宝塚雪組東宝劇場公演「ソロモンの指輪/マリポーサの花」。



セリアの芝居が、楽も間近な今になって、ずいぶん変わってきたような気がします。

前半の、何も気づいていない(リナレスの本質にも、ネロの正体にも)女の子のキャラクターはそのままなんですけど、
大劇場のときにどうにも違和感が拭えなかった後半の芝居が、だいぶ変化してきているような。




ネロにとってのセリアは、ファム・ファタル以外のなにものでもないので、なんの理屈も説明もなく、出会ってすぐの「すでに予感をもってセリアをみつめていた」の一言で終わってしまっているんですが、セリア側の心情の変化は結構書き込まれているんですよね。

偶々行ったナイトクラブで、スターとしてステージで踊っていたネロに抱いたほのかな憧れ。
その彼が父親のパートナーとして家に現れたとき、その憧れのままに「近くにいたい」と願う気持ちを抱いて、ダンサーとしてのオーディションを受ける。
憧れの人の傍で、同じステージに立つ喜び。幸せ。

そんな中で、リナレスが起こした事件を知ったときの衝撃。
庇ってくれたネロへの感謝と共に、何も気づかなかった自分への怒りで落ち込んで。



…そんななか、公園で久しぶりに出会ったリナレスとの会話の後。
「警告を無視して、勝手に帰ってくるんじゃない!」という、吐き棄てるような叫びが、強く語尾を切るようになって、ヒステリックな感じが減ってきたような気がしました。
「リナレスだけで十分よ……!!」という言い方には未だ微妙に違和感があるのですが、全体的に反応が大人っぽくなって、凄く胸に迫る場面になったなあ、と。

大劇場ではとにかくヒステリックな印象があって、「じゃ、俺は行くよ」と下手に消えていくエスコバルを観ながら『…逃げたなこいつ』って感じだったんですけど(^ ^;、今は、“リナレスだって行かせたくないのに!!”という気持ちがはっきりと出てきて切ないです。
そして、下手袖に消えていくエスコバルに対しては、『気をつかってくれてありがとう』と思えるようになりました。


…たぶん、ネロが『おっ俺を置いていくなっ!!』と涙目してるのは同じかなっと思いますケドね(^ ^;。




公園の場面で、つい勢いあまって真情を吐露してしまうネロを見て怯えるセリアが、すごく等身大の女の子で可愛いです。

背伸びしてナイトクラブで踊ってはいても、まだ人生の挫折を知らない少女。
「一人でも生きていけるひと。怖いほど傷ついて、叫んでいるのに…」という歌を聴きながら、セリアにはまだ、包容力がないんだなぁとしみじみ思いました。
ネロの中には泣いている子供がいるのに、彼はそれを隠して、いいえ、しまいこんで次の一歩を踏み出していく。その、彼の中の子供に気づいてしまったセリアは、まだその子供ごと彼を包み込めるレベルの女になってはいない。

『かっこいい大人のネロさん』に憧れていた彼女にとって、剥き出しの感情をさらけだすネロの弱さは、『安心できない怖いもの』でしかなくて、

……なのに、それでもなお、彼に向かう心を留められない。
いくら想っても、恋をしても、無駄なのに。あのひとの心の中に、私の居場所なんてこれっぽっちもないのに……。






だからセリアは、ネロを責めない。
「お店でしょう?いいのよ」

だから娘は、口を閉ざして背を向ける。
ネロが見ている世界を、見ようとしない。

「……今日は、いいから……」


届かないことを知っているから。
いくら背伸びをしても、想像もつかない過去をもつ男の背中に、手が届くとは思えないから。

「いっそ、巡り合わなきゃ良かったのに…」




それでも。
彼に二度と会えないかもしれない、と想ったときに、彼女は自分の心の断崖から飛び降りてしまう。
怖いから避けていた彼の心の奥に、まっすぐに飛び降りていく。


「死んでしまう…あなたが死んでしまう!!」


背中にすがりつく女の悲しさ。

引き留められるはずがないことを、彼女は知っている。

そして、男が行くのは自分のためであることも、無意識にわかっている。




「もういらない!愛の言葉なんて!」

愛の言葉よりも、傍に居てほしかった。
愛してくれなくてもいいから、見つめていたかった。




それでも男は出て行く。
……祖国のため、そして、そこで待ってくれる女のために。





個人的に、私にとっての『この作品でもっとも印象的な会話』は、

「二人で生きればいいじゃない!一緒なら、地の果てでも…」
「そんなところには絶対に行かせない!俺は、もっと素晴らしい処で君を愛したい!」

…だったりします。




『二人一緒なら地の果てでも!』って、ある意味ものすごくタカラヅカ的定番の台詞じゃないですか。
なのに、それをキッパリと否定するネロさんが、めちゃくちゃカッコイイ!とおもうのです。


俺は逃げない。逃げたくない。
やれることがあるなら、ひとつづつ遣り遂げたいから。

だから君も、どうか逃げないで待っていてほしい、と。

時代が変わるそのときを、この美しい祖国で。






…ま、私も女なので、「待ってろ」というのは男の我儘だと思ったりもするんですけど(^ ^)、
水くんととなみちゃんっていうのは、そういう意味ではちょっと古風なコンビなのかもしれませんね。
“強い男”と“待っている女”、そういう構図がはまるコンビなのかな、と。





たとえばトウコさんとあすかちゃんだったら、絶対あすかは待ってないと思うんですよね。戦場まで追いかけていく。たぶん、エスコバルの位置にあすかちゃんが来ると思う。

タニちゃんとウメちゃんだったら、そもそもウメちゃんが先に戦場に行っちゃって、タニちゃんが追いかけていきそうな気が(^ ^;

まとぶんと彩音ちゃんはどうなんでしょう…。まだちょっとよくわからないなあ。この二人はむしろ、手に手をとって“地の果て”を目指すのが似合うのかも。

こういうとき、月組の今の体制はコメントに困りますね。(←お前だけだ)






……そうこうしているうちに、

あああ、最後の火曜日が終わっちゃった…。この公演も、あとたったの7回か……。
(しみじみ)





コメント

nophoto
dasy
2008年11月14日17:37

本当に終わってしまいますよ。

最後の夜公演の日ダブルで見て、もう本当にナチュラルというか突き抜けた感に呆然としました。台詞がどうとかいう問題でなく・・
セリ下がりの透明な笑顔が、もっと透明になっていく・・・
下級生の小芝居も凄く楽しいし、ロジャーとフェルッティがここまでできるようになって、おばさんは嬉しいです。
ブエノスアイレス東京千秋楽は、若手が6日しか舞台をやっていないとは思えないくらいすごくよくなっていたという印象しか残っていないくらい、キューバにドップリ浸かってます。(マカゼくん頑張ってました。でもやはり、せめてバウ千秋楽・贅沢を言えば1年後くらいのこのメンバーで見たかった)

ソロモンはソロモンで見る度に見えるものが変わり、すべてのつなぎめにいる指輪の精が生と死をつなぐ、祝祭の命を感じさせない笑顔に震撼とします。
この世界が終わってしまう・・・・・・・・・

みつきねこ
2008年11月15日1:14

dasyさま
あと二日ですよ…(涙)。
みんな突き抜けてきましたね。ここにきて、また一段とエスコバルさんが厭世的になってきたのが怖いです。あと4回、みんなどんな世界に行ってしまうのかしら。

>ブエノスアイレス東京千秋楽は、若手が6日しか舞台をやっていないとは思えないくらいすごくよくなっていた

そうなんですね、やっぱり!!ああ、真剣にバウで観たいです。また来年あたり、今度こそドラマシティで再演してくれませんかねぇ……(^ ^)。