銀座博品館劇場にて、瀬戸内美八さん主演「近松幻想」を観劇してまいりました。



『松風村雨束帯鑑』『女殺油地獄』『心中天網島』。
瀬戸内美八のために、近松門左衛門の名作を三作並べた、ひとり芝居。
出演は瀬戸内美八。コーラスとして、宝城さゆり/加茂千条/雅景の三人が参加。三人は黒子だけかと思っていたのですが、実際には結構顔出しもあったし、舞台に出てきてのソロ歌も一曲ありました。


「心中・恋の大和路」の菅沼潤が構成・演出を勤め、谷正純演出・吉崎憲治作曲という、どっかで見たことがあるスタッフが揃った。しかも、初演は5年前。ってことは…もしかして、菅沼氏の最後の数作の一つですよね?
宝塚時代の代表作『亀屋忠兵衛』は卒業してからも再演の声がかかり、遂には“男役”での新作まで創ってもらえる。
しかも、そんな舞台を観に来るファンが、まだまだ博品館の狭いロビーに溢れんばかりに集う。
……瀬戸内さんって、本当に幸せなスターさんだなあ、と、しみじみと思いました。

ロビーの雰囲気は、なんだかすごく不思議な感じ。同窓会めいた、あるいは、子供たちのバイオリンかバレエの発表会めいた、独特の熱気が充満していました。こっち側には「先生が……」と瀬戸内さんを語る人がいて、反対側には「ルミちゃんがね、」と同じ人を語る人がいる。
ちょっとだけ“部外者”の疎外感を覚えつつ、席につきました(^ ^)。




幕があがると、上手端の文机に座って書き物をしている男。これがどうやら、近松門左衛門らしい。
「あーあ、もう疲れちゃった」みたいな(←えらいアバウトだなオイ)口上をひとくさりやって、「どうじゃどうじゃ」と盛り上げの曲を踊りながら歌い上げて、第一場に。


第一場『松風村雨』

都落ちして須磨にやってきた貴公子・在原行平。彼が愛する現地の娘・村雨と、その姉・松風。
一人の貴公子と、彼に恋をする二人の娘の、三角関係の悲劇。

この場は芝居ではなく、舞のみでの表現。最初は瀬戸内さんが行平、黒子が須磨の姉妹だったのが、すぐに着物を変えて瀬戸内さんが松風、行平と村雨が黒子になるという入れ替わりが成る程、という感じ。ただ、やはり歌舞伎とかの早替りはそれ自体が見世物になっていて見事なものですが、今回はちょっとちゃちかったかな……すごく時間が短いので、松風の着物を着せ切れなくて、ちょっと片袖引きつったまま舞っていらしたのもちょっと気になった。明日は巧くいきますように。
嫉妬の舞を舞う松風。哀しみに満ちたエネルギーの高まり。
行平に寄り添う村雨の景をみて、逆上した松風は、夜叉になってしまう……ここの着替えもちょっと寂しかった。やっぱり「引き抜き」とかされると「おおっ!!」となりますもんね。
いや、それが眼目の作品じゃないことはわかっているのですが……(すみません)

日本舞踊を見る目のない私には、良し悪しはよくわかりませんでしたが、近松門左衛門がこういう話も書いていたのか……と、それが面白かったです。


それから。
舞台後ろのホリゾントいっぱいにひろがる背景が、「心中・恋の大和路」の背景に良く似た墨流しのデザインだったのがとても印象的でした。
……ああ、私って本当に「心中・恋の大和路」が好きなんだなあ……。




第二場 女殺油地獄

放蕩者の河内屋与兵衛というドラ息子について、その実母であるお澤の視点で語る、物語。

元の物語を全く知らなかったので、あやうかったです。プログラム読んでおいて本当に良かった!!(涙)
元の物語を知っている前提で、事件が起こる直前の、母の嘆きと憂いをしみじみと見せる。
いやー、事件後の母の嘆きではなく、事件の前の不安を中心に描いた所が、菅沼さんの凄いところだな、と思いました。
瀬戸内さんのマダム・テナルディエが大好きだった猫としては、また全然違う“母親”像のリアルさに感動してしまいました。すごいなあ……。
でもって、瀬戸内さんの放蕩息子も観てみたいな、とも思いました(^ ^)。

……でも。
お澤さん、あんたの息子があんな愚連隊になったのは、あんたの責任も小さくないと思うよ…?




いったん幕がおりて、休憩を挟んで二幕は、また近松の賑やかしから。
なんだか、あの切ない親心をたっぷりと魅せたお澤さんと同一人物に見えなくて、おもわず目をぱちくりしてしまいます(^ ^)


第三場 心中天網島

紙屋治兵衛は、二児をもうけた古女房・おさんを省みずに悪処に通うようになって、もう二年。
思いあまったおさんは、治兵衛の馴染み・小春に手紙を書く。「私を女に、女房に戻しておくれ」と。
おさんの真情にうたれた小春は一人で死ぬ覚悟で、伊丹の太兵衛に身請けされる。
小春に振られたと思いこんだ治兵衛は怒り狂い、この上は忍び込んで小春を殺して、と思いつめるが、そんな彼に、おさんは衝撃の告白をする。
小春が身請け話を受けたのは、私の手紙のせい。落籍いた先で小春は死ぬ覚悟に違いない、と。

おさんが何もかも処分して小春の身請け金を作ろうとするが、話をきいたおさんの父親がそれを許さず、金を持って実家へ連れ帰る(そりゃー父親としては当然か…)切羽詰った治兵衛は小春を連れ出し、網島大長寺への道行きを辿る…。

「女殺油地獄」もそうですが、これも実際に起こった事件をもとにした作品なんですね。
『3日でホンをあげて2日で振り、5日後には幕があく』…みたいな歌を近松門左衛門が歌っていましたが(日数は嘘かも)、まさしくワイドショーというか、そんな感じだったんでしょうねぇ、当時の浄瑠璃って。(ニュース速報は号外って感じ?)
『年の初めに心中がありゃ、年の瀬まで大入り満員♪』みたいなことも歌ってたなあ。なんだか納得。

最初は治兵衛として、小春の心変わりを呪う歌を歌う瀬戸内さん。青天がよく似合って、すっきりとした二枚目ぶり。小春からの手紙に見立てた巻物を破り捨て、『今までに貰った手紙』を『これも、これも、これも!』とはらはらと捨てていく手の優しさがキレイ。
最後に、刀を取って帯に挟もうとしてうまくいかず…みたいなところがありましした。違和感は感じなかったのですが、あれは町人だからさしかたが判らない、みたいな演出だったのか、それとも単純にハプニングだったのか…?

そのまま、衣装は変えず、仕草と声だけ女になっておさんの告白の場。しなしなと泣き伏しながらの告白に、うろたえる男が見えるようでした(^ ^)。
屏風の後ろで黒い着物に着替えての道行きは、伸ばした手の先に小春が見える、いい場面でした。

瀬戸内さんって、歌も芝居もそんなに飛びぬけた方という訳ではないと思うんですけれども、なんていうか、役に入ったときのパワーがすごいなあと思います。そして、優しい。なんというか、気弱だったり無駄に優しすぎたりして、世間様の役に立ちそうにもないような駄目男の切なさというか、「どうして俺は巧くいかないんだろう…」といじけてるような風情がすごく似合うような気がする。そういう意味では、お澤もダメな母親だったし、菅沼さんは瀬戸内さんの中にそういうモノを視ていたのかな、と思いました。

この作品も、フルで観てみたかったなあ……。卒業後の上演歴の中に「心中天網島」というタイトルがありますが、菅沼作品だったのでしょうか。再演してほしい……。


……ああ、でもその前に、やっぱり忠兵衛をもう一回観てみたいよーーーー!!
できれば、汐風幸ちゃんと2バージョンで!なんだったら、片岡仁左衛門パパと三人でどうだ!!(←大物すぎ)




もとい。

最後に、お祭(天神祭?)をイメージした賑やかな舞で締めで、公演は終了。

瀬戸内さんの挨拶がものすごく面白くて、そんなに長い話じゃないのに爆笑の連続でした。
「この年で男役をやらせてもらえるなんて、代表作が麗しい貴公子とかじゃなくて、忠兵衛でよかった!!」とか。(……あの、忠兵衛って何歳の設定なんですか…?)
あと、治兵衛についても、「伊丹の太兵衛は若くてハンサムな独り身の二枚目。それに対して、治兵衛は妻も子もある三十路ですよ、み・そ・じ。……小春は治兵衛のどこが良かったんでしょうねえ?」と語ってました。……そうだったのかポン。


話をいったん切って、カーテンコール(?)みたいな感じで二曲。
一曲目はアップテンポの元気が出る曲(ごめんなさい、曲名仰ってたのに忘れてしまった…なんだっけ汗)。二曲目はもちろん、「この世にただひとり」
もう、私はこの曲トラウマなんで。前奏流れた時点ですでに涙タンクフル稼働!みたいなモードに入っちゃうんですけど。
瀬戸内さんも、歌い終わった後「ごめんなさいねぇ、この歌歌うと反射的にこみあげてくるんですよ」と仰ってました。後半はだいぶ声が震えていたのは、そういうことか……
私も反射的に涙出てきます!と、手をあげて言いたくなりました(^ ^)。



ひとり芝居、というよりは、なんだか瀬戸内さんのディナーショー(ディナー抜)でも観たような気になりましたが、作品としても『近松名場面集』っぽい構成で、面白かったです。
最初の松風村雨をもう少し巧く演出していたらなー、と思いつつ、メインの二つがとても良かったので、大満足で帰りました♪

「心中・恋の大和路」、再演希望!と、強く強くコトダマしつつ。




コメント

nophoto
hanihani
2009年7月8日11:26

ねこさん、これもご覧になったんだ!!!!

すみません、「愛と青春の宝塚」りかちゃんの挨拶付き映画のご招待券にまけた『ひまわり会』30年越え会員のhanihaniです。

実はルミさんは、初めて私が高校生の時にお茶会に行ったスターさんです。
で、当時我々は自分達だけで新宿に行ったことが無かったので
お茶会会場がわからずに電話して新宿駅に代表さんに迎えにきてもらったのでした。
会場ではルミさんの隣の席だったのにもびっくり!

なぜならその日一番若い参加者だったので、誰よりも一番長くルミさんを応援してもらいたいから
ということで、良いお席だったのーー
それなのに、えーん、ごめんなさい

菅沼先生は、大劇場では「長靴をはいたネコ」が原作のお芝居とか作られていました。
それは東京に来なかったのですが、子供相手の話かなと思ったら、なんとまあ
意外にシュールな物語になっていて、すごく印象に残ってます☆

で、「心中・恋の大和路」も良かったですよね。
大体、当時売り出し中のダンサーだったなつめさんを、和物の手代、しかもラストはあの長い歌を歌い歌手として使うって
先生の慧眼に驚きましたよ。野乃すみ花ちゃんの梅川が観たかったなぁ~ (しみじみ)

初演をみたのですが、確かに一部はもう少し手直し必要ですよね。
谷先生が面倒みてくれてもよかったかも。
ルミさん、次は絶対行きますのでお許しを・・・(笑)

みつきねこ
2009年7月9日0:04

>「愛と青春の宝塚」りかちゃんの挨拶付き映画のご招待券にまけた『ひまわり会』30年越え会員のhanihaniです

そうだったのか(^ ^)。ロビー中見渡してもいらしゃらなかったから、5日にいらっしゃるのかと思っていたのに。

>なぜならその日一番若い参加者だったので、誰よりも一番長くルミさんを応援してもらいたいから、ということで、良いお席だったのーー

それなのに!!?(^ ^;

菅沼作品は「心中…」以外全然再演されませんが、他のも観てみたいなーと思います。
幸ちゃんのバウを観たときから、祐飛さんもいつかああいう役をやらせて貰えるような役者になってほしいなあと思っていたのですが……。
ま、それは無理にしても、すみ花ちゃんの梅川は過去形にしないでください(笑)。まだ可能性はある!!(ことだま)。個人的には、せーこちゃんも梅川似合うだろうなあと思うんですけどね(^ ^)v。