新人公演。

1ヶ月以上続く公演の、ただ一日だけ、「新人」たちが演じる公演。

「たった一日」だからこそ出せる力。

一つの「役」に対する、本公演とは「違う解釈」「違う切り口」。

力を尽くして、今やれる精一杯をやり切った役者の輝き。

技術的には拙くても、出演人数が少なくても。
それでも、伝わるものは伝わるものですから。


「暁のローマ」に続く今回の月組の新人公演は。

贔屓目かもしれませんが、とてもレベルが高いものの一つだったんじゃないかと思います。




それにはまず、新人公演担当の演出家・生田大和さんの功績が大きいのではないかと。
生田さんってまだバウとかやったことないですよね…?
いずれデビューなさった暁には、キャストに関わりなく、万障繰り合わせて観に行きたいと思っております。はい。(…行けるといいなあ…)


まずなんと言っても、まさお(龍)をして最後の挨拶で「芝居は会話のキャッチボール」と言わしめたことを評価したいです。

元々能力の高いまさおくん。
そこに気がついてくれさえすれば、これからどれ程成長することか。


いつかまさおくんが、この新人公演を思い出す日が来るんだろうな、と思いながら、東宝劇場を後にしました。



明日の朝が早いので、詳細なレポートは後日にさせていただいて。

今日は、一番印象に残った人を一人だけ語りたいと思います。


「パリの空よりも高く」で一番印象に残った人。

文句なしで。

エレノール(本役・出雲綾)の青葉みちる






みちるちゃんは、「The Last Party」の秘書役以来、注目していた芝居巧者。今回の配役でも、タキさんの役ということでメチャクチャ期待していました。


今回の新公、事実上の主役というか裏のヒロインとも言えるエレノール役を城咲あいちゃんにふるという選択肢もあったと思うのですが。
(エリザベート新人公演でゾフィーをふったように)

…今のあいあいなら、きっと見事にこなしたと思いますし、それも観たかった!と思いますけれども。


でも。


みちるちゃんのエレノールが観れて、良かった。
素晴らしかった〜〜!

幸せでした、本当に。


本公演で。
「はっきり言って無駄な場面だよね」と思っていた、お芝居冒頭のアルマンド登場までの15分間。

なかなか面白くて、いい場面になっていたことに、まず驚かされました。
それはもう全面的に、みちるちゃんのエレノールが的確だったからだと思うのです。

もちろん、出ているメンバーも皆さん本役にひけを取らない(←かなり贔屓目)実力者ばかりでしたけれども…。

 参考:ドミニク将軍(嘉月)=姿樹えり緒
    アルベール (越乃)=朝桐紫乃
    レオニード (未沙)=彩央寿音
    ジェラール (遼河)=光月るう
    シュミット (北嶋)=綾月せり




こんな言い方をしても、私はタキさんが嫌いなわけでは決してありませんよ!
そこは誤解していただきたくないのですが。
「ファントム」のカルロッタも、「Ernst In Love」のブラックネル夫人も、ものすごく好きでしたし、他にこの役を「真に」こなせる人はいない、と今でも思っています。

でも、エレノールは違う。
タキさんくらい個性の強い人じゃないとこなせない役もあれば、
タキさんくらい個性が強い人にはどうしてもこなせない役もあるんです。

たとえば、夏河ゆらさん。
後年の彼女しか知らない方なら、ゆらさんにもエレノールは無理だと普通に思うでしょうけれども。

もし彼女が、「螺旋のオルフェ」でドミニクを演じた頃に戻って下さるのであれば。
それならば、ぜひエレノールをやってほしいです。

タキさんにも、私が知らないだけで、きっとそういう役を演じきったことがおありだと思うのです。
だってタカラジェンヌなんだもの。
入団以来ずーっとカルロッタをやってきた訳じゃないはずなんです。

でも。

現在絶賛上演中!のエレノールは、カルロッタやブラックネル夫人と役作りの根幹が同じに見えます。
もちろん違う役ですよ?同じ役として演じていらっしゃる、という話ではありません。
カルロッタとブラックネル夫人も、全然違う役ですから。

でも。
同じ根っこから生えている。
そんな感じ。

それではエレノールは、無理です。



みちるちゃんのエレノールは。

ジュリアン・ジャッケとの恋の記憶を今も心の片隅に残す、ロマンチストで信頼の厚い女性でした。
多分、ジュリアンの後も2,3人恋をしただろう。
でも、初恋の人=ジュリアンを忘れることはできず、
忘れられない思い出を胸に、ずっと一人で生きてきた女丈夫。


それをずっと陰ながら見守ってきたらしいアルベール(=しのちゃん)が、
「あんたが惚れていたんじゃなかったのかい」
と笑いながら、そっとエレノールの肩を抱く仕草が、ひどく色っぽくて。

ドキっとしました。


それだけ、エレノールが可愛くて魅力的な女性だった、ということなんじゃないかと思うのですよね。

ジュリアンとエレノールの微妙な関係を、ここではっきりと観客に伝えているからこそ。
中盤の、金庫を持ち出そうとする場面でのエレノールとアルマンドの会話が、余計胸にしみるのです。
ここが良くなると、その後のアルマンドの迷いがすごく明確になってくる。ラストにちゃんとつながっていくのです。

エレノールが登場人物の誰よりも偉大で力強い本公演では、いくら彼女が
「そうしているとお父様そっくり…」
と言って涙を零しても、どこかで嘘っぽく聞こえてならないのですが…(T T)。


みちるちゃんにカルロッタやブラックネル夫人は難しいでしょう。
それと同じように、タキさんにエレノールは「無理」だった、という話です。

タキさんがエレノールであることで、ペテン師コンビの一番近くに居る人がペテン師コンビよりずーっと胡散臭くなって(…え?)しまって、ペテン師がどうして改心するのか全然わからなくなってしまったのが本公演なら。

エレノールに儚さと懐の深さを出したことで、ペテン師の回りの人々が、ちゃんと「純朴」に見えた新人公演。

ペテン師が、周囲の「純朴」な人々の「純粋」な情にほだされるのが物語の根幹なわけですから。

「田舎者のペテン師」が「都会」に出てきて、そこの「自分たちよりよっぽど胡散臭くて腹黒そうな人たち」のどこにほだされてしまったのやらサッパリ判らない、というハテナではなく。
「田舎者だけど必死で突っ張っているペテン師」が「都会」にでてきて、「すれているようでスレていない、純朴な都会人」に出会い、ほだされてしまう…


…あれ?脚本どこもいじってないのに、それなりにまともな話に見えるよ…?

…生田さんGJ、ってことでしょうかねぇ…。



エレノール。

物語をきちんと語る上で本当に大切な役だからこそ、組長さんにふられたのでしょうけれども。



エレノール。

女手ひとつで由緒あるホテルを切り回すマダムで、パリ万博(国運を賭けた大事業だったはず)の目玉事業の世話人を務めるだけの、社交界での地位と格と人望を持っている得難い人。



エレノール。

…20年前の第2回万博当時は、何歳だったんでしょうね一体…?




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