東京芸術劇場にて、「TEACHERS ~職員室より愛をこめて~」を観劇してまいりました。



“東京郊外の、どこにでもある普通の中学校”である楓中学校の、職員室を舞台にしたワンシチュエーションもの。
作・演出は吉村ゆう、制作は東映と梅田芸術劇場。2007年に初演されたようですが、キャストはかなり変わったようですね。初演のキャストが知りたいなあ。北岡ひろしさんの役とか、樹里ちゃんの役とか(^ ^)。

私の目当ては、宝塚OGの樹里咲穂さんと星奈優里さん。同期のお二人ですが、不思議と卒業後の方が縁が深くて、同じ作品に出ることが多いんですよね。なんとなく“お似合い”の二人なので、毎回嬉しく観ています♪



ちょっとネタバレが混ざっているかもしれませんが、ご容赦くださいませ。


物語の中心は、冴えない中年の国語の先生(高梨/モト冬樹)。
10年前に教え子を自殺で喪ってから、すっかり教育への情熱(自信?)を喪って、「いるのかいないのかわからない空気のような」先生、と言われている男。
10年前からこの学校にいるのは、この高梨と、学年主任の森田(夏樹陽子)の二人だけ。森田は高梨に、10年前の情熱を取り戻して欲しいと願っている。

そして10年前に自殺した少女は、“あの世”の「門番」(北岡ひろし)に許されて、2時間だけ、という約束で、楓中学校の職員室に戻ってくる。
誰の目にも見えない、天使として。




天使の羽をつけて、あちこち走り回り、飛び回っている高井空(尾崎由衣)のキュートな可愛らしさが、とても印象的でした。
この天使と、「門番」としてふらふらと歩き回る北岡ひろしの独特の存在感が、確かに“いかにも”この世のものではない、という感じで、すごく面白かった。この二人が居る所だけ、ちゃんと隔り世に見えるんですよね……不思議なものです。なまじ、セットや何かがすごく現実味のある“職員室”という空間なので、余計この二人が浮き上がって見えました。





天使の眼に映る職員室。
大好きだった(でも、最後に残念な行き違いがあった)高梨先生は、自分の死をきっかけに心を閉ざし、若い先生の無意識の暴力を受け流しながら、ただ日が過ぎていくのを待っている。

あたしが悪いの。あたしが考えなしだったから。
ごめんなさい、先生。あたし、……本当に後悔してるの。
大好きよ、先生。だから、許して。

その一言(いや、三行か)を伝えたくて。二時間という制限時間の中、天使は必死で高梨の周りを駆け回る。
無力な自分をかみ締めながら。




その職員室にいる、魑魅魍魎たち。

無気力で無責任な副校長(宮内洋)。
無駄に熱血で相手の話を聞かない体育教師、山崎(曽世海司)。
美人でおとなしくて優しい、英語教師の中村(星奈優里)。
クールで冷たい、権力志向の数学教師、永山(樹里咲穂)。
チャラくてKYな社会科教師、風間(齋藤ヤスカ)。
常識的で信頼感のある理科教師の嶋野(盛岡豊)。
イマドキの女の子みたいなイケイケな服装で皆を当惑させる、英語教師の下山(真由子)。
そして、厳しくて硬い学年主任の森田。



高梨先生みたいに、中学生の気持ちをリアルに聞こうとしてくれる人は、他にいないの。
だから先生?前みたいに、笑って?
……あたしを、許して?





そんなときに、事件が起こる。

「今日、合唱コンクールが始まる3時までに、大空へ向かって飛び立つ」

自殺することをほのめかす、怪メールが届く。



校長は出張で飛行機の中。
教育委員会に連絡するかどうか、校長になんとか連絡を取れないか、と悩む副校長と永山。
それに対して、森田は敢然と「そんなことより、生徒の所在確認を!」と主張する森田。

果たして、この怪メールは悪戯なのか?誰かの心の悲鳴なのか?





事件を解決しようと大人たちが右往左往する中、ついに高梨が心を開き、ふたたび教師として子供たちの前に立つことを決心する……
と、丸めちゃっていいのかな?
舞台のメインは、右往左往する“大人たち”の面白さなんですが。

中学校をメインにしながら、子供たちが一切出てこない(天使が一人と、あと、回想の中で作文を読む生徒が一人出てくるだけ)。そう、学校っていうのは子供たちだけのものじゃないんです。職員室っていうのは、子供が主役であるはずの学校の中で唯一の大人の牙城で、子供たちは原則立ち入り禁止。一朝コトあれば、大人たちが立て篭もる要塞にもなる空間。
ここを舞台に“学校”を描こう、というのは面白い試みだったなと思います。ちょっと説教節くさいところはありましたが、よくできた脚本だったと思います。



キャスティングについては……
モト冬樹さんは、そもそものキャスティングだったんでしょうし、イメージぴったりで当たり前なのですが……
贅沢を言うなら、途中で目覚めた高梨がキレて怒鳴り散らすところ、声がもう少し強いと格好良く決まるのになあ、と思いました。ちょっとひっくり返り気味だったのが残念。やっぱり、怒鳴り声っていうのは低音が響いてないと効かないんですよ。ええ。甲高い叱り声は、耳に痛いだけで心には響かないので。


森田先生の夏樹陽子さんは素晴らしかった。こういう先生居たなあ、と、懐かしく思いました。
厳しいばかりに見えて、意外と熱血で優しいっていうギャップが良かったです。


その森田先生と対等に戦わなくてはならない樹里ちゃん(永山)……私は樹里ファンなのでとても残念なのですが、ミスキャストなんじゃないかなあ、と思ってしまいました(T T)。声が軽いのが、こういうときは不利だなあ、と。夏樹さんが、いかにも年配の教師らしいハスキーな声なので、勝負にならない感じでしたね。……いっそ男役声でやったら良かったんじゃないかしらん?
薄いグレーのスーツがよく似合って、クールでシャープな感じはよく出ていたんですが、何というか、根本的なところでキャラ違い柄違いなんですよねえ。
……その割には、よくやっていたと思うんですけどぉ(凹)。


樹里ちゃんとは対照的なくらい、優里ちゃんの中村センセは素晴らしかったです。優里ちゃん、こういう役(ぶっ飛んだ少女みたいな大人の女性)多いなあ……そして、似合うなあ(^ ^)。
嶋野先生(盛岡豊)とのやり取りも、とても自然でした。さすが元トップ娘役、恋愛を語るのは慣れているんだなあ(^ ^)。


生活指導の山崎役の曽世さんは、STUDIO LIFEの重鎮。いやー、カッコいいです(惚)。素晴らしいKYっぷりにうっとりしてしまいました(←誉めてます)
あまりにも類型化されすぎているきらいはありますが、キャラ立ちがはっきりしているので観ていて解りやすかったですね。頭が悪い 思い込みが激しくて人(生徒)の気持ちを聴く気がないところが欠点なのだ、ということを、ちゃんと言葉で説明されてしまったところが切ない。
彼自身がどこまでわかったことになっているのか、この作品を観に来た山崎タイプの人がどこまで自覚しているのかはわかりませんが、現代社会で一番困りものなのは、こういう「わかったつもりでいる熱血漢」なんですよね……。そこに一本釘を刺したのは、ご両親が教師だったという作・演出の吉井さんの意思なんだろうな、と思いました。


チャラ男な風間先生は、「テニスの王子様」で人気の(らしい)齋藤ヤスカさん。
いやー、最近イケメンだなあと思う若い役者さんがほぼ100%「テニスの王子様」出身なので、一度観てみたほうがいいのかなあ、と思ってみたりしてしまいますね(^ ^;ゞ
彼だけは、“先生”というより、ありがちなオフィスものドラマの生意気な新入社員っぽいキャラづくりでしたが、、あれはあれで良いのかなあ。どちらにしても、「イマドキの先生ってこんななん?」と観客を不安にさせる役だと思うので、ちゃんと役割は果たしていたのかな。
ラストの成長がもう少しわかりやすく表現されていると良かったのにな、と思いました。本来はすごく良い役だと思うんですけど、ちょっと物足りなかったかなー。




なんとなく、展開としてもっと大勢が自分の傷を曝け出しあって、解決に向かうのかな、思っていたのですが、あまりそんなことはなく、過去の傷を掘り返したのは高梨先生と中村先生だけ。
あ、あとは副校長と下山先生か。傷じゃないけど、自分の過ちを認める発言をしてましたね。
永山先生と山崎先生、そして風間先生に、そういう場面が無かったのはちょっと残念です。休憩なしの2時間で、そんなに全員の回想やら告白やらをさせていたらとても時間が足りなかっただろうというのは解るんですが。
…まあ、今回のテーマは教師たちの成長物語ではなく、高梨と天使の心の交流だから、脇筋は抑えておいて正解だったのかな(^ ^)。





ところで。
一番最後に、メインテーマを歌いに出てこられたコーラス隊の皆様はどなただったのでしょうか?
プログラムにも何も書かれておらず……あれえ??



今回は、18日も19日も所用があってトークショー付きの公演にいけず、大変残念です。
樹里ちゃん、舞台でお堅い感じ(?)だった分を取り戻すかのように吹っ飛んでいたらしいんですが。観たかった……。



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