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銀ちゃんの嘘【11】
2008年12月31日 宝塚(花)今年も残すところあと一日。
本当に早いですねー!年を取ると時間が早く過ぎる、っていうのは本当なんだなあ。
「君を愛してる/ミロワール」&「ホフマン」を観に遠征したのも、ついこの間のような気がするのに。
宝塚作品のベストはこないだ一通りあげたので、年末LASTにはそれ以外で心に残ったものを……と思っていたのですが。
あれこれ思い返してみても、去年の「Confidant -絆-」みたいな、圧倒的にこれ!という作品が思いつかないなあ……。観たかったけど観られなかった作品も多いし。
とりあえず、初演ものでは「ウェディングシンガー」と「きみがいた時間 ぼくのいく時間」…かな?「Duet」も楽しかったけど、あれは作品というよりキャスティングが嬉しかったのが比重高いし。
コンサート形式の作品では、やはり梅田の「ウィーンミュージカルコンサート」と玉野さんの「CLUB SEVEN」。……石井一孝さんのコンサート(ゲスト・樹里)も最高だったし、「SHOWTUNE」も楽しかったけど。でも、やっぱり「ウィーン」と「CLUB SEVEN」は別格です☆
再演ものでは、まずTSの「タン・ビエットの唄」「AKURO」の二作品。後者は自分的には初演ですが、練り直したからこその完成度もあったようなので、あえてこちらに。
あとは「RENT」ですね。今年は忙しくて東宝ミュージカルはほとんど観なかったのですが、これだけは当日券いれて3回観ました。作品の力が素晴らしいのは当然としても、スタッフワークが良かったのが嬉しいです。正直、東宝上演ということであまり期待をしていなかったのですが、自分の思い込みに呆れています。ごめんなさい。
2008年最後の観劇は、銀河劇場の「GIFT」でした。
宝塚オリジナル作品「君を愛してる」&「ホフマン」で始まった2008年。日本のオリジナルミュージカルの佳品で締めくくれて、幸せな一年でした☆
さて。
宝塚の誇る名作「銀ちゃんの恋」花組再演版、まだまだ終わらないのですが(滝汗)。
これだけはなんとか最後まで書きたいなーと思っているので、もう少し(←いや少しじゃねーだろ)おつきあいくださいませ。
二幕冒頭 結婚式
結婚行進曲が高らかに鳴り響く中、ヤスと小夏の結婚式が始まる。
「小階段」を降りてくるヤスと小夏。この作品中、唯一の“格好良い服”、白いタキシードに身を包んだヤス。おずおずとウェディングドレスの小夏の手を握り、ドキドキしながら降りてくるその風情がたまりません。
平場で二人を迎えるのは、ほぼ関係者全員。さすがに朋子さんとか橘とかはいないけど、撮影所のメンバーも人吉の関係者もみんな揃っているので、なかなか華やかです。男泣きに涙をぬぐっているトメさん(日向燦)が素晴らしい。涙をぬぐう合間に振りをこなしてましたね(笑)。そんなトメさんをそっと見守っているっぽかったマコト(夕霧らい)の優しい笑顔が好きです。ヤスを見て、ちょっとハンカチで目元を押さえている専務(眉月凰)もダンディでステキ。そして、若い男を次から次と手玉に取っていた(ように見えた)秘書(初姫さあや)が、もう本当に最高でした。
しかーし。
そんなおままごとのような結婚式も、「誓いのキスを」のあたりで闖入者が登場。
小階段を堂々と降りてくる、銀ちゃん。
音楽が「卒業」のそれに変わるあたりは、石田さん細かいなーと思うのですが。
…でも、場面的にヤスが主役なのに「卒業」なんだ……という違和感もあったりする(^ ^;ゞ
まぁそんなことはどうでもよくて、とにかく、“銀ちゃん”の巨きさと格の違いをものすごく見せ付けた場面でしたね。体格の違いもあるんですけど、それだけじゃない。最初はヤスに助けを求めていた小夏が、あっさり堕ちるのも当然、という迫力。
この“立っているだけで”「周りの小物とは違うんだ」と思わせる迫力がないと、「銀ちゃん」としては失格なんだなーと思うんですよね。
そして、大空祐飛の銀ちゃんは、この作品全体を通じて、一回も周りに同化したことがなかった。
もちろん、衣装のぶっ飛び具合とか、照明とか、そういう演出面のフォローも大きかったですけど(ありがとう石田さん)、大空祐飛自身の醸し出した空気であり、そして、それを受けた野々すみ花&華形ひかるの役者ぶりのバランスが素晴らしかったと思うのです。
そして、ヤス。
この場面は、ヤスの妄想です。途中までは実際の結婚式でもいいのですが、銀ちゃんが降りてくるところからは、全部妄想。
銀ちゃんが降りてきて、招待客たちがハケる。小夏を口説いて連れ去ろうとする銀ちゃん。
最初は抵抗してヤスに助けを求めていたのに、最後には銀ちゃんの口づけを受け入れ、肩を抱かれて去っていく小夏。
小夏にしがみついて引き止めようとしながら、留められないヤスが哀れでした。
「真っ白なウェディングドレスに身を包んだあたしと」
「パリッとタキシードを着た、
……俺が、いるんだ」
それでも。
真実の(今回のすみ花ちゃんの)小夏は、一幕ラストで、ちゃんとヤスを選んだのに、
泣きながら、引き裂かれる痛みを感じながら、それでも確かに、ヤスを選んだのに、
なのに、それを全く信じていない、ヤス。
ドラマシティではまだ迷いがあった小夏も、青年館になると一幕ラストできっぱりとヤスを選ぶようになっていたので。ホント、この場面を観るたび、小夏モードで「なんでわかんないのよヤス!?」と胸倉つかんで揺さぶりたい気持ちになってしまいましたわ私。
「蒲田」的には、それで本当に良かったのかどうか、それはよくわかりませんが。
今回の“再演版”「銀ちゃんの恋」は、根本的にそういう解釈で作品として矛盾なく組みあがっていたので、私的にはなんら疑問はございません(^ ^)。
……ヤスを選んだ(選ばざるをえなかった)小夏の真情を思うと、痛さに涙が出るのですが。
銀ちゃんが登場して、いったんハケた列席者たちは、銀ちゃんと小夏が肩を組んでハケた前後に仮面を被って再登場してきます。
石田作品は、いつもこういうコロスのイメージダンスを巧く使った場面がありますよね。「黎明」の群青とか、「殉情」の夜叉とか、「猛き黄金の国」の三菱ダンサーズとか。私はどれも印象的で好きなのですが、この「銀ちゃん」の結婚式の仮面ダンスもすごく好きです。
(ちなみに、初演では今回みたいな仮面ではなく、ヤスと小夏のお面をつけていたハズ…)
ヤスの“苦悩”のダンスがイロっぽくて好き。そして、ヤスの前をあっさりと通り過ぎる邦さんの“別世界感”がさすがでした。
上手ですごくキレイに踊っていたのは、輝良くんでしょうか?違うかな?
仮面を被っていてもすぐわかる、玉美(月野姫花)の髪型が可愛い(笑)。
なんと言っても笑ったのは、仮面の上から眼鏡をかけていた二人(マコト&秘書)!!ラストのキメで仮面が集まってキメるとき、眼鏡の仮面が二人いたのがめっちゃおかしかったです。はい。
すーっ、と、足音もなくヤスの視界を横切る母親。
反射的に母を追うヤス。
でも、動けない。
足元に絡みつく、「しがらみ」という名のナニカ。
仮面のダンスにあおられるように、十三段階段を登りはじめる。
よろよろと、
…いいえ、フラフラと。
十三段階段の一番上で、ヤスを待つロープ。
首吊りの、輪。
階段の下で、退路をふさぐようにより集まって止まる、仮面たち。
振り返ったヤスの、絶望に満ちた、瞳。
「ぎんちゃん…」と、声にはならないままに唇だけが動いて。
第十四場 塀の前~大部屋の座敷
場面がキまってライトが落ちると、舞台前面にいつもの「撮影所の塀」が出てきて場面転換。
そういえば。この塀に張ってあるポスターや広告が、ひとつづつ取り上げて話題にしたいほど面白かったのですが、その話書きましたっけ…?(←完全に記憶に無い)
一番笑ったのは「ギンチョール」だったんですけど、この場面には貼ってあったっけかなー。
上手の袖から小夏が登場。
大きなお腹を抱えて辛そうに歩きながら、「し・あ・わ・せ~~♪」と歌う、本当に幸せそうな小夏。
とにかく可愛くて、自分の幸せに不安の欠片も無い、小夏。
無理はしてない。心のままに、
「あのひとはかっこよくなーい、ハンサムじゃなーいけーど♪」
と、心の底からの笑顔で歌ってのける、その、幸せのオーラ。
「臨月近い妊婦」としての歩き方、という基本的な技術面の巧さもさすがなのですが、それ以上に、妊婦さんが“辛そうに、だけど幸せそうに”歩き、段を上がり、座る…という一連の動作を、ホンモノにしか見えないくらい雰囲気を出して演じていたのが凄いです。
そう。妊婦さんは、一つ一つの動作が何もかも“大変そう”なのに、その“大変”さがイコール“幸せ”で、花吹雪のように「幸せオーラ」を振り撒くんですよね。
それを舞台の上で再現してみせたすみ花ちゃんは、やっぱり天才なのかなーと思ったりします。
前にも書いたような気がしますが、すみ花ちゃんの小夏の可愛らしさは、まさに“ガラス箱にいれて台の上に飾っておきたいような可愛らしさ”でした♪
現実に存在するとは思えない、ファンタジックな可愛らしさ。
普通の女としての幸せに浸りきった、「元スター」の輝きが見事でした。
ヤスの妄想の中で行われた結婚式の花嫁と違い、この場面で歌っている小夏は、すごくリアルです。
リアルなのに、ファンタジック。
ファンタジーの中にだけ存在し得る、リアル。
これこそが『宝塚のリアル』の真骨頂なんじゃないか、と。
そんなことを大上段に考えてしまったくらい、この場面の小夏は印象的でした。
塀が切れて、撮影所の中に入ろうとするところで、スタッフの徳子(梅咲衣舞)と島子(瞳ゆゆ)に遭遇。
「水原小夏ともあろう女優が、ヤスさんみたいな大部屋と…」
「あんた変わったなあ」
と言われて、幸せそうに微笑む小夏。
本当に変わったよね、1時間前に比べて(^ ^)……と素直に思ってしまいます。
今は大きなお腹を抱えて差し入れを持って来ているけど、
あと3年くらい経ったら、よちよち歩きの子供の手をひいて、また差し入れを持ってくるんだよね、と、
そんな情景が容易に目に浮かぶ。
一幕があいてすぐの場面で、きわどい衣装でお弁当を持って現れる不自然さも見事だったけど、あれはむしろあの衣装が違和感があっただけで、すみ花ちゃんの小夏の中身は、かいがいしくお弁当を作る姿がいかにも似合いそう。
風花舞嬢の小夏は、どこか(私の気のせいかもしれませんが)「このお弁当を作るために徹夜したの。この手弁当で、絶対銀ちゃんの心を取り戻してみせる!」とか言い出しそうな迫力というか、思いつめた感じがありました。
あのショー用の派手な衣装が当たり前で、持っているお弁当の方に違和感があったんですよね。
また、そういう執念じみたものから逃げ出したい久世さんの銀ちゃんが、いかにもいかにも、で…。
すみ花ちゃんの小夏は、お弁当を作るのは習慣で、「今日も作っちゃった……」という諦めにも似た思いがあって。でも作っちゃったから持ってきた、みたいな空気を感じたのですが。
お掃除も洗濯も完璧にこなして、手の込んだ手料理の飾りとして“タコさんウインナ”とか“うさぎさんリンゴ”を笑顔で作って、それ自体が楽しい、タコさんウインナを見て喜ぶであろう銀ちゃんの笑顔を想像するだけで幸せ、という、そんな感じ。
そして、いかにもそういうものを喜びそうな子供っぽい大空銀ちゃん、という組み合わせが秀逸でした。
組み合わせの妙、という言葉は、この作品のためにあるんじゃないか、と思う今日この頃。
撮影所の大部屋で、小夏の持ってくる差し入れを待つヤス一党。
口では「遅かったな」とか、偉そうに亭主関白っぽく“いばりんぼ”しようとしていながら、全身で「大丈夫か?小夏」と叫んでるみたいなヤスがめっちゃ可愛いです。上がり框の段をのぼる小夏から慌てて荷物を受け取り、手を出して手伝ってやり、ほとんど抱えあげて座布団に座らせる(しかも細心の注意を払って)。それも、自分のちょっと後ろに、仲間たちからちょっと隠すような風情で。
銀ちゃんが大事にしまいこんでいた小夏。
大部屋連中には合わせず、世話もさせず。
朋子とは全く違う扱いだった、小夏。
その小夏を見せびらかすように、でも自分の後ろにそっと隠すヤスの微妙な男心が、本当に可愛いです。
それを判っていながら、ヤスの喜びそうなことを言ってあげるトメさんたち一党の、優しさも。
ここで色々暴言を吐くヤスは、「銀ちゃんの居ないところでは銀ちゃんのように振舞う」という本来のキャラが出ているんですよね。元々主演経験もあるくらい、大部屋の中では比較的立場も上ですし、キャリアも長いから、そういう態度も通ってしまう。
銀ちゃんに憧れて、銀ちゃんのようになりたいヤスの、必死で突っ張って銀ちゃんのように振舞おうとする背中の小ささが、とても寂しいです。ヤスの小物感、卑小さ。
小夏の差し入れをひととおり自慢して、“傍若無人”に振舞うことに疲れたヤスは、ふと立ち上がって部屋を出て行く。
「すぐ戻るから、先に喰ってろ」
空気の変わったヤスを、何も言わずに見送る小夏。
幸せそうに。
“あのひとはかっこよくない、ハンサムじゃないけど”
でも、傍に居てくれるひとなの、と、
そう、思ってた……。
.
本当に早いですねー!年を取ると時間が早く過ぎる、っていうのは本当なんだなあ。
「君を愛してる/ミロワール」&「ホフマン」を観に遠征したのも、ついこの間のような気がするのに。
宝塚作品のベストはこないだ一通りあげたので、年末LASTにはそれ以外で心に残ったものを……と思っていたのですが。
あれこれ思い返してみても、去年の「Confidant -絆-」みたいな、圧倒的にこれ!という作品が思いつかないなあ……。観たかったけど観られなかった作品も多いし。
とりあえず、初演ものでは「ウェディングシンガー」と「きみがいた時間 ぼくのいく時間」…かな?「Duet」も楽しかったけど、あれは作品というよりキャスティングが嬉しかったのが比重高いし。
コンサート形式の作品では、やはり梅田の「ウィーンミュージカルコンサート」と玉野さんの「CLUB SEVEN」。……石井一孝さんのコンサート(ゲスト・樹里)も最高だったし、「SHOWTUNE」も楽しかったけど。でも、やっぱり「ウィーン」と「CLUB SEVEN」は別格です☆
再演ものでは、まずTSの「タン・ビエットの唄」「AKURO」の二作品。後者は自分的には初演ですが、練り直したからこその完成度もあったようなので、あえてこちらに。
あとは「RENT」ですね。今年は忙しくて東宝ミュージカルはほとんど観なかったのですが、これだけは当日券いれて3回観ました。作品の力が素晴らしいのは当然としても、スタッフワークが良かったのが嬉しいです。正直、東宝上演ということであまり期待をしていなかったのですが、自分の思い込みに呆れています。ごめんなさい。
2008年最後の観劇は、銀河劇場の「GIFT」でした。
宝塚オリジナル作品「君を愛してる」&「ホフマン」で始まった2008年。日本のオリジナルミュージカルの佳品で締めくくれて、幸せな一年でした☆
さて。
宝塚の誇る名作「銀ちゃんの恋」花組再演版、まだまだ終わらないのですが(滝汗)。
これだけはなんとか最後まで書きたいなーと思っているので、もう少し(←いや少しじゃねーだろ)おつきあいくださいませ。
二幕冒頭 結婚式
結婚行進曲が高らかに鳴り響く中、ヤスと小夏の結婚式が始まる。
「小階段」を降りてくるヤスと小夏。この作品中、唯一の“格好良い服”、白いタキシードに身を包んだヤス。おずおずとウェディングドレスの小夏の手を握り、ドキドキしながら降りてくるその風情がたまりません。
平場で二人を迎えるのは、ほぼ関係者全員。さすがに朋子さんとか橘とかはいないけど、撮影所のメンバーも人吉の関係者もみんな揃っているので、なかなか華やかです。男泣きに涙をぬぐっているトメさん(日向燦)が素晴らしい。涙をぬぐう合間に振りをこなしてましたね(笑)。そんなトメさんをそっと見守っているっぽかったマコト(夕霧らい)の優しい笑顔が好きです。ヤスを見て、ちょっとハンカチで目元を押さえている専務(眉月凰)もダンディでステキ。そして、若い男を次から次と手玉に取っていた(ように見えた)秘書(初姫さあや)が、もう本当に最高でした。
しかーし。
そんなおままごとのような結婚式も、「誓いのキスを」のあたりで闖入者が登場。
小階段を堂々と降りてくる、銀ちゃん。
音楽が「卒業」のそれに変わるあたりは、石田さん細かいなーと思うのですが。
…でも、場面的にヤスが主役なのに「卒業」なんだ……という違和感もあったりする(^ ^;ゞ
まぁそんなことはどうでもよくて、とにかく、“銀ちゃん”の巨きさと格の違いをものすごく見せ付けた場面でしたね。体格の違いもあるんですけど、それだけじゃない。最初はヤスに助けを求めていた小夏が、あっさり堕ちるのも当然、という迫力。
この“立っているだけで”「周りの小物とは違うんだ」と思わせる迫力がないと、「銀ちゃん」としては失格なんだなーと思うんですよね。
そして、大空祐飛の銀ちゃんは、この作品全体を通じて、一回も周りに同化したことがなかった。
もちろん、衣装のぶっ飛び具合とか、照明とか、そういう演出面のフォローも大きかったですけど(ありがとう石田さん)、大空祐飛自身の醸し出した空気であり、そして、それを受けた野々すみ花&華形ひかるの役者ぶりのバランスが素晴らしかったと思うのです。
そして、ヤス。
この場面は、ヤスの妄想です。途中までは実際の結婚式でもいいのですが、銀ちゃんが降りてくるところからは、全部妄想。
銀ちゃんが降りてきて、招待客たちがハケる。小夏を口説いて連れ去ろうとする銀ちゃん。
最初は抵抗してヤスに助けを求めていたのに、最後には銀ちゃんの口づけを受け入れ、肩を抱かれて去っていく小夏。
小夏にしがみついて引き止めようとしながら、留められないヤスが哀れでした。
「真っ白なウェディングドレスに身を包んだあたしと」
「パリッとタキシードを着た、
……俺が、いるんだ」
それでも。
真実の(今回のすみ花ちゃんの)小夏は、一幕ラストで、ちゃんとヤスを選んだのに、
泣きながら、引き裂かれる痛みを感じながら、それでも確かに、ヤスを選んだのに、
なのに、それを全く信じていない、ヤス。
ドラマシティではまだ迷いがあった小夏も、青年館になると一幕ラストできっぱりとヤスを選ぶようになっていたので。ホント、この場面を観るたび、小夏モードで「なんでわかんないのよヤス!?」と胸倉つかんで揺さぶりたい気持ちになってしまいましたわ私。
「蒲田」的には、それで本当に良かったのかどうか、それはよくわかりませんが。
今回の“再演版”「銀ちゃんの恋」は、根本的にそういう解釈で作品として矛盾なく組みあがっていたので、私的にはなんら疑問はございません(^ ^)。
……ヤスを選んだ(選ばざるをえなかった)小夏の真情を思うと、痛さに涙が出るのですが。
銀ちゃんが登場して、いったんハケた列席者たちは、銀ちゃんと小夏が肩を組んでハケた前後に仮面を被って再登場してきます。
石田作品は、いつもこういうコロスのイメージダンスを巧く使った場面がありますよね。「黎明」の群青とか、「殉情」の夜叉とか、「猛き黄金の国」の三菱ダンサーズとか。私はどれも印象的で好きなのですが、この「銀ちゃん」の結婚式の仮面ダンスもすごく好きです。
(ちなみに、初演では今回みたいな仮面ではなく、ヤスと小夏のお面をつけていたハズ…)
ヤスの“苦悩”のダンスがイロっぽくて好き。そして、ヤスの前をあっさりと通り過ぎる邦さんの“別世界感”がさすがでした。
上手ですごくキレイに踊っていたのは、輝良くんでしょうか?違うかな?
仮面を被っていてもすぐわかる、玉美(月野姫花)の髪型が可愛い(笑)。
なんと言っても笑ったのは、仮面の上から眼鏡をかけていた二人(マコト&秘書)!!ラストのキメで仮面が集まってキメるとき、眼鏡の仮面が二人いたのがめっちゃおかしかったです。はい。
すーっ、と、足音もなくヤスの視界を横切る母親。
反射的に母を追うヤス。
でも、動けない。
足元に絡みつく、「しがらみ」という名のナニカ。
仮面のダンスにあおられるように、十三段階段を登りはじめる。
よろよろと、
…いいえ、フラフラと。
十三段階段の一番上で、ヤスを待つロープ。
首吊りの、輪。
階段の下で、退路をふさぐようにより集まって止まる、仮面たち。
振り返ったヤスの、絶望に満ちた、瞳。
「ぎんちゃん…」と、声にはならないままに唇だけが動いて。
第十四場 塀の前~大部屋の座敷
場面がキまってライトが落ちると、舞台前面にいつもの「撮影所の塀」が出てきて場面転換。
そういえば。この塀に張ってあるポスターや広告が、ひとつづつ取り上げて話題にしたいほど面白かったのですが、その話書きましたっけ…?(←完全に記憶に無い)
一番笑ったのは「ギンチョール」だったんですけど、この場面には貼ってあったっけかなー。
上手の袖から小夏が登場。
大きなお腹を抱えて辛そうに歩きながら、「し・あ・わ・せ~~♪」と歌う、本当に幸せそうな小夏。
とにかく可愛くて、自分の幸せに不安の欠片も無い、小夏。
無理はしてない。心のままに、
「あのひとはかっこよくなーい、ハンサムじゃなーいけーど♪」
と、心の底からの笑顔で歌ってのける、その、幸せのオーラ。
「臨月近い妊婦」としての歩き方、という基本的な技術面の巧さもさすがなのですが、それ以上に、妊婦さんが“辛そうに、だけど幸せそうに”歩き、段を上がり、座る…という一連の動作を、ホンモノにしか見えないくらい雰囲気を出して演じていたのが凄いです。
そう。妊婦さんは、一つ一つの動作が何もかも“大変そう”なのに、その“大変”さがイコール“幸せ”で、花吹雪のように「幸せオーラ」を振り撒くんですよね。
それを舞台の上で再現してみせたすみ花ちゃんは、やっぱり天才なのかなーと思ったりします。
前にも書いたような気がしますが、すみ花ちゃんの小夏の可愛らしさは、まさに“ガラス箱にいれて台の上に飾っておきたいような可愛らしさ”でした♪
現実に存在するとは思えない、ファンタジックな可愛らしさ。
普通の女としての幸せに浸りきった、「元スター」の輝きが見事でした。
ヤスの妄想の中で行われた結婚式の花嫁と違い、この場面で歌っている小夏は、すごくリアルです。
リアルなのに、ファンタジック。
ファンタジーの中にだけ存在し得る、リアル。
これこそが『宝塚のリアル』の真骨頂なんじゃないか、と。
そんなことを大上段に考えてしまったくらい、この場面の小夏は印象的でした。
塀が切れて、撮影所の中に入ろうとするところで、スタッフの徳子(梅咲衣舞)と島子(瞳ゆゆ)に遭遇。
「水原小夏ともあろう女優が、ヤスさんみたいな大部屋と…」
「あんた変わったなあ」
と言われて、幸せそうに微笑む小夏。
本当に変わったよね、1時間前に比べて(^ ^)……と素直に思ってしまいます。
今は大きなお腹を抱えて差し入れを持って来ているけど、
あと3年くらい経ったら、よちよち歩きの子供の手をひいて、また差し入れを持ってくるんだよね、と、
そんな情景が容易に目に浮かぶ。
一幕があいてすぐの場面で、きわどい衣装でお弁当を持って現れる不自然さも見事だったけど、あれはむしろあの衣装が違和感があっただけで、すみ花ちゃんの小夏の中身は、かいがいしくお弁当を作る姿がいかにも似合いそう。
風花舞嬢の小夏は、どこか(私の気のせいかもしれませんが)「このお弁当を作るために徹夜したの。この手弁当で、絶対銀ちゃんの心を取り戻してみせる!」とか言い出しそうな迫力というか、思いつめた感じがありました。
あのショー用の派手な衣装が当たり前で、持っているお弁当の方に違和感があったんですよね。
また、そういう執念じみたものから逃げ出したい久世さんの銀ちゃんが、いかにもいかにも、で…。
すみ花ちゃんの小夏は、お弁当を作るのは習慣で、「今日も作っちゃった……」という諦めにも似た思いがあって。でも作っちゃったから持ってきた、みたいな空気を感じたのですが。
お掃除も洗濯も完璧にこなして、手の込んだ手料理の飾りとして“タコさんウインナ”とか“うさぎさんリンゴ”を笑顔で作って、それ自体が楽しい、タコさんウインナを見て喜ぶであろう銀ちゃんの笑顔を想像するだけで幸せ、という、そんな感じ。
そして、いかにもそういうものを喜びそうな子供っぽい大空銀ちゃん、という組み合わせが秀逸でした。
組み合わせの妙、という言葉は、この作品のためにあるんじゃないか、と思う今日この頃。
撮影所の大部屋で、小夏の持ってくる差し入れを待つヤス一党。
口では「遅かったな」とか、偉そうに亭主関白っぽく“いばりんぼ”しようとしていながら、全身で「大丈夫か?小夏」と叫んでるみたいなヤスがめっちゃ可愛いです。上がり框の段をのぼる小夏から慌てて荷物を受け取り、手を出して手伝ってやり、ほとんど抱えあげて座布団に座らせる(しかも細心の注意を払って)。それも、自分のちょっと後ろに、仲間たちからちょっと隠すような風情で。
銀ちゃんが大事にしまいこんでいた小夏。
大部屋連中には合わせず、世話もさせず。
朋子とは全く違う扱いだった、小夏。
その小夏を見せびらかすように、でも自分の後ろにそっと隠すヤスの微妙な男心が、本当に可愛いです。
それを判っていながら、ヤスの喜びそうなことを言ってあげるトメさんたち一党の、優しさも。
ここで色々暴言を吐くヤスは、「銀ちゃんの居ないところでは銀ちゃんのように振舞う」という本来のキャラが出ているんですよね。元々主演経験もあるくらい、大部屋の中では比較的立場も上ですし、キャリアも長いから、そういう態度も通ってしまう。
銀ちゃんに憧れて、銀ちゃんのようになりたいヤスの、必死で突っ張って銀ちゃんのように振舞おうとする背中の小ささが、とても寂しいです。ヤスの小物感、卑小さ。
小夏の差し入れをひととおり自慢して、“傍若無人”に振舞うことに疲れたヤスは、ふと立ち上がって部屋を出て行く。
「すぐ戻るから、先に喰ってろ」
空気の変わったヤスを、何も言わずに見送る小夏。
幸せそうに。
“あのひとはかっこよくない、ハンサムじゃないけど”
でも、傍に居てくれるひとなの、と、
そう、思ってた……。
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