赤坂ACTシアターにて、音楽劇「トゥーランドット」を観てまいりました。



私の目当ては久しぶりの宮本亜門演出と、早乙女太一くんだったわけですが(汗)。
まずプログラムを見て、スタッフ欄の豪華さにびびりました。

プロデューサーの河出洋一さんは、宮本亜門と「香港ラプソディ」で始まったアジア三作以来のつきあい。この「トゥーランドット」の成功を期に、「香港ラプソディ」再演してくれないかしら。ディック・リーの音楽、もう一度聞いてみたいのですが。

音楽は久石譲、脚本は鈴木勝秀、作詞は森雪之丞…すげー憧れの人が揃っている気がするのは私がマニアだから?久石さんを引っ張り出せるのは亜門さんだけだろうし、鈴木さん森さんはここのところ立て続けにいい作品を発表していらっしゃるし。
装置はもちろん松井るみ。今回の装置、整然と舞台を埋め尽くすコの字型の総階段は実に見事でした。段が引っ込んで丈高な壁となり、段がせり出して舞台を埋め尽くし、逃げ道をふさぐ。見事な“もう一人の役者”っぷりでした。松井さんの装置、好きなんですー。
振付がダレン・リーと岡千絵、衣装はワダエミ。華やかな美しさ。質へのこだわりと絵面の壮麗さ。見事な仕事でした。

このスタッフと、そしてこのキャスト。河出さんらしい、豪華で華やかな、他流試合の勝ち抜き戦、でした。


キャストも本当に他流試合だったなー。

“氷の心を持つ姫君”トゥーランドットに、台湾の歌姫アーメイ。

彼女の心を溶かす異国の王子カラフに、地球ゴージャスの岸谷五郎。

トゥーランドットを愛する、強面のワン将軍に、中村獅童。

カラフの供で、彼に恋をしているリューに、「モーニング娘。」初代のひとり、安倍なつみ。

カラフの傅役のティムールに、文学座の小林勝也。

物語をひっかきまわすトリックスターの“物売り”に、北村有起哉。

そして、トゥーランドットに仕える宦官ミンに、劇団朱雀の2代目、早乙女太一。

ちなみに、大臣ズや女官ズには、宝塚OGのソン(秋園美緒)ちゃんやこんにゃく座の佐山陽規さん、越智則英さん、花山佳子さん、松岡美樹さんら本格的なミュージカル俳優(猫にとっては全員「レミゼ組」かも)が揃っていて、コーラスも聴き応えがありました。
久石さんって映画音楽のイメージが強くて、舞台音楽はどうかなーと思っていたのですが(←失礼)、迫力のあるコーラスが素晴らしく、ソロのアリアもとても良かったです。もう少しデュエットや小人数での曲があっても良かったかもねー、と思いつつ…。



物語は、プッチーニの「トゥーランドット」とはかなり違う展開でした。
スタッフコメントを読むと、基本的な展開はほぼ亜門さんが決めていて、脚本の鈴木さんは最後に加わっただけだったみたいですね。うーん、、、ってことは、あの展開は亜門さんの解釈だったのか…。うみゅーーーー。

まず先に、キャストについての感想を。

アーメイさん。
うーん。正直な感想を書くなら、今回彼女をキャスティングした理由があまりぴんと来なかった、です(T T)。席が前方端席で、あまり音響がよくなかったせいか、ソロもあまり迫力を感じられず。彼女の歌はとても好きなので、ナマで歌が聞けるってだけで舞い上がっていたのですが…ちょっと肩透かしでした。

しかも。私は基本的に耳で舞台を観る人なので、歌がどんなに良かったとしても、日本語が出来ない人に台詞を喋らせることには絶対反対なんですよ。歌の発音は全然問題なかったのですが、台詞はかなり無理な感じでした。
せっかく彼女を呼ぶのなら、全編歌のオペラ形式なら問題なかったのに、と思う。他のキャストをそろえることができないのなら、彼女だけ歌でも別にいいのに、と。「神の子」トゥーランドット姫は喋らないで歌うのみ、という設定でも、なんら違和感はなかったと思うのに……(悔)。

そして、彼女は笑っているべき人だと思いましたね。
二幕ラストからカーテンコールにかけての、華やかで明るい、太陽のような笑顔!!とにかく彼女は、想像していた以上に「太陽」そのものみたいでした。休憩をいれて3時間におよぶ作品の中で、9割の時間を怒っているか孤独に耐えているか、という女性の役をやらせるべきキャラじゃない。

なにはともあれ。
日本での舞台をこれっきりにするなんて寂しいことを仰らずに、また出てくださいますように。
次はぜひ、陽気で優しい、元気な女性の役で、ね!!



岸谷五郎。
「地球ゴージャス」でも、わりと良く歌が出てくるので、彼がある程度歌えることは知っていましたが。
上手いなあ、良い声だなあ(うっとり)。そして、ホントにかっこいいなあ……(^ ^)。

この作品におけるカラフは、オペラのカラフと違い、闘いに敗れて国を奪われたわけではなく、父親に疎まれて国を追われた、という設定…だったような気がします(あまりよく覚えていませんが)。
流浪の王子であることは同じでも、「亡国」と「国を追い出された」のでは決定的に意味が違う。それゆえに、カラフの性格もだいぶ違っていました。なんたって荒くれ者だし(笑)、かなり自暴自棄で、身体のどこかに怒りを溜め込んでいる男。

オペラでは、ふと垣間見たトゥーランドット姫に恋をして謎かけに挑戦するカラフですけど、今回は傅役のティムールにそそのかされて、トゥーランドット本人には大して興味ないくせに儀式の場へ出てしまいます。
自分の運を試すために。或いは、自分の運命と出会うために。
「どうせ死に場所を探しに来たのだ」と嘯きながら。

それでも、最終的には運命は同じところに転がっていくわけですけれども。

とりあえず、紅い衣装が実に良く似合って、良い男っぷりでした。殺陣もさすがだし、声もいいし。かっこいいなあ〜。



中村獅童。
ワン将軍は、オペラには無い役。
この役に、亜門さんのこだわりがすべて入っていますし、『亜門さんの』トゥーランドットを描き出すためには獅童さんでなくてはならなかったんだろうな、と、常に笑みのカタチに歪んだままの口元を見ながら思いました。

作品的な矛盾を一身に受ける役なので、役作りは苦労されたんだろうなー、と心から同情します。亜門さんも無茶をするよ…。



早乙女太一。
私は亜門さんが好きなので、元々観にいくつもりではありましたが、もし彼が出てなかったら、結構今月は忙しかったので結局観ないで終わったかもしれません。そのくらい、「太一くんが出るんだから絶対に行く!」という気持ちは強かった。

去年の「CLUB SEVEN SP」以来の早乙女太一。
結局あの後は忙しくて、彼のホームグラウンドである朱雀座は観にいけませんでしたが。
16歳の男の子って、たった半年でも育つものなんですねぇ…。肩のラインが少したくましくなって、なのに顔はまだふっくらしたまま。そのアンバランスさが異様なほどの魅力でした。

ワダエミさんの衣装を最高に生かすダレン・リーの振付で舞う姿の美しいこと。いっそサロメを観てみたい!と思ったほどです。
最初の儀式のとき、階段装置の上から、リューたちを見降ろす姿。ふ、と袖で口元を押さえる仕草。2,3段降りて、ふと立ち止まり、袖を翻して向き直る。……ちょっとした仕草一つにこんなに華がある人がいるなんて!!

そして、最大の見せ場(←違います。彼の見せ場は舞いの場面です。間違えないように)、最大の見せ場である(無視かよ)、拷問の場。
トゥーランドットの密命でカラフを逃がしたミンは、ワン将軍によって拷問にかけられる…この時の、髪を乱して鞭打たれる彼の姿。蒼い衣装によく映える白い肌、ピンクの唇。切れ長の眼を隠す髪、細いあごから喉元への、男でも女でもないライン…。
嗜虐的、って言葉を実感させる姿でした。

助け出された後の、リューとの場面も凄く良かったです。仕草に華がある、っていうのをここでも思いました。上衣を持って、カラフを思って泣くリューに後ろから着せ掛けてあげる…たったそれだけの仕草が、まるで舞を舞っているかのような美しさで。

宦官、という特殊な立場の特殊な人間を演じるのに、彼以上の人材はいないかもしれません。


ただし。

……今後も外部の舞台に立ち続けるのであれば(心の底から希望します!)、早急に台詞の発声を見直していただきたい!!と、これまた心の底から思ったことも、書いておきます。

舞台の上で“台詞”を喋る彼を観たのは初めてでしたが。

「宦官」である今回の役ならば、許される声であったとは思いますが。

声変わりは終わったのかな、まだ最中なのかな…。落ち着いたなら、すぐ訓練を始めてほしい。固まってからだと矯正に時間がかかるから。
朱雀座での活動もあるから難しいとは思いますが、今のままでは宦官(と女形)以外の芝居は出来ませんから…。

身体で語ることなら大の得意の彼ですし、それだけでも十分舞台を観にいく価値がある人ではあるのですが。
でも、台詞も語れて悪いことなどありません。ぜひ、なんとしても時間を作って外部の舞台にも出て欲しいし、そのためには、なんとしても発声の基礎を学ぶ時間を作ってほしいのです。

彼の魅力に恋をした観客の一人として、心の底からお願いします

私は彼に、いつか剣士の役をやってもらいたい。
CLUB SEVENでの流麗な殺陣が忘れられないから…。



……なんだか信じられないほど長くなってきたので、今日のところはこのあたりで。



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