先月CSで流れたバウホール公演「二人の貴公子」の録画を、やっと観ました(汗)。


いやー、何度観ても本当に美しいひとたちだこと(^ ^)うっとり。
この日記にももう一回書こうと思いながら、結局書かずじまいだったんですが、録画を視ながらあらためて思ったことがありましたので、少しだけ書かせていただきますね(^ ^)。

ちなみに、観劇直後に書いた日記はこちら。
http://80646.diarynote.jp/200903310301395827/




上の日記にも書いていますが、パラモン(龍真咲)は子供なんだね、と映像を視てあらためて思いました。
子供だから、裏切りを許さないし、許せない。
子供すぎて、相手の立場に立って考えるとか、事情を斟酌するとか、そういうことができないんですね。嘘は嘘で、裏切りは裏切り。どんな事情があろうとも、嘘が嘘であるがゆえに絶対に許さない、という潔癖さがある。

だから彼には、アーサイトの闇を理解することができない。
心の奥では、理解したい、理解されたいと希っているのに…。




もし、森のはずれで遍歴の騎士(紫門ゆりや)に出会ったのがパラモンであったなら、裏切ることなど思いつきもせずに、何もしないで別れたんだろうな、と思ったんですよね。
だけど、アーサイト(明日海りお)は違う。彼は、精神面では完全に大人になってしまっている。熱情に狂って無関係な人を傷つけることさえ是としてしまう、それだけの熱を持っている人。
彼はパラモンを裏切ったことを自覚している。そして、パラモンが決して裏切りを許さないことも知っている。だから、彼にとっての至上の罪はパラモンを裏切ったことであって、その罪を背負っている以上、それを無駄にするわけにはいかない。つまり、彼にとって、遍歴の騎士を襲ったことはそのついででしか、ない。



…で。
アーサイトは、パラモンを超えたくなかったんだろうな、ということを凄く思ったんですよね。
多分、パラモンはそれ(アーサイトが自分を超えること)を受け入れられないだろうから。


だけど。それでも彼は、最後の最後にはパラモンと相対し、彼を超えることを希む。どうせ隣を歩むことが許されないのなら、せめて正面に立ちはだかりたい、と。
いっそ滅ぼしてしまいたい、と、思ったのかどうかはわかりませんが、私はそのつもりで観てい
ました。
パラモンは、アーサイトにとっての最大にして唯一の壁。それを超えなくては成人になれない。
なのに彼は、パラモンのいない世界で生きていくことに意味を見出せない。



自分に敗れたパラモンが、敗北をそれを受け入れて生きていくはずがない。あの誇り高くて我がままなパラモンが。
どのみち、一度関係がこじれてしまった以上、二度と並んで歩くことは出来ないのだ。

……ならば。




与える愛も、与えられる愛も拒み通して、ただわがままに、欲しいものを欲しがるばかりの子供。そんなパラモンを、どうしてアーサイトはそんなに愛してしまったのかと思うのですが。
そんなパラモンの弱さを許して受け入れるだけの闇が、みりおくんにはあるんだなあ、と感心しました。
そして、そんな心の闇こそが、パラモンには決して理解できない部分なのだろう、と。






仲良しの二人が、ちょっとしたことで口喧嘩になる場面が、この作品には二箇所あります。
最初に、テーバイの街を出るの出ないのと議論している場面と、牢の窓からエミーリア姫を垣間見て恋に落ちた運命の刻、と。


どちらも始まり方は似ていて、完全な言いがかりから始まって言い合いになり、お互いに対する悪口に移行し、そして、ふ、と黙り込む一瞬がくるんですね。

で。一回目は、そこで二人が顔を見合わせて吹き出し、仲直りしました。

でも二回目は、まるでその瞬間を見計らっていたように、牢番(研ルイス)が現れるんですよね。つまり、この牢番こそが運命の使者の役割を果たすことになる。この瞬間に、二人は分かれ道を選んでしまう。ラストの悲劇に到る途、を。



たぶん、ここで牢番が現れなかったら、一回目より時間はかかったにしても、いずれ二人は仲直りできたと思うんですよね。ずっと二人で、同じ牢の部屋に閉じ込められていたならば。たぶん、アーサイトが譲る形で。だから、アーサイトのエミーリアに対する恋がどれだけ深いかで仲直りまでにかかる時間が決まる。
でも、一番「こんな奴知るもんか!」と思っている瞬間に牢番が現れて、二人のうち一人だけを釈放する、と告げにきてしまう。
パラモンの煮えたぎる怒りは納まらないし、アーサイトの激情も、もう抑えられない。


もしかしたら、アーサイトにとっては生まれて初めてだったかもしれない、パラモン以外の人への憧憬。それが、途中で断ち切られようとしている。もはやパラモンに許されるはずはなく、憧れた人との細い糸さえ途絶えてしまう…その恐怖が、森の闇の中で変質していく。


喪い得ないものならば、奪い取れば、いい。
振り向かない友ならば、振り向かせれば、いい。

騎士としての誠意まで棄てて。自身の名前さえ振り捨てて、姫の傍らを選んだ彼は。
そこまでしても、姫の愛を得ることは叶わなかった……




姫が恋したのは、いつも傍にいてくれて、心を分け与えた親友の話を聴いてくれた優しい騎士ではなく、白い鹿の化身。
美しく謎めいた、知らない男。

パラモンは二人の女(エミーリアと牢番の娘)とに恋されますが、彼の人間性をきちんと理解して愛した(←美しい友愛ですよもちろん)のはアーサイトだけなんですよね。女たちは二人とも、彼の人間性を理解する前に、愛の意味を見失って別の世界へ行ってしまう。

それは、パラモンが誰のことも『愛して』はいなかったから、だと思うのです。

だから。
アーサイトは自らの死をもって、パラモンに愛を教えようとする。
エミーリアがパラモンに恋していることに、彼だけが気づいていたから。
彼が求めたのは勝利。すなわち、パラモンを超えること。パラモンを超えてしまえば、アーサイト自身が生きる意味を喪うことを知っていながら。





パラモンが、自らの額に刻む血の刻印。
アーサイトの教えたことをパラモンが受けいれたのかどうか、その答えを観客の想像に委ねた小柳さんの演出それ自体は、良かったと思います。全然違う作品ですけど、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」を思い出しました。

ただ、そこに到る芝居の指導がちょっと甘かったかな、とは思ってしまうのですけれども……(がんばれまさお)。







他のメンバーのことをほとんど書いておりませんが。
テーセウス様(萬あきら)とペイリトース(磯野千尋)の重鎮お二人の重みが良かったです。
テーセウス様とペイリトースの関係が色っぽくて(^ ^)、もしかしたら、パラモンとアーサイトもこんな風でありえたのかもしれないな、と。
だからこそ、ペイリトースにはアーサイトの気持ちがわかったのだろうな、と。そういう含みと裏のある芝居はさすがだ、と思いました。

テーセウスの妻ヒポリタ(天野ほたる)の豊饒たる美しさについては以前にも書きましたが、
その結婚式に乱入してくる王妃たち(夏月都、玲実くれあ、琴音和葉)も実に良かったです。三人とも綺麗で、貫禄があって、芝居も歌も良くて。……まだ下級生なのにねぇ。



(光月)るうちゃんと蘭ちゃんのカップルの可愛らしさは格別ですね。
手の届かない太陽(パラモン)に恋をして、身を灼かれ、心も砕かれてしまう娘。牢の鍵を持ち出して、太陽のもとへ走り出す狂熱、ひたむきでまっすぐな狂気の恋。牢を出てきたパラモンに初めて触れて、うっとりと呟く「白くて綺麗な手……王子様の手!」という台詞一つで、パラモンを罪の自覚へ追い詰める、天使の恋。
そんな娘の傍らにそっと寄り添って、自身なさげにおずおずと頭を撫でる優しい手。最近ギャング続きのるうちゃんの、あんな優しくておっとりした温かな役を観ることができて、良かったです。本当に可愛かった♪



騎士フィロストラーテ(紫門ゆりや)は、とにかくほのぼのとして可愛かった♪ 登場場面での明るさ、明朗さ、闇のなさ。なかなかあそこまで闇をもたないキャラクターも少ないと思うんですよね。アーサイトにいきなり襲われてしまう隙だらけなところも良かったし、村人たちに助けられて、良いように使われて、あげくに「面白くなってきました」という件とか。あの素直さは財産ですね♪♪ (*^ ^*)。



劇作家(彩央寿音)以下の村人たちチームのチームワークの良さは、いかにも月組らしい楽しさに溢れていました。響れおな、貴千碧のコンビの息の合いようは素晴らしかった!!フィロストラーテを助けて、「うちに来れば、薬と、食べ物と、、、、それに台本がありやす♪」というまんちゃんが、最高に素敵です。
そして、ヒロイン格の千海華蘭ちゃんの可愛いことといったら♪
下級生の星輝つばさ、天翔りいら、珠城りょうの三人も、台詞とかは少なかったけど出番は多くてがんばっていたし、その成果は「エリザベート」以降に出てきていますよね。今回の公演の新人公演で大抜擢された珠城りょうさんも、がんばってほしいです!



シェイクスピアは、どうしてもメイン以外の女性の役が少なくなりがちなのですが。
(男優が女装していた時代なので、アンサンブルの女性がいなかった)
今回も、娘役は基本的に村娘しか役がなくて寂しかった……。咲希あかねちゃん筆頭に、みんな可愛い子だったのになあ。花陽みらちゃんもちょっと台詞があったりして目立ってましたけど、、、あああ、勿体無い。

娘役で目立ったのは、あとは侍女の真愛涼歌ちゃんですね。エミーリア姫付きの侍女で、一幕は常に姫と一緒。控えめな存在感と、台詞の口跡の明晰なのにおっとりと穏やかな話しぶりがすごく好きです。声がまろやかなんですよね。博多座の「ME AND MY GIRL」以来、侍女づいてますが、可愛くて巧くて、大好きです☆
途中でちょっと侍女に入っていた愛風ゆめちゃんもめっちゃ可愛くて、一回で覚えました♪





「森」の狂気と非現実感を巧く使った、物語世界全体を貫く構造的な発想といい、色彩感覚や人の配置といい、牢番の娘(蘭乃はな)と光月るうちゃんの不器用だけどほっこりと温かい愛情表現といい、小柳さんの作品としてはかなりの佳作だと思いました。
再演してほしいなーと思っていたのですが、しずくちゃんの卒業で夢に終わってしまったのがとても残念(T T)。あああ、もう一回、あの美しさをナマで観たかったなあ~。



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