。優しくて、明るくて、好奇心旺盛の子供みたいな人。
前の人とは全く違う、(彼よりは随分)若い、ひと。
「信じられない。私たち、世界が崩壊するかもしれないのに、恋に落ちるなんて」
この人になら、過去を話せるようになるかもしれない。
今はまだ駄目だけど、でも、いつかきっと。
とても素敵なひとだったのよ。……あなたには負けるかしらね、と、そう、微笑んで。
ファシズムが滅んで、世界が平和になったら、たぶん。
イルザの心の裡になど、全く気がついていないリック。
「ああ。だが、そのことを悔いてはいない…」
彼は彼で、自分が武器商人であったことを彼女に話そうと思っていたのではないでしょうか。
あるいは過去の恋物語も。
マルセイユに着いたら、きっと。
そんな、お互いに何も気づかないままに甘やかな幻想に浸っていた恋人たちを引き裂く、一通のメッセージ。
ボーイ(桜木みなと)が持ってきたカードを読んで、小さく悲鳴をあげるイルザ。
喪ったと思ったものが戻ってきた。……もう遅いのに。遅すぎるのに。
時は流れてしまったのに。さらさらと音を立てて、指の間をすり抜けてしまったのに。
有頂天のまま出て行こうとするリックを、咄嗟に、何を告げるあてもなく呼び止めるイルザ。
「こんな狂った時代にも、たった一つの真実がある。それは、私が本当にあなたを愛しているってことよ」
そう、それは真実。今、この瞬間だけは。
次の瞬間には裏切ることが判っていても、この一瞬に言わずにいられない、女心。
あなたを愛してる。それは真実。
でもそれは、あなたと一緒に行くことと同義じゃない……。
掴んでいた上着をソファに戻し、熱の篭った瞳でイルザを見凝めるリック。
「もう一つ、真実がある。…俺も本当に、君を愛している」
リックは本当に気づいていないのでしょうか。メッセージを受け取る前と後の、イルザの変化に。
……気づいていないのかもしれません。イルザは、この瞬間にはまだリックを愛しているから。
リックがホテルを出て行くまでは。
「キスして。この世で最後のキスみたいに」
リアルにしているとしか思えない、熱烈なキスに、ドキドキ。小池さんが祐飛さんのラヴシーンを絶賛する気持ち、わかるわ……。
リックを見送って、ディヴァンに崩れ落ちるイルザ。
溜めていたものがあふれ出すように、顔も覆わずに。
まだ若い(おそらくは20代半ば?)の彼女が、ただの少女として泣けるのは、今だけだから。
このホテルを出るときには、ヴィクター・ラズロの妻として出なくてはならない。それが判っていてもなお、子供のように泣き続ける彼女が、愛おしくてなりません。リックにも、あの泣き顔を見せてあげたくなります……(T T)。
■第16場 パリ南駅 ~1940年6月13日~
すっしーさん筆頭に、ほぼ組子全員が銀橋に勢ぞろい。基本的に香盤順?なのかな?みんな微妙に色や形の違うトレンチコートにソフト帽で、「パリにナチスが」と迫力で歌う。
それぞれ一人一人にドラマがあるのは判るんですが、丁寧に見るほど余裕がなくて残念(T T)。
とりあえず、歌劇誌に書いてあった「春風&蓮水の兄弟設定」はしっかりチェックしたいと思います♪
駅員さんたちは、びっくりするほどステレオタイプの制服。彼らの筆頭としてほとんど一人で喋っているモンチ(星吹彩翔)が可愛いです(壊)。彼の「申し訳ございません、もうこれ以上は…」という言い方が、切なくてとても好き(*^ ^*)。
人で溢れかえる駅の大時計の下で、イルザを探すリック。
少し遅れてサムが登場。
「すまない、アパートを出る直前に、イルザさんから手紙が届いたんだ」
「イルザから…?」
いぶかしげに手紙を開いたリックの、時が止まる。
その手から零れ落ちる手紙。
「……事情ができて、一緒に行けなくなりました……!?」
慌てて読んだサムが、蒼褪めたリックの顔を振り仰ぐ。
動けないリック。
「とにかく行こう。列車が出ちまう!」
その手を無理矢理引っ張って、人ごみを掻き分け、ホームへ潜り込むサム。
♪どうしようもない
♪逃げるしかない
引っ張られるままに、人形のように連れて行かれるリック。
最終列車に乗り切れず、駅から溢れる市民たち。
♪急げ!マルセイユへ
♪パリにナチスがやってくる……!!
■第17場 リックのカフェ ~1941年12月1日深夜~
列車に乗れなかった人々が、歌いながら舞台前面に戻って焦りを歌い上げる中、暗転。
回転木馬が逆方向に一回りして、“現在”に戻ってくる。
さっきの姿勢のまま、酔いつぶれているリック。
壊れたレコードのように繰り返し、その時間だけを生きていたい、と希いながら。
この硬いテーブルに突っ伏して、何も見ないで、繰り返し、繰り返し。
そんなリックを見守るサムの、優しい瞳に毎回癒されます(*^ ^*)
ありがとう、萬さん♪♪
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