東京宝塚劇場花組公演「太王四神記」。



第16場 高句麗内あちらこちら(この場面タイトルに、いつもウケてしまいます)

ミョンヒョン(?)山でタムドクとキハが岩屋に篭ると、暗転して下手に部族長たちが登場。
「息子たちが帰ってこない!!」と騒ぐ父親たち。

ここでは、チョルロ族の長・フッケ将軍も他の三人と一緒に怒り狂い、王家への反感を募らせます。
二幕では、真っ向からヨン・ガリョや他3家と対立してタムドク側につくのに、なぜ?という疑問に対しては、某友人が「さらわれた直後は頭に血が昇っていたんだねー」とあっさり答えてくれました(^ ^)。
なるほど納得。


しかし、「息子たちはヨン・ホゲにまかせて、父は王宮へ!」というのも乱暴な話だよなあ、と思うんですけどどうなんでしょう。
普通、父親ならとりあえず息子のもとに駆けつけたいんじゃないの?「兵はお貸しするから、王宮はよろしくお願いします」と言いたいでしょうに。それとも、“頭に血が昇っていて”思いつかなかったんでしょうか…。




本舞台にライトが入り、上手奥からヨン・ホゲを先頭に一軍が向かってくる。
この軍隊は、本来はヨン家の私兵であるべきだと思うんですよね。目的が目的なので。
でも、プログラムには「高句麗軍」と書いてあるし、チョク・ファンもいる。こんな悪辣な企みにも正規軍を連れてこれるっていうのは、すごいなーと思うんですよ。
高句麗という国にとって、このときまでヨン・ホゲは唯一無二の凄い英雄だったってことなんですよね、たぶん。


下手のセットの上で、朝陽を浴びて衣服を直すタムドク。

「ずいぶん早起きだな。それとも眠れなかったのか」
硬い声で問いかける。

「生まれてはじめてぐっすり眠った」
ホゲの胸の裡になど気づかない王者の、暢気ないらえ。

「炎の巫女よ」
切なく問いかけるホゲ。

「なんのお話かわかりませんわ」
すげなく振り捨てるキハ。


大劇場の頃はあまり思わなかったのですが、最近、ホゲはもしかしたら、進軍しながら迷っていたのかもしれないな、と思うようになりました。
“親友”でいられたはずの皇子と、“あなたこそ真の王!”と言ってくれた炎の巫女。
当たり前のように与えられた王座を捨てて逃げ出したタムドクと、その手を取って走り出したキハ。


この短いフレーズの会話の中で、硬く凍りついた表情の中にあった陰りが徐々に消えていくのが、とても怖いんです。ホゲが、本当の意味で「戻れない道」を歩き出すのは、この朝の会話からなんじゃないか、と思えて。



まだ迷いはある。
でも、戻る手段は捨ててしまった。
……壊してしまった。なにもかも。




「一緒にテジャ城へ来てほしい。四部族の息子たちが火天会に誘拐された」

この言葉をきいて、うなづくタムドク。
タムドクには何もわかっていないんだなあ、と思うのはこんな時です。
彼は、自分が何を捨ててきたのか解っていない。
彼が捨てようとしたものは、“王座”。それを拒否したら、もうセドルを救うことも、キハを守ることも、何もできないのに。
自分の愛するものを幸せにしてあげることが、できないのに。


「王位は譲る!」
そんな一言で譲れるものではないのだということに気づかない。
気づこうとしない。

彼が、生まれながらのチュシンの王、だから。


王位は譲る。
でも、セドルは救いたい。
キハを守りたい。自分の手で幸せにしたい。

それは、無理な我侭だ。
自分の望みを叶えたいなら、責任をとらなくてはならない。

責任のある地位につかなくては、自分の望みは叶えられない。


仲間を救いたい。
愛する人を幸せにしたい。
国を豊かに富ませたい。
戦で人が死なない国を創りたい。


そのすべてを叶えるために、彼は王になるしか、ない。






セドルを救うために、ホゲと共にテジャ城へ向かうことを肯うタムドク。
友を救うために、愛する女を人質に渡す。


「だいじょうぶ。また会える」
あまりにも遠く、虚しい口約束。

キハの方が、現実が見えているんでしょうね。
「大丈夫。すぐ会える」
とは言えない男に、切なげに、でも優しく微笑みかける。

「さようなら」
とは、口には出さずに。


……まぁ、実際、タムドクにはあまり選択の余地はないんですよね。
剣こそ向けられてはいないけれども、ホゲの口調こそ依頼になっているけれども、実際には逃げ切れなくて捕らわれたも同然なのですから。
愛しい女と引き離されるのも、当たり前っちゃ当たり前。

それとも、セドルを助け、隙を見てもう一度逃げ出してキハを迎えに…くらいのことは考えているのかな?
この時点では、スジニたちがどこまで味方してくれるのかは判ってないだろうけど、コ将軍や近衛隊は味方カウントできるし。



そんなこんな、いろんな思惑が交錯しつつ、場面は変わって国内城下。
ヒョンミョンがちゃっかりヨン家の情勢を調べて、報告している。

コムル村の民は“チュシンの王”を探しているわけで。
この時点での“チュシンの王”候補は、未だヨン・ホゲだけ、ですよね?武道大会でタムドクの怒りに神器が反応した時、ヒョンゴは「チュシンの王が怒ると光るんだ!」と教えてくれるけど、誰の怒りに反応したと思ったのかは語らないし。プルキルははっきりと「ヨン・ホゲ様こそチュシンの王」だと確信してたし。

なのに、なにがどうなってタムドクに味方することになったんでしたっけ…?
単に仲良しになったから応援する、ってことでいいのか?(こういう、大事なときに大事な人とちゃんと知り合い、仲良くなって味方を増やす、っていうのが“宿命の王”の特徴)



ここで、「テジャ城に向かわなくては!」という気分的な盛り上がりを音楽がちゃんと演出しているのも、小池さんらしい手腕だなあと感心しています。
「いますぐ向かおうテジャ城に~~~!!」という全員コーラスの盛り上がり。
その後すぐに、王座の間の静かな空気が流れるところが、お見事!って感じ(^ ^)。




第17場 玉座の間

キハをつれて国内城へ戻るチョク・ファン(祐澄しゅん)。
大劇場で初めて観てからずっとしゅん様に煮えっぱなしの猫ですが(私一人じゃないことが段々判ってきてちょっと安心)、前場のミョンヒョン山ラストでの「しゅっぱぁーーーつっ!」という掛け声のカッコ良さに毎回うっとりしています☆

で、ここで声をかけるコ将軍にキハを渡したがらないのは、キハをタムドクに対する人質だと思っていて、タムドク派のコ将軍に渡したくなかったからなのかなー、と、ちょっと思ったりもしました。

…いやあの、天地神堂は全面的にタムドク派なので、それはないでしょ>自分。
天地神堂がタムドク派であることをホゲたちが知らない…ってことはないか。「天地神堂が僕を推しても、貴族会議は君を推すだろう」ってタムドク自分で言ってたもんなあ。

じゃあやっぱり、単純にコ将軍への反感、ってことになるんでしょうかねぇ。あのムッとした感じは。ふえええん、しゅん様CSとかでトークしてくれないかしら…。



幕があがって、玉座に座るヤン王。
ヤン王の言動は、なにからなにまで謎だらけなんですが、ここもかなり謎な場面だと思います。

だって、
「私はお前を王にするまでは死ねないのだ」
と言っていたはずなのに、
タムドクは未だ王になってはいないのに、“タムドクのために”自害するなんて!


まぁたしかに、タムドクの性格を考えたら、キハがタムドクの前から突然姿を消したからってアッサリ諦めてくれそうな気はしませんが…。
でも、別に忘れかねてうじうじしたって良いじゃん、と思っちゃうんですよね…。一番簡単なのは、火天会の回し者だということがわかった時点で殺すことなんじゃないのかな?死んでしまえば、いくら心を残したっていずれ諦めるしかないんだから。


……あ。
そういえば、キハはヤン王にとって命の恩人なのか。そりゃー、あまり理不尽に殺すわけにはいかないな。
となると、自分が死ぬしかないのか。なるほど……(納得したらしい)



一番の問題は、ヤン王がタムドクを愛しているようには見えないこと、だと思うんです。
「ひ弱な皇子のふりをしろ」というのは、火天会の目を眩ませるために必要な措置だったのかもしれませんが。
なんだか、愛する王妃を死なせた息子……と、そんなうがったことを考えてしまうほど、ヤン王の言動には、タムドクへの愛が感じられないんです。
そして、ヤン王が愛を持って接していないからこそ、タムドクは「王座」に夢が持てずにいたんじゃないのかなあ、…と。


タムドクは、神剣で刺しても死なない“チュシンの王”。
もしかしたらヤンは、“チュシンの王”たりえなかった自分と息子との差を計っては、落ち込んだりしていたのかもしれません。
そんな忸怩たる思いが、事態が切羽詰ったときに溢れてしまう。自分を滅ぼして、タムドクに傷をつける方向に。



…ここまで書いてきて、初めて気づく。
近衛隊が侍る玉座の間に、堂々と忍び込んでいるサリャン&火天会士たち。彼らは最初から(というか、常時)潜んでいるんでしょうか。それとも、キハのいるところならテレポーテーションできるとか、何かそういう超自然的な話なんでしょうか…。

いずれにしても、その気になればどこの城でも自由自在に落とせそうな彼らに、なんのために残りの神器が必要なのか、理解できません(T T)。

どう見ても出場選手の中で圧倒的に一番強そうなホゲ様がなぜイカサマをするのか、っていうのと同じ疑問だな。
自分の実力に気づいていないのか、単純にイカサマが楽しくてヤメラレナイのか、どっちなんでしょうね(^ ^)。
(たぶん、プルキルは後者)




カクダンとサリャンの一騎打ち。ここの殺陣(栗原直樹)がカッコよくて大好きです。
ちゃんと“殺陣”になっていて、カクダンが斬られるところまで説得力がある。斬られる理世ちゃんがもっと巧ければ、もっとかっこいいんだけどなあ…(理世ちゃんは斬られ役じゃないから!)


カクダンの危機に、駆け込んでくる近衛兵たち。
はるちゃん(天宮菜生)ちゃんも後姿が色っぽくて好きなんですけど(←注目するポイント違うから!)、最近一番のお気に入りは遼かぐらさん。前髪を二房下ろした髪型もツボ(*^ ^*)なんですけど、なんたって格好良いのは、ここでカクダンに「盾になれ」と言われた後、火天会のメンバーと闘いながら、囮になって一人で上手袖に向かうところ。超男前なんです!!
ぜひぜひチェックしてみてくださいませ(*^ ^*)。




惑乱するキハを助け出したサリャン。
チュシンの王の子を身籠ったキハは、大長老の術を撥ね退ける。

っていうか、ここまで来たら“タムドクこそがチュシンの王”なのは明らかですよねぇ?
なのになぜ、プルキルはいつまでもホゲに固執するんだろう……?かっこいいか(黙)





第18場 テジャ城

いきなり「たのもーう」と声をかけるタムドク皇子。
…どこの時代劇かと(汗)。


タムドクに呼びかけるチョ・ジュド(紫峰七海)の声が素敵!花組は、というか、今回の公演はホントに声の良い人に台詞が回っている印象(審判のアーサーとか)
この場面では、顔を隠しているけど「ああ、あのモミアゲの濃い悪い人ね」と観客にわからせないといけないので、特徴のある美声のふみかは適役だなあと納得しました。新公の彩城レアちゃんは、そのあたりがちょっと弱かったのが残念。



門が開かれると、矢ぶすまになった4人の戦士。
…この4人、結構長時間さらされているにも関わらずピクリとも動かないのが凄いなーと思いながらいつも見ています。
彼らを見つめるタムドクはどんな貌をしているのか?といつも思うのに、つい違うところ(大抵しゅん様、ときどき高句麗軍のきらりんや姫花)を観てしまってます。楽までにはなんとか…(汗)。


タムドクを成敗しようとするホゲ。
「誰も手を出すな」
と言われて、びっくりしたように構えをくずすイルスが可愛いです。
っていうか、一番びっくりしているのはタムドクだよね?こんなにシリアスな場面なのに、あまりにも真っ正直に鳩豆なタムドクを観ると、つい笑ってしまいそうになるんですけど(汗)。
いやー、ホゲ様、無理あるわー。あの人を陥れようとしても、なんか無駄な気がしてなりませんってば。



緊迫した場面にかかる「待った!」の声。
「誰だ」
「タムドク様の仲間だよっ!」

…せめて「近衛隊だ!」くらい言おうよ、スジニ。



カクダンの報告を聞くタムドク。
それをみているホゲ。

…ホゲは、適当な処で切り上げさせて、近衛隊と彼らと合流した面々を捕えて殺すべきだった…と思うんですけど。
いちお、そのツモリなんですよね?実際には神剣が覚醒してしまって、全員逃げられてしまったけれども。



あの蛍光灯 神剣を掲げて立つタムドク。
重いだろうなー、などと、つい不謹慎なことを考えてしまう私をお許しください。


上手で剣を構えたまま、目線もホゲに向いたままのイルスと、
剣を降ろして、ただ呆然とタムドクを見上げるチョク・ファン以下の高句麗軍たち。

ここまでホゲについてきた彼らの、そのとまどいが、酷く哀れに思えてなりません。




「今蘇る 私の中に」

神剣を掲げて、チュシンの王が歌いあげる。

「人と人が永遠に愛し合える国」

チュシンの王として覚醒し、自ら望む“国”のビジョンを語る。

「人と人が信じ合える世界 それが私のチュシンの国」

それは夢、それは希望。
それでも、そんな国を夢見て我は往かん、と。




「私は生まれた 同じ星の下に」

そう歌うホゲが、とても切ないです。
彼はもう、戻れない道に踏み出しているのに。
戻るつもりなど、無いというのに。




…と、いうところで。
やっと一幕終了、です。あははは(乾笑)。

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