日比谷と青山で、宝塚歌劇「正塚晴彦」の二本立てを観てまいりました。



……もとい。



雪組東宝劇場公演「ソロモンの指輪/マリポーサの花」と、星組日本青年館公演「ブエノスアイレスの風」を、はしごしてまいりました。






いやー、「マリポーサの花/ブエノスアイレスの風」という二本立ては、ものすごく興味深くて、面白くて、そして、

気力を消耗する3幕もの、でした。



……あんまりお勧めはしません(汗)。

遠征中だとか、特別な理由がある場合をのぞき、一日に見るのはどちらか一つにすることをお勧めさせていただきますm(_ _)m。







星組さんの二番手スターであり、トウコさんの卒業が発表された今、半年後にはトップスターになっている可能性が一番高い柚希礼音くんの、これが初めての主演作の東上。
それにしては、いきなり東京スタートという高いハードルも、期待のあらわれかな(^ ^)。


まぁそうはいっても月組の誇る名作の再々演、『今が旬』の若手スターてんこ盛り、と、話題にはことかかない公演でした。

礼音くん、「スカーレット・ピンパーネル」でずいぶん痩せたんでしょうねぇ~!!
本来『女性として』ものすごくスタイルのいい、いわゆる“ボンッ、キュッ、ボーンッッ!”……特に腰の張りがありすぎて、なかなかスーツの補正が難しいタイプ(女として滅茶苦茶羨ましいです)だと思うのですが、ずいぶんスッキリ着こなしてました。…個人的には、あのボーンッッ!!が好きだったのでちょっと残念ですが…(あの腰のボリュームのない礼音くんなんてっ泣)

歌も安定(←ま、初演もリカさんだしね)。ダンスは、いや本来物凄いダンサーなことは良く知ってますけど、ことタンゴについては……あれは経験とスタイルがものを言うんですけど、そういえば礼音くんって踊ったことあったっけ?アルゼンチンタンゴとコンチネンタルタンゴも違うしなー。

芝居は、想像していたよりはずっとニコラスでした。はい。もっとずーーーーっと明るい太陽を想像していたので、びっくりしました。カッコよかった!!ただ、「色っぽい」とか「陰がある」とかいうのとはちょっと違ってたかもしれませんね。
いちばん良かったのは、「革命家くずれ」らしいナイフのような“危険”な空気感があったこと。あの“危険”さが、色気になるといいんですけどねー。なんていうか、まだセントバーナードとかシベリアンハスキー……いや違う(汗)、ドーベルマンとかシェパードの“怖さ”なんですよね、野生の狼ではなくて。

きちんとした、生真面目な怖さ。素朴で気のいい強さ。
それでしかなかったことが、すこーし残念でした。


でも、怖さが出せるようになっただけ進歩だし、まだ初日あいたばかりですからね!!バウの楽までには、きっとホンモノの“危険な香り”が醸し出せるよになるだろう、と、そう…信じて。








で。

他のキャストについて触れるまえに、今日どうしても書きたいと思ったことを呟かせていただきます。






「正塚晴彦」という、卓越した才能を持ったクリエーターにとって、
「過去の名作」って、何だったのでしょうか…?


彼自身が、「ブエノスアイレスの風」という過去の作品、もう終わったハズの作品の再演(正確には再々演)という事実を、どのようにとらえていたのか。



…私にはわかりませんでした。
私は彼じゃないから。彼と直接話す立場にいるものでもないから。




ただ。





…「ブエノスアイレスの風」は、名作でした。
ドラマシティで初演され、神戸と青年館で再演された、10年前には。




でも。




2008年、この夏に正塚晴彦は、「マリポーサの花」を発表してしまった。
これはたぶん、彼が描いてきた一連の“革命物”、「ブエノスアイレスの風」を含む一連の作品の、ある完成形だったのではないか、と、私は思っています。


「革命」に破れ、にもかかわらず「平和」を得た“世界”の中を生き抜こうとした男の物語が「ブエノスアイレスの風」だったとしたら、

「革命」に勝ち、にもかかわらず「安寧」を得られない“世界”の中を生き抜こうとした男の物語が「マリポーサの花」。



だから、この「マリポーサの花」が完成してしまった今、「ブエノスアイレスの風」という作品は、正塚晴彦というクリエーターにとって「完全なる過去」になってしまったのではないか、…と。






最初の再演の時はちがいました。あの時点で、彼はもう次の「CROSSROAD」も発表した後でしたけれども、でも「ブエノスアイレスの風」は、まだ彼の中に生きていた。
一番重要な役だったリカルド役の樹里咲穂を組替えで失ってなお、再演を喜び、作品のレベルをあげて初演を超えるためにあらゆることをした。
事実上の二番手役だったリカルドに信頼篤い嘉月絵理を配し、万全の態勢を整えて、再演に挑んだのです。






今回の再々演のキャストを聞いたとき、
いちばん驚いたのは、リカルドの配役でした。

樹里咲穂。嘉月絵理。正塚晴彦が愛してやまなかった二人の役者に宛てたラヴ・レター。
初演でも再演でも、プログラムの写真の大きさでも最後の挨拶でもビセンテ、マルセーロに次ぐ4番目だったリカルド役。これを、本来あるべき二番手スターの和涼華にあてる。
ある意味、ものすごく“当たり前”の配役だったし、でも物凄い冒険だったと思います。



でも。

配役を見た時点では、私は正塚さんを信じていました。
正塚さん、がんばるツモリなんだな、と思った。


彼は最近、あまりトップスタークラスの立場の役者には演技指導をつけていないように思うのですが(せいぜい「肩の力を抜け」くらいで)、新人公演はずっと直接見てきたんですよね。「マジシャンの憂鬱」も、東京では新公だけは直接見て、あれだけの高いレベルにひきあげてくれていたし。


今回は、もう本公演で二番手格にたつ礼音くんには何も言わないかもしれないけれども、経験の浅い和くん以下のメンバーは徹底的に演技指導して、これからの星組を背負って立つ若手スターを育てるつもりなんだろう、と。
あるいは、星組のプロデューサーさんとしても、礼音くんを真ん中に据えたときの体勢を考えて今回の作品、今回の演出家を選んだ面もあるのだろう、と。





でも。


もしかしたら、そうじゃなかったのかもしれない。
正塚晴彦は、この作品の再演にはあまり意欲的ではなかったのかもしれない。
もともと再演を嫌がっていた人だし。割と似たような展開の物語を、それでも新作として宛書して作ってきた人だし。
礼音くん主演でやるなら、あの陣容で上演なら、もっと宛書した新作をやりたかったのかもしれない……。






若手はみんな、がんばってました。
自分のできる範囲で、精一杯に。
涙がでるほどがんばってた。




でも。




それを形にしてあげるのは、彼らだけじゃ無理だった。
正塚さんが手伝ってあげなくちゃ、まだ、無理。だって、和くんで研9。本公演では少しづつ役が付き始めていますけれども、作品を支えるに不可欠な立場、いわゆる「番手」がつく立場にたつのは、正月のバウに続いて、まだ二回目。しかも、前回は宛書で多少はやりやすかったはず。
ベニーはこないだの新公でデビューしたばかりと言っても過言ではない。
中でいちばん経験値が高いのは研6のねねちゃん、というくらい、“プロ”の少ない陣容。



確かに。
このメンバーをなんとかできるのは、このメンバーを確実に育てることができるのは、今の宝塚には間違いなく正塚さんしかいない。
柴田さんと荻田さんが任を離れた今、こと「役者を育てる」ことに関しては、あまりにも人材不足です。だから、正塚さんへの負荷は大変なことになっているのかもしれない、と思う。

実際、「Young Star Guide」を読んでも、殆どのメンバーが口をそろえて「歌・芝居・ダンスでいちばん勉強したいもの」に芝居をあげている現状、役者側がいちばん痛感しているところなのだと思います。
でも、芝居は「正解」がないぶん、指導者の質がものすごく問われる。本人の努力ではどうにもならないものなのです。だって、「正解」かどうかが本人には絶対にわからないんだから。
そこを的確に抑えて、「男役」をきちんと教えてあげられるのは、今の宝塚には正塚さんしかいないのかもしれません。




なのに。

いえ、だからこそ。





「ブエノスアイレスの風」を観て、最初に思ったことは。

あ、…新人公演なんだな、と。




正塚さんの中で、この公演は『再演』ではなく、新人公演だったのかな、と。
そう、すとんと落ちて。


本公演はやってないけど、
ビデオで勉強することしかできないけど、

その分、何回も何回もやれる、新人公演。






……演出助手は小柳奈穂子さんかぁ……。
「新人公演演出」は小柳さん、ってことはないよね…?





まぁ、でも、それでもいいの、かな。
青年館で観たから違和感を覚えたんですけれども、バウ公演の初日近辺なんて、公開舞台稽古でも仕方ないって言われるくらいだし。
「ブエノスアイレスの風」については、私が初演再演と観ているから色々思うところがあるけれども、初見だったらそうは思わないのかも。
それで、別にふつーに正解、なのかも。



新人公演だって、何回もやるうちには、本公演に化けてくれるはず。
ちゃんと「再演」に、なってくれる、はず。

だって彼らに足りないのは「経験」であって、「実力」じゃないんだから。

…ないはずなんだから。





今回はさすがにバウまでは観にいけないので、残念ながら「本公演」になった「ブエノスアイレスの風」を観るのはCSの放送待ちということになりそうですが。








美貌も、魅力も、実力も、十分に持っている子供たち。
彼らの努力が、涙が、いつか報われる日がくることを祈っています。





ただ。



……この公演のあおりをくらったのが、「マリポーサの花」新人公演メンバーだったのかもしれないなぁ、と思うと……
犠牲は大きい分、礼音くんはじめ、役付きのメンバーにはがんばっていただいて、バウの楽までに結果を出していただきたい……と、

そう、祈っています。

彼ら自身の、ために。



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コメント

nophoto
dasy
2008年11月4日9:13

こんにちは、
東宝に詰めている日々ですが、同じ日?かどうか・・ 日比谷と青年館のダブルをやってきました。
片方は、15年・16年かけて築き上げた男役が冷静に、かつ熱い思いを秘めた男を演じている、片方は、研10以下の、もう本当にこれからが楽しみな男役たちが熱く演じようとしている、研3の彼にどこまでできるのか、とか・・・・ものすごく興味がありました。

ねこ様が、思ったことを書いてくださいました。
6日の青年館千秋楽に、もう一度見て参ります。

みつきねこ
2008年11月5日0:42

やっちゃいましたかー!日比谷&青年館(^ ^)お疲れさまでしたー!
真風くんにはとっくに落ちているので、贔屓目ですけど(笑)、良かったですよねー。ただ、場面ごとには良かったんですけど、作品全体をとおしての「マルセーロ」という一人の男の統一感がなかったかなぁと思いました。
…このあたりは、本当に演出家の責任だと思うので、正塚さんを体育館裏に呼び出したい気持ちでいっぱいです(^ ^;ゞ

青年館楽では、変わっていますように~~!!レポートお待ちしています!