ル・テアトル銀座にて、ミュージカル「ナイン」を観劇してまいりました。



「PHANTOM」と同じ、コーピット(脚本)&イェストン(作詞作曲)コンビによるブロードウェイミュージカル。
1982年の初演時、トニー賞の作品賞その他の多くの賞を受賞。さらに、2003年のデイヴィッド・ルヴォー演出での再演時には同賞のリバイバル賞を獲得した話題作。
日本初演は2004年のデイヴィッド・ルヴォー版で、このときはルヴォーと何度か組んでいたTPTが主催でした。
アートスフィア(現・銀河劇場)の高い天井を活かした立体的な装置と、本水を舞台に満たした斬新な演出、そして、美しくドラマティックな音楽が強く印象に残っています。
今調べてみると、あのときの翻訳は青井陽治さんだったんですね。なるほど…。



今回公演の演出は、最近ミュージカルでもヒット続きのG2氏。
どうかなあと思っていたのですが、非常に良かったです!

演出はすごくシンプル。前回は演出の斬新さが際立っていたので、そういうところを評価していた人は物足りないかもしれませんが、演出のシンプルさを補ってあまりある、深い芝居を見せていただきました。
端的に言うならば、前回の公演はショーで、今回の公演は芝居だった …と思いました。
同じ作品なのに、どうしてこんなに印象が違うのでしょうか。脚本も、新訳なだけじゃなくて、結構構成自体をいじっているのかしら?(前回のは、あまり詳しいことを覚えていないのですが)
ただの『お芝居』として純粋に面白くて、すごく真剣に見てしまいました。今回のほうが、キャストがみなさん嵌り役だった(*^ ^*)というのもあるかな…?


舞台はシンプル。特に衣装は、非常にシンプルでした。
グィドは、基本的に黒っぽいストライプのスーツ一枚で、後半にカサノヴァとして撮影に臨むときに白い上衣を羽織るくらい。
女性たちは、基本はそれぞれのスタイルに合わせた黒い衣装で、カサノヴァの撮影中は白い上衣を纏ってやっていました。あとは、何度かある幻想的な場面で、上衣を脱ぐとチラシなどに使われている深紅のドレス、という演出がありました。
セットらしいセットの無いシンプルな舞台で、衣装の色で世界を変える。舞台美術の一環としてのドレス使いで、面白い使い方だな、と思いました。
特に、一幕終了直前の紅いドレスには、ちょっと感動しましたわ……。






とりあえず、登場人物のリストをおいておきます。
#()内は、前回公演のキャスト

グィド・コンティーニ  松岡充(別所哲也)
ルイーザ・コンティーニ 新島聖子(髙橋桂)
クラウディア      貴城けい(純名りさ)
カルラ         シルヴィア・グラブ(池田有希子)
リリアン・ラ・フルール 紫吹淳(大浦みずき)
サラギーナ       浦嶋りんこ(田中利花)
スパのマドンナ     樹里咲穂(剱持たまき)
グイドの母       今陽子(花山佳子)
ネクロフォラス     寿ひずる(福麻むつ美)
マリア         入絵加奈子(宮菜穂子)


前回公演では、このほかに髙塚いおり・岡田静・江川真理子・山田ぶんぶん・鳥居ひとみ・家塚敦子・井料瑠美の7人が参加しており、全部で17人+子役1人の(今回に比べれば)大所帯でした。
今回は、女性を(タイトルに合わせて?)9人に絞り込んだことで、緊迫感のある作品になっていた面もあると思います。

っていうか。前回みたときは、アンサンブルまで含めた一人づつにそれぞれ見せ場があって、それがちょっと冗長だったような気がするんですよね。今回公演を観てみると、登場している9人の人物以外のエピソードなんて無かったんですが……あれは、全部カットになったのでしょうか?それとも、そもそもそんな場面なんて無くて、私の気のせい?(不明)
ああ、この日記を書き始める前に書いていた観劇記録のデータ、どこへ逃げてしまったのかしらん(T T)。

そして、子役(“9歳の”グィド)の名前をメモってくるのを忘れました(涙)
うーん、とても綺麗で安定したボーイソプラノの子でした。顔だちはちょっと薄め。松岡さんが非常に濃いので、「この子がどう成長したらこうなるんだ…?」と思ってしまった(汗)。




それでは、実際の公演のお話を。


ル・テアトル銀座。
銀座セゾン劇場だった頃から好きな劇場でしたが、見やすいし、椅子の座り心地も良いし、本当に良い劇場ですよねえ♪そういえば、最近あまり宝塚はここを使わなくなったなあ。使用料が高い……のかな?

今回、開幕前のアナウンスが相当面白いです。あまりギリギリに駆け込まず、5分くらい前に席に着くことをお勧めします♪(開演前も、二幕の前も!!)
とくに、リカさんがお茶目です。ぜひお聞き逃しなく!




世界的に有名なイタリアの映画監督、グィド・コンティーニ。
大空祐飛さんのファン的には、ここは笑うところです。
というか。私は、「Hollywood Lover」のあらすじが出たとき、一瞬「まさかナインのパクリか!?」と思ったんですよね(^ ^)(←実際の作品は全然違ってましたが、最初のあらすじは結構それっぽかった)。



過去にいくつものヒット作を生み出し、指折りの有名監督となったグィド。だが、ここ数作失敗が続いていて、ついには脚本が書けない(物語を思いつかない)状態まできてしまった。
そんなさなか、家庭を顧みずに浮気を繰り返す夫に焦れた妻・ルイーザが、離婚を言い出す。
彼女を宥めるために、そして、プロデューサー(リリアン)からの催促から逃れるために、ヴェネツィアのスパ・リゾートに行くことを思いつくグィド。

この、スパ・リゾートに行くと決めた後の、なんというか、「天国へようこそ~」的なスパのマドンナのソロが素晴らしかった(*^ ^*)。樹里ちゃん、最近ますますソプラノに磨きがかかって、ホントに凄いです。ボイトレがんばっているんだろうなあ~~。
前回の公演では超美声の剱持たまきさんが歌っていた曲ですが、ぜんぜんひけをとらなかったです!演出的には、前回ほどの女神様感(衣装や髪型までアテナ女神みたいだった)は無かったものの、前髪パッツンのストレートロングの髪型に相変わらずの無茶苦茶なスタイルを強調する衣装……ホントにギリシア風の彫刻みたいでした(*^ ^*)



スパ・リゾートに到着するなり、記者たち(入絵、寿、今……だったかな?)に取り巻かれるグィドとルイーザ。
次回作の予定は?どんな作品か?などとしつこく問われ、消耗するグィド。
「その女性と一緒にご旅行ということは、奥様はご存知で?」
「……その女性が、妻なんだが」
そんな会話を、固い貌で見守っているルイーザ。



スパ・リゾートの部屋でグィドとルイーザが一休みしていると、電話が鳴る。
愛人のカルラからの、「追いかけてきたわ」という電話に仰天するグィド。

ここのナンバーは、前回公演で一番印象的な場面でした。アートスフィアの高い天井から、舞台まで、太い縄一本に逆さに吊られて降りてきたんですよ、池田有希子さんが。
ブランコとかじゃなくて、身体に縄を巻きつけて、それ以外の支えは無い状態で。しかも、降りてくる途中の空中で姿勢を替え、縄と戯れながら。
……色っぽいというか、倒錯的なパフォーマンスで、物凄かったです……。

それに比べれば、今回のシルヴィアは、袖からソファに下着姿で寝そべって出てくるだけで、演出的には“ごく普通”でした。グィドに絡むダンスは、普通に色っぽくて(*^ ^*)とても良かったけどね。いや、普通に…というか、生々しい色気でしたが(汗)。ドキドキ。



目の前で愛人からの電話に出て、そんな妄想を繰り広げている夫を醒めた目でみているルイーザが怖いです。この場面ではまだ、彼女が気づいているかどうか観客にはわからないハズなのですが、新妻さんはかーなーり怖かったなあ…。



そして。また少したつと、プロデューサーのリリアンからも電話が入る。
「ヴェネツィアで何をしているの?まだ私は脚本を受け取っていないのだけれど?」
焦りのあまり、適当なことを言ってしまうグィド。
「もちろん、もうできています!!ヴェネツィアへ来たのは、撮影準備のためで」
「ヴェネツィアで撮影するのね!?わかったわ、すぐに行くわ。撮影部隊も行かせるわ!」

……身から出たさび。とゆーのはちょっと違うか?
とにかく、一時シノギのでたらめのつもりだった言葉に、さらに追い詰められるグィド。
リリアンが到着するまでに、脚本を仕上げなくてはならない。ほんの数日の間に。



いくら焦っても、スランプ中の彼に、インスピレーションの神様は降りてこない。
過去の体験を基にした作品を得意とする彼は、次第に自分自身の記憶の渦の中に巻き込まれていく。
たくさんの愛人たち。たくさんの女優たち。
9歳の頃、砂浜で『愛』を教えてくれたサラギーナ。
そして、息子を理解できない自分に、いつも傷ついていたママ。
ママを、そして愛人たちを傷つけてきた自分。


長いことグィドのインスピレーションの源だった女優・クラウディアが到着。彼女にすべての希みをかけたグィドに、クラウディアは問いかける。
「あたしの役は、何?」
「立っているだけで雰囲気のある女だ」
「……そういうのは、もうやったわ。何度も、何度も……
「じゃあ……」
「それもやったわ。……言ったでしょう?今までと違う役なら出る、と」
「クラウディア」
「同じ役しかやらせてもらえないなら、このまま帰るわ」

つれなく踵を返そうとするクラウディアに、グィドは縋りつく。
君がいなくては駄目なんだ、と。
でも。男のインスピレーションであることに疲れた女は、寂しげに背を向ける。
「あなたは、いつまでも子供なのね。カサノヴァみたい」

必死すぎて何も見えなくなっていた男にとって、その一言こそがインスピレーションだった。
神の啓示のように、彼の女神のお告げを受け止める男。
「カサノヴァ……そうだ、それだ!!」


ヴェネツィアを舞台にした物語。何もアイディアが浮かばない彼は、卑近な現実に取材した自伝的な脚本を書き始める。
なんの反省も無い、ただ事実を並べただけの、自伝を。







今回、前回と比べて一番印象的だったのは、グィドのキャラクターでした。
松岡さんのグィドは、正しく『間違えた男』だった。
9歳のときにサラギーナの手を取ったのが分かれ道。そこで間違った道を選んでしまった男。
愛することを知らない、愛されることを知らない、男。
……お母さんは、ちゃんと愛していたのにねえ……。


別所さんは、いかにもイタリア男っぽいマッチョさがあって、それは良かったんですが。彼は、どうしたって『気は優しくて力持ち』に見えてしまったんですよね。芸風が誠実すぎて。
それが、このグィドという役には致命的だった。毒のなさ、根っこのところでの真直ぐさが。

松岡さんは、持ち味としてもヒネた役が似合うと思うのですが、その中でも特に ヒネてるけど可愛い男、とゆーのが似合うと思います。
ヒネてるけど可愛くて、女がつい「守ってあげたい」と思ってしまう。愛さずにはいられない、男。しかも、「偉そうに振舞う」ことに慣れていて、舞台の上で嘘が吐ける!
グィドっていうのは、嘘吐きな男なので。彼はすごく嵌り役だったと思います。松岡さんをキャスティングしたG2さんは、神だと思う。



クラウディアのかしげちゃんも当たり役でした。
その美しさと、『立っているだけで雰囲気がある』存在感。どこか寂しげな風情と、やわらかなハスキーな声が、すごく役に合っていたと思います。

最後の方で、グィドに「あなたは一度も聞いてくれなかったけど、あたしにも生活はあるのよ。……女優として生きることを応援してくれる、優しい人が」と告げる場面。
涙をこらえて淡々と語るかしげちゃんの美しさ。切なさ。「愛すること」の難しさ。
……名演技でした(*^ ^*)。G2さん、ありがとう♪



そして、ルイーザ。
新島聖子さんの頑固な強さが、凄く生きた役だったな、と思います。ルイーザも元女優なんですが、グィドと結婚したときに引退するんですよね。宝塚OGの中に入るとちょっと垢抜けない雰囲気があるのが、そういう人生を選んだ人っぽくて、そんなところまで嵌っているなあと思いました。

ルイーザのグィドに対する愛というのは、ほとんど母性愛だと思うんですよね。
離婚を言い出しながらも、行き詰っている彼をサポートするために愛人たちに連絡を取ったり、後始末をしたり……ほとんどマネージャーに近い存在のように見えます。
それでも、彼女は彼女なりに、グィドを愛していた。
これ以上一緒に暮らすことはできなくても、彼の創り出す世界を、愛していた……。
前回の高橋さんはあまり印象に残っていなくて、こんな役だったっけ……?という感じなのですが、新妻さんのルイーザ、私は本当に感動しました。



リリアンはフォーリーズの元スターだったという設定があって、ひとしきりセンターで歌い踊った末に「こういうのを撮って頂戴!」という場面があって、その我侭ぶりにちょっと笑いました。
ドスのきいた低い声はさすが元男役、迫力があってよかったです♪



グィドに絡む9人の女たち、と言いながらも、大きく絡むのは妻のルイーザとクラウディア、カルラ、リリアン、グィドの母、そしてサラギーナの6人。

ネクロフォラスはリリアンが連れてきた評論家で、グィドの最近の作品について辛辣なことを言いますが、それ以上の関係はない。ただ、彼のクリエイティブ(=プライド)に傷をつけるという意味では唯一の存在で、もしかしたら一番影響力が大きいのかもしれませんね。
寿さんの重さのある芝居が非常に良かったです。特に、ラスト前に追い詰められたグィドの前に拳銃をおいていく前の「保険をかけておいて、本当に良かった」という台詞が素晴らしかった!

マリアは映画女優で、グィドが撮影する「カサノヴァ」の映画の中で、カルラに相当する役を演じる。あまりはっきりと説明されるわけではないのですが、現実にもグィドの浮気相手の一人であるらしい。加奈子ちゃんは達者な女優で、アルバイトも含めてどの役もすごく良かったです。
個人的には、プロローグの芝居(「ナイン」という映画を撮る直前の女優たち、という設定でいろいろ楽屋で喋っているっぽいのですが、微妙に物語にリンクしていて、面白いけど混乱する)の嫌味な女優が良かったです♪







グィドの中にあったはずの、『インスピレーション』という名の泉。
今はもう枯れ果ててしまったその泉の跡を覗き込みながら、なんの手もうてず、ただ泣きくれているだけの子供。
彼独りでは、二度とその泉を蘇らせることはできない。
たぶん、『愛』がなければ。

その『愛』を、与えようとしたルイーザ。
自分が与える愛では足りないなら、他の誰かと、と。
カルラでも、クラウディアでも、マリアでも。
あの人のインスピレーションを刺激してくれるなら、誰でも、と。

その『愛』を、ほしがっていたクラウディア。
たった一つ、グィドがあげられないものを、欲しがっていた女優。
彼女にだけは、それを求める権利があった。与えられはしなかったけれども。

その『愛』が、グィドにもあると信じたかったカルラ。
グィドに裏切られた彼女の、悄然とした背中が忘れられません。
激しいナンバーの間中、ぴくりとも動かずに、舞台の隅に佇むカルラ。迦楼羅の名に相応しく、翼をもがれた鳥のような、痛々しい背中でした( ←迦楼羅は、英語ではガルーダのハズだが……)




なんだか、幻想と現実と記憶が入り混じる複雑な構成の物語なので、後から説明しようとすると難しいなあ……。
観ているときは、すべてがわかったような気がしたのに。


とにかく、面白かったです。前回観て、ぴんとこなかった方にもお勧め。
(最近、そういうの多いような気がする。もしかして、許容範囲が広がっただけなんじゃないのか?>自分)(………宝塚作品を基準にしてるから、とか?)



.

コメント