らぎちゃんのご卒業を見送って、ちょっと腑抜けています。

いやだから、今は忙しいんだってば!腑抜けてないで気合いれて働きなさい!!>自分


………(無理みたい?)






というわけで(←なにがだ)、ちょっと、リハビリ兼ねて「マリポーサの花」を観ながら思ったことを書き留めておきたいと思います。

楽の終わった公演なのに、すみません。






まず思ったことは。
正塚作品の主人公は、嘘を吐かないんだな、ということでした。


直前に嵌っていた「蒲田行進曲」の銀ちゃんが、嘘しか言わないのとは対照的に





とにかく、「マリポーサの花」と「蒲田行進曲」の文法の違いが興味深かったんですよね。


「銀ちゃんの恋」の主人公:銀四郎は、とにかく嘘ばかり吐いている。どれが本音なのかわからないように、嘘の言の葉をたくさんばら撒いて、誤魔化して。木の葉を隠すなら森に、を実践しているんですよね。

こんなに嘘しか言わない主人公って、タカラヅカでは珍しい!!





これは、いわゆる「地の文」がないからできたことだったのでは、と思うのです。

小説にも『「地の文」には嘘は書かない』というルールがありますが、芝居では「モノローグ」が小説でいう「地の文」にあたります。で、「銀ちゃんの恋」という作品には、タイトルロールのモノローグがない。なぜなら、語り手がタイトルロールじゃないから、です。
語り手はあくまでも小夏とヤスなのであって、銀ちゃんはその二人によって語られる存在、だから。


だから、銀ちゃんの台詞はすべて「小夏の耳を通した」「ヤスの耳を通した」台詞なわけです。
モノローグじゃない。
ラストの「ヤス!あがってこい!」だって、ヤスの耳を通した台詞なわけです。
観客はヤスの身になってあの台詞を聞く。
観客は、ヤスの身になって階段を登ろうとして、
……そして、泣くのですから。



銀ちゃんがこういうことを言った、という事実はある。
でも、それが銀ちゃんにとっての本音なのか嘘なのか、それは聞き手である小夏やヤスにはわからない。

だから、タイトルロールがひたすら嘘を吐いている、ああいう作品ができあがるわけです。






翻って、「マリポーサの花」。

こちらは、「語り手」が居ません。
だから、必要最小限の説明を主人公本人がしなくてはならなくなっている。

寡黙なハードボイルドキャラであるはずのネロが、妙に饒舌にあれこれ過去の事情や自身の真情を語るのは、作劇上の欠点ではあるのですが、これはもう、正塚さんがこの手法を選んだ以上、どうしようもない。


まだしも「ブエノスアイレスの風」の方が、必要な説明はリカルドが受け持ってくれていたので分散されていたし、
不必要な説明までぜーーーんぶ喋り捲る相棒(デュシャン)を置いて成功したのが「クロスロード」というワケですが、

残念ながら、ネロの相棒は、ネロよりもっと寡黙でハードなエスコバルさんなので(*^ ^*)、
これはもう、仕方がない。
エスコバルが喋らないんだから、ネロさんが喋るしかない。



…というわけで。
正塚さんは、作品に「語り手」をおかない分、主人公の喋る分量に下限がつくことと、主人公に嘘を言わせられないということで作品の幅を狭めているのではないか、と思ったのでした。




芝居において、「語り手」と「狂言回し」、そして「説明役」はすべて違うものだと私は勝手に思っておりまして。
「説明役」を置いた芝居は失敗作。
「狂言回し」が居る芝居は、少数の例外を除いて大概は凡作になりがち。
それは、説明してくれる人がいることで作者が安心してしまうからではないかと思っています。

それに対して、「語り手」は必要な要素です。
物語を誰に語らせるか。誰の視点で物語をすすめるか。それは基本の設計図なわけで。


ただ。
宝塚では「主演男役」という役割がハッキリ決まっているので、他の人に「語り手」をさせることが難しい、という問題があります。
だから、「ジュリアス・シーザー」は上演が難しい。これこそ、轟さんの存在なくしては宝塚化できなかった作品だと思います。
森川久美の「KING OF JIPANG」も、きっと難しいだろう。

そして、「銀ちゃんの恋」も難しかった。




タカラヅカでは、基本的に主人公=語り手である、という基本ルールを守った正塚さんと、
原作どおり小夏とヤスに「語り手」を勤めさせた「銀ちゃんの恋」の石田さん。



…私は、どちらも大変に良くできた(そして見事に宛書された)作品だったと思います。
どっちも通い詰めました。

芸術の秋にふさわしい、2演目だったと思います(←贔屓目)






…というわけで。
「マリポーサの花」についてはまだ書きたいことがあるような気がするのですが、とりあえず一通りは書き終わったような気がするので。


次回からは、「銀ちゃん」の続きを書いちゃおうかなっ(x^ ^)。







コメント