とりあえず、作品については語りたいことは大体書いたような気がするので、公演の時間軸に沿って、思い出せることを一つづつ、書いてみたいと思います。

メモみたいなものですし、ネタバレ配慮もしておりませんのでご注意ください。
もの凄〜い長さになると思いますが、どうぞよしなに。



【パリの空よりも高く】
<プロローグ>
ごくありきたりの、レビューシーン。
「JAZZYな妖精たち」が、100分間の中でプロローグのほんの十数分だけは許せたように、観客の救いになる場面かと思っていましたが…
もちろん嫌悪感はないけど、JAZZYのアイリッシュタップは凄かったものなあ。あの感動と比べてしまうとちょっと物足りないかも。

麻子さんとかなみちゃんのデュエットダンスはやっぱりキレイ。そんなにテクニック的にものすごい訳ではない(多分。私にはよくわかりませんが)のに、なんでだろう。醸し出す雰囲気がいいからかなあ…。
かなみちゃん、すこーし首回りがすっきりしてキレイになったような?気のせい?



<オテル・ド・サンミッシェル>
ミミとジャンの姉弟が可愛い。タキ(出雲綾)さんのマダムが、ミミに対する時とジャンに話しかける時で声色が違うのがツボ。
怖いよタキさん…。タキさんのことは好きなんですけど、正直言って、ちょっと…キツイ、です。
なんて言うんだろ。カルロッタそのものなんですよね。一流ホテルのオーナーが、そんなやり手婆に見えてどうするんだ!前の日記にも書きましたが、もろ「宿屋の女将」って感じなんですよ。タキさん、グゥェンドレンの母親は結構上品な(でも怖い)おばさんで良かったのに。…まぁ、別に作品的にはやり手のマダムでもいい筈なんですけど、脚本的にはもうちょっと違う感じなんで…芝居と脚本(台詞)にズレがあるのでとっても微妙(涙)。

初見の時はここの会話を結構真剣に聞いていたんで余計そう思いました(2回目からは寝た。これからご覧になるみなさん、アルマンドが出てくるまでは寝てていいですよー)。
なんていうか、あの場面って、古臭い手法だけど「お芝居」になくてはならない場面なんですよね。過去の経緯を説明しているだけのようで、実際には登場人物たちの「キャラクター」を見せるための場面だから。…さすがに未沙のえるさんとエリ(嘉月絵理)さんは達者なんですけどね。やっぱり作品の意図(原作)と実際のキャラ(演出)がまるっきりずれているのでねぇ(涙)。

一番出番も見せ場も台詞も多いのはタキさんのマダム、ていう作品でしたが、あれを演者のキャラに合わせてもっとはっちゃけたばりばりのオバハンにしてたら、作品自体がもっと面白くなったのではないかしら、と思うと残念。宝塚なんだから、重要キャラは演者に宛書するのが当然で、演者が脚本のキャラになれないのは大目に見たいんですけどねぇ…。

この場面の見所は4人のボーイたち。ちょこちょこと働いてるんですけど、それぞれに個性があって観ていて飽きません。舞台上での目立とう精神ではなく、しっかり役とキャラを作り込んで、キチンと小芝居するのが月組若手の伝統。上級生が随分減って、そのあたりの伝統がどうなるか心配してましたけど、皆、今まで以上に楽しそうに芝居していて嬉しかったです。

学年関係なく、舞台上での見かけでいうとマギー(星条海斗)が一番先輩に見える(笑)。なんとなくですけど、テキパキしてて、しっかり先を読んで動いている感じ。
もりえ(青樹泉)はごく素直に、着実に仕事をこなしてる感じかな?ちょっとまだキャラが立ってないみたいなんで、下級生に負けないように頑張って欲しいな。
まさお(龍真咲)くんはちゃきちゃき。なんだか、しっかり者に見えて結構トボけているところとか、慌て者なところとか、竜堂4兄弟の終くんみたい(爆)。あのギラギラ感がたまりません。それにしてもまさおは本当に良い声だわ。これで芝居に心が入ったら鬼に金棒なんだけど…。あと、ふとした仕草とか横顔のシルエットとかがガイチ(初風緑)さんに似ている時があって、びっくりします。顔のほそさとか頬骨のラインとか、微妙に似ているような気が…私だけ?
(綾月)せりちゃんはごく普通の男の子、って感じ。竜堂4兄弟なら余くんかな♪4人共結構仲良くて、なんだかホントに兄弟みたいでほほえましいです。
そしてマッチ先輩の支配人が挙動不審で面白すぎる…。



ナホ(越乃リュウ)ちゃんとあひ(遼河はるひ)ちゃんが登場。
ナホちゃん、それじゃー銀行頭取には見えないよ…商売っ気ありすぎですから!個人的にはエリさんとナホちゃんは逆の方がよかったのではないかと思いますた。エリさんはさすがに巧いなあ。引くトコ引いて、なのにしっかり印象に残る。こういう役者は得難いです。
あひちゃん。あの仕草は…オカマちっくにしたいのか?ちょい内股で、ハンケチを振りながら腰振って歩いて。甲高い声で笑いを取って。出てくるだけで面白かったんですけど、路線として、組の3,4番手ポジションとして、どうなんでしょうかソレは……私は、好きですけど(笑)。



アルマンド登場。
麻子さんかっこいいー!さすが!テンションが高くていい感じです。「騙してやろう」感がありありで胡散臭さ倍増。ただ、彼が皆を騙そうと、ハイテンションで機関銃のように喋りまくる姿が…私にはちょっと痛かったです。なんだろう。彼は一人前のペテン師じゃないのかもしれない。初仕事で失敗して、次こそは、と、身内のジョルジュのネタを横取りしてきた…そんな感じ。

アルマンドは、「ペテン師である」ことを除けば、ものすごーーーく「普通」の人ですよね。ごくごく真面目で優しい好青年。実は良い家で育ったお坊ちゃんなんじゃないの?(苦笑)。ネットとかで「ペテン師に見えない」っていう感想を見かけますが、そうかなあ。私には十分ペテン師に見えましたよ。というか「ペテン師になりたい男」だなあと…。
……っていうか未だにこの人の「ペテン」の内容がよくわからない私。クロサギ読んで勉強(?)したのに、どーもこの時アルマンドが何を考えていたのかよくわからない。「ジュリアン・ジャッケの息子を騙って金を巻き上げてやろう」なんだろうけど…。植田(紳)なんだから考えるだけ無駄なんでしょうけどね。消化不良。



ジョルジュ登場
ドアマンのまぐ(流輝一斗)ちゃんがとってもステキ。重たげなロングのコートがよくお似合いです。ジョルジュが「アルマンド・ジャッケです!」って言ったときの、びっくりして口をあけた顔がとってもツボでした。可愛いわ。

そして祐飛さんはもっと(…)可愛い。がんばって若作りしてるなーと思う。…「がんばってるな」と思ってしまう時点で負けているわけですが。でも可愛いからいいの。
観るまでは「麻子さんの弟分?楽勝ー!さぞ可愛かろう♪」くらいに思っていた腐れファンの私ですが…。「血と砂」の頃は何の違和感もなく弟キャラだったのに、いつの間にこんなにおっさん臭くなったものか。私の中で、彼の時間は止まっていたみたいです。
でもあのヘタレっぷりがたまりません。もっと崩しちゃってもいいのにな。



<客室>
この場面転換は結構好き。シンプルで。どうにも全体に演出が古臭くて暗転+カーテン前(または銀橋)が多い中、このセットがあるだけホテル内が中心の作品でよかったなと思います。

麻子さんと祐飛さん、同期コンビの息はぴったり。でもそれは、「作品」が求めている息の合い方じゃないんですよね。仲良し同期の、馴れ合いとまでは思わないけど、素でお似合いだから舞台上でもお似合い、それ以上でもそれ以下でもない。かろうじて祐飛さんが弟分には見えてるけど、作品的に求められている関係ではない…。
タキさんのところにも書きましたけど、宝塚なんだからメインキャストについては宛書するのが当然なんじゃないの?この二人のコンビでコメディするなら、どうしたって素が見えちゃう(観客もそれを求めてしまう)んだから、素に合わせた設定にするべきだったと思います。…ってゆーか、素直にきりやんで良いじゃんかよ…(涙)。


ギスターブ登場
きりやん可愛い!ここ数作、渋くてかっこいい役が続いていたので、久々の可愛いきりやんにメロメロです。
どもりがちなおどおどキャラと、夢を語る時に突然饒舌になって滔々と語り出す時の目の輝き。2重人格かと思うような変貌っぷりがすごいです。大好き!
ボンボン歌いながら銀橋を渡る時のかわいらしさがまたたまらん。ここの3人は滅茶苦茶可愛くって最高です。毎回もだえてます。



<パリの街角〜噂〜>
わーい園加だー♪、と思いつつ、笑っている園加にはあまり興味がないので(←ひどい)、隣のみっぽー(美鳳あや)ちゃんに釘付けでした。いつも可愛いなあ。
ルミ姐(宝生ルミ)、音キチ(音姫すなお)、(天野)ほたる、(葉月)さらちゃん、と、ローマの愛人ズでも注目株の年上美人4人が勢揃いで眼福、眼福。
男役も研(ルイス)ちゃん、ふーが(風雅湊)くん、とーやん(榎橙也)、(光月)るうちゃんと美男揃い。

でも。わざとかと思うほどこの男役5人衆、みんな……声が高すぎですっ!(←あ、言っちゃった)。そんな中でも、女役を入れても一番声の高い園加ちゃん。その顔でその声はどうなの(←…ヲイ)。
女役より声の高い男役ってやっぱり許せん。ってゆーか、月組の女役が声低すぎなのでしょうか…。落ち着いた深みのある声が大好きな私としては、新加入のあひちゃん・園加ちゃんには真剣にがんばっていただきたいです(涙)。
どっちも顔に見合った声をだしてくれればいいから!(←たいがい失礼だな私)



アルマンド一行とミミたち登場。
この場面と直接関係ないですけど、ミミとアルマンドの出会いは、きちんと書くべきだったと思います。たとえば、ボンボン歌って銀橋渡ったところで本舞台でミミと出会う場面にするとか。そんなんでいいから。

ア「ジョルジュ、紙とペンを調達してきてくれ。俺たちはあっちを見てくるから」
ジ「わかったよ。早く帰ってこいよ!じゃあな!」
 とか言って下手花道にはける。同時に上手からミミたち登場。
ミ「ギスターヴさん!こんばんは!」
ギ「ミミミミミミ、ミミ!聞いてくれよ、この人が僕の夢に賛成してくれたんだよっ!」
ミ「まあ、良かったですねぇ!」
ギ「こちらアルマンドさんだ」
ア「(にっこり微笑んで)はじめまして、ミミ?」
ミ「…(見惚れて)あ、は、はじめまして、アルマンドさん。
 ギスターヴさんの夢を信じてくださってありがとうございます」
ア「…(にっこり)何を言っているんだい。君みたいな可愛い子が応援して
 くれるんなら、僕もがんばらないとな」
ミ「(ポっと俯いて)まぁ…」
 ギスターヴ、二人の間に流れる甘いムードに全く気づかず、ひたすら嬉しそうに
 ミミを見つめる。ここまでカーテン前。

んで、園加たちパリ市民の場面をはさんで、今度はジョルジュも加えた5人で登場。
前場があれば、そんなに脚本的には変更なくても大丈夫かな?誰かに「もう半年たったんですねぇ」とか言わせるくらいで。

あ、それから、もうちょっと季節感のある服装をしていただきたいんですが。パリの街の背景も使い回しすぎ。手前に木か何かをおいて、それの葉っぱが増えたり減ったりするだけでいいんですけど。3年間という長い時間経過があるのに、それが全く感じられないのがなんとも…。

ううう、苦しい。
…このへんで、私は脚本の意図を理解しようという努力を放棄します。今後はただただ、可愛い月組ッ子とマヤさんを愛でたいと思います。



<タワー建設準備会パーティー>
月組ッ子、濃すぎだろそれ。末子姐、あー(花瀬みずか)さま、ガチャ(一色瑠加)あたりの、イロイロ期待されているメンバーはともかく(←え?)、役名もなくただ「紳士」「貴婦人」と書かれただけの若手の楽しそうな様子ってば…。

でも、それぞれに役をちゃんと創った上で遊んでいるのが嬉しい。まだまだ固いけど、この先どんどんこなれてきそうなのが嬉しい。遊びを先に、じゃなくて、役を創るのが先。その基本がちゃんと身体に入ってる。
ああ、月組を観てるんだなあ、と嬉しくなります。
だからって初日は舞台稽古でいい、って訳じゃあないんですが(汗)。

でも、作品の創り方がそうだから、仕方ないのかな、と思える部分はある。贔屓だから甘くてごめんなさい、ですが。

退団、組替えでどんどんメンバーも入れ替わって、雰囲気がどんどん変わっていく。
でも、月組は月組なんだね。
たとえ主要メンバーがこんなに大きく変わってしまっても。
やっぱり月組は、私の大好きな月組なんだ。

それが、お芝居のそこかしこに出ている。
それが一番、うれしかった。



ギスターヴ登場。
きりやんステキです。きりやんかっこいいです。
「地上と天上を結ぶ橋を架けたいのです」…植田さん、たまには良い台詞を書くじゃないか!
この名台詞を発する時の、きりやんのキラキラぶりがツボ。かっこいいぞ!

それに引き込まれて、ふと表情が変わる上級生達。こういう呼吸で空気が変わるのっていいなあ。芝居の醍醐味だわ。
ローマの「アントニウスの演説」の場面でも、もちろんきりやんの歌の説得力が凄いんだけど、それ以上に反応する組子たちの空気感が好きでした。あの熱さには、観客もつい流されちゃう。客席の気持ちまで持って行ってしまうんですよね。
「愚かな民衆」をテーマにしたあの場面は、観ていて痛すぎて辛かったけど、「月組の群衆芝居」はやっぱすごいや、と思ったものです。

このパーティーの場面も、きりやんの台詞をきっかけに、それまでてんでんばらばらな方向を見ていた「群衆」が、ふと「同じ方向」を向く。
その「エントロピー最小」の状態を出現させるために必要なエネルギーが、「群衆」の意志、という形できっちり表現できているから、客席の私は「まあ、いっか」と思ってしまうのです。
…こういうのを「脚本の不備を役者がフォローする舞台」というのよ。



アルマンドたちの部屋。
アルマンドやっぱり格好いいです。たまらん。パーティーで演説するアルマンドの胡散臭さといい、ツボりまくりです。
ジョルジュとの遣り取りもここはかなりテンポ良く進んでいたような。ファンの贔屓目かしら?麻子さんのアルマンドは割と自己完結しちゃいがちなキャラなので、ジョルジュはそれをひたすら受けているんですよね。もう少し突っ込んでもいいんじゃないかな。さらに、もう少し立場の違い(年齢差?)が出せれば、面白くなると思います。期待。

でも、良い感じに流れているこの場面をみて、普通に「ここは原作どおりなんだな」と思ってしまう自分が悲しい…。劇団よ、お芝居大好きな組子が多いんだから、たまには良いお芝居くれよ…。



<パリの街角>
ボーイたちが歌い踊るおいしい場面。ここはショー場面、と心得てか、バリバリと目線飛ばしまくりなまさおが可愛いです。いつだってやりすぎだから、キミ。でも芝居が始まるといちおう役に戻るんだよね、嫌そうに(笑)。
もりえとマギーはツインタワーでかっこいい。そしてせりちゃんは可愛い。この子は将来、絵理さんのようになるんでしょうか。声の高さと舌ったらずさにちょっと将来を危ぶみつつ、血と砂メンバーは可愛いんでつい見守ってしまいます。



ミミ・ギスターヴ・ジョルジュ登場。
ミミに話しかけるたびにどもってしまうギスターヴが最高可愛い。そして、明らかに「分かってるのに」とぼけて見せるミミはもっと可愛い(爆)。嫌な女ですけど、そういう役だから仕方ない。かなみちゃんが悪いわけではないので許したい……(汗)。

きりやんとかなみちゃんって、そういえばあんまり組んだことないですよね?
スタイル的にも歌の実力的にも、それに持ち味も、すごーく合いそうなお二人なのに。
(…あ。額田と中大兄があるか。ごめんなさい、中日は行ってないのでわからないや)
珍しいお二人のデュエット。良い声だなあ、と。うっとり♪
…直後に同じメロディを、しかも一人で歌わされるジョルジュが哀れでなりません…。

ミミの、ギスターヴにはそれなりに好意を持っているけど「そのお気持ちにはお応えできませんわ。それでもいいんですよね?」という確信犯的な微笑みと。
ギスターヴのわかってない(ミミがそれなりの好意を抱いている事自体わかってない)っぷりが凄まじく痛いです。

なんだかなあ。ついつい、色々考えてしまうんですが。
ミミは、真面目に花を売ってるんでしょうか?
それとも、花だけじゃなくて「春」も売っているの?

…ねぇ?


ギスターヴとの出会いも、「春」のお客さんともめているところを通りすがったギスターヴに助けられた、とか、そんな…
いや、考えすぎなのは判ってます。ホテルに3ヶ月も逗留していたギスターヴと、毎朝花を届けに来るミミが出会ったのは、ホテル。それで何の疑問もありません。

でも。

そんなんツマラナイじゃないかーーーーっ!
(植田紳脚本に萌えを求めるんじゃありません)



ギスターヴは何も気づかずに、ただ絡まれてる女の子を助けたつもりでいたら、ホテルでよく出会う可愛子ちゃんだった。家まで送る途中で自分の夢の話をしたら、目を輝かせてうなずいてくれた。
…なんて良い子なんだ→こんな子がいつも傍にいてくれたらいいのに→「ミミミミミミ、ミミ、すすすすすす、す………」(結局言えないまま月日は流れる)

ミミの方も、優しげでステキなお兄さんに助けられて、感謝と憧憬の念を抱く。
でも、彼は自分の商売を知っていると(その上で黙ってくれているんだと)思いこんで悩み、さらに彼の子供っぽさを知るにつけて純粋な「憧れ」が、次第に変質してしまう。
いわく「この人なら、私の言うことはなんでも聞いてくれるはず」。
…打ち出の小槌を手に入れた子供のように。

そこに現れた王子さま。
ギスターヴより上の立場で、彼の夢を認め、その手助けをしてくれる人。動き出す空気。パリが動くんだもの、すごいことですよね。
今まで、口では「すごいですねー!」と言っていても、全くそんな夢も希望も本気にはしていなかったミミ。彼女にとっては衝撃的な状況。

『もしかして、あたしってばすごい現場に立ち会ってるんじゃないの?』

そんな。夢のようなコトを起こしてくれた王子さま。

あの人、またあたしを見てる。あたしがギスターヴさんの夢を最初に認めた人だと思って。
……どうしよう。あたし、何もしてないのに。ギスターヴさんの話はよく分からなかったけど、うん、うん、って頷いてあげると喜んだから。だから、うん、って言ってただけなのに。アルマンドさんは、口ばっかりで何もしないあたしを見て、どう思っているんだろう……。

そして。
塔の建設がだいぶ進んだある日。久しぶりにギスターヴ(とジョルジュ)に出会ったミミは、夕方、金持ちそうな男に声をかけられる。

パンはもう底をついた。この荷車の花も、明日が限界。明日売れなかったら、もう仕入れに行く金もない。…そうは言っても、ここにあるのは良い花ばかり(ジャンはああ見えて目利きという設定)だし、マダムエレノールのオテルは最近景気がいいから、頼めばきっと買いあげてくれるだろう。無理をしなくてもなんとかなる。

…だけど。

“ここで、まとまったお金が貰えたら”

「ジャン、先に帰ってて頂戴。あたしはご飯食べて帰るから、昨日の残り、あんたが全部食べて良いわよ。…そうね、遅くなるかもしれないけど、心配しないで。ちゃんと帰るから」

“半分くらいなら、……あのひとのところに持って行けるかもしれない…。”


…この時点で、すでにミミの頭の中にギスターヴは(もちろんジョルジュも)居ないんだろうなあ。いや、ジャンの心配そうな顔さえ目に入ってないかもしれない。哀れなり。

とゆーか、植田脚本でも妄想できる自分にちょっと感動…。



<深夜のロビー>
ペテン師二人が金庫を持って登場。
ジョルジュが金庫を開けると、いきなりなり出すベル。…こういう仕掛けって、こんな頃からあったんでしょうかねぇ…。
ちなみに、私が観た回のうち一回は、ジリジリ鳴っている間に金庫の蓋が「ぱたん」と閉じてしまいました。思わず息を飲んだよ。お二人は、何事もなかったようにそのままお芝居を続けていましたが。さすが年の功。

あの音量に驚いて起きてくるのがマダム一人、ってのもどうかと思うんですけど。
まちおさんとかボーイとか、どうしてるわけ?ああ、そういえば4人揃って遊びに出てましたね、さっき。もしかして通いなのか全員?

タキさん、やっぱり芝居は「それなりに」上手なんですよね。滑舌いいし抑揚もある。でも、「一流オテルのオーナー」には…見えない。きっぱり。
下町の、人情に厚い下宿屋の女将。やっぱりそれが一番似合います。

アルマンドに父親ジュリアンの話をするエレノール。だからソレはアルマンドの父親じゃないっての。っつーかジョルジュに聞かせてやってよ。呼んでやってよアルマンド。頼むから。ジョルジュの父親の話じゃんか…。
やっぱり「ジョルジュの父親がジュリアン」っていう設定は、この時点で作者の頭に残っていないものと思われます。


この後の、「俺たちが消えたら、おばさんは悲しむだろうな…」というアルマンドの独白はかなり胸を撞きました。もう少し溜息まじりでもいいとは思うけど。
複雑な胸中がかいま見えて、好きな場面です。

でも、「ほだされ」てしまうには、あまりにも弱いエピソードだと思うんですけどねえ…。
(ごめんなさい。もう脚本についてはコメントしないと誓ったのに)



そして。


金持ち男から貰った(ソレって確定?)お金を握りしめて、ミミ登場。
匂い立つ色気(ヤッてきたばかりだもんな…←だからソレって)と必死な目の色が眩しい。

つい昨日まで、「可愛いけどごく普通の、そのへんにいっぱいいる可愛子ちゃん」だったミミが、ファム・ファタルに変わる瞬間。
それは、夢に懸ける思いの強さと、犠牲の大きさ。

アルマンドは、ミミが懸ける「夢」=塔の建設、だと思った。
だから彼は、出されるがままに金を受け取る。

でもミミの「夢」は、本当はただ、アルマンドの微笑み。
たったそれだけ。

持ち物の少ないペテン師には、差し出せない犠牲を、そのために捧げたミミ。
それでも、「夢」のためならそれは、決して汚らわしいものではないのだから。

なのにアルマンドには判らない。
だって彼には、「夢」がないから。

だからこそ彼は、「彼らの」夢を実現することにこだわり始める。
いい加減金が集まってきたところで逃げ出そうよ、と、五月蠅くまとわりつくジョルジュを無視して。


 奴らの夢を実現してやれるのは俺たちだけなんだから。
 いいじゃないか、どうせ俺たちを疑うような知恵の働く奴なんかいやしない。
 慌てる乞食はもらいが少ない。金のがちょうはたっぷりと餌をやって朝を待て。
 ゆっくり時間をかけて、たーっぷりと搾り取ろうぜ、な?ジョルジュ。

 だって兄貴。こんなに長く一つ処にいるの、始めてじゃないか。
 俺、なんだか怖いんだよ。あまりにも話がうまくいきすぎてる。
 塔が建っちまったら、もう逃げられないんだぜ…?
 何考えてるんだよ、兄貴ィ!

 ジョルジュ。いいから俺に任せておけ。お前は心配しなくていいんだ。
 本当に…可愛いな、お前は。でも、あんまりウルサいと捨てていくぞ。

 !!冗談でもやめてくれよ!俺はもう、一人はイヤだからなーっ!!



…あの作品で、妄想できるのって私くらいなんじゃないだろうか。不安。

いくらなんでも長いので、いったん切ります。(一万字超えそうだ)
続きはいずれ。

.

コメント