東京国際フォーラムCにて、「テイクフライト」を観て参りました。


題材と、「太平洋序曲」のワイドマン作&宮本亜門演出、に惹かれて取ったチケットでしたが。

ライト兄弟の池田成志&橋本じゅんが、最っ高に素晴らしかった!

1幕の飄々とした語り口、ものすごく真面目に「飛行機」に取り組んでいるのに、どこかおかしさが抜けない二人。

なのに。

そんな飄々とした二人が、2幕に入って苦しみ始める…

思い悩む弟・ウィルバー(池田成志)がメインで歌うナンバー「何してんだろう?」。
単純な、繰り返しのメロディ。
「でも、間違い!」と叫ぶシンコペーション。

あれをやってみた。
…でも駄目だった。
これもやってみた。
…やっぱり駄目だった。
今度はそっちを試してみよう。
…それでもまだ駄目だった。

そんな虚しい繰り返し。

じゃあ、あれをやってみるか?

……もう、何をしても無駄じゃないのか?

世界中の研究者たちが誰も飛べないのに、何故自分たちが飛べると思うんだ?

「空を飛びたい」という、子供のような夢を追いかけている最中に、そんな“つまんない大人”みたいなことを考えてしまったら、

夢はどこかへ消えてしまう。夢を追って走り続けてきた情熱ごと。



ウィルバーの迷い。
オーヴィルの戸惑い。

♪ああ、飛べると信じていたのに

二人は飛行実験を繰り返していたキティホークの砂丘を離れ、オハイオの家に戻る。

♪もう胸の火が消えていく/あんなに夢中だったのに

…このへんで泣きました。私は。


♪夜明け前/道は見えない/夜明け前/闇は深い


前人未踏の、「飛翔」という夢を追う人々。

他にも同じ夢を追っている人がたくさんいることを知っている。
でも、誰ひとり成功しない。
それは何故だ?
なぜ自分が成功できるなんて思えるんだ?

夜明け前の、深い闇。


朝日はすぐそこにあるのに、
東の空はすでに白みはじめているのに、


西の空は真っ暗で、星も見えない…





ちなみに。
この作品の主役は、ライト兄弟ではありません。

香盤で言うなら、アメリア・エアハート(レディ・リンドバーグ)の天海祐希が主演。
チャールズ・リンドバーグの城田優が2番手。

次が、ライト兄弟のお二人で、
アメリアの夫・ジョージ・パットナムの宮川浩さんがいて、
止めが、オットー・リリエンタールのラサール石井氏。

そんな構成でした。

しかし豪華キャストだったなー!
ミュージカル界では今拓哉、坂元健児、治田敦、花山佳子、杉村理加…このあたりはメインキャスト経験豊富なメンバーだし、宝塚OGは天海さんと華城季帆ちゃん、ミュージカル畑外からは小市慢太郎が参加。

さすが宮本亜門、か?(^ ^)。



物語は、3本の物語のエピソードを組み合わせる形で進んでいきます。
語り手はオットー・リリエンタール。

一つ目の物語は、最初にライト兄弟のエピソード。
リリエンタールの航空理論を元に、キティホークの砂丘で飛行実験を繰り返す自転車屋。
夢を見る力と、夢を追い続ける気力を与えられた、希有な仲良し兄弟、という設定でした。


二つ目が、1927年にNY〜パリ間無給油飛行を成し遂げたチャールズ・リンドバーグのエピソード。

無着陸で大西洋を横断するために、副操縦士無しの単独飛行を計画。限界まで機体を軽くし、30時間を超える長時間飛行を一人で飛んだ、超人。

機体を軽くした分、スピードも出るはず。なんとか限界を超える前にパリに到達できるはず、と、
それが、彼の理論。
体力と気力の限界に挑戦し、自分自身と闘いつづけた33時間30分。
その、純粋に夢を追いかける力と信念の持ち主。


城田くん、私は初めてでしたが、歌えるんですねぇ〜〜!
正直、あまり期待していなかったので(^ ^;ゞとても嬉しかったです。あの美貌、スタイル、素直な演技力に歌の力。
これからもどんどん経験を積んで、いい役者になってくれることを期待しています!



3つめ物語は、アメリア・エアハートのエピソード。
リンドバーグの歴史的飛行の翌年、彼の成功物語に味をしめた出版社・パットナム社のジョージは、経験豊富な女性パイロット・アメリアに、女性初の大西洋横断飛行の誘いをかける。

彼の思惑どおり、まんまとスターダムにのしあがり、「レディ・リンドバーグ」と呼ばれたアメリアは、しかし彼の思い通りには動かない。
私はリンドバーグの2番煎じじゃない!私一人で、ちゃんと大西洋を渡ることができるはず!

彼女の強い思いに引きずられて、パットナムは彼女の夢に協力する。良き伴侶として。
夫ジョージの協力を得たアメリアは、1932年の大西洋横断を皮切りに、次々と長距離無着陸飛行に成功。向かうところ敵なしのスターとなっていく…

そして。


彼女が空を飛ぶたびに、不安に苛まれる夫・ジョージを、宮川さんが実に見事に演じきってくださいました。

ウザいくらいうるさくて、やかましくて、
でも、誰よりもアメリアの夢を理解しているから止められなくて。
帰ってきてくれるのか不安で、
飛んでほしくない、飛ばせたくない、

あの機体だって、この俺がいなければ彼女の手には入らないのに!

この俺が、彼女に夢を追う力を与えているんだ、という誇り。
この俺が、彼女に自殺の道具を与えているんだ、という不安。

その誇りと不安に引き裂かれた「中年男」っぷりがまたハマッていて、とても素晴らしかったんです。

一幕の、格好良くて、男前で、エネルギッシュな彼と、

アメリアにメロメロに惚れていて、彼女を喪いたくなくて、喪わずにいるためにどうしていいのかわからなくて、とにかくボロボロな2幕のジョージと。


アメリアは、「最後の我が侭」とラスト・フライトに世界一周旅行を望み、

ジョージは溜息をついてそれを叶える。
愛しているから、止められない。



リンドバーグは33時間の旅を乗り越え、眼下に灯りを見いだす。
ほとんどヤクでもやっているかのような、朦朧とした意識の中で。



世界の果てで、リリエンタールがアメリアを見守っている。

♪“壮絶な最期”じゃない/そう!やったんだ!やり遂げたんだ!



世界の果てで、アメリアがリンドバーグに囁きかける。

♪お願い…降りないで/自由に舞うこの空こそ 栄光の場所/ゴールはあなたが決めればいいのよ

そして。

♪心が描いた/本当の私がいる

だから、

♪誰もできない/冒険に挑む/Take Heart/Take Wing/Take Flight…



夢。
叶いそうにない、夢。

夢を追う人。
夢を追う人を、見守る人。

そして、夢を求める“大衆”。

それぞれの人が、それぞれの立場で、
精一杯追い続けた、夢。

「空を飛びたい」

夢を追うために犠牲にしたものを、冷酷なまでに的確に指し示しつつ、それでも追わずにはいられない、“夢”というもの。

そんな、痛くて苦しい“夢”の詰まった、新作ミュージカル。


おもしろかった、とか、たのしかった、とか、
そんな一言では終わらせられません。

冗長なところもあったし、つまんないと思った場面もありました、というのが正直なところ。

でも。

観て良かった。

素直に、そう思えた作品でした。


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