銀座博品館劇場にて、「WILDe Beauty」を観てまいりました。


「サロメ」「ドリアン・グレイの肖像」、童話「幸福の王子」、そして、宝塚ファン的には「Ernest In Love」の原作である「まじめが肝心」の作家、オスカー・ワイルド。
彼の人生を、出獄した晩年の彼と、彼を訪ねてきた女優・メイベルの会話で語らせる………

なーんて説明を信じたら、たぶん全く違う作品をイメージすることになるだろうなあ。私が観劇するまで、まったく違う世界を創造、いえ想像していたように。

…だから、
まずは演出家に倣って、スペックのご説明からはじめましょう。


作・演出は荻田浩一。
音楽は斉藤恒芳。
振付は港ゆりか。

出演は、浦井建治、池田有希子、森新吾(Diamond☆Dogs)、
小野妃香里、良知真次、朝澄けい、上野真未、戸井勝海、宮川浩の9人。
2年前に同じく荻田さんの演出で舞台化された「アルジャーノンに花束を」メンバーが半数以上を占める公演でした。


っていうか、このキャストって、ほぼ外部舞台における「荻田組」ですよね。
浦井くんは「蜘蛛女のキス」。森くんは前にも「Rythm Rythm Rythmに出ていたし、小野さんは「Red Shoes, Black Stokings」以来の常連。カヨコ(朝澄けい)ちゃんは現役時代から「荻田組」だったし、戸井さんも「蝶々さん」があったし。
池田さんはぜったい荻田作品向きで、今まで出ていないことがかえって不思議なくらいの印象。

荻田さんは演じ手に拘る“クリエーター”だから、こういうキャストが一番やりやすいんでしょうねぇ、きっと。
楽しかったんじゃないかと思います。創る過程が。


なんといえばいいのか。
ーマや内容は全く違うのですが、「A-L(R)ex」で出来なかった世界構築を、今回やり遂げたんだ、という感がありました。

…いえ、内容もテーマも全然違うんですけどね、「A-L(R)ex」とは。



でも、表向き“一人の人間の人生を語る”形を取っておいて、実はそんなこと全然気にしていない、という「あれっ?」という感じは同じでしたね。
「A-L(R)ex」はアレクサンダー大王、「WILDe Beauty」はオスカー・ワイルド。どちらも非常に著名な歴史上の人物で、かたや当時知られていた“全世界”を統一し、世界の果てを目指そうとした伝説の主。かたや己の信じる「美」をよりどころに、その価値観で世界を征服しようとした「美の伝道者」。

出生から基本的に時系列にそって回想しつつ、時折時間を超越してみたり、現実に戻ってみたりするところも同じ。しかも、この時間が飛ぶときに演劇のお約束っぽく衣装が変わったり照明が変わったり、しない。
変わるのは音楽。それも、同じ。


前置きも何もなく時間が突然飛びまくるので、観客が一瞬でも気を抜くと置いていかれてしまうわけですが。
こういう構成は嫌いではないので、特に違和感はありませんでした。

とにかく、これだけのキャストが揃えば、これだけ「喋れる」キャストが揃えば、荻田さんのやりたいことは全部実現できるんだな、と、

それに一番感動したかもしれません。



ただひたすらに、印象的な、詩のような言葉をひたすらに紡ぎ続けるだけの2時間半。
言葉遊びの多用、一連の言葉を何人かでわけて繰り返し語らせる話術、一人の役者いろんな役を次々に切り替えて演じていく手法…そのあたりには、色濃く野田秀樹の影響があるような気は今回もします。
でも、「A-L(R)ex」のときのような、「野田作品かと思った」という印象は無かった。声や語り口調のバラエティの広さがすごく良かったと思います。役者個人のバックボーンの違いが、台詞回しのひとつひとつに如実に出ていて、声のコントロール、話す速度のコントロールで、驚くほど舞台に緊張感が生まれる。


「A-L(R)ex」が、あくまでも「宝塚」という世界の中で閉じた作品だったというならば。
「WILDe Beauty」は、「日本の演劇界」に投じる一つに石になりうるのかもしれない。
…ならないかもしれないけれども。



とにかく、面白かったです。
「宝塚での荻田さんは好きだけど、外部作品はどうも…」という方には結構お勧めしたいかも。
今までいくつか観てきた彼の外部作品は、どれもテーマか役者のキャラクターか技量かスタッフ陣か、どこかに根本的なズレがあることが多くて。
どうしても、「演出家がやりたいことをただ垂れ流すだけなら、マスターベーションと同じじゃないか」と辛辣なことを思うことが多かったのですが。


今回は、すべてがぴたっと合った。

そんな気がしました。




…根本的に、言葉遊びが駄目な人、荻田さんの台詞が好きじゃないひとには、まったく無理だと思いますけれども。
だって、あの詩のような言葉の数々には、意味はないんだもん。

ただ“美しい”だけの言葉たち。
空疎な音の羅列。
言葉が空疎であることが、ワイルドの求めた「美」の無意味さをあらわしている。

言葉で「感動」を表現することはできないのだから。
「感動」のないものは「美」ではないのだから。




浦井くんは、本当に荻田役者だなーと思います。
後半に立て続けに歌うソロ二曲、魂を振り絞っての歌でしたが、

素晴らしかった。



宮川さんが「年老いた」オスカー、浦井くんは「若い頃の」オスカーと、オスカーが愛した青年たちの両方を演じる、という形で演じ分けていたのですが、想像していたより浦井くんの声と宮川さんの声の相性が良くて、二人で語り継ぐようなところや、宮川さんの台詞に浦井くんが合いの手を入れるところなど、すごく自然で、まさに「心の声」という感じでした。
あの切り替えが一番面白かった、かも。



池田有希子さん、本当に本当に大好きな人。久しぶりに拝見できただけでも嬉しいのに、あんなに出ずっぱりで歌って踊って芝居して……
子供のような声と、大人っぽい声の使い分け。存在自体が太陽のように陽性の空気を生み出す、その雰囲気。なのに追い詰められた「陰」の芝居もお見事で。「死」に関して語る部分の迫力は、本当に素晴らしかったです。



森くんは、今回は歌って踊っての大活躍。良知くんとほぼ対という感じでしたが、歌うまくなったなーと感心しました。
良知くんは、四季時代は残念ながら観たことがないのですが、あんなハンサムな子がいたら惚れてただろうな、私(^ ^)。



小野さんは言うことなしです。メインはオスカーの母とサラ・ベルナール役。華やかな容姿と、けだるげな声の冷たさ。戸井さんとともに、すこーしコミカル風の大袈裟演技で場を盛り上げたり、大活躍でした。



カヨコちゃんは、出演作を観るたびに思うんですが、本当に滅多にない独特の声ですよね。
あの声が、荻田さんは本当好きなんだろうなあ…。とにかく。印象的な言葉はぜんぶカヨコちゃんが言っていたような気がします。役者たちが順番に一言づつ“印象的な”単語を並べていく、荻田さんお得意の場面でも、カヨコちゃんが喋ると一瞬空気が止まるんですよね。すごく面白い存在感。
そして、なんといってもあのリアル感のなさは凄い!姿も声も、どこか夢の中の人っぽいんです。現実に眼の前に立っている感じがしないひと。不思議なくらいに。



上野真未ちゃんは、まだ17歳の新鋭。9歳で死んだオスカーの妹と、サロメのイメージでしたが。これまた現実感のない可愛らしさで、とても印象的でした。歌はちょこっとでしたがいい声だったので、これからのご活躍が楽しみです♪



戸井さんは、オスカーの最初の先生とプリンス・オブ・ウェールズ。そして、オスカーの最後の恋人の父親。
ちょっとコミカルな役どころも多く、情けない様子やかっこつけた空っぽぶりをがんばっていらっしゃいました。

プリンス・オブ・ウェールズとオスカーの会話は、去年日生でやった「KEAN」でのキーンとプリンスの会話を彷彿とさせて面白かったです。いっそ「KEAN」を来年あたり荻田さんの演出で再演しないかなあ。……ぜひぜひ、今回のメンバーで!浦井くんの「KEAN」は…ちょっと年齢が若すぎるかもしれないけど、意外とやれるような気がします。「舞台に魂を売った」男なので。
(轟さんのを観たとき、外部で上演するなら藤原竜也で! なーんて思ったことは秘密です)







まぁ、最後の最後に、戯言をひとつ。

「せっかくこのメンバーを集めたんだったら、『アルジャーノンに花束を』も再演してほしかったよーーーーーーーーーーっ」

「WILDe Beauty」にも大満足させていただいたことは明記した上で。

やっぱり「アルジャーノンに花束を」再演切望っ!(祈)




コメント

nophoto
速水
2008年3月23日23:13

はじめまして。
WILDe BEAUTYに感動してblog巡りをして辿りつきました。
このチームの舞台を観るのは初めてだったのですが、表現といい色合いといいとても引き込まれてしまいました。
久々に嵌った舞台で、そしてこれはきっと見る人によって感じるものが違う舞台のような気がして、他の人が受け止めた印象を知ってみたくなりました。
みつきねこ様の記事を読んで、なるほど!と思ったりそういう感じ方もあるのかと思ったり、ここは同じ意見だと思ったり、とても面白かったです。
そして、的確に感じられたことを表現される文章が羨ましいです。
また来させていただきたいと思います。ありがとうございました。

(駄文で本当に恥ずかしいですが、私のこの舞台の印象です。http://snowdrop-sr.jugem.jp/?eid=12)

みつきねこ
みつきねこ
2008年3月24日1:13

速水さま
コメントありがとうございます〜!お読みいただけて嬉しいです♪
私も結構この作品ではブログめぐりしていますが、結構いろんな感想があって、面白いなーと思います。
荻田さんの作品はいっつも賛否両論で、賛否両論だからこそ面白いんですけれども。今回は舞台の完成度が高い分、観る側の好き嫌いがすごく出るなー、と思いました♪

読んでいただけて嬉しいです♪ぜひぜひ、また遊びにいらしてくださいませ♪