宝塚花組 日本青年館公演「銀ちゃんの恋」。

明日はいよいよ、千秋楽。

今日、友人にものすごくシミジミと「ハマってるよねぇ……」と言われてしまいましたが(笑/あなたと同じようにねっ♪)、大好きで、ずっと観たいと思っていた作品を、ご贔屓さん主演で再演していただけて、本当に幸せです。
「Hollywood Lover」狂乱の千秋楽から、わずか9ヶ月。今回は組替えが決まっているわけでもなんでもないし、ただただ、大好きな作品との永のお別れを悔いなくできるように、心して観せていただこう、と思っています。
……そのためには、まずは良く寝て、体力をつけないとイケナイんですけど、ね(^ ^;ゞ




第7場A ヤスのアパート

「風呂付のアパートにかわってやれよなぁ~!」と銀ちゃんに言われたヤスですが、まだ同じアパートみたいですね。下手に布団が敷かれ、そこに寝かされた小夏と、枕元に座る女医(聖花まい)と看護婦(雫花ちな)。現代より往診が盛んだった時代ではありますが、それにしても医者だけでなく看護婦まで来るものなんですねぇ…。いい時代ですね。

「たいしたことはありませんが、念のため今度病院にも来てくださいね」という女医、「赤ちゃんの心音も聴けるし、超音波で動きも見えるのよ!」と嬉しそうに教える看護婦。
それを聞いた小夏は、もの凄く嬉しそうに腹を撫ぜながら挨拶しています。

小夏は、第4場で「営業年齢は25歳だけど、戸籍年齢は目尻のこじわに訊いてくれ」と言われている。すみ花ちゃん本人は若いけど、役の設定としては30目前かもう超えちゃってるか、というところ(初演では「営業年齢は28歳」だったそうです。風花さんもまだ研7、若かったのにね)。

時代考証がいい加減なので謎も嘘(デス・ノートとかクイズ番組とか)も残るのですが、だいたい昭和40年代あたりの話だとすれば、30歳っていうのは出産年齢の限界に近かったわけで。
なんとしても産みたい、という気持ちはあったでしょうし、「でももう無理かもしれない…」という不安も強かったでしょうから、嬉しかったんでしょうねぇ(^ ^)。
すみ花ちゃんの笑顔には、周りを幸せにするチカラがあるなあ、と思います。はい。





聖花まいちゃんは、キャバレーのダンサーでも思いましたが、ちょっとキツめの美人さん。シャープな眼鏡に白衣が似合って、往診に来る産婦人科の医者というより、脳外科あたりの専門医みたいな雰囲気がありました。ヤスのアパートを出るために立ち上がって、さりげなく白衣のポケットに手をいれて肩を振って歩くのをみて、なんとなくですが大病院の廊下を、あんな感じツカツカと歩く姿が似合いそうだな、と思いました。「長い春の果てに」あたりに出てほしい!(^ ^)
喋り方もちょっと理知的できつめな印象。「有能な医者!」って感じです。ふつーの産婦人科医じゃなくて、トラブルがあったときに対応するための要員なんでしょうね。それだけ、倒れたときの小夏の容態は悪かったのかもしれませんね……。

雫花ちなちゃんは、ごめんなさい。今回でやっと顔を覚えたのに……という感じで寂しいのですが、声も喋り方も笑顔も可愛らしくて、なんとなく心和む人ですね。看護婦さん、それも「患者」ではなく「妊婦さん」を担当する産婦人科病棟の看護婦にはぴったり!!と思いました。
薄いピンクのナース服がミニ丈なのは、私へのサービスですか?>石田さん(^ ^)。






医者と看護婦が帰ると入れ違いにヤスが帰ってくる。
このときの、小夏の表情の変化は観ものです。「“幸せそうな”妊婦さん」の顔から、「“嫌いな男が近寄ってきた”ときの美女」の顔へ、劇的な変化を見せる小夏。浮かんでいた笑窪が消え、目つきが鋭くなって眉間に癇症の縦じわが浮かび出る。あがっていた口角が下がって頬骨が平らになり、“無表情気味の冷たい怒り顔”になる。
元々が可愛らしいすみ花ちゃんなのに、ああいう顔をするとめっちゃ怖いです。

あの顔をみたら、ヤスだって絶対怖いと思うのですが……

ヤスは、銀ちゃんの気分やっぷりで馴れているのでしょうか。あっさりと
「あぁ~、顔色、すこしよくなりましたねぇ!!」と手放しで喜んだ顔をして、枕元に座り込みます。

ふ、と顔を背ける小夏。ヤスの持ってきたプリンを投げ捨てて、「いらないって言ってるでしょ!」とぶち切れてみる。でも、その直後にかなり激しく後悔しているのが凄く伝わってきて、やっぱり小夏は本質的に可愛いなぁ、と思います(*^ ^*)。
で、ヤスはどこまでわかっているのかな?と思んですよね。なんか、あんまり気にしていなさそうなんですけどね…。小夏の“素直になれない”ところまで含めて、小夏の全部に惚れているから、という言い方でいいのか、それとも、単に解っていないのか…?とも疑問に思ったりもするのですが。


とりあえず、この場面ではまだ、突っ張る小夏、見ないようにしているヤス、という構図で話は進みます。
「じゃあ俺は、夜の仕事があるのでこれで失礼しまーす」と出ていこうとするヤスに、
「あたしの出産費用を稼ぐタメに、今日は何をしてきたの?」と尋ねる小夏。
そりゃあ、まぁ…黒い上着はあちこち破れて擦り切れだらけ、しかも派手派手しく左腕を吊った姿をみたら、何をしているのかは一目瞭然でしょうけれども。

とりあえず「落ちる」系のスタントで稼いでいることを教えるヤス。
ちょっと黙り込んで、「それっぽっち…?だってあんた、そんなの顔も映らないじゃないの?」と控えめにコメントする小夏。

それに対する、ヤスの応えは。

きっぱりと、かつハッキリと、

「俺たちは、顔映ろうなんて、最初から考えていないっすよ。…映画が良くなりゃ、それでいいんです」




その信念が、この作品のフレームになっているんですね。
人間のドロドロした汚い部分を抉り出した「つか芝居」が、「映画人の映画人による映画人のための映画賛歌」になった映画版。それを、もう一度舞台に戻した「銀ちゃんの恋」。

「映画が良くなりゃ、それでいいんです」
「映画に命かけてるんすよ」
「立ち回りだって本気で斬りかかってくれないし…そんなんじゃ、映画に迫力出ないっすよ!」

そんな数々の台詞を与えられたヤス。
4場で銀ちゃんに
「おめぇが一度でも自分で仕事を取ってきたことがあんのか!?」
「自分の力で勝ち取ってくるもんなんだよ。仕事も、女も!」
と罵られた、ヤス。

彼が初めて「自分の力で」勝ち得た仕事が、この数々のスタントの仕事。
危険で痛くてキツいけど、良い映画が撮れて、しかも小夏の出産費用もつくれるなら一石二鳥なわけで。「映画」に関わる仕事しか考えなかった「映画馬鹿」っぷりが見事です。




そうして、ヤスはほんの半歩だけ、銀ちゃんの「世界」の枠を踏み越えようとしている自分に、
まだ、気づいてはいないのです……。






2人のやりとりの間を割り込むように現れる、銀ちゃん。

「銀ちゃん!」と呼びかける小夏の、幸せそうな、とろけるような笑顔。

あんな酷い捨てられ方をして、名前くらいしか知らない男の部屋に置いていかれて、
それでも銀ちゃんを愛することをやめられない小夏。そんな自分に対して、「なんて莫迦なあたし」的な悪感情さえ抱いていない。
あまりにも純粋すぎる、恋情。

「出産祝いだ」と言いながら当たり前のようにあがってくる銀ちゃん。
場は「ヤスのアパート」であり、それは「銀ちゃんワールド」なわけです。彼はまだ、ヤスが自分の世界を踏み出そうとしていることに気づいていないのだから。

ヤスも小夏も、自分のものだと思っている。
両方とも自分のモノだから、ちょっとよそへ行く間、宝石箱(=ヤスのアパート)にまとめてしまっておこうと思った。
小夏はちょっと我侭だし、今は一人の身体じゃないから一人で置いておくのは心配だけど、ここにしまっておけば、自分がまた戻ってくるまでヤスが面倒を見るだろう、くらいの気持ち。

残酷な子供と、
素直でピュアな子供と、
愛に溢れた“女”。

そんな、トライアングル。




ヤスの部屋で、銀ちゃんはいつもどおり愚痴をこぼしはじめる。
朋子の、愚痴を。

デートは重ねるけれども、
電話はするけれども、
どうも思うように進展しない、朋子との仲。

「『この恋がどうなるのか、怖い』って言って、電話を切っちまうんだよ~(泣)」
“いつもどおりに”ここまで愚痴って、ふ、と小夏の存在に気づく。

長いこと付き合ってきて、
自分のことを知り尽くして、子供まで為した女のこと、を。

「お前、朋子と会って話をしてやってんねぇか?」

「なんであたしがそんなことしなくちゃならないのよっ!?(怒)」

「ばぁ~か。おめぇが俺のこと、一番よく知ってるからじゃねぇか!」


誰よりも、何よりも、残酷で我侭な、考えなしの子供。

ヤスまでが銀ちゃんに同調するのを見て、小夏がキレる。
「あんたに関係ないでしょっ!!」

「関係ありますよ!銀ちゃんが落ち込んじゃって、今度の撮影失敗したらどうするんです?
俺たちは、映画に命、賭けてるんスよ!


そのまま、ヤス一人立ち上がって(ご丁寧に靴まで履いて)「映画人生」のソロ。
この歌、私は「銀ちゃんの恋」に主題歌だと思い込んでいたくらいの名曲ですが。


♪そんな夢をいまもみるよ
♪幼いあの日の憧れのカケラを


汐風幸ちゃんが、何かあるたびに歌っていた歌。
純粋な憧憬があまりにも眩しくて、「いつか叶う」ことを信じて疑わない祈りの強さに涙が出ます。


♪破れかけた街のポスターに 胸ふくらませた あの頃


実際に、古い映画のポスターが貼られた「塀」のセットを前に歌われると、また格段にイメージが膨らむ歌ですね。
何度聴いても、泣けて泣けて。


夢のために「スベテ」を捧げる覚悟のある人だけに、この歌は歌われるべきなのでしょう。
夢だけがほしい、他のものはなにもいらない、そんな人、に。

そして、「夢」と「銀ちゃん」がイコールで結ばれてしまっているヤスにとって、
「映画に命を懸ける」ことと、「銀ちゃんにスベテを捧げる」ことは疑問の余地無くイコールで結ばれていて。
「銀ちゃんの“後顧の憂い”を絶つために、小夏さんを幸せにしてあげたい」という気持ちは、「スベテを捧げる」ことと矛盾してはいなかったんですよね……

……この時点、では。







第8場 プールサイドテラス

夏の日盛りのプールサイドテラス。小夏と朋子が話をしている。

「銀ちゃんはね、子供がそのまんま大きくなったような人なの」

あまりに説明が明快すぎます、小夏姐さん。



小夏のすみ花ちゃんが91期、朋子のきらりんが88期。
3年も下なのに、歴然と「ちょっと年増なイイオンナ」にちゃんと見えるすみ花ちゃんが天才なのか、
3年も上なのに、完璧すぎるほど完璧に「若くてピチピチで育ちはいいけど頭の中身は…」なオンナノコになり切れるきらりんが素晴らしいのか、、、

…たぶん、両方でしょうね。



そして。
きらりんの朋子は、実は物凄く怖い女なのだと思います。
「女の闘い」に負ける気がしないタイプ。

話を聴きながら爪を磨く仕草が、まず、怖すぎます。
そして、「銀ちゃんはね…」と、噛んで含めるように銀ちゃんの喜ぶことを教えようとするウザい元カノの話をぶった切るように、「銀四郎様、今は私の言うままなのよ♪」と、巨大な優越感と共に語り始める。

「ねぇ、小夏お姉さま♪」
ハートマークがついていそうなところが余計に怖い…

「銀四郎さま、最近○○てきたと思わないこと?」

…伏字の中身は、ご覧になって確認してください。書きたくない。

ちなみに、この伏字は初演でも同じネタだったそうで、祐飛さんに対する宛書というわけではないのだそうです(「ばぁーか、顔で踊るんだよ!」とは違うってことですね)。
まるで、12年後に大空祐飛さんで再演することになるのがわかってて書いたかのような名台詞ですよね!

でも……逆に、これは変えてほしかった、かも……(しょぼん)





話が切れたところで、インラインスケートを履いた銀ちゃんが登場。

「お話、はずんでる~?小夏くん、ボクのこといろいろ話してくれたかな?」

いったい、朋子には小夏を何て言って紹介したんですか?

「小夏お姉さまにいろいろ教えていただいて、なんだかちょっと、銀四郎様を誤解していたみたい~~♪」

そう笑顔で答える朋子が、普通に怖かった…。

そして。

「朋子さんが、インラインスケートやりたい!って言ってたから、道具一式そろえたんですよ!あちらへ行って練習しましょう♪」

という銀ちゃんに、

「では、小夏お姉さまもご一緒に!」

という朋子は、もっと怖かった……一瞬後じさった小夏が可愛いです。

「いいのいいのこの人は」

って、それ話がつながってませんよ!>銀ちゃん



この場で、朋子に席を外させ、小夏に

「ありがとよ!俺の部屋のおめぇの荷物、宅急便でヤスの部屋に送っといたからよ!……あ、そうだ。合鍵、返してくれ」

と囁きかける銀ちゃんは、根っからの子供で悪魔なんだな、と思う次第です。



小夏の登場に焦れて、「プラトニック」を卒業しようとする朋子と、子供のまんまな銀ちゃんは、実はいいカップルになれたはずだと思うのですが。

それを本当の意味で邪魔をするのが、ヤスとの関係であるところが、この話の一番痛いところのような気がします……。







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