東京宝塚劇場にて、宙組「黎明の風」新人公演を観てまいりました。



人材豊富な宙組88期が主要人物のほとんどを占めた新人公演。
作品も興味深いし、(私的には)新鮮な顔ぶれで、だいぶ前からとっても楽しみに待っていた公演。

…始まってすぐに、あれ?と思いました。

せっかく、雰囲気の若々しい鳳翔大くんが白州次郎、大人っぽい色気のある蓮水ゆうやくんがマッカーサーという絶好のキャスティングなのに、どうして本公演どおり白州次郎の方が年上設定の演出のままなの?

先日の日記でも書きましたが。
この作品(本公演)の、ほとんど唯一と言ってもいい作品的な欠点は、白州次郎とマッカーサーの年齢の逆転だと思います。
それは、史実がそうなのに違うなんて変よ!という話ではなく(いや、それもちょっとありますが)、そういう設定にすることによって、ストーリーの山場となる白州の土下座の場面が、とってつけたかのようになってしまうから、です。
他にも、少なくとも、「17年か…やっと祖国に帰れるな…」という台詞の重みが感じられなかったこととか、
マッカーサーが前途ある若い司令官に見えるために、ラストの演説も、「じゃ、帰国して少し休んだら、次はソビエトに攻め込むか!」(←いやそんなハズはない)みたいにカラッと明るく見えたこととか、

挙げ始めればキリがないのですが……。


せっかく新人公演をこのキャスティングでやるのであれば。
別段、脚本自体に「白州次郎>マッカーサー」という年齢設定を名言した台詞があるわけじゃ、ない。見た目がそう見える(ように演出もされている)というだけ。
だったら。

新人公演では、若々しい白州次郎(約25歳)&シャープな大人のマッカーサー(約32歳)くらいの、本来あるべき設定の公演を観ることが出来るに違いないわっっっ!!


なのに。


……あれ?
そのまんまじゃん………

新公の演出家って、誰だっけ?

(こっそりプログラムを見る)

………児玉明子さんか……(がっくり)。



児玉さん演出の新公、といえば、どうしても忘れることのできない「ガイズ&ドールズ」新人公演。

一本物の公演を一幕にまとめて上演するというので、どこをカットするのかと思っていたら。
一幕をほぼそのまんま上演して、
一幕のラストの場面が終わって、

…幕が開いたら、結婚式(二幕ラスト)だった!

衝撃の幕切れ。



この人は何を考えて演出家を志したんだろうか、と、心の底から疑問に思いました。

しかも。
宝塚の演出家は、ただ「やりたいものを創る」だけではすまないんです。
座付きである以上、指導者でなくてはなりません。指導者にならなくてはなりません。

彼らは、役者の成長に責任があるのです。
それは、宝塚だけじゃない。劇団所属の演出家は、皆そうです。



「ガイズ&ドールズ」で初ヒロインだった城咲あいちゃんの芝居は、それはそれは酷かった。わりと最近まで、彼女は芝居はできないんだと思い込んでいたほどに。
今、彼女があれだけの実力を持ち、「演技派」とさえ呼ばれているのを嬉しく見るたびに、あのときの酷い芝居はなんだったんだろう、と思います。

もう7年も前の、あの怒り。

指導力の無い人に、新人公演の演出をさせないであげてほしい。
指導力の無い人は、“宝塚の座付き演出家”からは外してあげてほしい。

必死でがんばっているタカラジェンヌたちが、可哀相だから。




そして、今回。
…あの時の城咲あいちゃんと同じ感想を抱いてしまった、主演の大くん。


素晴らしいスタイルと、美貌と、雰囲気の若々しさ。温かみのある落ち着いた声。
えてしてああいう美貌の持ち主は声が高過ぎたり硬かったりすることが多いのですが、大くんは良い声ですね。発声さえ一から勉強しなおせば、歌も台詞ももっと良くなると思います。
ちょっとカミカミでしたけど(苦笑)、滑舌自体は轟さんより良かったですし。

ただ、なんというか「芝居」の意味が解ってないのかな、と思ったのです。
白州次郎の「侍ジェントルマン」、「決して表に出ることのない、影の協力者」……そういう彼の「思い」を、どう表現すればいいのかさっぱりわかっていない…
そんな風に見えました。

やりたいことはある。
イメージは、ある。
でも、轟さんと同じようにはできない(←当たり前)し、する必要もない。だって持ち味が違うんだから。

じゃあ、どうしたらいいのか?

それがわからないまま、とりあえず脚本を覚えて立ち位置を覚えて振りを覚えて…それからどうしたらいいのかなあ?いいのかなあこれで?と思いながら舞台にあがってしまった人。
そんな印象。

目線の動きやちょっとした仕草が、“振り”の域を出ていなかったのが気になりました。

……だから、指導力の無い人に、新人公演の演(黙)


ああ、演出が大野さんか生田さんだったらなあ……、というのが一番の印象でした(T T)。


…。



…コホン。



軍服が似合いすぎて似合いすぎて、他の服を着ている姿が全く想像できなかったちーちゃんのマッカーサー。
落ち着いた貫禄ぶりで、物凄くカッコよかったです。

そして、
なんたって!歌が巧い!(吃驚)

「バレンシアの熱い花」の十輝くんの役も凄く良かったけど、今回はホントはまり役でした。
あの冷たい瞳の美男が、いったいぜんたいどうやって“どM”の佐吉になるつもりなのか皆目見当もつかなくて、すごーく観たくなってしまいました(^ ^)。行けるかなあ…。





そして。

ただ一人、新公のレベルを超えていた、みー(春風弥里)ちゃん。

本役の汝鳥さんが、あまりにも映像の吉田茂本人に似すぎていて驚くくらいなので、それを超えることはさすがに出来ませんでしたが。

しかし。

……貫禄!

なんて格好良いんだろう。あんな格好良い人が、戦後の日本を作ったのか。


ショーなどで笑いを取るためではなく、「老人を演じる」ために必要な杖のつきかた、歩き方、立ち方、そして“不自然な”背(腰)の反らし方。



和子役の愛花ちさきちゃんが、可愛いんだけどちょっと落ち着きすぎていて、吉田茂の娘ではなく妻に見えてしまったのはご愛嬌、として。

あの髪のロマンスグレイっぽさがまた最高に美しかった!!
まあ、結構長い時間が過ぎる物語なので、できれば3段階くらいに分けて外見も老けていったほうがよかったのかもしれませんが…。でも、あそこまで完璧な鬘を作ってしまうと途中で変えるのがもったいなくなってしまうわよね、と納得してしまうほどよく似合ってました(*^ ^*)。

しかーし。最後だけでもいいから髭つけて欲しかった!!切望!



一番好きなのは、講和条約に調印した後、夜景を見下ろす吉田の、背中の小ささ。

それまでは精一杯、虚勢のように肩を張っていた“じいさん”が、まるで別人のように、ふわんと小さく見える。
愛嬌と稚気にみちた、わがままで自分勝手な“おもろいじいさん”の、長い長い一日が漸く終わる。

最後に一本葉巻を吸おうとして、

咳き込んで、


男が泣くわけがないだろう。
これは「煙が目に沁みただけだ」と、有名な決まり文句で誤魔化して。


このときの、搾り出すような声が、また良かったです〜(*^ ^*)。



みーちゃんも歌える人なので、歌がなかったのはとても残念ですが。
吉田茂を観ることができて、幸せです。

そして、

ちーちゃんのマッカーサーを観ることができて、よかった。
本当〜!に、格好良かった!!(惚)



大くんも“ビジュアル完璧”で、これから経験を積んでいったらもしかしたら、と思わせる輝きがあったし♪

そんな、ピカピカと輝いている88期トリオを愛おしく見つめながら。

…月組の85期トリオを、切なく思い出してみたりしながら。


みんなみんな、がんばれ、と。
新人公演も、あとたったの一作。お互いにみつめあって、磨き合って、追いかけあって、
みんなみんな、幸せであってほしい、と。

そんなことを、祈りたくなった新人公演。

観ることができて、本当に良かったです♪♪



コメント

nophoto
曜子
2008年4月20日5:21

ねこさん こんばんは

宙組、新公の様子、楽しく読ませて頂きました。

児玉先生への苦言・・・
私も『アデュー・マルセイユ』新公を観たとき、皆の演技のあまりの咬み合わなさに、唖然としました。
最初は、演者の実力の問題かと思ったのですが、
「こうまで、酷いっていうことは演出の問題?」と。

そして、大野先生。
これまた彼の才能に心の底から驚いたのが、『君を愛してる』新公。
大半の生徒さんが本役のコピーに近い演技だったにも拘らず、絶妙に間合いやイントネーションを変えて、ハッピーなコメディー作品に仕立てていました。

宙の新公は、行けなかったのですが、大好きなみーちゃんの様子を詳しくレポートして下さっていたので、本当に嬉しいです。
吉田茂だと、映像でも舞台写真でも殆ど写っていないんです・・・。
彼女の演技の上手さは、相当なレベルだと思います。
(『バレンシア』新公で最後のキスシーンがあまりに上手で慌ててオペラでガン見しました。後姿なのに、ちゃんと”ディープキスをしている”ように見えたんですものー)

ちなみに、私も88期生、好きです。
気がついたら、気になる生徒さんの殆どが88期。
お芝居が上手な生徒さんが多いですよね。

みつきねこ
みつきねこ
2008年4月21日2:20

曜子さま
児玉さんと大野さん…作品を観ても、各作品における役者たちの輝きようを見ても、あからさまに才能の違いを感じさせるお二人だなーと思ってしまうのですが(汗)。
児玉さんの新公にあたった若人たちは不運だなあ、と。

生田さんも、まだご自身の作品はありませんが、新公演出を見る限りでは、役者を良く見てくれる良い演出家だと思います♪
将来を楽しみにしております♪(幸)


みーちゃんの吉田茂…ホントにステキでした。映像ではわかりませんけど、舞台では白州、マッカーサー、吉田の誰が主役かわからない感じでしたよ(笑)。貫禄があって、押し出しが立派で、なのに可愛げがあって。最高でした。

バレンシア新公、最後のキスシーンも良かったけど、何より「私のイサベラも、死んだ…」に号泣しました(T T)。柴田作品が似合う人だと思うので、また出てほしいです(切望)。