日本青年館にて、「コインブラ物語」を観劇してまいりました。



とりあえず。
脚本の小林氏も、演出の酒井氏も、いったい自分たちが何を描きたいのか、もう少し整理をしてから作品に取り掛かってほしかったなあ、と、それが観終わって最初の感想でした。



参考までに。原作、というかネタ元の「ペドロとイネス」の物語の本筋を簡単に書くと、こんな感じです。

①イネス(蒼乃夕妃)はカスティリア貴族の娘。コンスタンサ(優香りこ)とペドロ王子(轟悠)の結婚話が持ち上がって初めてコンスタンサの侍女としてポルトガルを訪れ、そこでペドロと恋に落ちる。
②ペドロの父王アルフォンソは王妃をないがしろにする息子に怒り、イネスをサンタクララ修道院に幽閉する。
③妃コンスタンサは、若くして王子を産んで病死する。
④ペドロ王子はイネスを王妃として正式に迎えようとするが、父王やその側近は王子に新しい妻をめとらせようとイネスを暗殺する。
⑤二年後に父王が崩御し、ペドロ王子が即位すると、彼はイネスの遺体を掘り出して王妃の冠を与え、イネスを暗殺した貴族たち(カスティリアに亡命)を引き渡すようカスティリア王ドン・ペドロに依頼し、残酷な刑に処した。


しかし、小林氏の脚本は全然違う物語になっていました。(ネタバレしてますのでご注意)


①イネスはポルトガル貴族の娘で、王妃(ペドロ王子の母/万里柚美)付きの侍女。王子の結婚話が持ち上がる前から二人は恋人同士だった。
②イネスは幽閉されたのではなく、父親(美稀千種)の留守中は危険だということで、一時的に修道院に身を寄せていただけ。
③コンスタンサは、ペドロとは臥所を共にすることなく、恋人(涼紫央)と共にインドへ逃げる。
④父王がイネスを暗殺しようとするのは、ペドロとコンスタンサとの仲を心配したからであって、コンスタンサにも他に恋人がいるなんて夢にも思っていない。
しかも、暗殺を命じられた連中は、イネスと間違えて彼女に良く似た盗賊団の娘を殺してしまう。
コンスタンサが逃げた後、王妃にと迎えに来たペドロをイネスが拒否して、幕。


……えーっと。

外伝というかホラーになってしまった「ベルサイユのばら」とかを観てきた身には、別にコメントするほどのこともない(←誉めてはいない)作品だな、くらいに思いながら観ていたのですが。
終幕の芝居に、というか脚本に、唖然……

それは、ない。
そんなラストだったら、史実どおりイネスを殺しておいたほうがよっっっっぽど宝塚作品としてはマトモだ。



出てくる人出てくる人、みんな格好良くて綺麗で元気で可愛くて、目には優しい公演だったんだけどなあ。



脚本が根本的に間違っているうえに、演出も何の疑問も抱かずにそのままイタに載せてしまった、という、そういう不味さ。そういえば、酒井さんってショー作家だったな と思いました。脚本の粗をカバーできるわけ、ないか……(T T)。




とにかく、この話の何がまずいかって、客寄せの目的もあってメンバーにいれたのであろう若手陣(夢乃聖夏・紅ゆずる・美弥るりか 他)の出番が、ショーアップされた見せ場としては最高に良い場面なのに、本筋と何の関係もないどころか脇筋にさえなっていないところ。
本筋と脇筋と両方にドラマがあるのはいいことなんだけど、彼らの出番は起承転結がないので筋になってない。ただ、場面があるだけ。


盗賊団の首領(紅)と妹がワケアリだっていうんなら、そのワケをもう少し活用しようよ。
実は、彼ら(カスティリアの没落貴族だった、って言ってたよね?)の仇はビメンタだった、ってのはどうよ。ビメンタもポルトガルに来ていると知って付け狙っていたら、はずみで一緒に居たコンスタンサを殺してしまう、とかさ。

あるいは、コンスタンサとビメンタを乗せた船(イネスの父親・オリバレス/美稀千種の持ち船)にドラマを作ってもいい。水夫長(夢乃)が「この航海が終わったら陸に上がる!」と言っているんなら、一番のドラマはその船が目的地に着かないことだよね。船が沈んだという知らせが来る、とか。
……すみません、あまり深く考えていません(汗)。




本来、「ペドロとイネス」の本筋だけでも、それなりに二幕もつはずだと思うんですよね。波瀾万丈な話じゃないですか。それが、イネスの暗殺という物語の根幹、一番大事なエピソードを無かったことにしてしまったから、ワケがわからなくなってしまったんじゃないか、と。
たとえて言うなら、モンタギュー家とキャピュレット家が対立していない「ロミオとジュリエット」みたいな感じ?両家の争いは平和を愛する宝塚っぽくないから、そんなエピソードは抜いちゃって、若くて純真な少年少女の恋物語でいいじゃないか!と。で、そうしてみたら、二人が最後に心中する理由がないので、じゃあ盗賊に殺されたことにしようかね、みたいな。
そんなん「ロミオとジュリエット」じゃない!と思うでしょう?
同じレベルで、これはぜんぜん「ペドロとイネス」の物語じゃないんです。殺されたわけでもないイネスが、妃が不在になったペドロの求愛を拒否するならば、そういう行動を納得させるだけのエピソードの積み重ねが必要なのに。それまでのイネスは、ただの美しく儚げなお人形さんでしかなかったのに。突然政治に目覚めて「王妃さまを追い出したと人々に謗られるのはペドロ様のためにならない」とか言い出すなんて、違和感ありまくりです。せめて「命を狙われたと知った恐怖で、恋に眩んだ目が醒めました」くらいの台詞を言わせた上で、そういうことを諭す目上の存在が居ればわかるんだけど、修道院長もイネスの決心に吃驚するだけで、ぜんぜん助言してる気配もないし。

そういう、説得力のあるエピソードを作ることもなく、脇「筋」にもなっていないショー場面で時間を使い切った脚本、それに疑問を抱かなかった演出&その他のスタッフ陣。
……こういうのを、「老害」っていうんじゃないですかねぇ、、、、(ひそひそ)。





轟さんに、25歳の王子様 をふるのはどうかと思う、っていう話は「オクラホマ!」「黎明の風」と繰り返し書いてますので割愛します。
いやもう、17歳の王子様じゃなかっただけいいよ、と思うことにする。

しかーし!!脚本的には、ペドロは全然25歳でさえない。もっとずっと無茶な、無鉄砲で愚かな人。恋ゆえに国をも滅ぼそうとする、愚かな熱情を抱いた、それこそ、童貞の17歳、って感じなんですよね。なのに……。
轟さんの芝居は、史実のペドロと脚本のペドロ(全くの別人)がごっちゃになって、中途半端になっていた印象がありました。実年齢の割に見た目は若くて美形で、コスチュームものもよく似合う方ではあるんですが、残念ながら声に若々しさがないのは如何ともし難い。喋るたびに違和感を感じました。

っていうか。イネスの死の真相にも気づかず、いたずらに嘆くしかない子供みたいな男は、そのへんの若手に任せておけよ、と思っちゃうんですよね…。そうすれば、もう少し水夫たちとか盗賊たちのエピソードを「脇筋」に出来たんじゃないかなあ。なまじ轟さんがいるから、あの単純な本筋が無駄に重たくなって、結果的に意味不明になったような気がします。
轟さんが演じるからには、普通の宝塚作品では描き難い、後年のペドロ一世、父王と対立し、イネスを奪った貴族たちに復讐する苛烈で激しい性格の男をきちんと演じてくれるんだろうと思っていたのに、まさか物語がそこまでたどり着かないなんて思わなかったわ(涙)。




まりもちゃんは、バランス感覚のある役者なんだな、と思いました。
私が最初にこの人を知ったのは「KEAN」のぶっ飛んだお嬢さんでしたが、こういう楚々としたお人形さん役もちゃんと演れるんだなー、と感心。控えめで儚げで、おとなしいのに芯の強い、頭のいいお嬢さん。これだけの器のある女性なら、ちゃんと王妃になったほうがいいと思うんだけどなあ……(隣国カスティリアのペドロ一世の愛妾にして王妃、マリア・デ・パデリアのように)

そして、うって変わった盗賊の娘・ミランダの覇気!!
まりもちゃんの魅力が爆発して、凄いコトになっていました。少し低めのかすれた声、蓮っ葉な喋り方。一時もじっとしていない手足、くるくる変わる表情。本当に可愛くて魅力的で、エネルギーに満ち溢れて。そういえばまだ下級生だったんだっけ、と気づいたりしました。

ああ、まりもちゃん、本当にいい子だなあ。ホントはもう少し大きい男役さんと組ませてあげたかったんですが、この人は身長よりも芸風が大きいことが目立つから、学年の離れたベテランじゃないと御しきれないだろうし……そうなると霧矢さんしかいないよね、と納得したりします。
どうぞ、月組のカッコいい女役さんたちに混ざって、誰よりもカッコいいトップになってくださいね。




カスティリアの近衛隊長にしてコンスタンサの恋人は、涼紫央。
いやー、王子様といえばすずみん、すずみんといえば王子様。コスチュームの似合いようといい、優しい佇まいやコンスタンサに語りかける口調といい、これぞ王子様だなあ!という感じ。
いや、厳密には、この役は騎士であって王子様ではないんですけどね。「ベルサイユのばら」でいえばフェルゼンにあたる役なので。

ところで。
コンスタンサの護衛してポルトガルに来て、そのまま「カスティリアの近衛隊長」という肩書きのまま留まるという設定がすごく不思議なんですけど。なぜ一国の王妃の護衛官が、他国の王に忠誠を誓った人間なんだろう…?それとも彼は、コンスタンサの傍に居るためにポルトガル王に剣を捧げたんだろうか?




カスティリアの姫・コンスタンサは、下級生の優香りこちゃん。彼女なりにがんばっていたけど、ずいぶん難しい役でしたね。理知的で頭のいい、しっかりした現実的な女性。「おにいさま」をリードするくらい、積極的で行動的で、元気なタイプ。
うーん、こういう役は本来、もっと経験豊富なベテラン娘役か、元気いっぱいな美貌の下級生か、どちらかがいいと思うのですが。優香さんはどっちでもなかった印象。脚本どおりに台詞を言って、演出どおりに動いているんですが、なにか「コンスタンサ」という一人の女が見えてこなかった気がしました。
うーん、星組さんには詳しくないので他組になっちゃいますが、たとえば花組だったら天咲千華ちゃんのコンスタンサは見てみたいな、とか。雪組だったら、晴香みどりちゃんとか涼花リサちゃんが似合いそうだな、とか。そんな感じです。





思いのほか長くなってしまった(脚本に対する不満ばかり書いちゃってすみません)ので、この作品の(唯一の)見所であるイケメン軍団については、また後日♪



コメント

nophoto
hanihani
2009年11月4日18:25

コインブラにこんなに熱く語れるねこさまって、素敵☆

えっと衣装とか素敵だし、ああ、こういう芝居も久しぶりにいいわねと
思ったのですが・・・ねぇ

庭で居眠りをするまりもちゃんって、出会いとしてはもう一つじゃない?
というわけで、すでに最初から「えーっ?!」で始まりでした。
というか、コインブラのお話を宝塚でやるのは良くなかったとか?

脇の捨て子だった少年を拾って船乗りに育てた船長と少年のエピソードとか
貴族の子供たちが両親を盗賊に殺されたことで孤児になったけど
盗賊「黒い風」として義賊として活躍していて、ある日親の敵をみつけて復讐するとか
脇では面白い話が作れそうなのにね。

轟さんはさすがに素敵でしたが、声量が以前より落ちたかなぁと。
でも包容力があるし、まりもちゃんにはこの年の差が必要だったみたい。
きりやさんも素敵なおじさまができるので、安心ですね。

まりもちゃんはちらっとみるとあすかちゃんにお化粧が似ていました。
手が轟さんよりも大きいので、手袋してたほうが良かったな
ミランダの髪がとても似合ってました!

涼さんはもうなんか高貴な人ってのが自然に出ていて佇まいに感心しました。
あれなら姫もきゅんとなりますな。

優香りこちゃんは結構好きなんだけど、こうしてきちんと芝居しているのをみたら
結構芝居が下手だったということに気付きました。
そういえば、今までお芝居では子役とかやってたし。
先月は新公でカクダンでしたね。
とくに破綻がなくて優等生な感じなのですが、芝居がつまらない。
こういう役はしずくちゃんとかなら悩んで云々が似合いそう。
白華れみちゃんとかどうかな。
確かに他にだれだったらと考えると難しい役ですね、これ。

みつきねこ
2009年11月5日0:36

私、実は青池保子ファンなんですよ。
なので、「アル・カサル~王城~」つながりで、この「ペドロとイネス」には思いいれがあったんですよー。
…いや、もちろん、いろいろ覚悟はしてたつもりだったんですけどね…(T T)。


>庭で居眠りをするまりもちゃんって、出会いとしてはもう一つじゃない?

宝塚的ラヴストーリーの出会いとしてはイマイチなんですが、うたた寝しているまりもちゃんが可愛かったので、私的にはOKでした(^ ^)

>脇の捨て子だった少年を拾って船乗りに育てた船長と少年のエピソードとか

あはは(^ ^)。私ならこっちで一本書くな~~。

>貴族の子供たちが両親を盗賊に殺されたことで孤児になったけど
>盗賊「黒い風」として義賊として活躍していて、ある日親の敵をみつけて復讐するとか

どっかのエル・アルコン(by 血と砂)みたいなので、個人的に却下したんですが(^ ^;ゞ



轟さんはだいぶ喉の調子がお悪そうでしたね。元々あまり艶のない声ではあるのですが、台詞も歌も、苦しそうで聞いてて辛かった。包容力はさすがでしたけどね。

優香りこちゃん、今までちゃんと観たことがなかったのですが、ちょっと西條三恵ちゃんに似て見えました。お化粧が似てるのかな?芝居もあのくらいできればなあ……。
しずくちゃんのコンスタンサは似合いそうですね! しかし、しずくをコンスタンサに回して誰がイネスを演じるんだろう……。れみちゃんはコンスタンサよりイネスの方が似合うような気がします。れみちゃんのイネスにしずくのコンスタンサとか滅茶苦茶嵌るかも。

とかいろいろ想像はしてみるけれども、でも、二度と再演しなくていいです……(T T)。

nophoto
りんこ
2009年11月16日13:03

はじめまして。すばらしい批評で感激しました。私も観劇しましたが、脚本のひどさにびっくりしました。。。史実のほうがドラマティックなのに、なぜこんな風にしてしまったの?と。
また、星組の若手ががんばっている中で、轟さんが悪い意味で目立ち(古くさい感じ)、バランスの悪い舞台でした。。。
私のチケット代7500円はすべて星組の若手のために支払ったと思っていますが、なぜもっと本筋に沿った脇かために出来なかったのか。。。と、いろいろと見終わってから悩む作品でした。。

また、演出にあたっては酒井先生と轟氏の間でかなりやりあった(?)という話を聞きますが、正直それであれ?みたいな気持ちが多く、直してあれだったのか、直さなかったらもっとひどかったのか。。と、余計に悶々としてしまいました。

通常このようなことを書くと、「轟さんのアンチ」と思われてしまうのですが、けしてそういうわけではなく、やはりもう少し違った役どころで発揮されてはいかがかな・・と思います。ペドロのお父様の役なんかやられ、ペドロとの対決の場面があったらとしたら、とても合うと思います。まあ主演が基本なのでそれは絶対ないのでしょうけど。

ともみん、ゆずるん、みやるりがとっても素敵でしたが、一回でいいや。。と思う作品になっているのがとても残念です。。。





みつきねこ
2009年11月18日1:31

りんこさま
こんばんは。コメントありがとうございますm(_ _)m。
レスが遅くなってしまって本当に申し訳ありません。とても嬉しいです。読んでくださって&コメントくださって、本当にありがとうございます♪

>脚本のひどさにびっくりしました。。。
あはははは~~~(乾笑)

>また、星組の若手ががんばっている中で、轟さんが悪い意味で目立ち(古くさい感じ)、バランスの悪い舞台でした。。。
そうなんですよねー。轟さんには轟さんの魅力があるんでしょうけど、それが全然生かされてなくて、星組若手陣の熱と打ち消しあっているなあ、と思ってしまいました(汗)。

>また、演出にあたっては酒井先生と轟氏の間でかなりやりあった(?)という話を聞きますが、
そ、そうなんですか!?

>正直それであれ?みたいな気持ちが
……ですよねえ(- -;ゞ
誰か一人が悪いわけではないんでしょうけど、脚本・演出・主演者が全然噛み合っていないのが目に見えて、もどかしい思いが強かったです。もうちょっとどうにかならなかったのかな、と(←ならないんでしょうねぇ…↓)