月組全国ツアー公演「ダル・レークの恋」
広島公演を観に行って参りました。

5月2日以来、約40日ぶりの「宝塚(月)」コーナーの更新。…こんなんで「月組贔屓」だなんて、我ながらちょっとどうなのという感じなのですが(滝汗)。
今週は「大坂侍」組も関東に来てくださっているので、また月組ファン日記らしい内容になるのではないかと。
……たぶん、ね(^ ^;ゞ。



さて。
菊田一夫の名作、「ダル・レークの恋」。

以前星組さんが帝国劇場で上演された時は、まだ私は宝塚ファンになったばかり。観劇はしましたが、身近に星組ファンもいないので情報もなくて、「ふうん」くらいで終わってしまったのですが。
今回あらためて観て、菊田さんの発想の美しさと構成力、そしてキャラクター造形の面白さに感じ入ってしまいました。


そして。
これを書くと怒られてしまいそうですが。

麻子(瀬奈じゅん)さんがカマラ姫を演じたら、どうなっただろうか、と思ってしまいました。



…その場合、ラッチマンはオサさんでしょうかね、やっぱり。



って、ネタにしてしまいましたが(^ ^;ゞ。

真面目な話。初演カマラの故里さんは、本来男役だった、というのは後から聴いたのですが、
今回公演を観ていて、ああ、これはW主役の話なんだな、と素直に思ったのです。

いえ、むしろ、1幕については明らかに主役はカマラ。
カマラ姫の視点ですべての話が動くのですから。



【ここから先、思いっきりネタバレ中!!】
(再演ものなのであまり気にしていません。ごめんなさい)




宝塚は、本質的に「主役」イコール「男役」。
「娘役」は主役をはらないのがお約束。原作では女性が主役の作品を上演する場合は、男性主役に書き直すか、男役が女性を演じるかのどちらかになるのが基本。
(まぁ、たま〜〜〜に木村さんの「フリーダム(『カルメン』の男女逆転版)」みたいな爆弾もありますが)


でも。

「ダル・レークの恋」は、カマラが「主役の片割れ」ではなく「ラッチマンの相手役」であるために、彼女は物語の最後に泣き崩れて身悶えし、何年もたってからパリの街を彷徨わなくてはならなくなってしまう。

それではただ、祖母に言われるままに<自分の意志でなく>男を切り捨て、その男が自分に釣り合う身分だと知ってヨリを戻そうとした瞬間に捨てられてしまった、だからパリまでその男を追っていく、

そんな莫迦な女の物語になってしまいます。


そうじゃないんじゃないか、と思うんですよ。

カマラは、「愛」と「王家の誇り」を天秤にかけて、後者を取った。
それはあたかも、皇帝フランツが皇后エリザベートに「どちらかを選んで」と言われて、「君の手紙何度も読んだけど、やっぱり僕には国を滅ぼす勇気はない」と言うようなものなのではないでしょうか。(←違うだろう)

敬虔なヒンズー教徒である彼らにとって、「カーストを守る」ことは「制度を守る」こと、ひいては「国を守る」ことであり、それは「国民を愛すること」とイコールで結ばれていたはずなのですから。

皇帝フランツは天使を選んで国を滅ぼし、
カマラ姫はラッチマンを捨てて、(彼女なりに)国を守ろうとする。

もしも、

カマラ姫が「主役」の一人であったならば。

「統治者」の位にいるものとして、
「ひとの上」に居る者の義務として、
その選択は是であったと評価されたはず。

だから。
ラッチマンがベンガルのラジアの跡取りであったことが判っても、彼女は「恥ずべきことをした」と思う必要はないはずなのです。

でももちろん、ラッチマンはそうは思わない。
それは、彼が既に近代的な、あるいはキリスト世界的な「平等論」に染まっているから。
ヒンズー世界的な「カースト」に囚われた考え方は間違っている、という認識があるからです。

カマラがラッチマンと同格の主役であれば、
この物語全体が、西欧世界的な考え方とインド的な考え方の相克、という文明論的な物語になります。

ダル湖という風光明媚な観光地で出会った二人は、お互いの背景としての世界観を語りあうことなく恋に落ち、一夏を過ごす。

そして、お互いの考え方の違いに気づいて別れる。

お互いはお互いに心を残しつつ。

そして、数年が過ぎて、


カマラは成長し、西欧社会に触れてラッチマンの「背景」を理解する。
そして、彼の背を追い始める。

花の都、パリで。



…でも。

残念ながら、ラッチマン単独主役・カマラ姫はあくまで相手役、というスタンスだと、二人のそれぞれの世界観を対等に見せることができないので。


正しいのはラッチマン(男=西欧=キリスト教)
間違っているのがカマラ(女=インド=ヒンズー教)

という、ごく単純でつまらない図式になってしまうんですよね(T T)。


カマラにはラッチマンの本質を見抜くことはできなかった。
「愛している故に目が眩んで」、彼の志の高さを理解することができなかった。

でも、彼の愛が本物であることは信じていたはずです。
だからこそ、ダル湖のほとりで過ごした一夜が宝物になった。
祭の中で、「この人のお嫁さんになるの」と言った、あの瞬間だけでなくて、
彼女には本当に、わかっていたはず。

彼の想いが、ホンモノであることが。

でも。その全てを切り捨てた。
王家の誇りを、守るために。

だとしたら、カマラがラッチマンを追うのが、「必死」なのもおかしい。
何故ラッチマンが去っていったのか、本当に理解したのかどうか、あれではわからないと思うんですよ。

プライドを捨てて惚れた男を「必死」に」追うことが必要だったんじゃない。
人の本質を見抜く目を持たずに、王家の誇りだなんだと言っても意味がない、裏付けのないプライドなんぞくそくらえ!
ってことなんじゃないでしょうか?ラッチマンが言いたかったことは。

でも。
それをカマラ姫に実践されてしまうと、カマラ姫も主役の一人になってしまうので、あえて演出上、カマラの精神年齢もそのままにしている。

そんな風に見えてしまったのです。


もし、麻子さんがカマラを演じたならば。

何度か書いていますが、私は麻子さんの、強くて脆いエリザベートが大好きでしたので。

カマラ姫、観てみたかったなぁ…。



ま、ありえない話はおいておいて。



麻子さんのラッチマンは、とにかくカッコヨカッタ!
特に、2幕のパリでの、ワルぶってるけどにじみ出る育ちの良さがすごく魅力的でした。

まぁ、ラッチマンっていうのは男役冥利につきる役ですよね。出番も多くて、人との絡みも多くて濃厚で、かっこよくて、寂しげで、色っぽくて、硬質で。
これだけの役はなかなかないし、そういう役に、この学年で、この立場になって3年にして出会えるというのは、本当に麻子さんってラッキーな人なんだな、と思いました。(本公演の作品運はさておいて)

あと、なんといっても最高にかっこいいのはフィナーレの曼荼羅ですね。
客席の視線を、一身に釘付けにして離さないパワーは、さすが花組出身、と思ってしまいます。下級生たち、みんなしっかり学んでね!(←無理かも?)



カマラ姫のかなみちゃん。私的には、月組トップ就任後のかなみちゃんの役の中では一番好きかも、です。
特に、ラッチマンに別れを告げるところの低い声が良いわ〜♪

化粧も今回、つり目気味にキツく描いたアイラインが格好良く似合っていて、いいなぁと思いました。私は元々、ふんわり可愛く笑うかなみちゃんよりも、「レビュー・オブ・ドリームス」のゴスロリとか、砂の女王とか、「レ・ビジュー・ブリアン」のタンゴとか、ああいう“あごをつんとあげて、目を細めて睨め付けてくる”かなみちゃんの方が何倍も好きなので(←誉めてますマジで)。
突っ張っているかなみちゃんを、ゆっくり観ることができて嬉しいです。

あと、かなみちゃんって露出が多い衣装の方が似合うんですね♪(衣装のために絞ったのかもしれないけど)
胸と腰が豊かなので、余計にウェストの細さが目立って、全体がすごくバランス良く見えました。ああいう衣装、予想以上に似合うなぁ……。

ラスト前、ラッチマンに去られて泣き崩れる場面は、まぁ演出的に仕方ない面もあるのでしょうけれども、もう少し切なく大人っぽく偲び泣いてくれると、私的には納得感が増すような気がします。その前までの大人っぽいイメージと、あの場面だけちょっとブレてるような気がするんですよね。
まぁ、酒井さんの演出意図が私のイメージとは違うようなので、仕方ないのでしょうけれども。



ペペルの大空祐飛さん。
とにかく、上演時間の半分はラッチマンとカマラの二人しか出てないんじゃないか、というくらい主役二人が突出しているこの作品、2番手のペペル役はかわいそーなくらい出番が少ないんですが。

でも、
少ない場面なのに、面白いほど記憶に残る好演だったと思います、贔屓目ですけどね。
特に芝居が。

個人的に一番好きなのは、愛の言葉を語ってリタ(城咲あい)を抱き寄せて、……ふ、と、素(大空祐飛の素ではなく、詐欺師ペペルの素)の顔を見せる一瞬。

そして、2幕で「7年前のパリ」時代のヤクザっぷりを散々見せた後で、現在に戻って研ルイスくんのジャスビル警備隊長に縄を引かれてカーテン前を渡る時の飄々ぶりとのギャップ。
その昔、「黒い瞳」のプガチョフ役のラストで見せた威風堂々たる引かれっぷりと、今回の、ひょいと縄抜けしておいて「逃げやしねぇよ」と投げキッスの一つも飛ばしそうな詐欺師ぶりと、その、格の違いというか余裕さに、この9年半の彼女の歩みを見たような気がしたのですが。

脚本的にも、出番は少ないんですが主役コンビの「真実の愛」に対抗するかのように、「嘘の愛」の空々しさを語るペペル&リタのコンビは、必要不可欠な存在なんですよね。
それに気づかせてくれたMちゃん、アツく語ってくれてありがとう〜♪またイロイロ話しましょうね♪

「嘘の愛」なのに、「真実の愛」よりも甘く優しく情に溢れて見える、ペペルの愛。
だから余計に、「真実の愛」を貫くことの苦しさ・難しさが際だって、それを貫こうとするラッチマンの美しさが強調されるわけですが。
とにかく、ラッチマンとは全くカラーの違う役なので。似てしまわないように、もう少し登場場面での「掴み」の印象が強くなるといいなあ、とは思いますが。
でも、あそこで掴みきれないもどかしさが祐飛さんのいいところで、ペペルの可愛いところだとも思うので。

…しかたない、の、かな…?(←ファン馬鹿)



リタの(城咲)あいちゃん。
か、か、か、可愛い………。

1幕後半、ハイダラバードに着いたばかりでのナホ(越乃リュウ)ちゃんとの会話!!
ダメだ〜!可愛すぎる!!

お祖父さんを振り回しまくるワガママな小娘が、なんてよく似合うんでしょうか。あいちゃんは、オクラホマ!のヒロイン・ローリーとか、今回のリタとか、こういう「おきゃんなワガママ娘」がメチャクチャよく似合いますね。初めての恋に夢中ですっかり盲目になっている様子にリアリティがあって、なんかドキドキするんですよ。そして、無理に大人ぶって背伸びしている子供、という、一番可愛くて目が離せない女の子を嫌味なく演じきれるのも凄いなあ、と。

もう少し、ペペルに騙されていたことを知った後の芝居に情が通ると、ぐっと良くなると思います。
今のままでもカマラとの対比はよく出ているのですが、もう少し「計算できない芝居」の面白さに目覚めてくれると役者としてもの凄く高いところにあがれるだろうなあ、と思うので…
いろいろ廻り道してみて欲しい人です…。



クリスナのあひ(遼河はるひ)と、その妻・アルマのすずな(憧花ゆりの)。
星組の時はたしか姉さん女房だったと思うのですが、すずなのアルマ、下級生とは思えない素晴らしさでした。
…特に一幕。
つけつけとラッチマンの悪口を言いながら、カマラにしれっと「あら、お姉さまも昨日ラッチマンを誘っていらしたわ」と言われてぐっと詰まるところとか、それをインディラお祖母様に見られてむっとしてにらみ返すところとか、もうとにかく可愛くて仕方ありませんでした。
ただ、二幕のアルマは、一幕とは真逆のことを一幕と全くおなじ声音で、同じ調子で言い募るところが面白いのですが、ちょっと「同じ調子」に拘りすぎたかな、というか。後半はもう少し引いてもよかったんじゃないかな、と思いました。
この、出るか引くかの空気がもう少し読めるようになれば、美人だし、スタイル良くて衣装映えするし、ダンサーだから身のこなしもキレイだし…。声に特徴があるから姫役は難しいかもしれませんけど、それ以外は何でもできる人なので、もっともっと使われるはず。
これからの活躍が、とても楽しみです。

そして、キツい妻に尻に敷かれっぱなしのクリスナが、また可愛らしい(笑)。背の高さに豪奢なラジアの衣装がよく似合って、王者の風格がありましたね。
あれで声さえ、もう少し安定した低音だったらなぁ……(溜息)。



カマラの祖母・インディラのタキ(出雲綾)さん。
素晴らしい!
「アーネスト・イン・ラブ」のブラックウェル夫人、「ファントム」のカルロッタに続く名演でしたねアレは。風格のある女丈夫で、色気を出さずにしっかり締めるところは締めて、見事な女王様でした。素晴らしい。
アルマとの会話もまるっきり勝負にならず、見事の一言です。

…存在感がありすぎて、ラッチマンの麻子さんも対抗するのに必死、という感じでしたが(^ ^)。やっぱり、これだけの役者を使いこなすのは今の若い演出家陣には難しいのかもしれないな、と思ってしまいました…。
次の本公演、正塚さんがタキさんをどう使うのか、とても楽しみです♪、



カマラの祖父・ナホちゃん。
ものすごく頑張っていたし、ものすごく良かったです。
良かったんですけど、でも、さすがにね。いくらナホちゃんでも、タキさんの夫でカマラの祖父っていうのは無理があったなあ……。
素直にタキさんの息子でカマラとクリスナの父、くらいに思って観てました…あはは(汗)。
いやぁホント、ダンディなパパでカマラとリタが羨ましいです(笑)。



パリの店のマダム・ミシェルの美鳳あやちゃん。
個人的に今回の公演MVPです(はぁと)!麻子さん&祐飛さんより7年も下級生なのに、本当に良くやった!!(感涙)
身体は小さくて小柄な人ですけど、スタイルバランスが良いから衣装と髪型で自在に雰囲気を変えられるんですね。気っ風のいい姐御肌のマダムで、本当にカッコヨカッタです。
並みの男役より男前揃いな月娘の中でも、ピカ一で男前なのはダンスだけじゃないらしい。

息子と言い合いになって、興奮した一樹さんをあっさりと宥めるところとか、ナホちゃんを追って店に入ってきたペペルたちを抑えるところも本当にかっこいい。何がかっこいいって声が素敵なんですけど(*^ ^*)、立ち姿にもオーラがあるんですよね…。ラッチマンへのさりげない気遣いに、ペペルへの厳しい言葉に、脚本でまったく語られることのない「その前」の二人のエピソードを想像させる、それだけイメージを喚起する力のある、強い声。

すごいなあ、すてきだなあ、と…ぽーっと眺めていて、祐飛さんが同じ場面に出ていることをすっかり忘れそうでした。あぶないあぶない(^ ^)。



ラジオンのみりお(明日海りお)&ビーナの(白華)れみちゃん。
濃厚で艶やかな「大人の恋物語」のなかの、一服の清涼剤のような二人。本当に「アツアツ」で可愛いよ〜〜〜♪♪
歌える二人なので、歌が多くて嬉しいですね。最初が録音なのが残念!生で聴いてみたかったです。



久しぶりの月組だからって、ちょっと盛り上がって長くなってしまいました…(←反省の色ナシ)。
ショーシーンや下級生の小芝居については、また後日、関東でも観てから書かせていただきたいと思います。

とりあえずは。
月組全国ツアー「ダル・レークの恋」、
DVDの発売を待っていないで、関東近郊の方はぜひ劇場へおいでくださいね♪♪ってことで♪♪



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