帝国劇場にて、「パイレート・クイーン」を観劇してまいりました。



16世紀のアイルランドに生きた女海賊グレイス・オマリー(保坂知寿)と、イングランド女王エリザベス一世(涼風真世)。この二人が生涯でただ一度会見し、お互いの祖国の将来について語り合ったというエピソードをもとに、波乱に満ちたグレイスの人生を語ったミュージカル。
プログラムの解説を読むと、細かいエピソードはかなりフィクションだったようですが、ミュージカルとしての見せ場もあり、女たちのキャストも嵌っていて、作品として非常に面白かったです(*^ ^*)。




初演のプロデューサーは、アイリッシュダンスのショーとして日本にも何度か来ている「リバーダンス」のプロデューサーコンビ。谷正純さんの迷作「JAZZYな妖精たち」でいちやくタカラヅカファンにも認識されたアイリッシュダンスですが、今回のカンパニーは、「リバーダンス」でもメインに入っていたキャロル・リーヴァイ・ジョイスが振付を担当。本場のダンサーも男女数人が加わって、かなり高度なダンスを魅せてくれました♪

クリエイティブ・スタッフの中心となったのは、「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」を創ったブーブリル&シェーンベルクコンビ。春野寿美礼さんが主演した「マルグリット」も同じコンビですが、あれは音楽はミシェル・ルグランだったのに対し、今回はシェーンベルク本人が作曲。
「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」「マルタン・ゲール」と、どちらかというと交響楽的な重厚な音楽を得意とした人ですが、今回は、風のように響くケルティックな雰囲気を大事にしようとしたようで、響きの明るい軽やかな音楽をメインにしていました。楽器もケルティック楽器をつかっていたみたいで、珍しい音だったような気がします。

あと、演奏もオケボックスではなく舞台の奥だったのですが、全員が袖のたっぷりした白ブラウスにベストという衣装で楽しそうに弾いていたのが印象的でした。最初メンバーが出てきたときは、役者が座っているのかと思ったくらい(^ ^)。実際、ヴァイオリンと笛(←すみません楽器の名称がわからず)の方は、ダンスナンバーのたびに舞台前面に出てきて楽しそうに演奏していて、とても可愛かったです。
全体に、音楽とダンスの一体感がすごくあって。リバーダンスでもそうですけど、ダンサーの中にも、みなが踊るときにパーカッションをしてくれる人がいたりして、ああ、アイルランドのお祭はこんな風に皆で演奏して、皆で踊るんだろうなあ、なんてことを思いました。


日本版の演出は山田和也。元々、軽やかでショーアップされた小品を得意とする人ですが、小劇場でなくても、コメディではなくても、こういう作品は良いんだな、と感心しました。ドラマとしては結構深刻なテーマを扱った大河ドラマなんですけど、観終わった後の印象がすごく清々しくて「楽しかったなあ~♪」という感じなんですよね。ドラマの部分とショーの部分のつなぎが巧いから、物語がぶつぶつ切れずにちゃんと流れていったのだと思います。こういうのは、舞台転換のおおい小品を上手に仕上げてきた彼の強みなんでしょうね。

作品自体がよくできているのと、キャストが(ティアナン以外は)非常によく嵌っていたのもさすがによく役者を視ているなあ、という気がしました。
しかーし、なぜ山口さんを使ったんだろう……………(疑問)

装置は松井るみ。彼女の装置もいつも好きなんですが、今回のはシンプルでよかったです。盆がそのまま船のセットになっていて、微妙に八百屋になっていたのがカッコいい。
山田さんの演出もそうですが、すごくシンプルで質の高い、帝劇という大きさに負けていない作品に仕上がっていた、と思います。





厳しい気候と複雑な地形に分断され、群雄が割拠していたアイルランド島。
12世紀ごろから名目上はイングランド王がアイルランド王を兼ねるようになっていたようですが、最初の頃は東のダブリン周辺を支配するのみで、アイルランド全体がイングランドの支配下に降るのは17世紀初頭。ということは、エリザベス一世の治世(16世紀後半)には、まだまだ「アイルランド女王」という称号は名目上のものだったんですね。それでも、彼女の父親ヘンリー八世の時代から、少しずつアイルランド支配を実効力のあるものにしようという動きは始まっていたようです。




オマリー一族の族長ドゥブダラ(今井清隆)の娘として生まれたグレイスは、女の身で海を愛し、船に乗ることをを切望していた。ズボンをはいて父の操る船に密航した少女は、イングランド船との戦闘で手柄を挙げたことで認められ、族長の後継者候補となる。

次第に支配力を強めようとするイングランドに危機感を感じたオマリー一族は、“隣の氏族”であるオフラハティ一族と同盟しようとする。和平に応じたオフラハティ族長(中山昇)が出した条件は、グレイスと、自分の息子ドーナル(宮川浩)の結婚。
グレイスは幼馴染の恋人ティアナン(山口祐一郎)と別れて、一族の未来のためにドーナルと結婚する決意をする……。
(ちなみに、この後は最後までストーリーを書いてしまいましたので、ご注意を)



オマリー一族は海戦を得意とする海賊で、オフラハティは陸戦が専門だったらしく、同じゲール系とはいっても全く相容れない存在だった……とゆーことかな、あの対立っぷりは。
まあ、当時はまだイングランドは「遠くの敵」で、隣の氏族の方が恐るべき「近くの敵」だったのでしょうけれども。
いずれにしても、グレイスは一族を離れてオフラハティの土地で暮らすようになります。二度と海へ出ることもないと覚悟して、浮気な夫に癇癪を起こしながらも。

それでも、男勝りのグレイスは、男たちの留守を襲ってきたイングランド兵を女たちだけでやっつけたりして、女たちの人望を集めていく。
そんなとき。ティアナンが「オマリーの族長が怪我をして重篤だ」という報せをもって来る。慌てて帰郷するグレイス。グレイスの夫として、後継者指名を受けたいドーナルも共に行くが、族長が後継者に指名したのは、愛娘のグレイスだった……



族長の葬儀の場面(船に乗せて海へ流す海葬)の演出が非常に美しく、印象に残りました。オマリーの女として葬儀のソロを歌う荒木里佳さんが神秘的でとても良かった。そこからダンスに繋がる流れも自然で、結婚式や洗礼式などのお祭騒ぎとは違う、あくまでも厳粛なショーシーンでした。



二幕は、船の上で息子を産み落とすグレイスの場面から。
船に慣れなくて、へろへろと歩いている宮川さんがうまいなあ、と思いました。船の上がイヤでイヤでたまらない……という空気がちゃんとあって(^ ^)。
そこへ現れるイングランドの軍艦。慌てて降伏しようとするドーナルを怒鳴りつけ、出産直後の身体で船を守り抜くグレイス。夫に剣を向けて追い出すグレイスが、実に美しい。



その頃イングランドでは、女王エリザベス一世のもと、アイルランド併合へ向けて政治が動いていました。
“処女王”エリザベスをモノにすれば、イングランドは俺のもの、とばかりに野心を燃やすビンガム卿(石川禅)。「アイルランド全土を差し出した男となら(結婚を考えるかもね)」と示唆した女王に膝をついて、「必ずや」と誓ってみせる。

そんなビンガム卿に近づく男。オフラハティのドーナル。イングランドと密約を結んで、自分の息子(オーエン)の洗礼式に姿を現す。

「息子の洗礼式に、父の立会いを」と訴える元夫に、
「夫としては許さないが、息子の父親としてなら」と硬い表情で許すグレイス。
しかし。息子を抱く元妻に近づいたドーナルは、剣を抜いてグレイスに突きつける。
同時になだれ込んでくるイングランド兵たち。あっさりと捕えられるグレイス。
目の前でグレイスを奪われたティアナンは、ドーナルを殺してゆりかごの中の子供を連れ、逃げだした。いつかグレイスを取り戻すことを誓いながら。



それから七年。グレイスはダブリンの牢に繋がれたまま。
しかし、グレイス一人を奪っても、アイルランドの抵抗が息まない(←そりゃあそうだ。グレイスはアイルランドの女王でも何でもないんだから)ことに苛立つエリザベス一世は、ビンガム卿に当たり散らしながら日々を送っている。
ついに、アイルランドの主な士族たちがイングランドに降ってくる。一人一人、冠を差し出してイングランドに忠誠を誓う。その中にはオフラハティもいる。

そして。
その長い列の一番最後に、冠を持たない男が、一人。
オマリー一族のティアナン。族長はダブリンの牢にいる。自分はただ、エリザベス一世に頼みがある、と。

「7つになった息子に、母親を返して欲しい」と女王に訴えるティアナン。
「女海賊の心を支えているのは、この男と息子の愛なのか…?」
“処女王”エリザベスは自問し、惑い、そして、頷く。
「お前が彼女のかわりに、ダブリンの牢に入るというなら……」



牢から解放され、息子と抱き合うグレイス。
イングランドに搾取され、海賊行為を禁じられて疲弊した故郷。生来の負けん気で、ロンドンへ乗り込む決心をするグレイス。船に乗ってテムズ川を上り、エリザベス一世に直接の対話を申し入れる。
女王の私室で語り合う二人。二時間もかけて何を話し合ったのか、笑顔で出てきたエリザベス一世は、ティアナンの釈放と、ビンガムの更迭を命じる。
「お前は私の名誉を傷つけました…」
自分を女王として敬い、イングランド臣民としての自覚をもって働くならば、自治を認めようという女王の言葉に、笑顔でうなずく女海賊。おそらくは、他国(特にスペイン)の船を襲うぶんには、海賊行為も遠慮はいらない、というお墨付きも与えたことでしょう。

ティアナンを助け出し、抱きあう二人。未来への明るい希望を感じさせて、幕。





プログラムによると、史実としてエリザベス一世とグレイス・オマリーの会談というのは1593年のことだったようですね。この時エリザベスは60歳、グレイスも同世代だったようです。
でも。この物語では、ラストシーンでもグレイスとドーナルの息子オーエンが7歳。…この頃の結婚は早かったでしょうから、たぶんグレイスが20代後半からせいぜい30歳程度だったと思われます。
ってことは、1563年頃のことだということか。
……アマルダ海戦(1588年)に勝利して大西洋の制海権を握ったイングランドだからこそ、アイルランドをゆっくり制圧できたんだろうに、1563年じゃあちょっと時代的に無理があるんじゃないかと思ったりもするのですが……。
まあ、そんなことはいいのかなあ(^ ^;ゞ

不思議なのは、海賊の話なのにフランシス・ドレークたちイングランド海軍の名物提督が出てこないことなのですが。まあ、1563年頃までの話だとすると、時代的に確かに出てこなくても不思議は無いんですけどね。日本で思っているほど、彼らは有名人じゃないのかなあ。……まあ、イングランドじゃなくてアイルランドが主役の舞台だから、イングランドの有名人はエリザベス一人出てくれば十分なのか?


それにしても。
この話、観ながらずっと思っていたんですが、河惣益巳の「サラディナーサ」に似てるんですよね。
っていうか、河惣益巳はグレイス・オマリーのエピソードを元にして「サラディナーサ」を描いたのでしょうか。物語の骨子は全然違うんですが(あちらはスペインが主舞台で、アイルランドのアの字も出てこない)、軍事に天才的な才能を見せる女海賊だとか、エリザベス一世との会談だとか、細かいところが良く似ていて、面白いなあと思いました。

そういえば、タカラヅカで「サラディナーサ」やればいいのに、と思ったことがあったなー、昔(^ ^)。



知寿さんと涼風さん。最後の最後まで出会わない二人の女傑が主役の物語でしたが、二人とも本当に素晴らしかったです。

エネルギッシュでパワフルで可愛い知寿さん、「クレイジー・フォー・ユー」の元気なポリーが帰ってきたかのような可愛らしさで、本当に懐かしかった!!もうそれなりの歳のはずなんですけど、小柄で細くてスタイルが抜群なので、遠目に観る分には十分若々しくて可愛かったです(*^ ^*)歌はさすが。帝劇を埋める歌を歌える数少ない人の一人だな、と改めて感心しました。
「マンマ・ミーア」も素敵だったけど、やっぱりポリーが最高!と思っている猫にとっては、嬉しいキャスティングでした♪

涼風さんはまた、知寿さんとはうって変わって、つかみどころのないファンタジックな存在感。割とコミカルな演技をしていましたが、わざとらしくない怖さがあって凄く良かったです。ああ、エリザベス一世ってこういう人だったのかもしれないなあ、という底知れなさがありました。
最初の「女王の朝」のナンバーからして、掴みはOK!!という感じでしたね。「ME AND MY GIRL」のマリア侯爵夫人も良かったけど、こういう少女アリス系の怖さを見せるとこの人に勝てる人は少ないだろうな、と思いました。


男性陣は、髭率が高くて嬉しかった!(^ ^)
なんといっても、今井さんの髭姿は美丈夫でしたね。貫禄ありすぎて神様みたいでした。

山口さんは仕草が挙動不審すぎる(^ ^;。っていうか。彼の武器は歌なわけですが、残念ながら今回は、その歌が個人的に駄目だったので……。二幕の歌はまだマシだったんですけど、一幕の歌がね。普通に若くて声の出るテノールが担当するべき歌なのに、いくら音域が広いといっても、ハイバリトンの山口さんに歌わせるのはキツいですよ、あれは。
「ゲッセマネ」の高音部みたいに、感情の昂ぶりの流れがあって出すならあの発声でも良いんですけど、あの歌は普通にテノールの音質で聴きたい(T T)。歌い始めからあの声じゃあ、「変な声」としか認識できないってば。
音質的にはマリウス系で、高音まで滑らかに出る人で、知寿さんとの釣り合いがとれて…と思うと、石丸幹二さんか石井一孝さんか、というあたりだと思うのですが。うーん、難しいなあ。
正直に言えば、知寿さんは若く見えるので、浦井くんでいいじゃん!!(←1月に「蜘蛛女のキス」です)あるいは山崎育三郎くんとか、そのあたりでどうよ。(←さすがに帝劇でそれは…)

宮川さんはちょっと惜しい、って感じだったかなー。彼はあまり、ああいう卑屈なキャラが似合わないんですね。体つきのわりにはインテリっぽい雰囲気のある人だし。今ひとつ闇が足りない、というか。いや、でも、歌は良かったです。ええ。

そして、禅ちゃん!!禅ちゃん、最近観た中でも一番良かったかも!? どうにも遣る瀬無いほどの小者感に溢れていて、とても素敵でした。髭も衣装も、ついでに体格も立派なのに、どうしてあんなに貫禄がないんだろう……フランツと同一人物とはどうしても思えません。「ウーマン・イン・ホワイト」も良かったけど、今回のワルっぷりは最高でしたね♪



作品としてはすごーく面白かったし、女二人のキャスティングやアンサンブルは最高でした。
音楽も良かったし、とにかくアイリッシュダンスは凄い!!です(*^ ^*)。久しぶりの帝劇でしたが、すごく楽しんでしまいました。
舞台装置の模型が「出張中」だったのだけがとっても残念……(^ ^)。


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コメント

nophoto
hanihani
2009年12月24日13:32

アイリッシュダンス、面白かったしとても素敵で素晴らしかったです。

あの太鼓みたいなのでリズムを取るのとか本格的で、あれが効果的だったかと。
オーケストラの衣装も可愛かったし、楽しい舞台でした。

知寿ちゃんとかなめさんは、配役ぴったりでしたね。
禅さん、最高だったし今井さんなら、知寿ちゃんがファザコンなのも納得な懐の大きいパパでしたよね~♪
宮川さんも船でひねくれてるところとか可愛げあって良かったです。
だって、100%嫌なヤツだったら、いくらパパの遺言にすれ子供作ろうって気持ちにはならないと思うんですよね(妙に実際的!)

それで、唯一これは失敗だよねと思ってみていたのは山口祐一郎さんだなぁ。

今月の四季会報に浅利氏が劇団四季を退団した人に関して、非常に厳しい意見を述べていますが、知寿ちゃんには当てはまらないけど、祐一郎氏はあれを読んで反省したほうがいいと思う。

うーーん、誰がいいかなぁ?と私も観ながら色々と想像してみたのですが、
幼馴染で、船長には絶対服従、でも彼女にはすっかり惚れていて・・・

浦井くんだな、うん。ねこさまの配役に賛成!

で、浦井くんだったら夫になるのは川崎麻世みたいな雰囲気の
もっと見た目からしてチャラけた人がいいかなぁ~(笑)
どうでしょうか?

みつきねこ
2009年12月25日1:29

hanihaniさま、良かったですよね~~っ♪
年末の帝劇で、今年もいいもの観れて良かったなあと思いました(^ ^)

そうそう、船の上でオロオロしている宮川さんは可愛かったですね!グレイスは、それなりに家庭を作っていこうとしたんだと思います。プログラムに書いてある史実のグレイスは、ドーナルともかなり仲睦まじい夫婦だったみたいですしね♪

しかーし、山口さん。
アサリ御大の戯言は放っておきます(あの人は過去に「ウェストサイド物語は今ちょっとタカラヅカに貸してあげてるんだが、出来が悪いから返してもらう」みたいなことを書きやがった人ですから)が、山口さんの今回のはずし方は大きかったですよね。あんな酷い歌を歌ってる姿を観るのは初めてです、私は(真顔)

彼は、芝居については微妙なことの方が多いんですけど、歌があるから許されてた面があると思うんですよね。
「永遠の処女テッサ」の知寿さんと山口さんのコンビがとても好きだったので、非常に残念…。


で。ティアナンはやっぱり浦井くんですよね!!浦井くん、最近新しいジャンルにもいろいろ挑戦していて忙しそうだけど、たまには帝劇にも出てほしいなあ。