宝塚歌劇団宙組公演「カサブランカ」。



■第9~11場 リックの店 ~1941年12月1日夜~(つづき)

前回の日記ではちょっと飛ばしてしまいましたが、ヴィクター・ラズロとシュトラッサー、ルノー三者の会談が、実はかなり好きです。っていうか、たぶん、単にラズロが好きなんだと思うんですが(^ ^)。「今ここでは無理でしょう」の肩のすくめかたとか。「ルノー大尉。これはあなたの要請ですか?」とか、慇懃無礼で嫌味たっぷりで、なのに、どこか軍人たちの嗜虐性に火を点ける、そんな部分があると思うんです。
元来、相手の出方をみてそれを受けるという芝居は不得手な人だった印象をもっていたのですが、「薔薇に降る雨」の男爵もすごく良かったし、最近はそういう役が多くなってきているんですね。

映画のヴィクター・ラズロは、リックよりだいぶ年配の、理論家というか学究肌の紳士だった印象がありました。この舞台でも、回想シーンでのリックとセザールの会話の中で「(ラズロは)平和主義者だろう?俺には関係ない」という台詞があったりするんですが。
……蘭トムさんのラズロは、実戦派ですよねえ(*^ ^*)。武闘派というほどではないかもしれませんが、実際に銃を持って戦って、兵士たちの士気を挙げる英雄タイプ。
あああ、本当にカッコイイわぁ~(*^ ^*)。



カフェの専属歌手、コリーナ・ムラ(鈴奈沙也)のショータイム。
サム(萬あきら)は休憩のためピアノの前を離れて上手へ向かい、カフェの中央階段でコリーナがアダルトに歌いだす。



ラズロを召還できたことに満足して、悠然と店を出て行くシュトラッサー。見送りに出るルノー。
カールから伝票を受け取って、すごくイヤそうな顔をしながらサインをするハインツ(風莉じん)がすごくツボです。

彼らがいなくなって、一気に店内の空気が緩む。



ココで見逃せないのは、それまで上手のバーカウンターでサッシャ(春風弥里)やバーガー(鳳翔大)と喋っていたトネリ中尉(月映樹茉)です♪
元々熱心なコリーナのファンだった、という設定なのか、この晩に初めて歌姫に出会って、一目惚れしたのか?どちらにしても、彼は猛烈な勢いでコリーナにアタックしています。テーブルの間を歌いながら練り歩く歌姫のあとをついて歩き、そこらのテーブルの花を勝手に取って渡そうとしたりしているし(汗)。ラズロやシュトラッサーたちの、面子から生命から、あらゆるものを賭けた闘いをよそに、手の届かない恋しい歌姫をひたすら追いかけている彼は、とても幸せそうに見えました。
……92期って、本当に人材豊富なんだな………。



一息ついて、バーガーの居るバーカウンターへ向かうラズロ。
シュトラッサーを見送って戻ってきたルノーは、下手のテーブルで美女と歓談中。そちらにチラリと眼をやりつつ、落ち着いた足取りで。

憧れの英雄と話す喜びに興奮気味のバーガー。
ウガーテが逮捕されたと聞いてがっかりするラズロ。
「あなたには我々がついています!」と一生懸命慰めるバーガー。トラックの手配はできているけど人手が足りない彼らは、ラズロのために何をしてあげられるかなあ(^ ^;

“今夜の集会”に出席を依頼したあたりで、注文の「シャンパン・カクテル」を作っていたサッシャが割り込んでくる。彼は、バーガーとラズロが話している間中、カクテルをつくりながら周りを見ているんですよねー。彼なりに、バーガーたちを守ろうとしているのが可愛いです♪
しかーし、割り込み方がわざとらしくて暑苦しいのが、みーちゃんらしさなのかしらん(^ ^;ゞ

下手から、ちょっとニヤニヤしながらバーカウンターに近づいてくるルノー。わざとらしくバーガーに声をかけて追い払い、席に戻ろうとするラズロを引き止めて話を始める。
ルノーは完全にバーガーの裏を知っていて、泳がせているんですよね?で、バーガーはルノーにバレてることを判っている、のかなぁ?大ちゃんの芝居は非常に素直で可愛いので、もしかして何も判ってないんじゃ?と心配になるんですが。



それにしても。
ちょっと話が戻りますが、ルノーは何故、ラズロとウガーテの取引場所がリックの店だと予想しなかったんでしょうね。ウガーテがここに居ることは知っていたのに。『誰かに会いたければ、リックの店に行くといい』……ラズロはウガーテに会いたかった。だから、リックの店に来ると思わなかったのでしょうか?
ラズロとウガーテが書類を受け渡している現場を押さえることさえできれば、二人まとめて逮捕できたのに、先にウガーテを(手際よく)掴まえてしまったばっかりに、本命のラズロを逃がしてしまうんですよね。シュトラッサーも機嫌よく帰って行ったけど、そこはルノーのミスじゃないのか?

この時点では、魔法のヴィザはウガーテが持っていると思っていたから、安心していたということ?あるいは、ルノーは、本心ではラズロに渡米して欲しいと思っているから、なるべくラズロを捕まえずにシュトラッサーに指示された任務を最小限にして果たすことを考えているという解釈もあるのかなあ…?



テーブルに残ったイルザは、ウェイターのビゴー(七海ひろき)にピアニストを連れてくるように頼む。
現れたサムに、懐かしそうに話しかけるイルザ。
美しい過去の思い出に浸りこもうとするイルザと、目の前で血を流し続ける傷口をじっと見守って来たサム。
「リックはどこ?」
「ブルーパレットって店に女が出来ちまってね……」
「サム、あなた、昔はもっと嘘を吐くのが上手だったわ」

彼女にとっては。懐かしい過去の思い出であっても、
リックにとっては、決して癒えることのない傷。

「弾いて頂戴、サム。……“As Time Goes By”」

ハミングで歌いだすイルザ。楽しかったパリの思い出。愛する男と、愛した男。
でも、一人の男にとっては、それは未だに現在進行形の愛だから。

「その曲は二度と弾くなと……っ!」

階段を駆け下りて叫ぶリック。
“取り乱すリック”なんていう珍しいものを初めて観た客たちの、純粋な驚きの表情。
困ったように眉だけ動かして、イルザを示すサム。

「………」

時間が止まる。
空気が凍る。

心配げに立ち上がって、イルザのもとに向かうラズロ。
それをちょっと抑えて、声をかけるルノー。

「マドモアゼル、彼が先ほどお尋ねのリックです。リック、こちらは」
「………イルザ」

ルノーの言葉と共に動き出した時間も空気も、リックの周りだけ、まだ止まったままで。

食い入るように、イルザだけを見凝めるリック。
その視線に耐えられず、視線を逸らすイルザ。その蒼褪めた頬に、先刻までの穏やかで懐かしげな笑みはなく。頬に、髪に、絡みつくようなリックの視線に晒されて、それでも気丈に胸を張って立っている少女。

ラズロに請われるままに、テーブルにつくリック。さりげなくテーブルを調えるカールとビゴーが、とっても有能。
ここから先は、ちょっと眼を伏せつつも凝っとイルザから視線を離さなかった日もあるし、逆に、まったくイルザを見なかった日もある……と思うんですよね。私自身も、他のテーブルに気をとられていることも多くて(ごめんなさい)あまり観ていないときもあったりするのですが(^ ^;ゞ、真っ直ぐに正面から視る、というのは、大劇場で初めて観たとき以来あまりやっていないような気がします。
ちょっと顔を背けて、でも眼の端で追っている、みたいな感じ。



なんとなくおかしな空気には気づきながらも、あたりさわりのない会話を続けるラズロ。
イルザと最後に会ったのは、パリにドイツ軍がやってきた日だった、というリックの言葉に
「忘れられない日だね」
と、ひどく懐かしげに呟くのが印象的です。……あれっ?その日って、ラズロにとってはどういう日なんだろう……?もうパリに入っていたのでしょうか。そのアタリは、最後まで観てもよくわからないんですよね、ラズロの回想シーンが無いので。



夜間外出禁止時間が近づき、ラズロとイルザも席を立つ。
さりげなく護衛(尾行)をつけることを宣言しつつ、爽やかに送り出すルノー。


挨拶もそこそこに、逃げるように店の中へ戻っていくリック。
イルザだけが、そんなリックを視ている。


ルノーが店内に戻るのを確認して、下手花道へ向かうラズロとイルザ。
バーガーに連れられて、ラズロと同じスーツを着たアンリ(愛月ひかる)が現れ、帽子を交換して歩き出す。アンリはイルザを連れてホテルへ、ラズロはバーガーと共に地下水道へ。
そういう役は、もう少し身長や体格の似通った人でやったほうがいいんじゃないでしょうか>小池さん






盆がまたくるりと回って、店の中へパン。
閉店時間を過ぎて従業員も帰った店の中で、酔いつぶれているリック。

ありがとう小池さん。

思えば、酔っ払った祐飛さんには数々の名シーンがありますが。
この場面は本当に名場面だよなあ、と。


なんだか、結構時間が気になるこの芝居。
このとき、カサブランカは何時なんでしょうね。このあと、回想シーンが終わったあとで、酔いつぶれて寝てしまったリックにサムが「夜が明けちまいますよ」と言うので、おそらくは3時か4時か……早くてもせいぜい2時くらいだと思うのですが。

問題は、「夜間外出禁止時間」が何時からなのか、だと思うんですが、いくら調べても、当時のモロッコの戒厳令の詳細がわからない(T T)。
映画を見れば、時計が映っていたりするのでしょうか……?

おそらく、「夜間外出禁止時間」=閉店時間でしょうから、たとえばそれが夜の12時なら、そこから従業員が片付けるのを見ながら飲み始めて、1時間くらいで酔っ払ってサムに絡み始め……ぐでんぐでんに酔っ払ってダウンするまで3時間くらい?
そんな細かいチェックをしたくなるのが、小池作品の深いところです。




『As Time Goes By』を弾いてくれ、とねだるリック。
「思い出は、古傷に滲みるかもしれませんよ」
「……彼女が耐えた痛みなら、俺も耐えられる」

たぶん、「As Time Goes By」を頼んだ時点でのイルザの古傷は、せいぜいむず痒さを感じる程度のもの。
今リックが耐えようとしている激痛とは全く違うものだったのだろうけれども。

……そんなこと、知らない。
俺がこれだけ痛むのだから、彼女も同じだけの痛みを背負っているはずだ。
たとえ、彼女自身は忘れてしまっているのだとしても、俺が愛した1年前の彼女は。


♪恋人たち 交わすI Love You
♪本気になる……


次第に、闇の中に沈んでいくサム。
バックスクリーンに浮かび上がる石造りの街なみ。窓々から零れる灯火。ライトアップされた繁華街のネオンサイン。数々の看板。
夢のように。走馬灯のように。
あるいは、回転木馬のように。
一つ回ると年を取る。逆に回ると若返る。レイ・ブラッドベリの「何かが道をやってくる」を思い出させる、見事な演出です。

リックの記憶が投影されたバックスクリーンに向かって、彼は自らの脚で階段を昇り、そしてまた降りていく。
記憶の街の中へ、と。

♪明日さえ見えない As Time Goes By

今、彼の視界に広がっているのは、春の出会いと初夏の別れ。
秋の孤独と冬の超然は消え去った。どこかに置いてきた。


「世界中の酒場の中で、なぜこの店に来た……!」


リックの虚無が、あの広い大劇場全体を包み込んだ瞬間。
銀ちゃんとは全く違うけれども、リックも銀ちゃんなみに感情のUP-DOWNが激しいタイプだったんだな、と思いました。
役者って、すごいなあ……(いまさら?)




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