「カサブランカ」【5】
2010年1月9日 宝塚(宙)宝塚歌劇団宙組公演「カサブランカ」。
■第12場 ラ・ベル・オーロール ~1940年4月~
回転木馬ならぬ盆が一回りして、カフェのセットが紗幕の向こうに消え失せて、紅いグランドピアノ出てくる。
リックの後姿がバックスクリーンの映像の中に消えると、舞台全面にピンクの羽扇を持ったダンサーたちが登場し、音楽も変わって華やかなショーナンバー「ラ・ベル・オーロール」に。
メインダンサーのマドレーヌ(大海亜呼)が、黒い肌に白のダルマ姿で登場。第一声の「ラ・ベル・オーロール!」でいきなり持って行かれます(^ ^)。えっちゃんったら、素敵★
レトロで正統派の、華やかなショータイム。
派手派手な縦縞の衣装を着こんだサム(萬あきら)の“ショーピアニスト”っぷりが半端なく格好良い!ピアノに向かっているときの派手なパフォーマンス、ピアノの前を離れてえっちゃんと並んで踊る場面の強烈なスターオーラ。宙組の超絶スタイルな下級生たちの間に入っても見劣りしない、いぶし銀の輝きはさすがです。
ショーの途中からまた盆が回り始めて、ラ・ベル・オーロールのセットが登場。
リックのカフェとの違いは、テーブルクロスが紅くなっただけ……ように見えるんですけど、気のせい?(^ ^)
下手端奥のテーブルには、雅桜歌&安里舞生。
舞台前面下手のテーブルには、さっつん(風羽玲亜)&妃宮さくら。
その隣は、最初えなちゃん(月映樹茉)が一人で座っているけど、ショーが終わった後、ちょっと一杯飲んですぐに出て行ったはず。
その上手隣(センター)は空席になっていて、次は天玲美音さんが一人で座り、隣に珠洲春希&花露すみか。で、上手端(奥)のテーブルには、蒼羽りくちゃんが一人で座っていました。
舞台奥は、上手から順に蒼羽、天輝トニカ&桜音れい、階段を挟んで天風いぶき、松風輝&七瀬りりこ、で、下手端が雅&安里でした。
下手花道にリックが登場。
黒い細身のタキシードに柄もののベスト。白いYシャツと黒の蝶ネクタイ、ズボンは『現在』のカフェでの服と同じに見えるけど、どうなんでしょう。髪はちょっと緩めてあるのかな?わずか一年前とは思えないほど、若々しくて軽やかなイメージになっていて、別人ぶりにちょっとだけ驚きます。
花道近くのピアノから、サムが声をかける。
「よう旦那、そろそろ彼女は出来たかい?」
「パリにきてそろそろ一年だが、まだ駄目だね」
軽く挨拶をして、楽しそうにテーブルを探しているところで、黒づくめの隻眼の男に出会う。
「リック。久しぶりだな」
「………セザール!?」
亡霊でも見たかのように立ち竦むリック。
なんですかその驚きようは。昔のオトコでもあるまいに。
よれよれの革の上衣に、黒い眼帯。荒くれた雰囲気を漂わせるセザール(十輝いりす)は、確かに華やかなパリのミュージックホールには場違いな感じがします。まさこちゃん、あまりカミソリのような“鋭く張り詰めた”雰囲気のあるタイプではなく、どちらかというと無骨な、戦車のようなタイプなんですが。……それにしても、暢気なアメリカ人観光客とはえらい違いだわ(*^ ^*)。
二人で、空席になっていたセンター手前のテーブルに座って話を始める。
「仕事の話だ」
「俺は武器商人からは足を洗った。知っているだろう?」
「ああ。…だが、今こそお前の力が必要なんだ」
だが、リックはもう戦場に戻るつもりはない。
「スペインを出るときに誓ったんだ。たとえファシズムを倒すためでも、二度と武器は扱わない、と」
戦いが嫌いな、平和主義者の武器商人。
この一連の場面は回想シーンなんですが、難しいのは、リックの過去はさらに二重・三重に過去があるところだと思うのです。映画では、この辺はばっさりカットして、時折挟む短い回想場面の積み重ねと実際の台詞でなんとなく過去を想像させるだけでしたが、今回の小池さんの潤色では、このパリ時代を結構踏み込んで描いているので……
だからこそ、難しい。
もともと小池さんは潤色の天才なのであって、オリジナルはあまり天才的ではないので(←ごめんなさい)、冷静に考えると突っ込みどころがたくさんあって、楽しいです(←あれっ?)。
というか。
ここまで詳しくパリ時代を描いてしまうと、本編と整合性が取れないんですよね。あちこちに小さな矛盾があって。
でもまあ、とりあえず、その矛盾については、矛盾が出てきたところで語ることにして。
とりあえずは、ここでちょっと年表の復習を。
1934年 エチオピア戦争勃発
1935年 リック、エチオピアに武器を密輸(ルノーの台詞より)
1936年 スペイン内戦勃発。リック参戦。
1939年 スペイン内戦終結。
リックは「二度と武器は扱わない」と決心してスペインを離れ、パリに入ってサムと知り合う。
アメリカ再入国禁止をくらったのは、どのタイミングなんでしょうね?なんとなく、エチオピア戦争まではアメリカを拠点にして武器を扱っていたんじゃないのかな、と思うのですが。
軍の武器の横流しに手を出して、とっ捕まった、とか、、、そういうことなのかなあ?と(想像)
どちらにしても、スペイン内戦はリックが語るようなお綺麗な反ファシスト戦争ではなく、勃発当時は与党側だった人民政府側の急進派が、野党である右派勢力の勢力を削ごうと暗殺事件を起こしたのがきっかけだし、泥沼化してからは、人民政府側の主力はソ連に近づいていき、後半は事実上の共産党軍となりつつあったはず。
ただ、国際的に「反ファシスト」という動きが活発になるのはこの時代で、それは主に、スペイン内戦を取材したアーネスト・ヘミングウェイを含む従軍記者・作家たちの文筆活動によるものであったことは事実。
だから、リックの「この戦争に勝てば、スペインを救った勇敢なアメリカ人として世界のヒーローになれる」という台詞も、あながち間違いではなかったのでしょうね。最初のきっかけや実態がどうであれ、「これは尊い反ファシズムの戦いである」と喧伝されれば、そういう思想に共感する人が集まってくるものだから。
セザール(英語読みでシーザー)は、名前からしてフランス人だと思うんですが、当時フランスは不干渉策をとっていたはずなので、この戦争には個人として参加していたはず。スペイン内戦には、「反ファシズム」の旗印のもと、他国からの参戦者も多かったようなので、そのうちの一人だったのでしょう。
おそらくはリックも同様に。
泥沼化していく戦争の中で、理想を抱いて戦場に飛び込んだ彼らは、さぞ苦しんだのだろうと思います。人の死は理想では説明できない。それは現実ですから。
セザールはその悲惨さに目を瞑ることを覚えて一人前の戦士となり、リックは悲惨さから目を離すことができず、動けない。
逃げ出したリックは、パリの明るい灯に救われる。石造りの街。上流階級のあつまる、明るいミュージックホール。人の心を浮き立たせるショーピアニスト、そして、笑顔でさんざめく人々。
その明るさにあっという間に馴染んだリックに、違和感を感じるセザールが、凄く良いです。
ただ、言うことをきかないリックに苛立っているだけじゃなくて、すごく違和感を感じているのがわかる。「こいつは、本当に俺の知っている男なのか…?」といぶかしんでいるんですよね、たぶん。
その直感力が、彼の力なんだと思います。あれこれ考えすぎてしまいがちなリックには無い、力。リックは彼のそんなところに惹かれて共に戦い、彼のそんなところに反発を覚えて道を違える。「俺はもう、戦わない」……と。
セザールが立ち去った後、軽く溜息をついてボーイに注文するところの憂いが好きです。
自ら切り捨てた過去なのに、切られたような気がしたのか。
困っていた友人を手助けできなかったことに、自己嫌悪しているのか。
自分でもわからない落ち込みに、なんとなくイラつきながら。
そんなリックのテーブルの隣に、垢抜けない服装のイルザが案内されてくるのは、セザールが立ち去るちょっと前、ですよね。イルザを見つけて立ち上がる蒼羽りくちゃんが、上手へ向かうセザールとぶつかりそうになる演出があるので。
セザールもりくくんも、どちらも行き先(セザールは出口、りくはイルザ)だけを見ていて近くを見ていないのがよく判る、さりげない演出だなあと毎回思います。
イルザのテーブルにたどり着いたりくくん、懐から手紙を出して、さりげなくイルザのテーブルに置く……つもりだと思うんですけど、あんまりさりげなくない(T T)。それでも、客たちもボーイたちも話に夢中で全然気がつかないけどさー、りくのその怪しげな動きでは、本来はバレバレだと思うぞ(汗)。
手紙を手に取って、衝撃のあまり失神するイルザ。
咄嗟に抱きとめるリック。
すばやく、しかも相変わらずさりげある感じで、床に落ちた手紙を拾い上げて懐にしまい、とっとと出て行くりくくん。
すぐに気がついたイルザに、優しく問いかけるリック。
「大丈夫か?」
客たちの視線に気づいたイルザ、慌てたように
「…なんでもありませんわ。……お酒を」
安心したように、三々五々散っていく客たち。
このタイミングでだいぶ席替えをします。さっつん&舞生ちゃん、松風&さくらちゃんとか。
りくが座っていたテーブルに、あっきーと桜音れいちゃんが座ったり。
リックがイルザの為に頼んだナポレオンが届く。おおぶりのグラスをそっと持つイルザ。
「何があったのか知らないが、俺は自分の過去は話さないし、君の過去も聞かないよ。安心して。……さ、乾杯しよう」
「……(T T)」
「……君の涙に?」
「……ごめんなさい」
「君の健康に?」
目を伏せるイルザ。
あの手紙に書いてあったことを考えれば、その言葉だけは聴きたくなかっただろうに。
「おい。俺はずっと君を見つめているんだぜ、お嬢ちゃん?」
かの、ハンフリーボガートが口にした名台詞。
やっと自分の方を振り向いたイルザの、潤んだ瞳をじっと見凝めて。
「君の瞳に、乾杯」
……字幕にしか存在しなかったはずの、名台詞。
こうして台詞として音で聞くと、本当に気障な台詞だなあ、と思うんです。
でも、実際に舞台で、すみ花ちゃんの大きな瞳がうるうるしているのを見ると……
本当に乾杯したくなる気持ち、すごくよくわかります。
B席で観ても、オペラグラスを使えばちゃんとそこは伝わってくるんだな、と、感心しましたし。この場面のすみ花ちゃんの瞳のパワーは、本当に凄いです♪
そこに、良いタイミングで入る支配人(光海舞人)の声。
「マダム エ ムシュー、さあ、カンカンが始まります!」
飛び込んでくるカンカンガールたち。ショータイムのはじまり。
一瞬の暗転を見逃さずに、舞台からはけるリックとイルザ。
立ち上がって拍手をする客たち。何度見ても、舞生ちゃんの喜びようが可愛くてたまりません(*^ ^*)。
■第13場 ラ・ベル・オーロール ~1940年6月13日~
カンカンガールたちのショーが終わって、そのまま次の場面へ。
客たちはそのまま出ているし、着替えたのもリックとイルザだけなので、あまり変わった気がしませんが、その間にも時は流れ、今はもう6月。
客たちの人間関係もだいぶ変わってきた……かな?(^ ^)。
ああ、パリは一回では終わらなかったか……。
これでも、だいぶ端折ったつもりだったのになあ(汗)。
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■第12場 ラ・ベル・オーロール ~1940年4月~
回転木馬ならぬ盆が一回りして、カフェのセットが紗幕の向こうに消え失せて、紅いグランドピアノ出てくる。
リックの後姿がバックスクリーンの映像の中に消えると、舞台全面にピンクの羽扇を持ったダンサーたちが登場し、音楽も変わって華やかなショーナンバー「ラ・ベル・オーロール」に。
メインダンサーのマドレーヌ(大海亜呼)が、黒い肌に白のダルマ姿で登場。第一声の「ラ・ベル・オーロール!」でいきなり持って行かれます(^ ^)。えっちゃんったら、素敵★
レトロで正統派の、華やかなショータイム。
派手派手な縦縞の衣装を着こんだサム(萬あきら)の“ショーピアニスト”っぷりが半端なく格好良い!ピアノに向かっているときの派手なパフォーマンス、ピアノの前を離れてえっちゃんと並んで踊る場面の強烈なスターオーラ。宙組の超絶スタイルな下級生たちの間に入っても見劣りしない、いぶし銀の輝きはさすがです。
ショーの途中からまた盆が回り始めて、ラ・ベル・オーロールのセットが登場。
リックのカフェとの違いは、テーブルクロスが紅くなっただけ……ように見えるんですけど、気のせい?(^ ^)
下手端奥のテーブルには、雅桜歌&安里舞生。
舞台前面下手のテーブルには、さっつん(風羽玲亜)&妃宮さくら。
その隣は、最初えなちゃん(月映樹茉)が一人で座っているけど、ショーが終わった後、ちょっと一杯飲んですぐに出て行ったはず。
その上手隣(センター)は空席になっていて、次は天玲美音さんが一人で座り、隣に珠洲春希&花露すみか。で、上手端(奥)のテーブルには、蒼羽りくちゃんが一人で座っていました。
舞台奥は、上手から順に蒼羽、天輝トニカ&桜音れい、階段を挟んで天風いぶき、松風輝&七瀬りりこ、で、下手端が雅&安里でした。
下手花道にリックが登場。
黒い細身のタキシードに柄もののベスト。白いYシャツと黒の蝶ネクタイ、ズボンは『現在』のカフェでの服と同じに見えるけど、どうなんでしょう。髪はちょっと緩めてあるのかな?わずか一年前とは思えないほど、若々しくて軽やかなイメージになっていて、別人ぶりにちょっとだけ驚きます。
花道近くのピアノから、サムが声をかける。
「よう旦那、そろそろ彼女は出来たかい?」
「パリにきてそろそろ一年だが、まだ駄目だね」
軽く挨拶をして、楽しそうにテーブルを探しているところで、黒づくめの隻眼の男に出会う。
「リック。久しぶりだな」
「………セザール!?」
亡霊でも見たかのように立ち竦むリック。
なんですかその驚きようは。昔のオトコでもあるまいに。
よれよれの革の上衣に、黒い眼帯。荒くれた雰囲気を漂わせるセザール(十輝いりす)は、確かに華やかなパリのミュージックホールには場違いな感じがします。まさこちゃん、あまりカミソリのような“鋭く張り詰めた”雰囲気のあるタイプではなく、どちらかというと無骨な、戦車のようなタイプなんですが。……それにしても、暢気なアメリカ人観光客とはえらい違いだわ(*^ ^*)。
二人で、空席になっていたセンター手前のテーブルに座って話を始める。
「仕事の話だ」
「俺は武器商人からは足を洗った。知っているだろう?」
「ああ。…だが、今こそお前の力が必要なんだ」
だが、リックはもう戦場に戻るつもりはない。
「スペインを出るときに誓ったんだ。たとえファシズムを倒すためでも、二度と武器は扱わない、と」
戦いが嫌いな、平和主義者の武器商人。
この一連の場面は回想シーンなんですが、難しいのは、リックの過去はさらに二重・三重に過去があるところだと思うのです。映画では、この辺はばっさりカットして、時折挟む短い回想場面の積み重ねと実際の台詞でなんとなく過去を想像させるだけでしたが、今回の小池さんの潤色では、このパリ時代を結構踏み込んで描いているので……
だからこそ、難しい。
もともと小池さんは潤色の天才なのであって、オリジナルはあまり天才的ではないので(←ごめんなさい)、冷静に考えると突っ込みどころがたくさんあって、楽しいです(←あれっ?)。
というか。
ここまで詳しくパリ時代を描いてしまうと、本編と整合性が取れないんですよね。あちこちに小さな矛盾があって。
でもまあ、とりあえず、その矛盾については、矛盾が出てきたところで語ることにして。
とりあえずは、ここでちょっと年表の復習を。
1934年 エチオピア戦争勃発
1935年 リック、エチオピアに武器を密輸(ルノーの台詞より)
1936年 スペイン内戦勃発。リック参戦。
1939年 スペイン内戦終結。
リックは「二度と武器は扱わない」と決心してスペインを離れ、パリに入ってサムと知り合う。
アメリカ再入国禁止をくらったのは、どのタイミングなんでしょうね?なんとなく、エチオピア戦争まではアメリカを拠点にして武器を扱っていたんじゃないのかな、と思うのですが。
軍の武器の横流しに手を出して、とっ捕まった、とか、、、そういうことなのかなあ?と(想像)
どちらにしても、スペイン内戦はリックが語るようなお綺麗な反ファシスト戦争ではなく、勃発当時は与党側だった人民政府側の急進派が、野党である右派勢力の勢力を削ごうと暗殺事件を起こしたのがきっかけだし、泥沼化してからは、人民政府側の主力はソ連に近づいていき、後半は事実上の共産党軍となりつつあったはず。
ただ、国際的に「反ファシスト」という動きが活発になるのはこの時代で、それは主に、スペイン内戦を取材したアーネスト・ヘミングウェイを含む従軍記者・作家たちの文筆活動によるものであったことは事実。
だから、リックの「この戦争に勝てば、スペインを救った勇敢なアメリカ人として世界のヒーローになれる」という台詞も、あながち間違いではなかったのでしょうね。最初のきっかけや実態がどうであれ、「これは尊い反ファシズムの戦いである」と喧伝されれば、そういう思想に共感する人が集まってくるものだから。
セザール(英語読みでシーザー)は、名前からしてフランス人だと思うんですが、当時フランスは不干渉策をとっていたはずなので、この戦争には個人として参加していたはず。スペイン内戦には、「反ファシズム」の旗印のもと、他国からの参戦者も多かったようなので、そのうちの一人だったのでしょう。
おそらくはリックも同様に。
泥沼化していく戦争の中で、理想を抱いて戦場に飛び込んだ彼らは、さぞ苦しんだのだろうと思います。人の死は理想では説明できない。それは現実ですから。
セザールはその悲惨さに目を瞑ることを覚えて一人前の戦士となり、リックは悲惨さから目を離すことができず、動けない。
逃げ出したリックは、パリの明るい灯に救われる。石造りの街。上流階級のあつまる、明るいミュージックホール。人の心を浮き立たせるショーピアニスト、そして、笑顔でさんざめく人々。
その明るさにあっという間に馴染んだリックに、違和感を感じるセザールが、凄く良いです。
ただ、言うことをきかないリックに苛立っているだけじゃなくて、すごく違和感を感じているのがわかる。「こいつは、本当に俺の知っている男なのか…?」といぶかしんでいるんですよね、たぶん。
その直感力が、彼の力なんだと思います。あれこれ考えすぎてしまいがちなリックには無い、力。リックは彼のそんなところに惹かれて共に戦い、彼のそんなところに反発を覚えて道を違える。「俺はもう、戦わない」……と。
セザールが立ち去った後、軽く溜息をついてボーイに注文するところの憂いが好きです。
自ら切り捨てた過去なのに、切られたような気がしたのか。
困っていた友人を手助けできなかったことに、自己嫌悪しているのか。
自分でもわからない落ち込みに、なんとなくイラつきながら。
そんなリックのテーブルの隣に、垢抜けない服装のイルザが案内されてくるのは、セザールが立ち去るちょっと前、ですよね。イルザを見つけて立ち上がる蒼羽りくちゃんが、上手へ向かうセザールとぶつかりそうになる演出があるので。
セザールもりくくんも、どちらも行き先(セザールは出口、りくはイルザ)だけを見ていて近くを見ていないのがよく判る、さりげない演出だなあと毎回思います。
イルザのテーブルにたどり着いたりくくん、懐から手紙を出して、さりげなくイルザのテーブルに置く……つもりだと思うんですけど、あんまりさりげなくない(T T)。それでも、客たちもボーイたちも話に夢中で全然気がつかないけどさー、りくのその怪しげな動きでは、本来はバレバレだと思うぞ(汗)。
手紙を手に取って、衝撃のあまり失神するイルザ。
咄嗟に抱きとめるリック。
すばやく、しかも相変わらずさりげある感じで、床に落ちた手紙を拾い上げて懐にしまい、とっとと出て行くりくくん。
すぐに気がついたイルザに、優しく問いかけるリック。
「大丈夫か?」
客たちの視線に気づいたイルザ、慌てたように
「…なんでもありませんわ。……お酒を」
安心したように、三々五々散っていく客たち。
このタイミングでだいぶ席替えをします。さっつん&舞生ちゃん、松風&さくらちゃんとか。
りくが座っていたテーブルに、あっきーと桜音れいちゃんが座ったり。
リックがイルザの為に頼んだナポレオンが届く。おおぶりのグラスをそっと持つイルザ。
「何があったのか知らないが、俺は自分の過去は話さないし、君の過去も聞かないよ。安心して。……さ、乾杯しよう」
「……(T T)」
「……君の涙に?」
「……ごめんなさい」
「君の健康に?」
目を伏せるイルザ。
あの手紙に書いてあったことを考えれば、その言葉だけは聴きたくなかっただろうに。
「おい。俺はずっと君を見つめているんだぜ、お嬢ちゃん?」
かの、ハンフリーボガートが口にした名台詞。
やっと自分の方を振り向いたイルザの、潤んだ瞳をじっと見凝めて。
「君の瞳に、乾杯」
……字幕にしか存在しなかったはずの、名台詞。
こうして台詞として音で聞くと、本当に気障な台詞だなあ、と思うんです。
でも、実際に舞台で、すみ花ちゃんの大きな瞳がうるうるしているのを見ると……
本当に乾杯したくなる気持ち、すごくよくわかります。
B席で観ても、オペラグラスを使えばちゃんとそこは伝わってくるんだな、と、感心しましたし。この場面のすみ花ちゃんの瞳のパワーは、本当に凄いです♪
そこに、良いタイミングで入る支配人(光海舞人)の声。
「マダム エ ムシュー、さあ、カンカンが始まります!」
飛び込んでくるカンカンガールたち。ショータイムのはじまり。
一瞬の暗転を見逃さずに、舞台からはけるリックとイルザ。
立ち上がって拍手をする客たち。何度見ても、舞生ちゃんの喜びようが可愛くてたまりません(*^ ^*)。
■第13場 ラ・ベル・オーロール ~1940年6月13日~
カンカンガールたちのショーが終わって、そのまま次の場面へ。
客たちはそのまま出ているし、着替えたのもリックとイルザだけなので、あまり変わった気がしませんが、その間にも時は流れ、今はもう6月。
客たちの人間関係もだいぶ変わってきた……かな?(^ ^)。
ああ、パリは一回では終わらなかったか……。
これでも、だいぶ端折ったつもりだったのになあ(汗)。
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