天王洲アイルの銀河劇場にて、Studio Life公演「死の泉」を観てまいりました。
今週来週と涙が出るほど仕事が忙しく、毎日日付が変わるまで会社にいる状態なので、あまり更新ができないと思いますが、どうぞお許しくださいませ。
…って、言い訳してみたりしつつ。
前回観たStudio Life作品は「マージナル」。そのときの感想はこちら。
http://80646.diarynote.jp/200809200406033884/
なぜわざわざリンクするかというと、前半の倉田演出に対する感想をはじめ、いろんな点で前回と全く同じ感想を抱いたからです。
中でも、「なんかよくわかんないエピソードがいろいろあるけど、これは後で都市編を見たら解決するんだわきっと!」というあたりが真面目に笑える。
これは、「マージナル」の時は「都市編」と「砂漠編」の2バージョン同時上演だったので、「砂漠編」を観て「?」と思ったところが「都市編」で解決するという構成(片方しか観なかった方は、二幕ものの芝居を一幕だけ観て小休憩に帰っちゃうようなもの)になっており、結果的に、両方観た観客にとっては奥深くて面白い趣向になっていたのですが……。
「死の泉」には別バージョンはないので。
同時上演の「パサジェルカ」を観ても、多分何も解決しないんだろうなあ…。
まぁ、「死の泉」は、「マージナル」に比べればずーっと良く整理された出来の良い脚本だったとは思うのですが。でも、それでも結構謎が残った人が多いんじゃないかなあ?原作はかなり長大なので、ごく一部しか劇化されていないのですが、切り捨てたはずの原作の“残り火”みたいなのも結構あったし。
原作は知らないにしても、ある程度戦争末期~60年代にいたるドイツの現代史をさわりだけでも知っていれば、そんなに難しい話ではないのですが。
あ、そうだ。
大事なことを一つ。入り口で配られるチラシの束の中に、今回の公演に関する用語集が入っているので、観る前に一読しておかれることをお勧めします。
だって。
とりあえず、日本人であのシチュエーションで「白ばら」と言われてぴんと来る人は少数派なんじゃないかなーと思うんですよね。まぁ、映画にもなったことがあるので、私が知らなかっただけかもしれませんが。
#この場合の「白ばら」は、ナチス政権化のドイツでミュンヘンを中心に起こった学生たちの反ナチ運動のこと。ベルサイユとは何の関係もありません(^ ^;
マルガレーテの曾祖母が属する「ツィゴイナー」(ツィゴイネル/異民族。いわゆる“ロマ”の一派といわれるが別説もある)や、ゲルトが関わる「ネオナチ」も、意外と知らない人が多いのでは?
本作とは全く何の関係もありませんが、私はとうに終わってしまった“TEAM D.O.C”のコミック「花と狼の帝国」が大好きでした。あれで「白ばら」を初めて知ったんですよね…。いつか再開する日を待っていたのに~~(T T)
レーベンスボルン(“生命の泉”ドイツ南部の都市で、マルガレーテの生地)に生きる一人の女が作り出す、“死の泉”。レーベンスボルンは、マルガレーテの出身地の地名であり、ナチス国家のための子供(兵士)をつくる組織の名前でもあります。
舞台化するにあたって、テーマを擬似家族に絞ったのはいいと思うのですが、だったら細かい謎を残さないで欲しかったなぁ、と思ったりはします。ギュンターの城のエピソードとか、たぶん意味わからないと思うし。
タイトルにまつわる謎も、潤色されたときにまるっと抜け落ちてしまっていると言っても過言ではなく、原作とは全く別の作品だと言ってもいいかと思うのですが、だったら不用意な謎の尻尾(拾いきれない伏線)はきちんと切っておいてほしかった。
とか、なんとか書いていますけれども。
倉田さん、宝塚の座付き作家の一部と比べてそんなにレベルが低いとは思わないのに、ついつい色々書いてしまうのは、私が基本的にクリエイターとしての彼女をかっていて、期待をしているからなんだろうなー、と、
…今、思ってみました……。倉田さんの作風が好きな方、ごめんなさい。
まぁ、作品については観ていただくとして。
キャストについて一言ずつ。
#今回私はWキャストの片方しか観ておりません(Rheingold)。ご了承くださいませ。
■マルガレーテ 三上 俊
美しい。宝塚を見慣れた目には前髪の処理が気になりましたけれども(^ ^)、十分に“美しい女性”でした。
「マージナル」では清純で心優しい少年ミカル。心の美しさがそのまま表に表れたかのような姿には見惚れてしまいましたが、今回はうってかわって、内向的で芯の強い、クリスタルのように硬い“女”、そして、自身を見失うほど息子を愛した、脆い“母親”の役。
純粋無垢なミカルがあんなに似合ってしまった三上くんには、まだちょっと難しい役なんじゃないのかなー?と思っていたのですが。
…ある意味、これ以上のマルガレーテは居ないというくらい説得力のあるマルガレーテでした(*^ ^*)。声のトーンが落ち着いていて優しいので、穏やかで優しい見た目とよく釣合っていましたね。しかも、ほっそりとして立ち姿が美しく、マタニティもシンプルなワンピースもよく似合ってた。あんなに頻繁に出たり入ったりしないで、もっと舞台上にじっとしている時間が長くしてあげた方がキャラクターが出るタイプなのに勿体ないなぁ、と思ったりしました。(倉田さんの演出は、とにかく場が細かすぎるのと、暗転時にいちいち舞台からハケさせるのがうるさい)
それにしても。
…痛々しいほどに「外」を拒否しきった、精神的な“引きこもり”っぷりが見事でしたねぇ。
「世界」を拒絶し、人間関係を無視して、ただ自分の求めるものを探しているだけの、女。
そんな彼女をひたすらに慕う幼い兄弟が、ただただ憐れで、
そんな彼女に嫉妬し、なんとかして傷をつけようと必死であがくけれども果たせないモニカが、ひたすら哀れで。
「看護婦さんたちの中で、マルガレーテが一番やさしい」と信じた子供たちの気持ちもわかるけれども、「やさしさ」と「無関心」は、反対語ではないのだ、と、そんなことを考えずにはいられない、そんなマルガレーテでした。
「ナチス」という名の“過酷な運命”が支配の網を拡げ行く中で、その冷たい風を柳に風と受け流す強靭さ。それが、彼女の場合は「不本意な世界」を拒否するという形で表に出たんですね。
ツィゴイナーとして、与えられた運命の中で精一杯生きることを選んだ彼女の曾祖母の幻影。
ゲルマンの男を愛し、ゲルマンの男に愛されたツィゴイナーの、多少の傷にはめげない生命力の輝き。
その強さが、3世代を経て“脆さ”のある“硬さ”になる。
そして、マルガレーテの心を囲む、高く冷たい「壁」を作りあげる…。
その壁を壊すことができるのは誰か?
誰もに愛されたマルガレーテが、愛していたのは誰なのか……?
■クラウス・ヴェッセルマン 山崎康一
ナチス政権化で怪しげな研究に勤しむマッドサイエンティスト。
……の役のはずなんですが、あまりにもあまりにも真剣かつ純粋にマルガレーテに恋をし、その歓心をかうためにあらゆる手を尽くす彼が、あまりにも可愛くてステキだったのは……
成功なんでしょうかねぇ。山崎さん、物凄い嵌り役だと思うんですけど。
それにしても、マルガレーテがあまりにも冷たくて、肩も抱けないクラウスが哀れでなりませんでした…。
ギュンターに対しては、もっともっと嫉妬を表に出していいと思うなあ。…うん。
文句無くステキでした。山崎さん大好きだ!
■子供たち(フランツ 奥田努、エーリヒ 深山洋貴)
奥田さんは、ちょっと柄が大きすぎて半ズボンも少年らしい可愛い仕草もちょっと無理が……。
「マージナル」ではネズやってた人ですもんね、そりゃー……。おにいちゃんらしさはあったけど、子供が“擬似母”に対して懐くのではなくて、最初から“大人の女への恋心”に見えてしまったのはどうなのでしょうか?
最終的には、それもアリなんですけどね、確かに。
まぁ、ポーランド系として蔑まれる中でエーリヒを守るためには、一足早く大人にならなくてはいけなかったはずだから、あのくらい大人っぽい子供でもいいのかな。
“大人”になってしまったフランツが、時々子供に戻るのが可愛い、といわれれば、「確かにそれはそうかも」と思わないでもないです。はい。
それでも、二幕の回想シーンは一幕より大人びているせいか、違和感無かったですけどね。あちらをターゲットに配役したのかもしれませんね。
エーリヒの深山さんは……えーっと、おいくつでしたっけ?(汗)。
なんであんなに半ズボンが似合うんだろう。なんであんなに頭悪そうに子供っぽく喋ってるのにステキなんだろう。謎がいっぱいです…。
■ミヒャエル(舟見和利)
細表で腺病質で、いかにもマルガレーテの息子っぽい雰囲気の造形が見事でした。
落ち着いた役作りで、さすがでしたね♪
■楽師兄弟(フランツ 曽世海司、エーリヒ 小野健太郎)
フランツ&エーリヒの成人版。
さりげないロマっぽい衣装が良く似合って、二人ともとても格好良かったです。フランツの、奥底に激情を秘めた穏やかさと、瞬間湯沸し機みたいなエーリヒの対比が見事で。
二幕からしか出ないし、難しい役だと思うんですけど、お二人ともさすがでした。
…曽世さんがお元気だとライフを観たなあ、という気がします。ご活躍が嬉しいです!
■モニカ 青木隆敏
「マージナル」のメイヤードさんですよね?一声声を聞いただけで、顔がみえなくてもすぐ判りました。正直なところ、本当に申し訳ないと思うのですが、私は彼の声(と喋り方)がどうしても好きになれないんです(T T)。モニカさんが登場して1分後には「もう黙れ」と思ってしまった。
なのに!
メイヤードのときも、彼が登場して5分後くらいに「もう絶対ダメ。無理」と思ったのに、一幕観終わったら、もう受け入れていたんですよね(汗)。都市編の方はぜんぜん違和感なかったですし。私が素直なのか、倉田さんが「とっつきで“最悪!”と思わせて、後で納得させる」という演出を狙ってしていらっしゃるのか、そのあたりは良くわかりませんが(^ ^)。
とにかく。
何をどんなに罵っても、馬の耳に念仏というかまったく聞いてない、効いてないマルガレーテの強靭さが凄いなあ~!と思わせる、そのためのモニカという役に見えてしまって、憐れでなりませんでした。めっちゃ同情しました。
あの役に共感を集めるって、青木さん凄いんじゃないだろうか……
■ゲルト 荒木健太朗
今まで彼のことは割と女っぽい美少年役で観ることが多かったのですが、こういう野生的な少年役の方が圧倒的に似合いますね(*^ ^*)。
キラのときにも書きましたが、美形だけどゴツゴツしたこういう顔の人は、女役似合わないと思うんですよ。よほど技術があれば別だけど、いくら小柄で細くても、“たおやか”に見せることが難しいタイプ。
原作ではかなり重要な役ですが、舞台ではテーマが違うこともあってだいぶ意味不明の役になっていたのが残念。ヘルムートさんとのラヴシーン(ラヴ言うな)は確信犯ですか?>倉田さん
■ヘルムート 前田一世
この人も謎な人になっていたなあ…。というか、二幕は全体的に破綻しきっていて意味不明なシーンが多かったので、練り直して欲しかったです。もうちょっとどうにかなったと思うんだけどな。
前田さん自身は色気もあっていい男っぷりだったので、作中での位置づけが滅茶苦茶だったのがとても残念でした。もう少し落ち着いた役でもう一度観てみたい人です。
■ブリギッテ(吉田隆太)
ステキでした。はい。
あのエネルギーと上昇志向は凄い!と思わせる。モニカの陰にこもったネツい口調ではなく、カラッとパワフルに嫌味を叩きつける、その可愛らしさがステキでした。
友達にはしたくないけど、たしかにああいう人は時代に拠らずどこにでも一人はいるんだろうな、と、そんなことを納得してしまったブリギッテでした。
マタニティはもっと思い切って詰め込んでもよかったかも(笑)。
ロシア民謡の「黒い瞳」が繰り返し流れる舞台空間。
なんでロシア民謡?と思ったのですが(←無知)、そもそもこの曲はロシア系ドイツ人が作曲した曲なんだそうですね。散々練習した歌なのに知らなかった…(恥)。詩(こちらはウクライナ人)は異民族の娘の黒い瞳を歌った歌だから、もしかししたらツィゴイナーなのかもしれませんね。(私はずっと、草原の娘だと解釈していたのですが)
いろいろな意味で面白い公演でした。
Wキャストのもう片方も、観てみたかったなー。(←すでに過去形)
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今週来週と涙が出るほど仕事が忙しく、毎日日付が変わるまで会社にいる状態なので、あまり更新ができないと思いますが、どうぞお許しくださいませ。
…って、言い訳してみたりしつつ。
前回観たStudio Life作品は「マージナル」。そのときの感想はこちら。
http://80646.diarynote.jp/200809200406033884/
なぜわざわざリンクするかというと、前半の倉田演出に対する感想をはじめ、いろんな点で前回と全く同じ感想を抱いたからです。
中でも、「なんかよくわかんないエピソードがいろいろあるけど、これは後で都市編を見たら解決するんだわきっと!」というあたりが真面目に笑える。
これは、「マージナル」の時は「都市編」と「砂漠編」の2バージョン同時上演だったので、「砂漠編」を観て「?」と思ったところが「都市編」で解決するという構成(片方しか観なかった方は、二幕ものの芝居を一幕だけ観て小休憩に帰っちゃうようなもの)になっており、結果的に、両方観た観客にとっては奥深くて面白い趣向になっていたのですが……。
「死の泉」には別バージョンはないので。
同時上演の「パサジェルカ」を観ても、多分何も解決しないんだろうなあ…。
まぁ、「死の泉」は、「マージナル」に比べればずーっと良く整理された出来の良い脚本だったとは思うのですが。でも、それでも結構謎が残った人が多いんじゃないかなあ?原作はかなり長大なので、ごく一部しか劇化されていないのですが、切り捨てたはずの原作の“残り火”みたいなのも結構あったし。
原作は知らないにしても、ある程度戦争末期~60年代にいたるドイツの現代史をさわりだけでも知っていれば、そんなに難しい話ではないのですが。
あ、そうだ。
大事なことを一つ。入り口で配られるチラシの束の中に、今回の公演に関する用語集が入っているので、観る前に一読しておかれることをお勧めします。
だって。
とりあえず、日本人であのシチュエーションで「白ばら」と言われてぴんと来る人は少数派なんじゃないかなーと思うんですよね。まぁ、映画にもなったことがあるので、私が知らなかっただけかもしれませんが。
#この場合の「白ばら」は、ナチス政権化のドイツでミュンヘンを中心に起こった学生たちの反ナチ運動のこと。ベルサイユとは何の関係もありません(^ ^;
マルガレーテの曾祖母が属する「ツィゴイナー」(ツィゴイネル/異民族。いわゆる“ロマ”の一派といわれるが別説もある)や、ゲルトが関わる「ネオナチ」も、意外と知らない人が多いのでは?
本作とは全く何の関係もありませんが、私はとうに終わってしまった“TEAM D.O.C”のコミック「花と狼の帝国」が大好きでした。あれで「白ばら」を初めて知ったんですよね…。いつか再開する日を待っていたのに~~(T T)
レーベンスボルン(“生命の泉”ドイツ南部の都市で、マルガレーテの生地)に生きる一人の女が作り出す、“死の泉”。レーベンスボルンは、マルガレーテの出身地の地名であり、ナチス国家のための子供(兵士)をつくる組織の名前でもあります。
舞台化するにあたって、テーマを擬似家族に絞ったのはいいと思うのですが、だったら細かい謎を残さないで欲しかったなぁ、と思ったりはします。ギュンターの城のエピソードとか、たぶん意味わからないと思うし。
タイトルにまつわる謎も、潤色されたときにまるっと抜け落ちてしまっていると言っても過言ではなく、原作とは全く別の作品だと言ってもいいかと思うのですが、だったら不用意な謎の尻尾(拾いきれない伏線)はきちんと切っておいてほしかった。
とか、なんとか書いていますけれども。
倉田さん、宝塚の座付き作家の一部と比べてそんなにレベルが低いとは思わないのに、ついつい色々書いてしまうのは、私が基本的にクリエイターとしての彼女をかっていて、期待をしているからなんだろうなー、と、
…今、思ってみました……。倉田さんの作風が好きな方、ごめんなさい。
まぁ、作品については観ていただくとして。
キャストについて一言ずつ。
#今回私はWキャストの片方しか観ておりません(Rheingold)。ご了承くださいませ。
■マルガレーテ 三上 俊
美しい。宝塚を見慣れた目には前髪の処理が気になりましたけれども(^ ^)、十分に“美しい女性”でした。
「マージナル」では清純で心優しい少年ミカル。心の美しさがそのまま表に表れたかのような姿には見惚れてしまいましたが、今回はうってかわって、内向的で芯の強い、クリスタルのように硬い“女”、そして、自身を見失うほど息子を愛した、脆い“母親”の役。
純粋無垢なミカルがあんなに似合ってしまった三上くんには、まだちょっと難しい役なんじゃないのかなー?と思っていたのですが。
…ある意味、これ以上のマルガレーテは居ないというくらい説得力のあるマルガレーテでした(*^ ^*)。声のトーンが落ち着いていて優しいので、穏やかで優しい見た目とよく釣合っていましたね。しかも、ほっそりとして立ち姿が美しく、マタニティもシンプルなワンピースもよく似合ってた。あんなに頻繁に出たり入ったりしないで、もっと舞台上にじっとしている時間が長くしてあげた方がキャラクターが出るタイプなのに勿体ないなぁ、と思ったりしました。(倉田さんの演出は、とにかく場が細かすぎるのと、暗転時にいちいち舞台からハケさせるのがうるさい)
それにしても。
…痛々しいほどに「外」を拒否しきった、精神的な“引きこもり”っぷりが見事でしたねぇ。
「世界」を拒絶し、人間関係を無視して、ただ自分の求めるものを探しているだけの、女。
そんな彼女をひたすらに慕う幼い兄弟が、ただただ憐れで、
そんな彼女に嫉妬し、なんとかして傷をつけようと必死であがくけれども果たせないモニカが、ひたすら哀れで。
「看護婦さんたちの中で、マルガレーテが一番やさしい」と信じた子供たちの気持ちもわかるけれども、「やさしさ」と「無関心」は、反対語ではないのだ、と、そんなことを考えずにはいられない、そんなマルガレーテでした。
「ナチス」という名の“過酷な運命”が支配の網を拡げ行く中で、その冷たい風を柳に風と受け流す強靭さ。それが、彼女の場合は「不本意な世界」を拒否するという形で表に出たんですね。
ツィゴイナーとして、与えられた運命の中で精一杯生きることを選んだ彼女の曾祖母の幻影。
ゲルマンの男を愛し、ゲルマンの男に愛されたツィゴイナーの、多少の傷にはめげない生命力の輝き。
その強さが、3世代を経て“脆さ”のある“硬さ”になる。
そして、マルガレーテの心を囲む、高く冷たい「壁」を作りあげる…。
その壁を壊すことができるのは誰か?
誰もに愛されたマルガレーテが、愛していたのは誰なのか……?
■クラウス・ヴェッセルマン 山崎康一
ナチス政権化で怪しげな研究に勤しむマッドサイエンティスト。
……の役のはずなんですが、あまりにもあまりにも真剣かつ純粋にマルガレーテに恋をし、その歓心をかうためにあらゆる手を尽くす彼が、あまりにも可愛くてステキだったのは……
成功なんでしょうかねぇ。山崎さん、物凄い嵌り役だと思うんですけど。
それにしても、マルガレーテがあまりにも冷たくて、肩も抱けないクラウスが哀れでなりませんでした…。
ギュンターに対しては、もっともっと嫉妬を表に出していいと思うなあ。…うん。
文句無くステキでした。山崎さん大好きだ!
■子供たち(フランツ 奥田努、エーリヒ 深山洋貴)
奥田さんは、ちょっと柄が大きすぎて半ズボンも少年らしい可愛い仕草もちょっと無理が……。
「マージナル」ではネズやってた人ですもんね、そりゃー……。おにいちゃんらしさはあったけど、子供が“擬似母”に対して懐くのではなくて、最初から“大人の女への恋心”に見えてしまったのはどうなのでしょうか?
最終的には、それもアリなんですけどね、確かに。
まぁ、ポーランド系として蔑まれる中でエーリヒを守るためには、一足早く大人にならなくてはいけなかったはずだから、あのくらい大人っぽい子供でもいいのかな。
“大人”になってしまったフランツが、時々子供に戻るのが可愛い、といわれれば、「確かにそれはそうかも」と思わないでもないです。はい。
それでも、二幕の回想シーンは一幕より大人びているせいか、違和感無かったですけどね。あちらをターゲットに配役したのかもしれませんね。
エーリヒの深山さんは……えーっと、おいくつでしたっけ?(汗)。
なんであんなに半ズボンが似合うんだろう。なんであんなに頭悪そうに子供っぽく喋ってるのにステキなんだろう。謎がいっぱいです…。
■ミヒャエル(舟見和利)
細表で腺病質で、いかにもマルガレーテの息子っぽい雰囲気の造形が見事でした。
落ち着いた役作りで、さすがでしたね♪
■楽師兄弟(フランツ 曽世海司、エーリヒ 小野健太郎)
フランツ&エーリヒの成人版。
さりげないロマっぽい衣装が良く似合って、二人ともとても格好良かったです。フランツの、奥底に激情を秘めた穏やかさと、瞬間湯沸し機みたいなエーリヒの対比が見事で。
二幕からしか出ないし、難しい役だと思うんですけど、お二人ともさすがでした。
…曽世さんがお元気だとライフを観たなあ、という気がします。ご活躍が嬉しいです!
■モニカ 青木隆敏
「マージナル」のメイヤードさんですよね?一声声を聞いただけで、顔がみえなくてもすぐ判りました。正直なところ、本当に申し訳ないと思うのですが、私は彼の声(と喋り方)がどうしても好きになれないんです(T T)。モニカさんが登場して1分後には「もう黙れ」と思ってしまった。
なのに!
メイヤードのときも、彼が登場して5分後くらいに「もう絶対ダメ。無理」と思ったのに、一幕観終わったら、もう受け入れていたんですよね(汗)。都市編の方はぜんぜん違和感なかったですし。私が素直なのか、倉田さんが「とっつきで“最悪!”と思わせて、後で納得させる」という演出を狙ってしていらっしゃるのか、そのあたりは良くわかりませんが(^ ^)。
とにかく。
何をどんなに罵っても、馬の耳に念仏というかまったく聞いてない、効いてないマルガレーテの強靭さが凄いなあ~!と思わせる、そのためのモニカという役に見えてしまって、憐れでなりませんでした。めっちゃ同情しました。
あの役に共感を集めるって、青木さん凄いんじゃないだろうか……
■ゲルト 荒木健太朗
今まで彼のことは割と女っぽい美少年役で観ることが多かったのですが、こういう野生的な少年役の方が圧倒的に似合いますね(*^ ^*)。
キラのときにも書きましたが、美形だけどゴツゴツしたこういう顔の人は、女役似合わないと思うんですよ。よほど技術があれば別だけど、いくら小柄で細くても、“たおやか”に見せることが難しいタイプ。
原作ではかなり重要な役ですが、舞台ではテーマが違うこともあってだいぶ意味不明の役になっていたのが残念。ヘルムートさんとのラヴシーン(ラヴ言うな)は確信犯ですか?>倉田さん
■ヘルムート 前田一世
この人も謎な人になっていたなあ…。というか、二幕は全体的に破綻しきっていて意味不明なシーンが多かったので、練り直して欲しかったです。もうちょっとどうにかなったと思うんだけどな。
前田さん自身は色気もあっていい男っぷりだったので、作中での位置づけが滅茶苦茶だったのがとても残念でした。もう少し落ち着いた役でもう一度観てみたい人です。
■ブリギッテ(吉田隆太)
ステキでした。はい。
あのエネルギーと上昇志向は凄い!と思わせる。モニカの陰にこもったネツい口調ではなく、カラッとパワフルに嫌味を叩きつける、その可愛らしさがステキでした。
友達にはしたくないけど、たしかにああいう人は時代に拠らずどこにでも一人はいるんだろうな、と、そんなことを納得してしまったブリギッテでした。
マタニティはもっと思い切って詰め込んでもよかったかも(笑)。
ロシア民謡の「黒い瞳」が繰り返し流れる舞台空間。
なんでロシア民謡?と思ったのですが(←無知)、そもそもこの曲はロシア系ドイツ人が作曲した曲なんだそうですね。散々練習した歌なのに知らなかった…(恥)。詩(こちらはウクライナ人)は異民族の娘の黒い瞳を歌った歌だから、もしかししたらツィゴイナーなのかもしれませんね。(私はずっと、草原の娘だと解釈していたのですが)
いろいろな意味で面白い公演でした。
Wキャストのもう片方も、観てみたかったなー。(←すでに過去形)
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