月組公演「マジシャンの憂鬱」について、語ってみたいと思います。

大劇場で観て、私が思いこんでいたこと。

シャンドールは流れ者で、この国には一時的に滞在しているだけ。まだ住み着いて3年たっていない。


これが全くの大間違いだったことは、先日庭りかさまにご指摘いただきました。

シャンドールは、代々“某国”の宮廷マジシャンの家柄。
しかし、彼は家族にも秘密(マジックのネタは国家機密?)を持たなくてはならない職業に疑問を持ち、大がかりなイリュージョンマジックではなく、技術で魅せるテーブルマジックの道を歩み出した


なので。

生まれながらに“某国”の国民で、
執事がいて、居候を5人もおける広大な屋敷に住んでいる、

シャンドールとは、そういう人である、と。

それが、正解、みたいです。



で、
そういう知識(意識)を持ってのぞんだ東宝公演で、
シャンドールが、やっぱり私には、外国人に見える(涙)……。

なんでかな、とずっと思っていたんですが。


新公を観て、気がついたことがありました。


まさおは、その国の国民に見えるわっ!!何故っ!?


まず、シャンドールの「皇太子」への接し方が違うな、と思いました。

最初の出会いの場面。盆が回って階段をボルディジャールが降りてきた時から、まさおくんのシャンドールには、なんとなく遠慮があるんですよね。
椅子に座ったり立ったりするパフォーマンスも、本役さんみたいに笑いは取れないんですが(苦笑)、逆に、そのぎこちなさが「身分」の差によって生じる「遠慮」に見える。

みりおくんの皇太子も、真っ直ぐにシャンドールに尊敬の念をぶつけてくる少年っぽさが(しかし3年以上前に結婚してるんだよなあの人……今気づいた/汗)、嫌味でなく高貴な人の純粋さに見えて良かったですし、
この二人のバランスが良かったのかな、と。

麻子さんと霧矢さんは、芝居が達者すぎてそういう「基本的」な(←やっている本人的には当たり前すぎる)設定が、つい流れてしまうのかもしれませんね…。

 

あと、細かいことですけど、麻子さんのシャンドールは、あんまり皇室に興味を持ってないですよね。
皇太子の結婚相手についても、事故についても、一通り知識はあるけど興味はない、それがすごく強く出ていると思います。

特に、ラストのパーティーの後の「この国が変わるきっかけに〜」という台詞が、なんだかすごく人ごとだったのが引っかかりました(T T)。
その“この国”の国民であるならば、皇室に興味はなくても、その“国”の進む方向にはもう少し興味があってしかるべきなんじゃないのかなー?と。

多分それが、私が「シャンドール=旅人(=アルマンド)」と思いこんだ一番の理由だと思います。

でも。
あらためて観て思ったのですが。
そのあたりは、父親(宮廷マジシャン)との確執があって、あえて皇室から目を逸らして生きてきたから、という解釈が成り立つんですね……。
うーん、でも、国の将来には少しくらい関心を持ってくれても…(涙)。イギリス人のかなみちゃんが真面目に真剣に返事しているのが、あれ?って感じでした…



それと、大きく違うなーと思ったもう一つは、
まさおくんは、生まれてから一度も国を出たことがないように見えたこと。

麻子さんのシャンドールは、生まれ育ちは“某国”だとしても、マジックの修行をしにか何かでずっと外国に居た、という役づくりなんじゃないか、と勝手に思っています。
イギリスにも詳しそうだし(←ボルディジャールはイギリスへ留学してたんですよね)。

(これも大間違いだったらどうしよう〜!!
 でも「これで終わりだ。俺は逃げる」という時の言い方とか、
 「このまま消えるよ」と言った時の自信満々さとか、
 そうだとしか思えないんですよね。根拠は無いけど )


もちろん新公も全く同じ台詞を喋るんですけど、自信満々な態度の中に、どこか隠そうとして隠しきれない不安感を感じたんですよ。(…思いこみ?)


麻子さんのシャンドールは、世慣れた、経験豊富で、大人で、素敵な男。
そんな彼が、ちょっと変わり者の、生真面目で一生懸命な女性に出会い、
国を揺るがす事件を解決し、手を取り合って旅に出る…のが本編ならば。


この国で生まれて、育って、修行して、ごく素直に「この腕で世界と勝負したい!いつか絶対に!」と思いながら過ごしてきた、若い、まだまだ経験不足でヤンチャな若者が、
無邪気で天然で不器用で、何事にも一生懸命な娘と出会って。

今まで俺は、何を守ってここに居たんだろう。
あの屋敷を守るため?
それとも……この娘に出会うため?

国を揺るがした事件を無事解決した時、彼は、今まで彼を守ってきた繭を破って、外へ出る。

まさに、羽化するかのように。



何度か書いておりますが、
正塚作品の主人公の基本設定は、「捨ててきた過去」と「自分、あるいは自分の居場所探し」です。

シャンドールには「捨ててきた過去」が無く、しかも物語の開始時点からずっと「居場所」がある。
正塚作品の主人公としては異例と言っていいのではないでしょうか。


昨年の星組公演、「愛するには短すぎる」の主人公も、「捨ててきた過去」の無い人物像でした。
でも、彼には「捨てられない過去」としての親との確執がありました。そして、それを解決したとき、彼は同時に「自分の居場所」を見つけてしまった。
…その「居場所」が、バーバラの傍ではなかった…彼女と一緒に居たかったのに、という切なさが素晴らしいラストだったと思うのですが。



話を戻して「マジシャンの憂鬱」。最初の脚本では、シャンドールには「父親との確執」があったようですね。
でも、実際にイタに載った脚本にはいっさいソレは無くて。

宮廷マジシャンであったハズの父親の話が、皇太子の口からいっさい出ないこともあって、完全に「過去のない男」になってしまっている。


それを、「まだ若いから大した過去は無いのさ!」と割り切ったのが、新公のまさおの解釈。


「過去はありすぎて語りきれないぜ…」と背中で語らせたのが本公演の麻子さんだと思うのです。

…ま、全てはシャンドール次第、じゃなくて、正塚さん次第、ということで☆
脚本ではカットされた設定なので、別にどちらが正解というものではないんですよね。

どちらが好きか、と問われるなら。
最初から「過去」を持たないくらい若い二人は、未来をたくさん持っている気がするので。旅に出た後の彼らの生活がいろいろ妄想出来る分、新公の方が興味深いかなー(笑)。
麻子さんとかなみちゃんは、あまりにも可愛らしくてお似合いのお二人なので(^ ^;ゞ、ひたすらラブラブしている姿しか想像できない(笑)。



ただ。
「マジシャンには、そういう雰囲気が必要なんです」という台詞は残っているので。
「胡散臭さ」を前面に出した麻子さんのシャンドールも、解釈として勿論アリ、なんですよね。
芝居って、やっぱり面白いなあ…。



……なんだか、言いたいことが上手く表現できたような気がしないのですが。

同じ演出家が、同じ脚本をほとんど一言一句違えずに演出しているにもかかわらず、主人公のキャラクターが全く違う、というのは。

正塚さんって、やっぱり凄い、の、かも☆



しかーし、
しかーし!!

あの、ラスト。
本舞台に皇太子以下居候ズ含めた登場人物たちが勢揃いして、シャンドールとヴェロニカを見送る、あの、結構涙が出たりする、ラストシーン。

あの後、居候ズの5人も二人を追って、一緒に(7人で)旅をする、っていう設定だということは、ご存知でしたか………?


本公演も新人公演も、
ぜぇーーーーーーったいにそうは見えないから!!
だったらなんで本舞台で見送るんだよオマエらっ!!

でも。
最初の脚本(?)には、そういう台詞があったそうですよ(泣)。
お願いだから、第一稿をDVDと一緒に販売してくれないかなあ(涙)。

父親との確執も、居候ズと一緒に旅に出るシャンドールも、座談会だのお茶会だので話が出なかったら絶対わかんないよーーーーっ!!脚本に書いていない、それに沿った演出もされていない設定は、妄想設定っていうんだぞーーーーっ!!(←それは違います)



コメント

庭りか
庭りか
2007年10月25日22:21

私の仕入れてます情報では、あの5人は「二人」を追い掛けてるわけではないようです。

あの5人がくっついてるがために、シャンドールのマネージャーが長続きしなくて困っている。
そういう理由でヴェロニカにマネージャーになって欲しいと頼んだところ快諾された。
と言う脚本だったと聞きました。
マネージャーが長続きしない理由のくだりが割愛されたらしいです。

ヴェロニカはだから、あの5人がついていてもシャンドールの側にいたかったんですね。

なんて、私が聞いてる設定もどこまでどうなのかわかりませんが。

みつきねこ
みつきねこ
2007年10月26日0:39

コメントありがとうございます!
えっと、おそらく同じ情報源ではないかと思うのですが(^ ^;)……まぁ、元の脚本にあったという台詞は仰るとおりですけど、状況としてはそういう(二人を追い掛けていく)ことなのでは?…トップコンビが二人で上手花道にハケていく時、本舞台で見送っている5人が、「一緒に旅に出るんです」と言われてしまったんですもの(T T)。

>ヴェロニカはだから、あの5人がついていてもシャンドールの側にいたかったんですね。

いや、ヴェロニカはあの5人がついてくるなんて思っていないのでは…?(←ほとんど詐欺だな)

まぁ、ラストの演出がああなっている以上、台詞が削られただけではなく、その設定自体が無くなったのだと思いたいのですが。でも、演じている本人から「本当ですから」と言われてしまうと……(凹)